第1節、4話 暴風VS鉄槌その2
「やあやあみんな!ファンタズムボウルの解説兼実況のアナウンサーを勤めているサスガだよ」
「相棒兼、質問役のワカバだよー」
「さて、今日の対戦カード。カゼカミ・39ersVSシルベニア・アイアンマインズの一戦。気になる所は何処かな、ワカバ」
「サスガちゃん。そう言うのは私より、この物語を見ている目の前のお客さんに向けて話すべきじゃないかなー。例えば、今日の対戦の注目ポイント!この試合はここを見てほしいとか。アメフトと言う、馴染みの無い題材を使っているんだしー」
「確かに、ワカバの言う通りだね。よしっ!ここを見ていれば分かる、今日のポイント!でもいきますか。今日の対戦の注目ポイントは、主人公のカズミ・サワタリVSアイアンマインズのディフェンス陣。イリーナ・バニングVSトウカ・サカザキ。この二つです」
「カズミ君がアイアンマインズのディフェンス陣相手を前にして、味方にパスを出せるのか?注目だよねー。それから・・・・・・」
「ちょっと、ワカバ!私が解説する部分も残してよ」
「あ、ゴッメーン」
「イリーナ・バニングVSトウカ・サカザキ。ここも注目のポイント。イリーナ・バニングがトウカ・サカザキにバトルで勝ち、マインズのディフェンス陣を瓦解させるのか?」
「トウカ・サカザキが退場すれば、マインズのディフェンス陣に穴が出来るからねー。穴が出来れば、カズミ君もパスを通しやすくなるでしょー」
「解説はこの辺にしておいて、本編に戻りましょうか。
それではお待ちかね、主人公カズミ・サワタリの活躍する本編。異世界代理戦争ファンタズムボウル、はじまります!」
オープニングセレモニーにスタメン発表、僕が子供の頃から見てきた風景。子供の頃から夢見たプロ野球選手にはなれなかったが、遠い異世界でファンタズムボウルの選手としてグランドに立っている。
ワクワクと緊張感と恐怖が入り交じった、複雑な心境で試合開始をカズミは待っている
凄く楽しみなのに何だろう、何だか不安になってきた・・・・・・。もしミスをしたら、みんなに何て言われるんだろう。僕、チームの選手の事を何も知らない。みんな、僕がミスをしても、怒らないよね。
カズミの脳裏に、小学生の頃に野球中に罵倒され続けた苦い記憶が甦る。
高校生の時は千尋をはじめ、みんなが僕に気を使ってくれた。だから、僕は野球を楽しめた。じゃあ今回は?大丈夫だよね。みんな優しかったし、きっと大丈夫だよ。きっと・・・・・・
場内の陽気なアナウンスは、チームメイトの名前を次々と読み上げる。
「前の選手呼ばれたし、次は僕か・・・・・・」
「続きましては本日入団したばかりで、即スタメンのスーパールーキー。カズミ・サワタリ!」
「カズミ・カズミ・カズミ・カズミ!」
僕の名前が呼ばれた瞬間、カズミコールが起こっときには少しだけこそばゆくなった。カズミを覆いはじめていた恐怖を、少しばかりだが吹き飛ばしてくれて、心に落ち着きを取り戻し始める。
だ、大丈夫。大丈夫。きっと大丈夫だよ。
スタメン発表が終わり、最後の指示がゴルドから飛ぶ。
「いいかお前ら!今日が今シーズン初の試合だ。相手のアイアンマインズは、鉄壁の守備とビッグキャノンと呼ばれるエドウィン・マルチネスの60ヤードキックで、フィールドゴールを狙い成功させてくる。去年のリーグチャンピョンのチームだが、今日はエースのリッカ・サカザキが欠場してる事。カゼカミフィールドの暴風でビッグキャノンが使えないことを踏まえると、漬け込む余地は十分にある」
「オッス‼」
「今日警戒する選手は、ディフェンスライン[最前線で、敵とバトルするポジション]のエドウィン・マルチネスとサカザキ姉妹の妹、バトルアスリートの覇者トウカ・サカザキ。特にトウカ・サカザキは、ルーキーながら強力ディフェンス陣に入り込ん選手だ。油断をするなよ。よし、お前ら!今日は勝つぞ!」
「オッス!オッス!オッス‼」
「各ポジションに散れ!」
一方、アイアンマインズベンチ。中年の口髭を蓄えた男性が、選手たちに激を飛ばしていた。
