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第1節、6話 暴風VS鉄槌その4

 第二クォーター中盤、ナイナーズのタッチダウンにより、ついに試合は動き出す。


 タッチダウン後のポイントアフタータッチダウンで、追加の一点は取れなかったものも、勢に乗る。カズミのパスワークが冴えまくり、ナイナーズが後わずかで追加点と言う所で第二クォーターが終了した。


 ベンチに引き上げる両チームの表情は、対照的だった。途中まで自慢の鉄壁の守備(アイアンカーテン)と、トウカの抜刀による、イリーナの封じ込めに成功していたマインズ。だが、一つのミスで先制点を許し、トウカ・サカザキまで失ってしまった事のショックは大きかった。


 それに比べナイナーズは、マインズの鉄壁の守備(アイアンカーテン)に阻まれ苦しいスタートだった。しかし、カズミが提案した賭けが流れをかえる。一歩間違えれば、イリーナを失う危険な作戦だった。だがカズミ達は危険な賭けに勝ち、トウカ・サカザキをノックアウトする事に成功をする。先制点を取ることに成功した選手達は、ホームの大声援を受けながらベンチに引き上げる。


「お前達。前半はいい試合展開だったぞ。

特にタッチダウンに繋がったあのプレーは、最高だったぞ」


 カズミは恥ずかしそうな顔をし、イリーナはどや顔をしていた。


「1つ気になった事があったのだが、まだ教えていない[イーストコーストオフェンス]を、何故知っていた?」


「イーストコーストオフェンス?」


「なんだお前さん、無意識に実行していたのか。こいつは、たまげたもんだ。イーストコーストオフェンスと言うのは、ナイナーズに古くから伝わる戦術だ。暴風の影響を受けやすいロングスローを極力使わず、ショートパスやフェイントを織り混ぜる戦術。

この暴風が吹き荒れるカゼカミフィールドに対応するために編み出された物だか、お前さんはそれを実行した。どういう事だ?」


「あれは野球と言うスポーツの、カットプレーと言う技術です。

目標とする場所へ一人で大遠投をせず、二人で短い距離を投げます。それにより、目標の場所への送球時間が結果的に短縮され、暴投のリスクも低下します。投げる距離も短いので山なりで無くていい。なので、風の影響も受けずらいんですよ」


「なるほどな、そう言う事だったのか。では、最後の方に見せた、ランニングバックに渡すふりをする、フェイントはどうなんだ?」


「それは、かくし球と言う技術です。他の人にボールを渡したふりをして、相手を騙す技術なのですが、あまり誉められたプレーではないんですよ」


「だがそのプレーが、先制点をもたらした」


 カズミはまたも、恥ずかしそうな顔をする。


「カズミ。貴方のプレーは、暴風の中ピンポイントの位置にボウルを投げると言う難しいものでした。他の者に出来ない事を出来るのですから、恥ずかしがらずに自信を持ってください・・・」


「スズネの言う通りだ。自信はプレーに持つことは恐怖を消し去り、良いプレーに繋がる」


「あとイリーナ。貴女はどや顔を、少しは自重してください。

嬉しいのは分かりますが、何度もやらないでください・・・」


 これにはイリーナも、苦笑いするしかなかった。


「いいか!アイアンマインズは、最後の方は崩れかけていた。

後一押しだ、この試合かつのは俺たち、ナイナーズだ」


「オッス!」



 一方アイアンマインズベンチは、お通夜のように静まりかえっていた。特にトウカの突出を止める事を出来なかった、エドウィンはうなだれていた。


「すまない・・・・・・俺がトウカを止められなかった為に、前半で退場させてしまった。トウカの状態は、どうだ?」


 ヘッドコーチのレイトンは、タメ息をつきながら話す。


「このゲーム中の復帰は不可能だ。前半で、プラン変更をしなければならないのはかなり苦しい。何せ、怪我で主力を何人も欠いている状況だ」


 ベンチ内が重苦し雰囲気に包まれていたが、一人の女性が立ち上がった。チームカラーの赤を基調としたジャケットに、ロングスカートの大きな胸部を持った女性がレイトンに提案をする。


「私、後半から出ます」


 皆は驚いた。リッカ・サカザキは、昨シーズンの怪我による調整の遅れの為スタメンから外れていたのだ。


「リッカ。気持ちは嬉しいが、まだ怪我も完治していない。

そんな状態でプレーすれば、また怪我をしてしまう」


「でも、このままでは負けてしまいます。私にやらせてもらえれば、この状況をひっくり返します」


 リッカの提案に、レイトンは悩んだ。彼女が出場すればこの試合は勝てるが、怪我が再発すれば今シーズンを棒に振るかも知れない。何があっても、それだけは避けなくてはいけない。


