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サムライガールVS巨大サメ幽霊、グラスシャーク

前半を終え、ロッカールームに戻ってきたレッドオーシャンズの選手達。

あのトウカ・サカザキを追い詰めたと言う事もあり、選手達は大盛り上がり。

唯一人を除いて。


「大丈夫か?リナ。顔色が大分悪いが」


普段リナが見せる能天気さとは一変し、険しくやつれた表情を見せ。

ウエットスーツの背中は汗でびっちょり。

手のひらも同様に、トウカの抜刀術への恐怖でびっちょりと濡れていたのだ。

その様子を見ていたヘッドコーチが思わずリナに声をかける。


「初めてだよ、ファンタズムボウルと言う競技が怖いと思った事は。

恐怖から逃れるが為に、何度、何度前に出そうになったか。

その度に勇気を奮い立て、前に出ず踏みとどまった」


恐怖と緊張でカラカラになった喉を潤すべく、ドリンクボトルに手を伸ばし、勢いよく飲み干していく。

水分と共に、恐怖を洗い流すかのように。


「最後のだって、あのまま突っ込んでいたら、あたしは負けてたよ。

今日のバトルはね、先に動いた方が負ける。そう言う性質のものなんだ」


「お前にそこまで言わせるとは・・・・・・」


「漁師だったお爺ちゃんがよく言ってた、獲物はトドメを指す瞬間が一番恐ろしい。


焦るな、相手を見ろ、スキを伺え。こちらがトドメを刺す瞬間、奴等は俺の首もとを狙っている。


今のトウカは、手負いの獲物だ。なりふりを構わない反撃をしてくる。

こっちがしくじれば、首元を容赦なくかっ切ってくる。

本当に恐ろしい人だよ、トウカ・サカザキは・・・・・・」






一方、セイントナイツのロッカールーム。リナのオールレンジサメ攻撃の影響で、野戦病院さながらの様相を見せる。


特に集中砲火を浴びていたトウカは酷く、身体中から出血。

それを止めるべく、セイントナイツのドクター達は懸命な医療行為を行う。

引き裂かれた皮膚や細かい血管は治癒魔法で縫合。

抜けていった血液は輸血パックから延びる注射針を左腕に刺し、体内に血液を注入していく。


「トウカの替えの服はどこだ!」

「彼女の愛刀のメンテを早く終わらせろ!」

「オールレンジサメ攻撃の分析結果はまだか!このままじゃハーフタイムが終わっちまう」


セイントナイツのスタッフ達は、トウカ達に万全の態勢で戦って貰う為に、必死の形相で駆けずり回る。



「ドクター!トウカは後半出しても大丈夫か?それともドクターストップか?」


トウカの身を案じたヘッドコーチのアーソンは、治療中のドクターに容態の確認をとる。


「正直な所、ドクターストップはかけたいです。

でも・・・」


思わずドクターは、眉間にシワを寄せ。


「私はまだ出しきっていない!頼むドクター。私を最後までプレイさせてくれ。

このままでは・・・このままでは終われないんだ!」


ドクターの肩を掴み、懇願するトウカ。しかし、肩をつかむ握力は弱々しく、弱っているのは明白。

それでもドクターは、トウカがプレイできないか悩み模索していく。


「では、お願いがあります。この休憩時間休養に勤め、少しでも回復に努めてください。私達はトウカが全力で戦えるよう、全力でサポートをしますから」


「ありがとう、ドクター。少しの間だが寝かせて貰う」


しばらくすると、トウカはスースーと寝息を立て寝始める。


「回復に勤めてくれと言われて、ハーフタイム中に寝られるか?やっぱトウカは大物だぜ」





ここは・・・どこだ?オリオールドームの召喚門、と言う事は!

