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第7節、12話 宴の席で

女王陛下としての風格と、魔王と揶揄される恐怖と威圧感。

カズミの目の前にいる女性は、相反するものを持つ不思議な人物。

ブリステンの女王、魔王アーサー・V・ペンドラゴン、その人である。


この人が、アーサー・V・ペンドラゴン。

デカイ、身長も器も、何もかもがデカイ。


「皆のもの、客人がいるのじゃ。さっさと挨拶をせぬか!」


アーサー王の言葉に、横一列に整列するラウンズの選手達。

整列した選手の中から、車イスに座った片眼鏡に白髪の紳士が前に出る。


「私はジェラルド。ラウンズのヘッドコーチを勤めている。ようこそブリステンへ、ようこそカズミ・サワタリ殿」


白い手袋を右手から外し、カズミに握手をしようとした時、体に何かあったのか口を歪める。


「あ痛いたたた」


「大丈夫ですか!ジェラルドさん」


「なーに、現役時代に後ろからタックルを受けてな。今ではこの通り、車椅子生活ですよ。ホッホッホッ!」


自身の不幸な事故を、まるで他人事の様に笑うジェラルドヘッドコーチ。

どこか掴み所の無い、好々爺と言ったところであろうか。


先程まではアーサー王の隣に居た、紫の着物に黒髪を首もと辺りで整えられた女性が、前に出る。


「うちは、ランスロット。ラウンズではTE(タイトエンド)LB(ラインバッカー)をやらせてもろぉてます。

オフェンス時には、相手のドンツキに飛び込むのが仕事ですわぁ」


「ドンツキ?あ、エンドゾーン(ボウルを持って飛び込めば得点になるゾーン)か」


「あらまぁ、いっぺんで分かりはったわぁこの人」


ランスロットの言葉をすぐに理解した事に、彼女は驚きを見せる


「育ててくれたお祖母(ばあ)さんが、ランスロットさんと似たような喋りをしていたので」


「旦那はんとは、話しが合いそうやねぇ」



すると今度は赤髪を頭部で結った女性が前に出る。


「私はギャラバット。ポジションはFB(フルバック)DTディフェンシブタックルを勤めています。ファンタズムボウル以外では、女王陛下やモードレッド様の身の回りのお世話をさせていただいております」



このギャラバットという人、威圧感と言うものをまるで感じさせず、暖かさを感じさせる。アーサー王とは真逆の印象を持たせる人物。


この人、スゴいパワーの持ち主なんだろうな。


身長はイリーナ程とまではいかないが、そこそこ高く。

この世界で身体能力の高さを証明する胸部に至っては、相当なものを持っていた。

クラリスさんの言葉の通りであれば、手強い選手なのは間違い無いであろう。



ギャラバットが挨拶を終えると、今度は狼耳を生やした男性が前に出る。

見た目は人間と変わらないが、耳だけが獣。

いわゆるデミヒューマンと言う奴だ。

彼は突然跳躍し、イリーナの腹部を目掛け右ストレートを繰り出す。


イリーナは腹部の手前に右手をおき、男性の右ストレートを受け止める。


「久しぶりだな、イリーナ!」


「いい右ストレートだ。また腕を上げたな、ガウェイン!」


この会話から察するに、イリーナとガウェインにとっては一種の挨拶なのだろう。

その後もイリーナとガウェインのバトルは続く。挨拶はどこに言ったのかと呆れていた瞬間。

ガウェインの襟首を背後から掴む人物、ギャラバット。

彼女は猫の首の皮を掴む要領で、ガウェインを捕まえる。


「流石円卓のおかん、ギャラバットはんやわぁ」


ランスロットの茶化しには目もくれず、首もとを掴んだガウェインをジト目で見つめるギャラバット。


「ガウェインさん、お客様を待たせていますよ」


「ああ、悪いな。俺はガウェイン!!ポジション

WR(ワイドレシーバー)CB(コーナーバック)

この俺に掴めないものは何もない!ボウルだろうが、太陽だろうが掴み取って見せるぜぇぇ!」


うわぁ・・・この人が話し始めた瞬間、店内の温度が上がった気がする・・・・・・

まるで太陽のように暑いひとだ。


ギャラバットと入れ替りで、赤髪の少年が立ち上がる。


雰囲気的に、僕より年下でジョーより年上といった所かな。


「ボクは、モードレッド。QB(クォーターバック)(チームの登録上はランニングバック)とS(セイフティ)


を任されている。同じポジションの君とは、一度話して見たかったんだ。ヨロシクね」


良く言えばいい人、悪く言えばちょっと頼り無さそう。

修羅場を潜り抜けなくてはいけない王族としては、少々不安を感じさせる。



でもこの人、シーズン開幕直前にクーデターを起こしたと言う、あのモードレッド?