「トウカのミスは、私が原因です。なら私が、責任を取らなくては行けません」


 トウカのミスは、私が原因。リッカの発言に思い当たる節があり、チーム中でも共通の認識であった。


 レイトンは悩む、提案を突っぱねる事は簡単だが、リッカの提案は無下には出来ない。


「わかった。たが、無理はするなよ。リッカのサポーターは、エドウィンに任せる 」


「ああ、今度はミスらねえ。どんな事をしてでも、リッカさんを支える」


「お、エド君頼りになるー。なら、1つお願いがあるんだけど。

少しの間でいいから、イリーナちゃんを一人で抑えて欲しいの。出来そう?」


 この提案には、エドウィンも苦笑いをするしかなかった。


「リッカさん、俺はどんな事をしてでも支えると言った。だから、任せてくれ!」


「いいか諸君。今我々は苦しい状況に置かれているが、昨シーズン最後の時と比べればまだマシだ。このくらいの困難を打開出来ないようでは、ファンタズムボウル制覇は夢のまた夢だ。この試合に勝利し、我々の悲願するのだ」


「オオー!」


 選手から悲壮感は消え、自信に溢れていた表情に変わっていた。



 両チーム休憩も終わり、選手達は各ポジションに散っていく。そんな中観客は、ある選手の出場に沸き返った。マインズの絶対的エース、リッカ・サカザキが、後半から出場をしたのだ。


「あれがマインズのエース、リッカ・サカザキか。ポジションは、後方から魔法で援護する、BL(ブレイカー)か」


「そうだ、カズミ。しかも、世界トップクラスのブレイカーだ。

あの人を止められなければ、試合の主導権はマインズに移る」


「カズミに魔法が来るならば、全力で貴方を守ります。ですから、貴方は自信を持ってプレーをしてください・・・」


 審判がホイッスルを吹き、第三クォーターが始まる。


第三クォーター14:51 ファーストダウン 残り71ヤード


 センターからボウルを受け取ったカズミは、フェイントを混ぜながらパスをしようとした、その時だった。リッカの繰り出す灼熱の魔法が、カズミに襲い掛かる。


 そうはさせじと、スズネは空中に風属性を示す緑色の五芒星を描き詠唱を行う。


「五行障壁」


 目の前に魔法の障壁張られ、カズミは守られた・・・はずだった。間を置かず連発された魔法が次々と襲い掛かり、カズミを守る障壁を破壊する。


「がああああっ!」


 魔法と言うものを見たことも無いカズミは、リッカの灼熱の魔法を避ける術を持たなかった。溶岩を思わせる灼熱の火球を全身に浴び、今までの人生であげたことの無い悲鳴をあげる。カズミの全身を、焼き付くすような痛みが襲い掛かる。その拍子にボウルを落としそうになったが、何とか落とすと言う最悪の事態は避けた。


