第7節、5話
イリーナとのバトル?に辛くも勝利し、部屋に戻ってきたクラリス。
先ほどノックアウトしたイリーナをベットに運び、そっと布団をかける。
羽織っていた白衣を予備の物に交換し、再びホワイトボードの前に立つ。
「さてっと、講義を再開するか。
先ほどは、筋肉量×筋伸縮×マナの燃焼量=パワー。と言う説明をした、ここまでで分からないことはあったか?」
「この世界の人々が、どの様に力を引き出しているかは分かりました。
けど、この世界の女性が僕の世界の女性より強いのか。
その理由を述べていません」
「じゃあ何で、女性が強くなる必要があったと思う?
強くなる必要があったから、強くななったんだろ?
カズミはどう考える?」
「クラリスさん、質問に質問で返さないで下さい。
悪い癖ですよそれ」
悪戯が失敗した子供の様な表情を見せるクラリス。
◯◯さん、質問に質問で返さないで下さい。
悪い癖ですよそれ。
ああ、アイツも言っていたな、そんな事・・・・・・
だからか・・・分からないけど、カズミと居ると、アイツが帰ってきた様に思えてくる。
だから楽しいのか。
あたしにとって、カズミは・・・・・・
「クラリスさん、クラリスさん!聞いています?」
「悪い悪い、ちゃんと話すよ」
思いにふけっていたクラリスだが、カズミの声に現実に引き戻される。
「この世界の女性が強くなった理由。
この答えにたどり着く為には、この世界の歴史を知らなければならない」
するとクラリスは、先ほどまで使用していたホワイトボードの前に立ち、メガネをくいっと上げる。
「遥か遠いむかしむかし、神代
と呼ばれた時代があった。
科学、魔法は今とは比べ物にならないくらいに発達し、人々は不自由のない生活を営んでいた。
そんなあるとき、異世界からの来訪者が現れた、魔族だ。
彼らは身体能力や魔力に優れ、それを元にした武力で、人類を滅亡寸前の所まで追い詰めていく。
人類は魔族に対抗すべく、禁断の技術に手を染める。
遺伝子ドーピング」
クラリスはおもむろにタブレットを手に取り、カズミに手渡す。
カズミは渡されたを見るが、赤子の異様さを前に、タブレットを落としてしまう。
落としたタブレットは、ガシャリと音をたてる。
クラリスは床に落ちたタブレットを、拾い上げる。
「この赤子、大臀筋が異常とも言えるレベルで発達している。
これが遺伝子ドーピングだ。
遺伝子ドーピングにより、マナの扱いや筋力の強化。
挙げ句には、無茶な出産に耐えられる体から、体内での胎児の成長促進まで。
魔族との戦争に勝つため、人類はありとあらゆる手段を講じる」
「人間の体を実験動物みたいに、何でそこまで!?」
現代の常識を持つカズミにとっては、信じがたく許しがたいものであった。
人類が行ってきた所業の前に、思わず声を荒らげる。
「人類が魔族に対抗しようと思うなら、出生数で上回り、数で押し潰すしか無かったのさ」
「いくら勝つためだからって・・・イカれている・・・・・・」
「カズミの言う通りだ、イカれていると思うだろ?それが戦争だ。
負けた方は滅ぼされるか、迫害され永遠に虐げられるか。
だから、勝つためならありとあらゆる手段を取らなくてはならない。
当時の人類は、そう考えたのだろう。
ここまでやった甲斐があった?とでも言うべきか、人類は魔族に勝利を納めたよ。
でもな、代償は大きかった」
「代償・・・・・・」
「無理に遺伝子を弄じくったせいか、この世界の人類は、とてもバランスが悪い。
チヒロみたいに身長がほとんど伸びなかったり、人体に重大な疾患を抱える等。
あたしだって軽いやつだが、身体能力や魔力の代償をかかえている」
クラリスは自身の胸部の、巨大な膨らみを指差す。
「胸?」
「うん。これについては、この世界の女性ホルモンと男性ホルモンについて説明しないといけないな。
女性ホルモンは女性特有の部分を成長させ、体の成長を促す。
と同時に、《《骨端線を閉鎖させ身長の成長を抑圧する》》。
男性ホルモンは男性特有の部分を成長させ、筋肉を成長させる」
クラリスの専門知識を前に、必死に食らいつくカズミ。
「ここで問題、女性に身長と筋肉の恩恵を授けるドーピングをするとする。
カズミが科学者ならどうする?」
「先ほどまでの話を当てはめると、男性ホルモンの分泌を強化する、ですか?
