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第7節、6話

僕の家は代々、トレジャーハンターである、|

桜坂おうさか家に使える者。

僕は死ぬまで桜坂(おうさか)家に、サラお嬢様の手足となるだけの、只の使用人。


でもお嬢様は、僕を使用人ではなく、同世代の友人として、一人の人間として扱ってくれた。

どんな苦しいときでも、彼女がいてくれたお陰で、頑張ることが出来たんだ。


お嬢様に使える身の僕には、夢がある。ファンタズムボウルの選手になること。

小さい頃から、お嬢様と一緒に観戦し熱狂したファンタズムボウル。


ロッカールームへの乱入騒動。今になって思えば、お嬢様が僕にくれたプレゼントだったのかもしれない。

僕は念願だった、ファンタズムボウルの選手になれたのだ。


憧れのあの人と一緒にプレイが出来る、ナイナーズの選手として入団が決まった僕は、心臓がバクバクして、その夜は殆ど眠れなかった。


でも・・・憧れのあの人は、全盛期の全力のプレイが出来ず、もがき苦しんでいる。

引退をする?

僕はあの人とプレイをしたい、これからもこれからずっと。

だから・・・・・・


夜風が吹きすさぶ、港を見渡せる丘。

銀髪で褐色、長身の女性が腕時計をチラリと見る。


「そろそろ時間か、この国とはお別れだな。

業者との約束の時間も、そろそろだ。

コンテナに詰め込まれた窮屈な旅だが、税関を抜ければあとは悠々自適の旅を」


「やっぱり、ここに居たんですね・・・・・・」

「ちっ!ジョーか・・・長居、し過ぎたな・・・・・・」


アイシスは声の主に躊躇する事も無く、長いリーチを生かした回し蹴りを打ち込む。

ジョーの顔面を、的確に捉えたと思われた回し蹴り。

しかし彼の顔面に、届くことはない。顔の手前で彼女のキックを受け止めたのだ。


「アイシスさん、ユニフォームでないせいか、回し蹴りに腰が入っていませんよ」


「それは嫌みか?オレは、ユニフォームだろうが無かろうが、いつも全力だぜ!」


アイシスの前に立ちふさがるジョーを前に、指先をまっすぐに伸ばし手刀を打ち込む体勢に入る。

褐色の指先に、絶対零度の冷気を宿した鋭い爪。

(アブソリュートゼロ)、絶対零度の冷気に包まれた鋭い爪はダイヤモンドよりも固く、数々の強敵を切り裂いてきたアイシスの必殺技。

カレッジファンタズムボウル時代にはその鋭い爪で、多くの対戦相手を震え上がらせてきた。


絶対零度(アブソリュートゼロ)か・・・全盛期の貴女なら、僕も無惨に引き裂かれたでしょうね」


「てめぇ、言わせておけば・・・・・・

そこをどけ、ジョー!今なら五体満足で、おうちに帰してやるぜ」


「やってみろよ、アイシス・フォスター!今の貴方には、僕に傷一つ付ける事は出来ない」


ジョーの挑発を思わせる言葉に、歯軋りをするアイシス。


「高くつくぜ、その言葉。オレの絶対零度(アブソリュートゼロ)で、ズタズタに引き裂いてやるぜ!」


アイシスは長身の体を深々と沈め、攻撃の準備に入る。

右手を頭の上に、左手を腰の高さに、絶対零度の冷気を宿した爪が鋭さを増していく。

狙いを定めたアイシスは、獲物を見つけた獣の様に、ジョーに飛び掛かる。

十メートル近くはあったであろう間合いは一気に詰められ、アイシスはジョーの目前へと迫っていた。


速い!?この突進力、イリーナさん並みの突進力。

でも・・・


彼は見逃さない、アイシスは獲物の目前で、減速をしてしまったのだ。

生死の境をさ迷ったトラウマ、その恐怖は今もぬぐえず、獲物を目前に減速をしてしまう。


アブソリュートゼロの爪は、辛うじてジョーの表皮を引き裂くも、それがダメージとなることはない。


表皮引き裂いただけに終わった右手首を、ジョーは掴み取り、(てのひら)の方にねじ曲げる。


「ジョーの十八番、間接技か!こんなもの、オレのパワーで」


アイシスは掴まれた手首からジョーを引き離そうと、右腕をぶん回すが、その力を利用し、空中で腕十字を決める。

腕十字を決められた、アイシスは地面に叩きつけられ、右手を背中の後ろに回されてしまう。


「見ただろ、この情けないざまを。三年前の怪我で、アイシス・フォスターは死んだんだよ」


「アイシス・フォスターは、死んでいません!

6年前にここで会い、僕にファンタズムボウルのイロハを教えてくれた貴女は生きています!」


「6年前か、懐かしいな。今よりもさらにちっこい奴だったお前が、サラのお嬢様と一緒に会い来たのは」


「あの日別れるときに、貴女が言った言葉、今でも忘れていません。

努力は夢を実現させ、未来への道を切り開く。

僕は絶え間ない努力と幸運のお陰で、貴女と同じ舞台に立つことが出来ました」


「会いに来てくれたのは嬉しいさ、けど・・・

オレは・・・選手として、もう力になることは出来ない・・・・・・」


「アイシスさん!チームにとって、僕にとっても。貴女は必要な人なんですよ」


ジョーは懐から取り出した、フォーメーションの書かれた用紙を、アイシスに見せける。


「これは、明日から練習予定の新フォーメーション。

このフォーメーションの中核の一人は貴女なんです!アイシスさんの力が、ナイナーズに必要なんですよ」


新フォーメーションを、目を皿のようにして見つめるアイシス。

そのなかで自身を守るであろう、選手を見つける。


「クラリス、粋なことをしやがる。

オレを守り、道を切り開く為に、わざわざジョーをオレの近くに置いたのか」


「これは僕が、クラリスさんにお願いをしました。

僕はアイシスさんを守る盾となり、貴女が進む道を作り出します。

お願いです、この新フォーメーションで、貴女と一緒にプレーし、勝利を掴み取りたい。

そして一緒に、勝利を喜びたいんです。

だから、一試合でもいいんです。僕と一緒にプレーをさせて下さい!」


「ジョー、何がお前を、そこまでさせるんだ」


「これはもう、恋・・・なのかもしれませんね」


「くっくっくっく、恋?恋か・・・冗談にしては面白すぎるぜ、ジョー」


「冗談じゃありません!僕は貴女とプレー出来ると聞いて、心臓はバクバクし、破裂するかと思いました。

そして今、貴女と話して気付きました。これは、貴女への恋です!」


「バカ野郎・・・そんな風に女を口説く奴、初めて見たぞ」


「す、すみません」


「いいぜジョー、お前の恋とやらに、乗ってやるぜ!

オレを守る盾になると言われ、オレに恋していると言われたんだ、これに答えなきゃアイシス・フォスターの名が廃るってもんだ!」


衝撃の告白をしたジョーの襟首を掴み、胸元に引き寄せるアイシス。


「オレはお前の良いところもわかんねえし、好きな所もわかんねえ。

だから、これから見つけるぜ。ジョー・フォード」


「アイシスさん・・・」


「よろしく頼むぜ、愛しい人」








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