「諸君。開幕戦は最初の一試合にすぎないと言う者も居るが、そんなことはない!シーズンの行方を左右する大事な試合だと私は思っている」
選手たちは、レイトンヘッドコーチの激をに耳を傾けていた。
「エドウィン、トウカは初めての試合だ。彼女が突出しないようサポートをしてほしい」
エドウィンと呼ばれた、伊達男は頷いた。
「OK、任せてくれ。よろしく頼むぜトウカ」
エドウィンは、トウカに目線を送る。黒髪で、腰まで延びたポニーテール。赤い袴を着用し、胸元の巨大な胸部はサラシで締め付けている。刀と短刀を装備した和風の剣士と言った出で立ちだった。
「はい、突出しないよう注意します」
口ではそう言っているが、獲物を見つけた途端今にも襲いかかりそうな鋭い眼光には、少しばかり不安を覚える。
獲物を見つけるや否や、真っ先に襲いかかりそうな雰囲気。リッカさんにそっくりだ。だが、それ以上に気負い過ぎている。何も起きず、最後まで行ければいいんだがな。
「いいかトウカ。今日は無理に相手を倒さず、相手にプレーをさせないだけでいい。今回俺たちが担当するのはイリーナ・バニングだ。うかつに踏み込めば、一発でアウトだ。まあ、気を張りすぎずに行こうぜ」
「頑張ります」
レイトンは最後の激を、選手たちに飛ばす。
「今日も勝つぞ!」
「ファイ!オー!ファイ!オー!ファイ!オーー!」
アイアンマインズの選手たちは各ポジションにうつり、両チームのキャプテンが、審判の元に集まる。
「では、攻撃の権利と陣地を決定するため、コイントスを行います。では両者。コイントス後、コインの裏表の宣言をお願いします」
審判がコイントスを行い、コインを手のひらに隠す。 エドウィンすかさず宣言をする。
「表だ!」
すると、キーンはニヤリと笑った。
「残り物には、福があると言うだろ。裏だ」
審判はコインを隠した手を上げた。判定結果は裏。
「勝者カゼカミ・39ers!
キーンは、すかさずガッツポーズ。
「さーて、今日の風とカズミのデビュー戦を踏まえると、追い風を利用できる南側だな。審判、南側選ぶぜ」
「キーン。コイントスは負けたが、この試合は勝つぜ」
「ぬかしてろ!勝つのは、俺たちナイナーズだ」
「さあこれより始まる、カゼカミ・39ers対シルベニア・アイアンマインズ の一戦。
改めてスターティングメンバーを発表しましょう 。
まずは、ナイナーズ 」
ナイナーズスタメン、オフェンス。
WR①ーOT①ーOG①ーCーOG②ーOT②ーTEーWR②
ーーーーーーーーーーQB
ーーーーーーーーーーRB
ーーーーーーーーーーBL
左から
WR① ムサシ・オオヤマ
OT① アイシス・ストール
OG① ナターシャ・シピン
C キーン・フラール
OG② ビアンカ・マルティネス
OT② エッジ・マツナガ
TEイリーナ・バニング
QBカズミ・サワタリ
RBステファニー・コウショ
BLスズネ・カミジョウ
「続きまして、シルベニア・アイアンマインズ」
シルベニア・アイアンマインズ、ディフェンス
FSーーーBL
ーーー①MLBーー②MLB
ーーー①OLBーーーーー②OLB
CB①ーDE①ーーDTーーDE②ーーCB②
「こちらは左前から順に」
CB ① フジタ・ノリコ
DE ① シーマ・サンチェス
DT エドウィン・マルティネス
DE ② トウカ・サカザキ
CB ② ジュンコ・マキタ
OLB クロエ・アーマダ
MLB①レイジ・ディクソン
MLB ② アレン・ガルシア
OLC ② パーラ・カトリーヌ
FS ミハエル・グリーン
BL アリア・クルーズ
「と、なっております。
さあ、キックオフまであと30秒、間もなく試合開始です」
審判がホイッスルを鳴らし、試合開始が開始された。ファンタズムボウルは守備側がボウルキックし、攻撃側がボウルをキャッチをしてゲームが始まる。
ボウルを持った選手を止めようとする、マインズ。負けじと、相手選手をブロックして走路を作るナイナーズ。しかし、マインズの鉄壁のディフェンス陣が立ちふさがる。タッチダウンまで残り60ヤードの所で、ボウルを止められてしまった。
「中央付近、たしかハーフウェーラインだっけ?