トウカが辺りを見回すと、召喚門がまばゆく輝き異世界からの召喚示す。


一人の少年が召喚門から、出てきた。

その少年はボロボロでマナが枯渇し衰弱していた上に、目に生気が無い。


そうか、ユウマが召喚門から召喚されたときか。





ユウマの居た世界では、人類と魔族が最終戦争を起こし、世界は存亡の危機を迎えていた。

最終戦争が終りを迎えようとしていたとき、彼は戦場で眩いばかりの光に包まれ、気づいた時には召喚されていたのだ。



あまりにも若く、身寄りの無い彼は、私の住む家で一緒に生活をすることになった。

最初のうちは、突然の召喚への戸惑いと、姉を含む家族への心配で、表情は暗くうつ向きがち。

しかし、徐々にではあるものの、明るさも見せ始めたある時。



「トウカ、話がある」


深夜に突然、トウカの自宅を訪れたハイエルフのウィリアム。

貴公子と表される顔は苦悶で歪み、事の重大さを理解させる。


「まあ、なんだ・・・取り敢えず入ってくれ」


彼女の言葉に従い、家の中に入るウィリアム。

年頃にしては飾り気はなく、殺風景で落ち着いた雰囲気のリビング。

そこに通されたウィリアムは、音を立てぬようゆっくりとソファーに腰掛ける。


「で、何があった?お前が深夜に訪れる程の事だ。何があった」


一つ二つ間を明け、重く閉じた口を開けるウィリアム。


「ユウマの出身世界、消滅していたそうだ・・・・・・」


「どういう事だ!ウィリアム!?」


ウィリアムから告げられた事に、感情を高ぶらせ、大声をあげてしまうトウカ。


「声が大きい、ユウマが聞いていたらどうする」


「悪い・・・・・・だがその話、本当なのか?」


「彼の出身世界は、マナの暴走で跡形もなく消し飛んでたそうだよ。

召喚門から、ユウマの出身世界の痕跡を辿っていて分かった」


「じゃあ・・・ユウマは元の世界に帰れないし、家族と再開することも・・・・・・」


ウィリアムは黙って頷く。


「どういう事だよ・・・オレの居た世界が消し飛んだ?」


トウカの声で、起きてしまったのだろう。

そこにはこの話を、最も聞かれたくない相手、ユウマが。


「は、ははっ・・・うそ、だろ。オレの居た世界も、姉さんも、全て消し飛んだなんて・・・・・・」


ユウマは乾いた笑いを見せ、表情は虚ろで定まっていない。

彼はショックのあまり、膝から崩れ落ち倒れてしまう。


「ユウマ、ユウマ!」



最悪の結末、そうとしか言いようがない。

自分が生きているのだから、家族も生きているのではと最初ののうちは希望を持っていた。


だが、彼の居た世界は跡形もなく消し飛んでいたのだ。


自分だけ生き残ってした。この事実は、ユウマの心に暗い物を落とす。

彼は生きる事に罪悪感を持ち、死に安息を始める。




何故だろう・・・困り果てた私は、カズミに連絡をしていた。

自分達では解決できず、藁にもすがる思いだったのだろうか。


「助けてくれ・・・・・・生きる気力を無くして、死に救いを求める子が一人いる。頼む、カズミ!私はどうすればいいんだ!」


切羽詰まった声で助けを求められ、最初は驚いたが、元来の人の良さが高じ熱心に話を聞くカズミ。


「これが最善か分からないけど、一つ提案がある。ファンタズムボウルで、必死に頑張る姿を見せればいいんだ」


「そんなのでいいのか?」


「経験から来るものだから保証は出来ないけど、僕は小さいときに勇気付けられた。

だから、精一杯頑張っている所を見せれば良いと思う。

トウカが必死になって頑張っている姿を見れば、その子の心に響くと思う」


