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第7節、8話。サメサメサメ、グラスシャークの饗宴

マイアム・レッドオーシャンズのホームスタジアム、シャークズフィールド。


観客席に設置された、血の様に真っ赤に染まったプールの水からは、サメの背鰭がチラチラ。

個室トイレの壁も血が飛び散ったかのように真っ赤に塗りたくられ、便器から背鰭がこんにちわ。

挙げ句の果てに、スコアボードは巨大なサメの大口の中に作られていると言う、念の入れよう。


どこもかしこも、サメサメサメ!

これでもかと言う位に、サメサメサメ!

スポーツを開催するスタジアムと言うよりは、サメのテーマパークと名乗った方がしっくりくる造りであった。


そんなサメのテーマパークもとい、ファンタズムボウルが行われているシャークズフィールド。

芝生も同様に、べっとりとした液体で赤く染め上げられていた。

ただし、スタジアムに無数存在する偽物の血糊ではなく、本物の血液によって。



「前半終了まで、残り20秒!レッドオーシャンズのルーキー、リナ・バーランドによる猛攻でノックアウト負け寸前に追い詰められたセイントナイツ。

彼女のサメ型召喚獣の攻撃を耐えきり、後半へと持ち込めるか!」



リナ・バーランド。

元は水族館の飼育係で、海洋生物LOVEのどこにでもいる普通の女の子。

だがある時、寿命のつきたサメを供養しているときに、偶然にもサメの幽霊と会話できる様になる。


そんなある時。水族館に密漁者が浸入し、その場に居たリナを亡き者にしようとする。

だが、彼女の危機を救ったのは、サメの幽霊。

サメの幽霊は密漁者達を次々と食い倒し、見事に彼女を助けたのだった。


サメの幽霊を操り、密漁者を撃退したと言う噂を聞き付けた地元のレッドオーシャンズのスカウト。

当時経営難に陥っていた水族館への支援を条件に、レッドオーシャンズの入団を受け入れる。

その後リナは、ファンタズムボウルの選手として才能を開花させる。


デビュー後はサメ幽霊達を率いて、17年連続地区最下位のチームを開幕7連勝と言う快進撃に導く。

今やチームに欠かすことは出来ない、絶対的エースなのだ。



首から下をウエットスーツで包み、ウェーブ状の髪をなびかせるリナ。

彼女は8メートルもの巨大なサメ幽霊にまたがり、サメ幽霊は芝生の上を芝しぶきをあげ、高速で疾走する。

そう、サメが芝生を泳いでいるのだ!

しかも、サメ幽霊は一匹ではない。

小さいものは30センチから大きいものは1メートル以上のものまでが11匹。

芝生を我が物顔で泳ぐ姿は、芝サメ(グラスシャーク)と言っても差し支えは無いだろう。


これらのサメ、種類も大きさもバラバラだが、一つだけ共通点がある。

ギラリと光る口元は、セイントナイツの選手の血液により、真っ赤に染め上げられていた。


セイントナイツの主力選手の、エリーとウィリアムは四方八方より襲いかかるサメの餌食となり、早々に退場。

その他の選手も身体中を噛られ、血塗れに。

中でもチームの絶対的エース、トウカ・サカザキは酷いものだ。


サメの牙により身体中の皮膚は引き裂かれ、体はボロボロ。

出血多量により意識は朦朧とし、手に握る太刀には力が入らない。

ブラッディークイーンと呼ばれているトウカの全身が、皮肉にも自身血液で血塗れとなっていたのだ。


「リナ選手の無数のサメによる攻撃、オールレンジサメ攻撃により、トウカ選手も虫の息。

このまま押しきるのか!?」


スタジアムの放送ブースでマイクを握り、興奮ぎみに話す、実況兼解説のサスガ。

対照的に、相方のワカバは冷静に試合を見つめている。


「サスガちゃん。なんでリナ選手の攻撃、オールレンジサメ攻撃なの?