そこまで進むことは出来た、さてどうしようか」
カズミは悩む、自身のプレーがチームの勝敗に直結するのもあるが、経験不足から来る不安が、彼を苦しめる。これはイカンと思ったのか、ゴルドがインカムで指示を出す。
「カズミ!さっき言ったが、俺たちが指示を出すから最初はその通りプレーをしろ」
なんて事の無い言葉だが、その一言が心強かった。
「キャッチャーのサインに従う感じで、プレーをすればいいんだ。いつも通り、言われた通りプレーすればいい」
イリーナはカズミを元気付けようと、声をかける。
「カズミ!私が突破口を作るから、そこにパスを出してくれ」
「分かったよ、イリーナ。前衛は頼んだよ」
「とは言ったものの、私にはマンツーマンどころか、二人も張り付いてるのか」
エドウィンがニヤリと笑い、トウカは鋭い眼光で私を睨み付ける。
「よう、嬢ちゃん。今日は仕事をさせないぜ」
「同じく、貴様には仕事をさせない」
トウカから来る凄まじいプレッシャーは、イリーナの踏み込みを阻む。イリーナは歯軋をする。
「うかつに踏み込めば、真っ二つ・・・だな。トウカはディフェンスなのに、軽装の理由はこれか。攻撃される前に相手を切り伏せるから、防具は必要無いと」
トウカ・サカザキの凄まじい威圧感は、イリーナが前に踏み込む事をためらわせる。
それを見たエドウィンは、心のなかでほくそ笑む。
トウカを相方に選んだ、ヘッドコーチの判断は正解だ。射程圏に入った瞬間、真っ二つのプレッシャーは偉大だな。後は60分間、これを維持していればいい。不安要素はトウカか・・・突出しないように上手くコントロールしなきゃ、な。
第一クォーター14:45 ファーストダウン 残り60ヤード
今の僕に出来ることを確認しておくか。ランニングバックにパスして渡して、前進するか。ロングパスで前進するか。いや、ロングパスは相手に奪われたら攻撃権が移ってしまう。後は、僕がボウルを持ったまま前進・・・は、無いな。とりあえず、60分間安全にプレーをする。
センターからボウルを受け取って、試合が再開。カズミはパス出来る相手がいないか、周りを見渡す。
「くっ!この状況、パスターゲットがイリーナとヘレンしか居ない!」
「カズミ!ワイドレシーバーのヘレンにパスだ」
ゴルドの指示を聞いてからカズミはパスしたが、微妙に遅れたパスはヘレンに届かない。だが幸いな事に、相手に奪われ無かったのは唯一の救いだった。
第一クォーター14:35 セカンドダウン 残り60ヤード
カズミは自身の頬を叩く。
「ど、どうすればいいんだ・・・こんな時。指示を待っている分、反応が遅いのは仕方ない。それなら!」
カズミは指示を受けから、投げるまでのスピードを、出来る限り短縮した。
時間にして1秒にも満たないが、それが大きかった。ワイドレシーバーはパスを受け取ってから前進は出来なかったが、確実に距離をつめる。
第一クォーター14:23 サードダウン 残り52ヤード
「後2ヤードで、攻撃を継続出来る。しかし後2回の攻撃で2ヤード進めなければ、攻守交代か」
カズミがボールを受け取り、投げようとした瞬間だった相手がすぐ目の前に迫って居たのだ。 OLBの選手が、カズミにブリッツ(二列目以降の選手が相手選手に突進する戦術)を仕掛ける。それを見たゴルドが、指示を出す。
「無理にパスはしなくていい!ボウルを投げ捨て、相手に渡すな!(QBがボウルを持った状態で地面に押し倒されると、次のスター地点は倒れた地点まで後退しなければいけない)」
今ボウルを渡してしまえばその瞬間、攻守が交代し無防備な状態で攻撃されてしまう。
相手選手のタックルが、カズミを襲う。
「ボウルは・・・・・・死んでも渡さないぞ!」
その時だった。
「五行障壁・・・」
カズミの前に、魔法の障壁が貼られる。障壁はカズミを守り、タックルを受けたが、ほとんどダメージを受けず、無事ボウルを投げ捨てる事が出来た。
何が起きたか分からなかったが、ボウルを奪われると言う、最悪の事態は避けられた。
「こんな事が出来るのは?」
周りを見渡すと、スズネが、クスリと笑っていた。
「スズネが僕を、守ってくれたのか。スズネ!ありがとう」