温厚そうな見た目で、とてもそんな事をする人には見えないんだけどな。


「何故モードレッドが謀叛を起こしたか?そんな人間には見えない。と、考えていたじゃろ」


自身の内心をアーサー王に見透かされ、動揺を見せるカズミ。

為政者としては、これくらいできて当然なのだろうか。


「なに、そもそもあのクーデターはモードレッド(こやつ)は主犯ではない。ただの御輿(みこし)じゃ。

主犯はワシとモードレッドの母、モルガン」


アーサー王の言葉を前に、膝をつき頭を垂れるモードレッド。


「ですが陛下、わたくしが行った行為は万死に値する物。一生をかけて償う所存」


「モードレッド!謀叛は終わったのじゃ。お主も屋敷で使える子供を人質に取られ、仕方なく行った事」


「・・・・・・」


「しかしモルガンめ、幼少の頃のワシへ毒殺未遂で飽きたらず、此度(こたび)はクーデターか。

やはり口実を見つけて、クーデターを興す前に処刑しておくべきじゃったか」


「陛下、なりませぬ!」


アーサー王の呟きに、声を張り上げるギャラバット。


「申し訳ありません、出すぎたマネを・・・・・・」


「よいよい、ギャラバットの言いたい事も理解しておる。だから、モルガンは生かしておいた」


アーサー王の言葉に、ほっと胸を撫で下ろすギャラバット。


「じゃがな・・・ワシが女王と言う立場でなければ、今でもモルガンをくびり殺してやりたいと思っている。あの女の頭蓋骨(ずがいこつ)をワイングラスにしても、怒りは収まらんぞ」


やっぱりこの人、魔王だ。怖い・・・・・・




「さて、今宵(こよい)の宴といこうか」


執事と思わしき人に連れられ、別室に通される一行。

10メートルは軽く越えるであろう、高級感溢れる食卓。

カズミが父に連れられた、高級料理店をおわず思い出す。

選手達が座っていき次々と席がうまっていくが、クラリスの隣の席だけがポツンと空いている。


「あ、女王陛下。あそこに空いている席がありますけど、もう一人来るのでしょうか?」


「その席は、永遠に空席のままじゃ。今日はクラリスの弟クリスを弔う日でな」


「ス、スミマセン」


地雷を踏んでしまったと思ったのか、すぐさま謝罪をするカズミ


「別に気にするな、カズミ。何も言わず連れてきたのはアタシだ。お前に非は無い」


申し訳なさそうにしていたカズミに対し、隣に座っていたクラリスが声をかけ肩をポンポンと叩く。


「クラリスの言う通りじゃ、お主が気にする必要はない」



アーサー王はテーブルにおかれた、赤ワインの注がれたグラスを高々と上げる。


今宵(こよい)は我らのチームメイト、クリス・ホプキンを弔う。

飲み尽くし、食べつくし、騒ぎ尽くす。

この席に来ているであろうクリスと共に、宴を楽しもうではないか。

乾杯!」


「乾杯」


カズミ以外のメンバーは皆、酒を手に取り口にする。

130センチを下回りあからさまに子供にしか見えないチヒロも、今年で20を迎えているので当然飲酒。

アーサー王の宣言通り、飲めや歌えやの大騒ぎとなっていた。



「いい頃合いじゃな。次はワシの舞いといこうかの」


するとアーサー王は懐から扇子を取り出し、カゼカミの国で覚えたと言う舞いを始める。


「・・・人生・・・0年・・・・・・」


艶やかさ、若しくは妖艶とでも言うべきか。

ヒラヒラと、ゆるりと舞う扇子。扇子の影からアーサー王の唇が、チラリと顔を覗かせる。

彼女の舞いに見惚れた為か、歌詞は全て聞き取れずカズミは夢現と言った様子であった。


「カズミ?おーい」


隣に座っていたクラリスがカズミを心配し、回りに聞こえぬようささやくように声をかける。

女王陛下の御前で居眠りをしようものなら、国の威信に関わる。

クラリスはそこを心配しいた。


「スミマセン、アーサー王の舞いに見惚れてしまって」


「陛下にとって最高の言葉だぜ。舞いが終わった後、今の言葉を是非伝えてほしい」




表現をするのは難しいけど、とにかく美しい。

でも、どこか懐かしい。

けどアーサー王の舞い、どっかで見た気がするんだよなー。なんだっけ?



