第7節、13話 アーサー王の秘密
アーサー王とチヒロの二人が意気投合し酒を飲み交わしている所で、一人ゲッソリとしているクラリス。
自身のヘッドコーチデビュー戦が、チヒロのトレードをかけた一戦となってしまったのだ。
完全に酔っぱらっているのか、いつものキリッとした目元はとろん。
このままのペースで飲み続ければ、泥酔に意向をするのは間違いないであろう。
「チヒロがトレード断ってくれれば、アタシの胃は痛んでないんだよ。ちくしょー、酒だ酒!ありったけの酒を持ってこい!」
自棄酒と言わんばかりに、酒を注文し飲み続けるクラリス。
心配になったカズミがクラリスに寄り添うも、今日だけは飲ませろ!と聞く耳を持たない。
やはりチヒロの件が、相当聞いているのだろうか。
「どうしよう・・・明日試合なのに。さっきからクラリスさん、お酒を水の様にガブ飲みしていている・・・・・・」
チームの指揮官が、この有り様なのだ。
カズミが頭を抱えるのは無理もない。
「きゃつは追い詰められると、すぐに酒に溺れる。適度な量で押さえて欲しいのじゃがの」
「陛下お言葉ですが、分かっているのでしたらクラリスさんを止めてください。
ヘッドコーチデビュー戦を二日酔いで欠席なんて、末代までの恥ですよ」
「言われると思ったのでな、もうノンアルコールにすり替えてある。対戦相手のヘッドコーチを前日に飲み潰したとなっては、それこそ我が国の恥。
明日はクラリスも万全の状態じゃ、安心せい」
アーサー王の言葉に、ほっと胸を撫で下ろすカズミ。
「しかしなんだ。クラリスと同年代の選手も、酒に溺れて治療中だと言うのに、分かっているのか?あやつは」
「どう言うことですか?」
「クラリスのカレッジ時代のライバルがな、今治療中なんじゃよ。
まあ、近いうちに会うじゃろう」
近いうちに会う?どこかに所属している選手なのかな。
「ところでカズミ、ポーカーは出来るのか」
「一応ルールは把握してはいますが、僕程度の実力で陛下を楽しませる事が出来るかは・・・・・・」
「実力など気にせんでもよい、お主と語り合いながら手合わせをしたくてな。ポーカーといっても、金は賭けんでもよい。どうじゃ?」
「それでしたら是非。僕もアーサー王とお話がしたいですし。この機会を逃したら二度と出来ない」
「決まりじゃな」
ナイナーズとラウンズの宴会場と化している大部屋に、ポーカーのテーブルとカード。
チップもう運ばれてきた。
更にアーサー王はディーラーを呼びつけ、着々と勝負の準備を始める。
ディーラーはトランプの入った箱の封をナイフで切り、カズミとアーサー王に新品のトランプであることを確認させる。
イカサマのない公平な勝負だと言う事をアピールしたいのだろうか。
「準備も整った、まずは一勝負といくか」
カズミはフルハウス、アーサー王はストレート。
アーサー王に勝利したカズミは、彼女の側からチップをごっそりと持っていく。
お金がかかっていないとはいえ、目の前に大量のチップが置かれているのは、気持ちが良い。
その後もポーカーを続けながら、語り合う二人。
「ところでカズミよ、おぬしにとってスポーツ、いやファンタズムボウルとはなんじゃ?」
アーサー王からの予想外の問いに、腕を組み悩むカズミ。
これで集中力を乱したのか、カズミはここから連敗をし、先ほどまで山のようにあったチップを失う。
「僕にとってのファンタズムボウルは、僕の存在意義です」
「フム、存在意義と来たか。他にはあるかの」
「あとは、僕がプレイをするとみんなが喜ぶ、それが嬉しくてファンタズムボウルをやっていると思います」
「それも、存在意義の一種じゃの。カズミよ、ファンタズムボウルは楽しいか?」
「もちろんです!みんなとプレイするのはとても楽しいし、クラリスさんやスズネに教えられた事が出来るようになるとすごく嬉しい。
僕は最高のチームメイトと一緒にプレイ出来て、楽しくてたまらない」
「ふ、安心したわ。おぬしが自身の存在価値だけを求めて、ファンタズムボウルプレイしてい無くて良かったわい」
「どう言うことですか?」
アーサー王は亡くなったクリスを迎える為の席を見つめ、ため息をこぼす。
「死んだクリスがな・・・ファンタズムボウルに自身の存在価値を求めていたやつでな。
姉があのクラリスじゃ。スポーツも医学も超一流、それに加えて人望もある。
だからあやつは姉に追い付こうと必死じゃった」
「僕も兄達が優秀だったので、気持ちはわかります」
「努力のかいもあり、クリスは一流の選手になり存在価値とやらも手にいれた。活躍をすれば人に求められる、まあ当然じゃわな」
「・・・・・・」
「じゃがな、あやつはそれが原因で死んだ。
3年前の決勝の話しは聞いておるのじゃろ」
「ええ・・・・・・」
「死んでしまっては、存在価値も栄光も何も残らん。生きてこその存在価値じゃ。
死んで残すものは、残された者」
「ですね」
料理を添えられた空席を見つめる、アーサー王とカズミ。
数分の間だろうか、アーサー王は思い人を待つかのように空席を見続ける。
空席の主が、永遠に来ないと分かっていても。
沈黙を終え、ポーカーを再開する二人。先程と同じく、ポーカーを嗜みつつ対話を続ける。