「私達選手にとって出来ること、人々にプレーを見せることだったな・・・・・・

こんな簡単なことを忘れるなんて。ありがとうカズミ、明日のレッドオーシャンズ戦、最高のプレーをユウマに見せる!」


「そのいきだよ!頑張れ、トウカ」





「トウカ~おきろー。もうすぐ後半が始まるよ~」


ダークエルフのエリーが、後半開始の報を告げトウカを起こす。


「おはよう、エリー」


「眠り姫はお目覚めだ。スヤスヤと寝ていたお陰で、体はバッチリかな?」


「お陰さまでな。よし!後半こそリナを倒し、この試合勝利を掴み取るぞ」


「私とウィリアムも、後半から復帰する。ユウマの為にも、最高のプレーをするよ」


気合い十分にフィールドに飛び出す、セイントナイツの選手達。

だがその気合いが気負いとなり、致命的なミスに繋がる。


後半開始早々に選手の一人が突出し、リナのサメ達の餌食になりかける。

トウカはその仲間を庇い、大ダメージを負ってしまったのだ。

ハーフタイム中に回復した傷口は開き、前半終了前と変わらない状態に戻ってしまう。




「もう止めさせてよ!トウカは血だらけだし、こんなことをしてたら死んじゃうよ!」


血だらけになっているトウカを見て、泣きながらプレーの中止を訴えるユウマ。

しかしアーソンは、彼の訴えに答えることはない。


「プレーを止めさせる事は出来ない」


「どうして」


「それがトウカ願いだからだ!アイツからは、どんなことがあろうと、プレーを止めないでくれと言われている」


「お願いだから、止めさせてよ・・・・・・」


「自分勝手な行いなのは、十分承知している。でも苦しくて辛くても、トウカの戦いだけは、しっかり眼に刻んでおけ!トウカの選手としての生きざまを」


「選手としての生きざま?分からない、分からないよ・・・・・・」



巨大サメ幽霊にまたがり、芝生を疾走するリナ。

トウカの攻撃の届かぬ、アウトレンジから子サメ達に攻撃させ。

自身は相手選手が動くのを、唯待ち続ける。



「リナ・バーランドと言う選手、慎重で用心深い。それでいて後衛に籠るばかりではなく、キッチリと攻撃をするぞと言うプレッシャーもかけてくる。

でも、抜刀の射程には入り込んでこない。

此方が先に動けば、巨大サメ幽霊のカウンターでガブリ!

かと言って、此方が動かなければ、子ザメたちになぶり殺される。

何か、何かリナから先に、動かす事は出来ないものか・・・・・・」


出血多量で、思考が回らないトウカ。だが、回らないなりに、何かを出来ないか模索していく。

だが、ボロボロになった体は、思考すら許さない。

今にも倒れこんでも、おかしくない状況である。


「トウカ、ガンバレー!あんなサメの幽霊なんかに負けるな!」


一人の少年の応援が、フィールドに響き渡る。ユウマの応援だ。


「僕に、トウカの選手としての生きざまを見せるんだろ!だから・・・・・・」


「ユウ、マ・・・・・・」


今にも倒れそうだったトウカの瞳に、生気が戻る。


「ユウマの言う通りだ。彼に、私のプレーを、生きざまを。

そしてユウマに、生きる希望を!こんな形では終われない!こんな所で倒れてたまるか」


歯を食い縛り、太刀を握る手にも握力が戻る。

ユウマの応援がボロボロのトウカを立ち直らせた。


「だがこの窮地。どうやってこの窮地を脱する?あるじゃないか!一か八かの、取って置きの手段が」


トウカは愛刀の太刀と大太刀を地面落とし、ほぼ丸腰の状態となる。

残った武器と言えば、納刀された小太刀くらいであろうか。

プレイ中のこの行動に、観客達がざわつき始める。


「勝負を捨てたのかな?トウカ・サカザキ!