「速射魔法!去年までなら、チャージして広範囲魔法で仕留めに来ていたはずなのに・・・」


「甘いねー、スズネちゃん。私だって、日々成長してるんだから。後半戦は、好きなようにプレーをさせないよ!」


「くっ・・・カズミ、カズミは大丈夫か!」


「あ、熱・・・い、体が焼ける」


 カズミは苦悶の表情を見せるが、必死に耐える。


「カズミ、今癒します。五行治癒」


 青と緑の光りがカズミを包み、体を癒し焼き付くすような痛みを、取り去った。


「ありがとう、スズネ。これでならまだ、プレー出来る」


「いえ、これが私の仕事ですから。

私は、貴方に謝らなければいけない。次は、絶対に抜かせない」


スズネは悔しさを押し殺しながら、リッカを睨み付けた。


「おースズネちゃん、コワイコワイ。

でもこれで、チャンスが出てきた。

後は相手を、何処まで出し抜けるか・・・・・・」


第三クォーター14:40 セカンドダウン 残り71ヤード

先ほどの魔法を警戒したのか、開始のホイッスルと同時にカズミの前に五行障壁がはられる。


「甘い甘い、それは読んでいたよ」


リッカはほくそ笑むと、魔法のターゲットをスズネとイリーナに変えたのだ。


「しまった!?こんな単純なミスを・・・」


本来ならリッカが魔法を詠唱してからでも、十分障壁は間に合う。

しかし、連続で放つ魔法に対応する為、相手が詠唱をする前に五行障壁を張り始めた。

経験に勝るリッカは、スズネの隙を見逃さなかった。

障壁の無いガラ空きのイリーナとスズネを、灼熱の魔法が襲い掛かる。

イリーナは何とか避ける事に成功をしたが、詠唱中だったスズネは全身に灼熱の炎を浴びる。


「イリーナちゃんの方は、失敗かー。

でも、スズネちゃんをノックアウト出来れば、大分有利に・・・っと、そう上手く行かないか」


炎と土煙の中から、スズネは姿を現す。


「危なかった、何とか障壁が間に合った。魔法の標的が私だけだったら、どうなっていたか・・・」


「二頭を追うものは、一頭獲ずか」


リッカの魔法に苦戦しなからも前進する、ナイナーズ。

しかし、リッカの仕掛けた罠にはまっていた事に、気づく者は誰もいなかった。


第三クォーター14:16 ファーストダウン 残り40ヤード

ホイッスルが鳴り、プレーが再開した瞬間だった。

リッカはロッドの中央を持ち、グルグルと回転させる。

回転したロッドは金色に輝き、その先端ではゴウゴウと炎が燃え盛る。


「カマドの神、ヘスティアーより承りし炎。

その炎より作られし鉄槌は、全てを打ち砕く」


リッカは、BL(ブレイカー)の代名詞。高火力魔法を、放とうとしているのだ。


「そんな!?チャージしてる素振りなんて、無かった。

なのに、どうして」


「お前達急げ!何とか、避けるんだ!」


ゴルドの指示が、フィールドに響き渡る

リッカの詠唱に対応して、慌てて障壁を張り出すスズネ

今度は6色に輝く六芒星を空に描き、詠唱を行う。


「お願い、間に合って・・・木の神、火の神、土の神、金の神、水の神、そして、風の神よ!どうか、我らを守りください」


だが、スズネの詠唱よりも先に、リッカ詠唱が終わる。


「受けよ、我が鉄槌。アイアンフィストブレイカー!」


スズネは完全な詠唱を諦め、不完全な状態ながらも障壁を張り出す。


「風魔六芒星!」


メンバー全員に、障壁を張ることに成功をした。

だが不完全な障壁を、無情な鉄槌は全てを破壊したのだ。


「知らなかったの?私の魔法からは、逃げられない」


魔法を受け満身創痍の所に、マインズディフェンス陣が襲い掛かる。

何とか立ち上がったカズミだったが、そこからボウルを奪うことは、マインズにとって赤子の手を捻るよりも容易かった。


カズミは、エドウィンにサック[クォーターバックにタックルをする事]され、ボウルを奪われる。

ボウルを奪い取ったエドウィンは、無人のグラウンドを走り抜き、タッチダウンをした。


「ヨッシャー!してやったぜ!」


タッチダウンをされ、静まりかえったナイナーズに、更なる悲劇が襲う。

リッカの魔法の影響か、暴風が収まってしまったのだ。


「マズイ!このタイミングは、最悪だ。

無風の状態なら追加のキックで、得点を取るのも容易い」


イリーナの予言は、的中した。

無風のゴールにエドウィンは、キックでボウルを蹴りこみ、追加の一点を獲得。

6対7となり、マインズは逆転に成功した。


第三クォーター13:42 ファーストダウン 残り55ヤード


カズミは、目を疑った。

先ほどまでブレイカーとして、魔法を撃ち込んできたリッカが、最前線に出てイリーナと対峙しようとしているのだ。


「ああ、ミーティングで言ってのはこれか」


ブレイカーは本来、魔法使いの様なもので、最前線で戦う戦闘力は無い。

けど、リッカ・サカザキは例外だと。

高火力の魔法を撃ち込んだ後は、最前線で相手の壁になると。


そんな人が、イリーナの前に立ちはだかり、前半まで居た、トウカの役目を果たそうと言うのだ。


「やっほー、イリーナちゃん久しぶり。

同じグラウンドに立つのは、去年のオールスター戦以来かな?」


「お久しぶりです、リッカさん。

ですが、今日は敵として、貴女に立ち向かいます」


二人の前に、激しく火花が散ったような気がした。

イリーナは逆転を信じ、諦めることの無い闘志に溢れた目で見つめる。


一方リッカは、獲物を見つけた野獣のように、鋭い眼光で見つめる。


「あのー、リッカさん?楽しいからって、あまりはしゃがないでくださいね。

万が一、貴女まで抜けられたら、チーム崩壊の可能性がありますから」


エドウィンが、心配そうに声をかける。


「大丈夫。無理しないように注意するから、サポートをお願いね」


こういう所を見ると、リッカさんとトウカは姉妹なんだなと実感をした、エドウィンだった。



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