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第7節、4話

白系の色で統一された、スタジアム内の一室。

人間ドックを思わせる、大がかりな解析装置がそこにはあった。

異世界転移をし入団したてのチヒロは、メディカルチェックを受けていたのだ。


解析装置から示されるデータを前に、クラリスは徐々に険しい表情となっていく。


「チヒロの体に、何か悪いところがあったんですか?」


険しい表情を見せるクラリスに、カズミはチヒロの心配をする。


「いや、チヒロと言う子、身長が足らない以外はいたって健康。

身体能力やマナの数値も非常に高い、彼女は凄い選手だよ」


クラリスの言葉に、ほっと胸を撫で下ろすカズミ


「カズミ、チヒロの事でちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか?」


「まあ、答えられる範囲でよければ」


「あの子の身長、何センチ?」


クラリスの問いに、バツの悪そうな顔をするカズミ。

チヒロにとって身長はコンプレックスとまではいかないものの、タブーではあった。

幼馴染みだけあって、彼女の身長は知っていたが、それを話すのはためらっていた。


「あ、いや・・・ひゃ、141センチくらいかな」


「奇遇ですね、チヒロと一緒で私も141センチなんですよ。

なのに彼女とは目の高さが会わないどうしてでしょうか?

身長が141くらいだと言うなら、目の高さが同じくらいなくてはいけません」


カズミの嘘に、ジト目で見つめるスズネ。

彼女はチームで一番小さい選手だが、チヒロはさらに小さい選手であった。


「で、実際はどうなんだ?」


クラリスの言葉に、頭をかきむしるカズミ。


「まあ、チヒロはメディカルチェック中で寝ているし。

わかりました、僕が言ったと事は内緒ですよ」


「129センチ」


「で、ここからが本題。チヒロは何歳で、いつから今の身長なんだ?」


「チヒロは、僕より二つ上で、十年以上前から、身長は変わっていませんよ。

何故そんな事を聞くんですか?」


「も一つ質問、チヒロはカズミのいた世界の人間か?」


クラリスのもう一つ質問は予想外だったのか、カズミは驚きの表情を見せる。


「・・・・・・多分、多分なんですけど、僕の世界の人間じゃないです。

チヒロは小さいときに、銀時山で倒れていた所を拾われ、金沢家に引き取られました。

それに、僕の世界ではあり得ない鮮やかな青髪、男性顔負けの脚力に馬鹿力。

この世界の女性の特徴そのものですよ」



「なるほどな。断定は出来ないが、この世界の出身かもしれない。

お前の世界には存在しない、鮮やかな青髪。

無意識にだが、マナを使いこなし、身体強化の魔法を使いこなしている。

彼女の出生について、もう少し調べてみる必要があるな」


クラリスは嘘をついていた。チヒロのデータ身体的特徴から、彼女の種族は分かっていた。

だがこの場で話すべきではないと、クラリスは瞬時に判断し、真実を語らない。



十歳前後で身長の成長が止まり、見た目に削ぐわぬ馬鹿力。

極めつけは鮮やかな青髪、チヒロはあの種族の出身じゃないか。

これ、向こうの国にバレたら不味いぞ・・・・・・


心の中で、頭を抱えるクラリス。


とりあえず、うちの編成部を通すか・・・・・・



「前々から聞こうと思ったんですけど、聞けなかった事があります」


「今日は特別サービスだ、あたしの秘密以外なら、何でも答えるぜ」


「特別サービス・・・じゃあ、サービスなら聞きます。

この世界の女性身長が高くて、パワーもスピードもある。

僕の世界の女性の身体的特徴とは全然違う。

なにか理由があるのなら、教えてください」


「それを聞く理由は?」


「チヒロです。

彼女がこの世界の出身なら、世界記録に迫る脚力。

男子にも負けない馬鹿力、この世界の出身だと言うのなら、合点が行きます。

彼女の出生(しゅっしょう)を知った以上、どうしても知っていなければ事だと思ったから」


「いつかは話さなくてはと思っていた、丁度いい機会だ。

チヒロの脚力や馬鹿力、パワーの源について理由を説明する」


メディカルルームのホワイトボードを、奥から持ち出し、クラリスは計算式を書き始める。


「チヒロの脚力や馬鹿力は、計算式にするとこうだ。

計算式は、筋肉量×筋伸縮×マナの燃焼量=パワー。

各数項目の最大量は、筋肉量が10、筋伸縮10、マナの燃焼量が100」


「フムフム」


チヒロは、筋肉量が4、筋伸縮が10、マナの燃焼量が90=3600ファタズムパワー。

ファタズムパワーは、略すとFPだ」


クラリスの悪い癖で、直ぐに答えが出ないと判断したカズミは、黙って彼女の講義を聞く。


「イリーナは、筋肉量が5、筋伸縮が9、マナの燃焼量が100=4500ファタズムパワー


