第1節、3話 暴風VS鉄槌
時刻は17時30分。カゼカミ39ersホームカゼカミフィールドは、秋の心地よい夜風・・・ではなかった。
「イリーナ、この暴風は何!掲示板には風速12Mって表示されてるよ」
予想を越えた暴風に慌てるカズミ。風速12メートルを越えていれば、多くのスポーツが中止または中断となるだろう。狼狽えるカズミに対し、イリーナは涼しい表情だ。
「ああ、カミカゼフィールドならこれくらいの風など日常茶飯事だ」
カズミは納得いかない表情をしたが、この暴風は相手も影響が出る事を考えると、そう悪い話では無いと考える。
この暴風の原因は立地とスタジアムの構造にあった。13万人収容のカゼカミフィールドは出島のような構造の為、強い海風が入りやすい。そして北と西は高い壁あるのだが、それに対し南と東は壁が無いと言う歪な構造。その為に海風が入りたい放題。しかも、北と西の高い壁に当たった風は反射して戻ってくる。地上と上空の風が、別々の方角になっていたのだ。
凄まじい暴風を前にカズミは、ため息をつく
「まるで暴風で有名な、千葉の球場みたいだ。と言うか、あそこでも中止になるレベルの風だろ・・・・・・」
「カズミ、行けそうか?」
不安そうな顔をしたカズミに、イリーナの声を掛ける。
「まあこんな暴風は初めてだけど、何とかしてみるよ」
カズミ肩をイリーナは、ポン!と叩いた。
「頼んだぞ、相棒」
「相棒?」
「私のポジション、TEは、QBの君からパスを受け取る」
イリーナは身ぶり手振りを交え、さらに熱く語り始める。
「私は受け取ったボウルを抱え、エンドゾーンへ向かい突っ走る!パスの出し手と受け手の息が合った時、初めてパスが成功する。この共同作業をする仲間を、相棒と呼ばず何と呼ぶ?」
カズミはイリーナの内に秘める情熱に驚いたと同時に、自信にも熱くなる思いが伝わってきた。
イリーナのこの熱い思い、僕も答えたい!
「わかった、イリーナ!いや、相棒」
カズミの表情はやる気に満ちた、戦士の顔になっていた。
フィールドの暴風を読み取り、最高のパスをイリーナにだす!
しばらく雑談をしながら、アップをしていると、スタジアムの照明が全て消えた。突然の事態にカズミは、動揺を隠せない。
「えっ!?停電?何かが、おきたのか?」
「落ち着けカズミ。これからオープニングセレモニーが始まる」
「オープニングセレモニー?」
「まあ、オープニングセレモニーと言うか、神への感謝と誓いと言った所だな。見ていればわかる」
すると、相手のベンチの方が急に明るくなり始めた。カマドを抱えたドワーフと人間。それを運び終えると、クリムゾンレッドのジャケットを着た一人の女性がカマドの前に立つ。
「確かあの人、向こうのエース・・・・・・」
「ああ、サカザキ姉妹の長女、リッカ・サカザキ。世界最強のBL(魔法使い)だ!」
リッカ・サカザキと呼ばれた女性は右手に持ったハンマーロッドをかまどに掲げ、目をカッと見開く。
「我らを守りし神、ヘスティアーよ!その炎は、敵を砕く鉄槌、我が身を守る盾を与えた。その炎は、我らに夜の明かりと暖を与えた。我らを守りし神、ヘスティアーよ。日々、我らを守りしその慈愛に感謝します。我らはこの手につかみし、勝利と栄光、全てを!貴女に捧げます」
「たしか相手は、アイアンマインズって言うチームだっけ?」
カズミの言葉にイリーナは静に頷く
「シルベニア・アイアンマインズの地元は、鉱山と鉄鋼の街。採掘した鉄を加工するためには、カマドの炎は欠かせない。その為、カマドの神であるヘスティアーが彼らの神となったらしい」
「鉱山と鉄鋼の街。だからアイアンマインズか」
「そして鋼鉄のような守備、アイアンカーテンは、リーグ1いや、世界一の守備だ」
イリーナの言葉にカズミは喉を鳴らす。
「アイアンカーテン・・・・・・僕はその守備陣と戦うんだね」
イリーナは白い歯をだし、ニカッと笑う。
「大丈夫。私の鉄杭が、相手の守備陣を貫く!だから、任せろ」
イリーナの自信に満ちた表情、言葉は、人を引き付ける物があると改めて感じた。
あれから5分くらい経っただろうか。少しだけスタジアムの照明が電灯し、月明かりとカマドの明かりしかなかった、フィールドを明るく照らす。そして先ほどまで一緒に居たスズネが、神への感謝と誓いを始めた。
「我らを守りし神、シナツヒコよ。貴女は海の向こうより現れし外敵を、その暴風似て海に沈めた。貴女の与えし雨風は、我らの水瓶を潤し田畑に恵みを与えた。我らを守りし神シナツヒコよ。
今宵は貴女に、民の歓喜と勝利を捧げます・・・」
その瞬間スタジアムは大歓声に包まれ、スタジアムに吹き荒れる海風は更に強さを増した。
「なんて凄い風だ。これで試合が出来るの?」
「我らが風の神シナツヒコが、スタジアムにこられたのだよ」
「イリーナ、まさかこのスタジアムが歪な構造なのはシナツヒコを向かい入れる為とか言わないよね?」
するとカズミの後ろから、神への感謝を終えたスズネが現れる。
「そうです。このスタジアムは、シナツヒコに楽しんで頂く為に設計されたそうです・・・」
「スズネ、シナツヒコってどんな神様なの?」
「400年ほど前です。海向こうから来た侵略者は、我らの国を侵略しようとしていました。圧倒的な戦力差に、誰もが敗けを覚悟していました。その時、海上の侵略者たちに向かって暴風が襲いかかります。彼らはなすすべも無く、海に沈みました。人々は侵略者を沈めた暴風をカゼカミとよび、シナツヒコに感謝を述べました」
するとイリーナがここぞと言わんばかりに、話を断ち切る。
「はい!神話はここまで。続きはまた今度」
スズネは少し不満そうな顔する。
「イリーナ。これからが良いところですから、途中で切らないでください。このあと二度目の侵略に干ばつなど、まだ語りたい事が沢山あります」
イリーナは、時計を指差す。
「じ・か・ん・切・れ・だ」
「仕方ありませんね。では、また今度にしましょう・・・」
そう言って、ズネは試合の準備始めた。イリーナはやれやれと言う表情をしながら、こちらに振り向く。
「さて、カズミ。今日の試合、絶対勝つよ!」
「ああイリーナ、この試合勝つ!」
頼むぞ僕の右膝。頼むから、最後までもってくれよ・・・・・・
試合開始まで、後5分。あの針が0の文字を指した時、試合のホイッスルが鳴る。