筋力が強化されて、女性も強靭な体を手に入れると思いますよ」
「正解、当時の科学者もそう考えた。
遺伝子ドーピングのシュミレーションでは、身長と筋肉の成長に成功。
更に筋伸長の強化に加え、体内のマナの貯蔵量の強化。
マナの燃焼効率の強化まで出来るようになった」
「ここまで聞くとスゴく聞こえますが、代償もあるんですよね」
「モチロン、ドーピングだから代償はある。
髭だよ。
当時の女性は相当嫌がった、戦場に出るためにドーピングをするのは仕方ない。
でも、髭が生えるのだけは勘弁してほしい。
いや、本当に勘弁してほしいと。
そこで科学者達は、男性ホルモンと女性ホルモンのミックスを試みた。
効果はてきめん、髭は生えなくなった。
で、結果がこれだよ」
おもむろに自身の胸部を持ち上げる。
「あたしなんかは、遺伝子ドーピングの影響がモロに出ている。
重くって肩が凝って仕方ないし、最近になってまた胸が成長するわで、さんざんさ。
まあ、髭が生えるのと比べたら、マシか」
自身にも関わる深刻な話をしているのに、クラリスはケラケラと笑い、それを楽しむかの様に話す。
「この世界の女性が強くなった理由は、以上。
まあ、なんだ・・・あたしたちは戦争に勝つために、遺伝子を弄くった者達の末裔なのさ・・・・・・」
クラリスは楽しんで話していたのではない、明るく振る舞っていたのだと、カズミは気づく。
気づきは、カズミの顔を曇らせ、クラリスはそれを察する。
「あ・・・もしかして、ドン引きした?
まあ、男性より強い女性が強い理由が、遺伝子ドーピングだ。
お前の世界の倫理観なら、意味嫌われても・・・・・・」
「そんな事はありません!!!」
「カズミ・・・」
「遺伝子を弄くったのなんて、戦争に勝つために、先祖が勝手にやった事でしょ。
どうして、当時生まれていなかったクラリスさん達が、忌み嫌われなきゃいけないんですか!
何で、先祖の業を子孫が背負わなければいけないんですか!
おかしいですよ、そんなの!?」
「・・・・・・」
「みんなの先祖が何をしていようが・・・僕はみんなを嫌いにならない。
僕は、僕を温かく向かい入れてくれたみんなが・・・大好きだ!」
「やっぱりカズミ・・・だな
本当にいいやつだよお前は、本当に・・・・・・」
「いや、僕は思ったことをそのまま伝えただけで」
クラリスは突然に、カズミの頭を撫で始める。
「私も、カズミの頭を撫でさせて下さい」
これ見よがしと言った感じに、スズネも彼の頭を撫で始める。
「クラリスさんとスズネ、抜け駆けは許さん。
私もナデナデさせろ」
イリーナもおもむろに(以下略)
「3人で人の頭を撫で回して、君たちは何をやりたいんだ?」
メディカルチェックが終了し、機械から出てきたチヒロも、撫で回しの輪に入ろうとした、その時だった。
廊下からバタバタと、物々しい足跡が鳴り響く。
その足跡が鳴りやんだかと思うと、部屋の扉が壊れんばかりの勢いで開けられる。
チームスタッフと思わしき女性が、慌てた表情で部屋に入り込む。
「どうしたんだ、そんなに慌てて。空から槍でも降ってきたのか?」
「大変なんです!アイシスの部屋に、退団をすると言う置き手紙が!
スタッフ一同で探しているのですが、何処にも居ません」
アイシスの、退団表明。
突然の出来事に、クラリス達に衝撃が走る。