「いえ、これが私の仕事ですから・・・」
みんなが僕を助けてくれているのに、僕は・・・・・・
先程までは落ち着いてプレーを出来ていたのだが、ここに来て不安の虫が顔を覗かせる。その不安の虫はカズミの心を、恐怖で包み出したのだ。
不安と恐怖の為か、カズミはベンチを何回も見つめる。まるで助けを請う子供のように。
「カズミ・サワタリ、いい選手だな。いい選手なんだけど、物足りないな・・・・・・」
「クラリス・・・数時間前に召喚されて、デビューしたばかりの選手だぞ。今だって、パスを自分で修正したし、悪くは無いと思うがな。それを、物足りないとは・・・」
「言い方が悪かった。何て言うか、操り人形みたいで気に入らない。とでも言おうか」
「・・・・・・」
「あいつみたいな選手を、あたしは何人も見てきた。指導者にぶん殴られ、罵られ、不安と恐怖のあまりに、最後は指導者の操り人形に成り下がった選手達を」
「カズミも、同じような指導を受けてきたと言うのか?」
「断言は出来ない。けど、さっきからカズミはやたらとこちら側を見て、あたし達の顔色を見ているように見える。試合前は、もっと動けていたし、表情も明るかった」
「お前の言いたいことは、分かる。だが・・・」
「あいつは・・・カズミは、もっと出来る選手の筈なんだよ。もっと!?」
「まあその件は、第一クォーターが終了してからだな」
一方その頃、前衛のイリーナ達は苦々しい想いをしていた。
「デビュー戦のカズミが頑張っているのに、私達が何も出来ないばかりに・・・申し訳ない。このトウカを倒し、アイアンマインズの鉄壁の守備を崩せれば」
イリーナは頭をフル回転させ、トウカを倒す方法を模索する。
最大速度でトウカに迫り、バーニングステークを打ち込む?いや、彼女の抜刀でバッサリだ。フェイントを混ぜ、撹乱をするか?それとも、エッジとのコンビネーションで、トウカの呼吸を乱すか?いや、駄目だ、トウカは私しか見ていない・・・・・・
トウカは全神経を研ぎ澄まし、イリーナの一挙手一投足に気を配る。彼女の目には他の選手は目に写っておらず、目に写るはイリーナ・バニングただ一人。最大速度で迫ろうが、フェイントを混ぜようが、抜刀の射程圏に入ってきたらバッサリと切り捨てる、それしか考えていないのだ。
では、私がレシーバー(パスの受け取り役)に徹するのはどうか?これも駄目だ。ボウルを持って片手が塞がった状態なら、トウカとエドウィンの二人がかりで止めるのも容易いだろう。前衛として、トウカを倒すことも出来ない、レシーバーとして、鉄壁の守備を突破する事が出来ない。私は何て無力なんだ。
カズミの為にと言う思いは焦りに繋がり、自分たちを追い詰めていた事に、彼女達は気づいていなかった。
第一クォーター14:08 フォースダウン 残り52ヤード。
ここで出来る選択肢は攻撃を放棄してパント(遠くに蹴り混むことで、相手のスタート地点が遠くになる。その為、相手のタッチダウンまでのヤード数を増やせる)するか・・・・・・
52ヤード、キックでゴールを狙うには不可能。
ギャンブルで攻撃を続けるのは、やはりリスクが高い(四回目の攻撃が失敗したら、その場で攻守交代。パントを選択すれば、この場での攻守交代は避けられる)
ナイナーズの選択肢はパントだった、その選択肢は良かったのだが、前衛陣の焦りはピークに達していた。ボウルを蹴った瞬間、うかつにも前衛のエッジがトウカにバトルを仕掛けてしまったのだ。
「イリーナ!俺がスキを作るから、トウカ・サカザキに仕掛けてくれ!」
「え?」
あまり突然な事でイリーナは反応出来ず、エッジ一人だけでバトルを仕掛ける事になった。エッジが、トウカの射程圏に入った瞬間だった。
「私に立ちはだかるものは、全て断ち切る。
サカザキ流抜刀術、桃花雪断!」
それは一瞬の出来事。トウカの鞘から、一筋の光がきらめく。トウカの抜刀だ。抜刀でエッジの体は引き裂かれ、体は宙を舞う。そして致命傷を受けたエッジは、意識は一瞬で断ち切られる。
「知らなかったか?私の抜刀に、断てない物は無い」
ナイナーズは攻守交代をしただけで無く、第一クォーターでオフェンスメンバーの一人を失った。