アーサー王の舞いは終わり、室内には拍手が鳴り響く。


「カズミよ、どうじゃ?いや、お主の顔を見れば分かる。最高の舞いであったか。クカカカカ」


自身の舞いを来客に楽しんでもらえた、アーサー王はご満悦と言った様子。


「ところでカズミよ、我が国ブリステンに来ぬか?」


アーサー王の突然の不意打ちに、ほろ酔い気分は吹っ飛びクラリスはガクンと崩れ落ちそうになる。


「陛下、平然とタンパリング(不法交渉)を行わないでください」


相手チームのヘッドコーチの前で、主力の引き抜きを平然とおこなおうとするアーサー王。

冗談とも本気ともつかぬ発言に、少し飽きれ気味のクラリス。


「冗談じゃ。カズミも良い選手じゃが、もっと欲しい選手がおる。

チヒロ・カナザワじゃ」


アーサー王は、一人の小柄な女性に目を向ける。チヒロだ。


「先乗りのスカウトが、お主の走りを見ていての。

その脚力はRB(ランニングバック)として素晴らしい選手になるじゃろう。

ワシの後継者にふさわしい人材。

どうじゃチヒロ、我が国ブリステンに来ぬか?」


「陛下、ですから!」


一度目は軽い注意で済ませたが、二度目は流石に看過できない。

アーサー王が相手だが、クラリスは思わず声を荒らげる。


「言っておくがクラリス、チヒロに関してはナイナーズに対して正式にトレードの打診をしておる。

なんならここに、契約書の写しもある、見るか?」


「はぁぁぁ!?んなバカなぁ!」


アーサー王から契約書の写しを受け取り、目を通すクラリス。

移籍の合意を目指す選手の名前。それにより発生する移籍金。更に両国のサインまで書かれている。


「編成の奴等め、チヒロの件聞いていないぞ。

勝手な事をしやがって」


「クラリス。ナイナーズの編成の名誉の為に言っておくが、此度(こたび)の件はノータッチ。カゼカミの国に、ワシが持ちかけた話じゃ」


「ですが、いくらなんでも突然すぎます。それに、クリスの件で今シーズンが終わるまではトレード出来ないはず」


「だから、今シーズンが終わり次第じゃ。終わり次第トレードの交渉を始める。

しかし、チヒロは召喚門から来た選手。ルール上は、本人の合意が無くてはトレードは成立せぬ」


「陛下の仰る通りです・・・・・・」


「後は、チヒロの意思次第。お主が了承すれば、移籍は成立する。

どうじゃ、来シーズンからラウンズに」


右手に持ったワイングラスを掲げ、中身をユラユラと揺らすチヒロ。

自身のトレードの話をしていると言うのに、等の本人はどこか他人事。

ユラユラと揺らしたグラスを口につけ、残りのワインを一気に飲み干す。

そこそこの量を飲んでいたチヒロだが、酔った様子は無い。


「ボクをそこまで評価してくれるなんて、光栄だよ陛下。

でもね、ボクは貴女を踏み台にして、世界最速の称号を手に入れるんだよ」


チヒロのあまりにも無礼な発言に、店内には緊張が走り何人かの護衛は剣に手をかける。

巷では魔王と呼ばれているアーサー王に対し、チヒロは対等、いや自身の方が上だと言わんばかりの物言いを見せる。

チヒロの振る舞い、傍若無人さも、魔王といって差し支えないものであった。


「クカカカカ!ワシは踏み台か。大きく出たなチヒロ・カナザワ。

いやはや、益々気に入った。魔王と呼ばれたワシを前に、ここまで言い切った者は他におらん」


踏み台にすると言う発言、時代が違えばチヒロの首がすっ飛んでもおかしくない。

この侮辱と取られてもおかしくない言葉に、アーサー王は怒りを見せることはなく、心の底から笑っている。

むしろチヒロの態度に感心し、心底気にいっているようだ。


「どうしてもボクが欲しいと言うなら、明日の試合に勝ってみてよ。もし貴女方が勝つことが出来れば、喜んでサインをする」


「対した自信だな。負けたら移籍するんじゃぞ、良いのか?」


「ボクが負けを考え、恐れる人間に見えるかい?」


「そうじゃろうな。でなければワシの前で、大口を叩けまい。やはりファンタズムボウルの選手は、こうでなくてはな!クカカカカ」


「恐縮です、陛下」


アーサー王とチヒロ、二人の魔王の異次元のやり取り。

これには周りも脱帽するしか無かった。


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