サメ攻撃の部分、シャークとかアタックにしちゃダメだったのかな?」


「なんでも、オールレンジシャークアタックだと、とある作品と名前が被るから断念したとか」


「えー、オールレンジサメ攻撃と言う名前なのはそんな理由なの・・・・・・」


「オールレンジサメ攻撃と言う命名は、リナ選手の希望なんだから、仕方ないでしょ」


このようなワカバのやり取り、普通の実況ならあってはならないものだが、ワカバのゆるーいやり取りが何故か好評。

そしてサスガの熱く、的確な実況解説。

この二人の組み合わせが、放送に新たな風を吹き込む。



プレイと同時にラインバッカーのリナは、騎乗した巨大サメ幽霊を水上バイクの様に乗りこなし、フィールドを猛スピードで駆け抜けていく。

トウカの攻撃の射程圏外を疾走しながら、攻撃の隙を伺う。


一方の子ザメ。11匹のうち7匹が、トウカに対してヒットアンドアウェイの要領で全方位から視覚外の攻撃を加えていく。

子ザメ達は血の臭いに興奮しながらも、余計な深追いはせず、トウカがフィールドに倒れるのを今か今かと待ち構えている。

これも一重に、リナの的確な指示の賜物であろう。



「しかし、リナ選手凄いですよね。フィールドを疾走しながら、子ザメ達を操っているんですよ。

どうやったら、あんな統率の取れた攻撃が出来るのかな?」


リナの戦いぶりに感心し、思わず声をだすワカバ。


「子ザメの12匹、全て手動(マニュアル)で指示しているそうですよ」


ワカバの疑問に、腕を組ながら答えるサスガ。


「え?攻撃をしろ!とか、退け!とか、もっと大雑把な指示だったのかと思っていたよ」


「確かに、大雑把な指示なら召喚者の負担は減り。巨大ザメの操作だけに集中出来るでしょう。

でも、それじゃあ統率の取れた攻撃は出来ない。

だから12匹の子ザメ達にリアルタイムで指示をだす必要がある」


「ふえー、すごい大変そうだね」


「リナ選手いわく、12個のコントローラー操作と12個モニター画面を見ながら、水上バイクを乗りこなすイメージみたいです。

普通の人間なら脳がパンクするか、水上バイクの操作を誤って壁に激突するのがオチ」


「でも、リナ選手は出来る」


「彼女はマルチタスクの天才なんですよね。

巨大なサメのスピードとパワー、子サメ達による視覚外からのオールレンジ攻撃。

これが出来るのも、常人には真似できないマルチタスクがあってこそ。

そして巨大ザメと子ザメ達のコンビネーションが一個師団と言ってよい程の戦力を作り上げるんです」

リナの凄さを熱く、分かりやすく答えてくサスガ。彼女の解説に、ワカバは唯々(ただただ)

感心するしかなかった。



残り20秒を切ったものの、オールレンジサメ攻撃によるダメージで今にも倒れそうなトウカ。

しかし彼女は立ち続ける。永遠よりも長く感じる20秒を待ち、ただひたすらに立ち続ける。


「この私が・・・ここまで追い詰められるとは・・・・・・。

だが、こんな無様な姿を晒したまま、負けたくない!」


負けたくないと言うただ一つの思い、絶望的な状況に追い込まれながらも、それを糧にサメ攻撃を耐えていく。



その様子を見ていた、ヘッドコーチのアーソン。

この状況を見ることしかできぬ己の無力さに、歯軋りをする。


「チキショー、リナ・バーランド。あいつ本当に半年前までド素人だったルーキーかよ!

バトルの経験に関してはトウカの方がだってのに、ここまでやるか。

今のトウカに勝機があるとすれば、リナが焦れて前に出るくらいか・・・・・・」


残り10秒。サメ攻撃なんとか耐えていたトウカだったが、下半身から力が抜け左膝を地面につけてしまう。

それを好機と見たリナは、子ザメ達を7匹から9匹に追加し、畳み掛ける。


「いっけー!みんなー。トウカもうヘロヘロ、そのまま押しきっちゃえー!」


最後の猛攻撃(ラッシュ)で押しきる算段のようだが、彼女はまだ前にでない。



残り5秒。トウカはついに太刀を地面に突き立て、全体重を預ける。

誰の目にも、トウカはもう限界であった。


「もらったー!」


この試合、トウカの抜刀の射程圏外から子ザメを操り、自身はトウカを即食いかかれる距離で待機していたリナ。

彼女にトドメを刺すべく、遂にリナが前に出る。

股がる巨大サメ幽霊は、ダンプカーの突進を思わせる勢いで、トウカに迫っていく。


リナとトウカ、距離が1メートルに満たない距離まで積めた時であった。

リナは人生で感じたことの無い、恐怖と寒気を覚える。トウカの目線だ。

トウカの目から身も凍りつく程の殺気を感じたリナは、咄嗟に巨大ザメの軌道を変え、止めをさしそこねてしまう。


と同時に、主審のルイスが第2クォーター終了の笛を吹く。



「切り・・・損ねたか・・・・・・」


リナがそのまま突っ込んでいれば、勝っていたのは自分だと言わんばかりのトウカ。

それに対しリナは、トウカの殺気を前に冷や汗をダラダラ。

どちらが有利であったのか忘れてしまう、瞬間であった。




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