ならこのチャンス、いただくよ!」


ダンプカーの様な勢いで、トウカに迫る巨大サメ幽霊。

自慢の大顎を、これでもかと言うくらいに大きく開ける。人間位の大きさなら、丸のみをすることも容易いだろう。


「食いついたな」


巨大な大顎を開けた瞬間、トウカはバックリと口を開いた巨大サメに向かい、水泳の飛び込みの様なフォームで跳躍する。

彼女の身体能力を活かした飛び込みで、あっという間にトウカは巨大サメの体内へと消えていった。

この自殺行為とも思える行動に、先程の非ではないレベルに観客達はざわつきだす。

巨大サメを操るリナに至っては、何が起きたのか理解できていないようであった。


「トウカ・サカザキ、彼女はいったい・・・・・・

あぁぁっ!ま、まずい!?早く彼女を吐き出さないと」


トウカの狙いを察し、あわてふためくリナ。

巨大サメに、トウカを吐き出させようとした瞬間だった。

背鰭の辺りから小太刀が顔を覗かせ、巨大ザメとリナごと一刀両断にしようとする。

トウカの狙いに気づいたリナは、辛うじて難を逃れるが、相棒の巨大サメ幽霊は体内から這い出たトウカにより背鰭から後が左右に別れ真っ二つに切られてしまう。

その光景は、魚の開きの様であった。


「サカザキ流抜刀術に、断てぬものは無い」


相棒の見るも無残な光景に、リナは唯呆然と立ち尽くす。

棒立ちになりスキだらけになったリナを、トウカは見逃さない。


先程の捨てた太刀をすぐさまに拾い、リナにトドメを刺すべく、太刀を振り下ろす。

相棒を失ったショックの為か、目は虚ろになり抜刀を避ける気力も失せているようだ。


「これで終りだあぁぁぁぁぁっ!」


リナがトウカに斬られる、誰もが思った時であった。

二人の間に主審のルイスが割って入り、トウカの抜刀を真剣白羽取りで受け止めたのだ。


「な、何をするんですか!離してください!?」


トウカからすれば、抗議は当然だろう。

リナを倒す一世一代のチャンスを、ルイスが阻止したのだから。


「ホワイトフラッグが、レッドオーシャンズ側から上がりました。

この試合は貴女達の勝利。これ以上戦う必要はありません。

ですから、この太刀を納めて頂けませんか」


「ホワイトフラッグ?」


トウカはレッドオーシャンズ側の、ベンチに目をやる。

するとどうだろう、レッドオーシャンズのヘッドコーチがホワイトフラッグを挙げ、降参のサインを出していたのだ。



レッドオーシャンズは、リナに依存しすぎていたチーム。

彼女を最大限に生かす戦略で、ここまで勝ち上がってきた。

もしリナが倒れれば、あとに残るは万年最下位のチーム。勝ち目はもう残っていない。

レッドオーシャンズがホワイトフラッグを挙げたのは必然であった。


「レッドオーシャンズのホワイトフラッグ。よって勝者は、オリオール・セイントナイツ」

セイントナイツの勝利を告げるコールを主審のルイスが高々と宣言。

セイントナイツ側の観客席では、歓喜に包まれる。



「ごめんね、私の力不足で。ゆっくり休んでね・・・・・・」


光の粒子になり、休息を取る巨大サメ幽霊に手を当て、弔うリナ。

周りには、リナの悲しみの心を表すかのように、子ザメ達がグルグルと泳ぎ回る。


レッドオーシャンズの観客は、リナをはじめとする選手の健闘を称え、拍手と声援を贈る。


「みんな、私達負けちゃったのに。ありがとう・・・・・・」




「では、見事勝利したオリオール・セイントナイツ。

トウカ・サカザキ選手にインタビューをしたいと思います」


試合を終えたトウカの元に駆け寄る、インタビュアーのサスガ。

マイクを手に持ち、トウカの言葉を受け取ろうとしている。

それに対し、トウカは申し訳なさそうな表情を見せる。


「すまない、試合後のインタビューは可能な限り受けているのだが、今日だけは勘弁して貰いたい。何しろ、この身なりなのでな・・・・・・」


トウカは勝つ事は出来たが、同時に代償も支払う結果となった。

腰まで伸びた美しい黒髪は、サメのよだれと胃液と血液で、ベトベトに汚れてしまう。

極めつけは、臭い。サメ独特の強いアンモニア臭とその他諸々が混ざり、トウカから凄まじい異臭を放っていたのだ。


これにはインタビュアーのサスガも同意せざるお得なかった。

インタビューはエリーとウィリアムに任せ、一人シャワーへと消えていく。




シャワー室で身体中に染み付いたものを洗い流す、トウカ。

シャンプー等を駆使し、何とかベタつきと臭いを完璧に落とす事に成功したトウカ。

身なりを整えロッカールームに戻ると、チームメイト。

そしてユウマと呼ばれた少年が目を赤く腫らし、明らかに不機嫌そうな顔をして待ち構えていた。



「何やっているんだトウカ・・・あんなムチャをして・・・・・・

あんな事をして、オレが喜ぶと思ったのかこの馬鹿!馬鹿!バカァッ!」


「すまない、私の行いは独りよがりだと言うのは分かっている。軽蔑をされても構わない。けど、ユウマに生きてほしかったから・・・・・・」


「オレに生きてほしかったから?だからあんな無茶を?」


「ああ、私は。ユウマが以前のように笑って、生きてほしい。その為なら何でも」


「オレが生きる事に希望をもたらさなければ、何でもする?何て人だ、トウカは・・・・・・」


「わかってくれユウマ!私にはこれしか」


「でも、今日みたいな無茶をしたのはオレのせいだ。だから、死に救いを求める何てバカな事、二度としない。

トウカを、みんなを困らせる事もしない・・・だから・・・・・・」


目元を潤わせ、今にも泣き出しそうなユウマ。

その頭をトウカはポンポンと撫でる。


「ユウマ。私も、私もユウマを泣かせない。約束する」


「嘘ついたら、針千本飲ませるからな・・・・・・」


「ああ、約束だ!ユウマ」


故郷を失い、家族も失ったユウマ。

全てを失い絶望にうちひしがれた少年。

しかし今ここに、トウカと言うユウマを温かく、優しく支える、家族を得たのであった。

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