第7節、11話
決戦の地ブリステンでの入国の手続きを終え、空港を出たナイナーズのメンバー。
煉瓦で作られた巨大な時計塔と宮殿。
夕焼けに染め上げられた建築物は、
カズミ達を歓迎している様であった。
「これが円卓の国、ブリステンかー。うおっ!あっちには煉瓦で出来た駅もある。まるで映画の舞台に来ているみたいだ」
「何か、いつもの遠征の時と反応が違ってるんだけど。心当たりはあるか?チヒロ」
子供のようにはしゃぐカズミが気になったのか、クラリス思わずチヒロに理由を訪ねる。
彼女の知っているカズミのイメージと、若干違う。
「ここに似たような場所がボクの居た世界にあったんだけど、行き損ねた事があってね。カズミにとっては念願の場所なんだよね。
あとは、ボクが一緒に居るから、タガが外れたんじゃない?」
「なるほど、安心したぜ。じゃあ、カズミに名一杯、タガを外して楽しんでもらわなきゃな」
「クラリス、君は何を期待しているんだい?」
「さあな」
ヒモの切れたタコの如く、フラフラと歩き回るカズミ。
今度は巨大な石盤に興味を引かれた様で、そちらにスタスタと向かっていく。
「人種、宗教を問わず、この国に住む者を愛し尊重する者せよ。
さすれば、この国は何人であろうと歓迎す。
この石盤に彫られた言葉、なんだろう」
「ブリステン建国の王の言葉だ。この国は様々な人種を取り込み、発展してきた国だ。
人間、エルフ、ドワーフ、獣人、魔族、これ等の種族が交わり、ブリステンは今も尚、成長を続けている」
カズミの疑問に割って入り、口を出すクラリス。
「ん?魔族!人間と戦争をした、あの魔族!?」
「そんな驚くところか?」
「いや・・・その・・・・・・」
「魔族はどの国にも居て、普通の生活を営んでいる。
人類と敵対していたのは、大昔の話だ。今さら掘り返すもんじゃあない。
とは言え、魔族や魔族の血が混じっているだけで、迫害をするヤツも居るがな。
そんな魔族にとって、ブリステンは安息の地だよ」
「魔族を含めた、様々な人種が協力しあう国。凄いですね」
「だろ」
「カズミ、クラリス。観光はその辺にしておいて、ホテルにチェックインして荷物を置いていこう」
そこらをフラフラしているカズミと一緒に着いていくクラリスに対し、呼び掛けるイリーナ。
彼女の呼び掛けに応じ、観光をストップする二人であった。
ホテルでのチェックインを終え、観光と今晩の食事の為にブリステンを歩く面々。
繁華街に入った途端、カズミはまたフラフラと歩き回る。
するとどうだろう、彼は何かを見つけたのか。おもむろに店のショーウインドウを覗き混む
「ショーウインドウなんか覗いて、何を見ているんだ?」
「いや、ちょっと気になっている物があって」
ショーケースの中には、白と赤の駒チェスセットが飾られていた。
普通の駒なら白と黒だが、目の前の物は白と赤。
白の駒は、勇者と思わしきキングの駒と人類の軍勢。
赤の駒は、魔王を思わせるキングの駒に、魔物も合わさった軍勢。
その事を踏まえ、このチェスセットのテーマは、勇者と魔王の対戦を再現したものだろうか。
「チェスセットか。お前、チェス好きだっけ?」
「結構好きですよ。この間もキーンさんと、やっていましたし。
気晴らしに、ネットで対戦する事もありますよ」
「で、キーンとやりあった結果は?」
「十戦以上やって、今のところ全勝ですね」
「オイオイ、キーン相手に全勝だ!?アイツ、カゼカミ国内なら、ランク20に入るプレイヤーだぞ。
なあ、チヒロ。カズミは元の世界ではどの位のランクだったんだ?」
「そうだね。ランキングはそんな高くないけど、プロと互角にやり合う実力はあるよ。
中学生の時に、プロにならないかと言われた程だからね」
「カズミのヤツ頭を使う競技なら、何でも出来ると踏んでは居たが、そこまでなのか」
ショーウインドウを前を歩き回り、悩んでいたカズミ。彼は表情を変え、何か決断をしたようだ。
「ちょっと時間を頂いていいですか?」
「買って来るなら待っているぞ」
クラリスに許可を取り、店内に入るカズミ。
数分ほどたち、店内から出てきた。
その手には、ショーケースに飾られていたチェスセットを手にしていた。
カズミはプレゼントを手に入れた子供の様なホクホク顔だ。
「あ、このチェスセット。勇者と魔王の描かれた、小冊子もある」
「炎の魔王と、氷の勇者。かつて行われたと言う、魔王と人間の戦争をモデルにしたらしいな。
おっ、いい時間だ。食事と紅茶の旨い喫茶店があるんだ。今日はそこで食べるのはどうだ」
「では、僕も」
「ハイハイ!ボクも一緒にいく!」
「お、チヒロも来るか丁度いい。みんなも同じ店でいいか?」
一緒に観光をしていたイリーナとスズネにキーンも、同じ店で食べることを同意する。