「僕からも、陛下に聞きたい事があります。貴女にとってファンタズムボウルとは何ですか?」
「ワシにとってファンタズムボウルか、最高の憂さ晴らしじゃな」
「憂さ晴らし、ですか?」
「左様。試合に負けても首は跳ねられないし、焼き討ちもされない。
じゃから、ファンタズムボウルは楽しめる。これを最高の憂さ晴らしと言わずなんと言う?」
扇子で自身の首をはねる仕草を見せるアーサー王。
「命がかかっていないからこそ、楽しめると」
「政治は自身の行いで民や国の命運が決まる。
一つしくじれば、民は死に絶え国は滅ぶ。
もちろん、己の命もな」
為政者の偽りなき本音、これにはカズミも黙って頷くしかない。
「試合に勝てば民は喜び、選手は富と栄光を手にする。ついでに国は栄える。
これを最高の憂さ晴らしと呼ばず、何と呼ぶ?」
「・・・スミマセン。質問をしたのは僕なのに、言葉を返せなくて」
「お主はまだ若い、答えることが出来なくて当然じゃ。何事も経験経験」
「勉強をさせて頂きます」
「それでよい。と言うか、あそこに居るギャラバットみたいに受け答え出来る方が珍しい。まあ、あやつは色々と修羅場を潜っているからのお」
その後もポーカーを通じて語り合う、アーサー王とカズミ。
政治、宗教、歴史、経済等々、話す内容は徐々に禅問答に近いものとなっていく。
アーサー王との語り合いは、カズミにとって有意義な時間であったが、一つの疑問が浮かんでくる。
「陛下、無礼を承知で聞きたい事があります。よろしいでしょうか」
「なんじゃカズミ、藪から棒に」
「貴女は何者ですか?」
「ワシか?ワシはブリステンの女王、魔王アーサー・V・ペンドラゴン。お主も知っておるじゃろ」
カズミの問いにおどけて見せるアーサー王。それに対しカズミは真剣な表情のまま。
「僕は貴女を知っている気がする、でも分からないのです。身ぶり手振り、立ち振舞い、言動。一つ一つが引っ掛かる物ばかり。なのに分からないのです」
「ならば教えよう、ワシの正体を」
ゴクリと唾を飲むカズミ。
「ワシの正体は、第六天魔王織田信長じゃぁ!」
「はぁぁぁぁぁ!?」
カズミの叫びに、室内全ての目線が注がれる。
口からよだれをたらし、酔いつぶれかけていたクラリスはムクリと起き上がる。
回りをキョロキョロと見回し何も無いことを確認し、彼女はまた寝込んでしまう。
「クカカカカ。やはりか、期待通りのリアクションじゃわい。お主の出身なら当然かの」
「いやいやいや!織田信長って、本能寺で死んだあの織田信長ですか?なんでこの世界に来て、今も生きているんですか」
「すまぬ、嘘じゃ」
「流石に嘘ですよね。冗談が過ぎますよ陛下」
「ワシの本当の正体は、崩壊寸前のブリステンを立て直し戦死したアーサー王の名を受け継いだ、織田信長の子孫じゃ」
隙を生じぬ二段攻撃とは、こう言う事を言うのだろうか?
「え?織田信長が異世界転移をして、円卓の崩壊を防いだ?てことは、アーサー王織田信長!」
アーサー王の名前を受け継ぎ、ブリステンを立て直した織田信長。
カズミの頭上には、多数のクエスチョンマークが表示されてもおかしくない精神状態であった。
「ワシの先祖織田信長は、本能寺で焼き討ちにあった。
寺は炎で包まれた灼熱地獄、建物の外に逃げようものなら待ち構える明智の軍勢に槍で串刺し。
肌を喉を肺を焼く高熱に、信長の意識は薄れ
死を覚悟する。
だが、織田信長は生きていた。
炎の中で倒れた信長は意識を取り戻し、重たい瞳を開けると無数に広がる草原に見たことのない装備をした兵士達。
ブリステンの戦場じゃった。
この世界の円卓は、アーサー王とモードレッドの両者が一騎討ちで死に、ブリステンの国は崩壊へ向かおうとしていた。
そこで活躍したのがワシの先祖、第六天魔王織田信長。
アーサー王亡き後の内乱で、獅子奮迅の活躍を見せ崩壊していた円卓を再編しブリステンを建て直した。
これがワシの先祖織田信長が、ブリステンでやって来た事じゃ」
「ちなみに、あそこでワインを飲んどるのは明智光秀の子孫じゃぞ」
アーサーが目を向けた先、そこに居たのはランスロット。
「ええええええええぇぇ!」
「旦那はん、そないに驚かんでも」
「い、いや・・・でも」
口に出しかけるが、グッと堪える
「明智の子孫が織田信長の子孫を好いても、別にええやない。
まあ、明智の子孫がランスロット名乗ってるんは皮肉やけど」
「んなもんどうでもいいわ。過去の憎悪に捕らわれ未来を閉ざすよりも。今を名一杯楽しみたいじゃろ。なあ、ランスロット」
「せやねぇ、アルトリアはんの仰る通りですわ」
ワインを大分飲んだのか、アーサー王は顔を真っ赤に染める。机に突っ伏して、そのまま寝込んでも可笑しくない状態であった。
「カズミ、一つ頼み事をしたい」
「僕に出来る事をでしたら」
「クラリスは責任感の強い奴だが、如何せん一人で抱え込む所がある。
カズミ、あやつが困っている事があれば、是非力を貸してやって欲しい」
「僕が・・・僕の様な者が、クラリスさんを支えるなんて事を出来るのでしょうか・・・・・・」
「そばにいて、話を聞いて居るだけでよい。あやつにとってはそれで十分じゃ」
「わかりました、陛下」