あとで聞いた話だが、ほとんどのメンバーはその店で食べると決めていたらしい。
クラリスに紹介され、入店した喫茶店。
カズミが想像していた、喫茶店とは別物であった。
服装、立ち振舞いから察するに、ここは上流階級の店。事前には、喫茶店と聞いていたので、これには驚かずにいられない。
庶民の生活が馴染んでいる、カズミからすれば恐れ多い場所。
それに加え、普通の喫茶店には置いていないであろう、ポーカーをプレイする為のテーブル。
上流階級の人間が、紅茶を味わいながらポーカー等を嗜む、社交の場であった。
そこに一際目立つ、人だかりがある。
どうやらポーカーの大勝負が行われているようだ。
一人は口ひげを生やし、高級なスーツ身を固めた男性。
一見すると紳士に見えるが、鋭い眼光と体から滲み出るオーラは、一般人では無いことを伺わせる。
いわゆる、ギャンブラーか。
そしてもう一人。血液を思わせる真っ赤な髪に、真っ赤に染まった左目。そして真っ暗なマント。
彼女の脇には、うず高く積まれたコイン。
椅子のステッキ置きにはドクロをかたどったステッキがかけられている。
着ている服に、多数のお付きの人間。彼女は相当に身分が高い者ではないかと察する。
「オールイン!」
彼女のコールに、ギャラリーがどよめく。
両者はレイズによる、吊り上げ合戦をしたいたようで。
赤髪の女性は、勝負に出たようだ。
この強気な姿勢に、口ひげのギャンブラーは少しばかり動揺を見せる
な、何故だ!何故あそこまで強く出られる。
私の手札は、ストレートフラッシュ。負けるはずがない。
自身の手札を信じ、口ひげのギャンブラーもオールインしようとコインの束に手をかけようとする。だが、彼の脳裏に一つの役が思い浮かぶ。
まさか、あの方の手札ロイヤルストレートフラッシュ?
でなければ、ここまで強気には出られない。
手のひらからは汗がジワジワと滲み、顔と背中からは滝の様に汗が流れる。
「お主、家族が居るのじゃろ?ここでオールインをし負けたら破滅。引き際も肝心じゃぞ」
赤髪の女性の一言で、妻と子供の顔を思い浮かべてしまう。
このオールインで勝てば、一生遊んで暮らせる。
だが、ここでオールインをして負ければ、俺だけでなく家族も路頭に迷わせてしまう。
ここで降りても、10年間遊んで暮らせる金もある。
彼の心は、金のプレッシャーを前に折れかけていた。
バクバクと収まる気配を見せない心臓に、これまでの人生で感じた事の無い、喉の渇き。
そして、無事を祈り帰りを待つ家族。
彼は一つの決断を下す。
「ドロップ・・・・・・」
巨額を賭けた世紀の対決、今ここに終止符がうたれる。
店内のギャラリーから拍手が鳴り響き、沸き上がる。
「女王陛下、何故あそこまで自信を持てたのですか?貴女をそこまで強気にさせた手札は・・・・・・」
「ワシの手札か?ホレ」
表返った手札に、ギャンブラーは驚愕する。
なんと、ただのハイカード(役無し、ブタとも言う)。
「こ、こんな手で、オールインをしたと言うのか・・・・・・」
ショックと緊張感が抜けた為か、彼は椅子から崩れ落ち、床に倒れそうになる。
「よっと」
しかし彼女が手を差しのべた事により、事なきをえる。
「支配人、きゃつは名勝負を繰り広げ、今宵のギャラリーを楽しませた強者じゃ。
ゆっくりと休ませて欲しい」
「受けたまりました、陛下」
「皆のもの、今夜の勝負を盛り上げた一人の勝負師に、盛大な拍手を!」
赤髪の女性の一言に、今度は敗者のギャンブラーに向けて拍手と歓声送られる。
ギャンブラーはタンカに運ばれ、医務室へと運ばれていった。
「あの人も、相変わらずだな。昔と変わらない様で何よりだよ」
久々に再開した赤髪の女性を前に、思い出に浸るクラリス。
「カズミ、あの方が、ラウンズのエース。そして、この国の女王。魔王、アーサー・V・ペンドラゴン」
イリーナの鮮やかな赤髪と違い、血液のように真っ赤な赤髪。180センチ近い長身。
それに加えて、巨大な胸部。クラリスさんが以前言っていたが、この世界の身体能力の優れた者には、巨大な胸部を持つものが多いと聞く。
イリーナと同等の大きさを持つのだから、アーサー王も同等の身体能力を持っていて間違いないだろう。
「アルトリアはん、お疲れさまどす。えろう大変な勝負でしたなぁ」
紫の着物に、桔梗の花が描かれた小物入れを手にした、黒髪を首もと辺りで整えられたの女性。
「あの人は確か、ランスロットだっけ。あんなに小柄でTEをやっているのだから、信じられない」
カズミの呟きに気付いたのか、ランスロットと呼ばれた女性が、彼の方に振り替える。
「あれまぁ、今夜のお客さん。到着しはったようどすなぁ」
アーサー王もこちらに気付いたようで、女王自ら我々に歩み寄る。
「待たせたな、ナイナーズの諸君。ようこそ、ブリステンへ」