スズネは、筋肉量が2、筋伸縮が7、マナの燃焼量が60=840ファタズムパワー


あたしは、筋肉量が6、筋伸縮が9、マナの燃焼量が80=4320パワー」


「僕のファタズムパワーは、どのくらいなんですか?」


「・・・いや、聞かない方がいいとおもうが・・・聞く?」


「モチロン!」


「カズミは、筋肉量が3、筋伸縮が8、マナの燃焼20=480ファタズムパワー」


「僕はこんなに弱いのか・・・聞くんじゃなかった・・・・・・」


カズミは聞かされた数値が、あまりにも低い事にショックを受ける。

高校1年の時、渾身の力を込めて投げた野球のボールが、118キロしか出ていなかった時以来の衝撃だった。


「まあ・・・この世界に来た男は、大体そう言うよ・・・・・・

マナの燃焼量が男女で50近く違うんだ、いくら他の数値が高くても、マナの燃焼量の壁だけは越えられないからな」


クラリスは専門分野を語りだした為か、徐々に饒舌になっていく。


「マナの燃焼量は高いに越したことは無いんだが、欠点もある、マナ切れだな。

マナの燃焼量が大きい選手は、体内のマナを激しく燃やす。

で、体内に貯蔵しているマナを燃やし尽くせば、マナ切れで倒れる。

第1のリッカ・サカザキ、前節のカズミのマナ切れがいい例だよ」


クラリスの言葉に、カズミは前節の苦い敗北を思いだし、唇を噛み締める。


「だが、イリーナのマナ貯蔵量は無限に限りなく近い。

その理由は食事と特異な体質だ。

前にも言ったかもしれないが、イリーナは膨大な食事で栄養をマナに変換し、体内に貯蔵している」


「言われた気がしますけど、そんなに凄い事何ですか?」


「凄いぞ!これについては、順を追って説明する。

イリーナは食物を咀嚼(そしゃく)し、胃に流し込むわけだ。

で、ここからが凄いところ、胃に入った食物はマナに変換をされ跡形もなくなると言う、普通の人間に出来ないことをする。

つまりだ・・・・・・」


「つまり・・・・・・」


大袈裟に語るクラリスに飲み込まれ、ゴクリと喉をならすカズミ。


「イリーナ・バニングは、う◯ちをしない」


「クラリスゥゥゥゥウ!貴女は、何て事を!

あろうことか、カズミの前で」


まさかの一言に、イリーナがぶちギレる。

クラリス本人は、医学の講義をしているだけなので、う◯ちを汚いと思っておらず真面目に話しているのだからたちが悪い。


「いや、止める気配が無かったから、言っていいのかと・・・・・・」


「だからといって、私がう◯ちをしないことをばらすとは!」


「悪い悪い、人体の話をしていたら、楽しすぎてつい・・・・・・」


「つい、じゃないでしょ!ついじゃぁ!」


クラリスのカミングアウトにぶちギレるイリーナを、スズネとカズミがなだめこの場を納める。

しかし熱にうなされたかのように語りだすクラリスは、抗議を止めない。


「この世界にもある、アイドルはトイレに行かない理論。

それらは、食物の全てをマナに変換していると言う理論で証明できる」


「でも、不思議なもので」


クラリスの講義に思わず聞き入り、身を乗り出すカズミ。


「お小水は出るんだよ、イリーナは」


怒りを堪え、椅子に座っていたイリーナは、椅子から転げ落ちた。


「お小水も、マナに変換しないんですか?」


「腎臓で血液をろ過して、老廃物等々をお小水として流す事が出来なきゃ困るだろ、ん?」


メディカルルームにバチバチと焚き火のような音が響き渡る。

それと同時に室温が5度くらい上昇した。

怒りのあまり、イリーナが必殺技のバーニングステークを、クラリスに撃ち込もうとしているのだ。



「イリーナ・・・落ち着けよ。そのパイルバンカーを仕舞おうぜ。

な、話せば分かるから・・・な、な、な・・・・・・」


「カズミの前でう◯ちの話に止まらず、今度はお小水か!もう許さん!バーニングステークで串刺しにしてくれるわっ!!!」


右腕を振りかぶるイリーナを前に、一目散に部屋から逃げ出すクラリス。

秘密をばらした怨敵を逃がすものかと、必死の形相でイリーナはクラリスを追いかける。


「イリーナがぶちギレる所、初めて見た・・・・・・」


「殿方の前で、う◯ちをしないことをばらされたのですから、当然でしょう」


廊下を破壊する凄まじい爆音が響く、クラリスとイリーナのバトルの凄まじさを感じさせる。

カズミとスズネは、それに巻き込まれぬよう、メディカルルームで寄り添い耐え忍ぶしかなかった。


しばらくすると爆音が収まる。二人のバトルに終止符が撃たれたのだろうか?



「あー死ぬかと思った・・・・・・」


クラリスはぐったりしたイリーナを肩に担ぎ、戻ってきた。

イリーナの操る炎影響か、白衣は所々焦げボロボロになっていた。


「イリーナは返り討ちにしたよ・・・加減する余裕は無かったし・・・・・・」


クラリスとイリーナの無事を確認し、ほっと胸を撫で下ろす、カズミとスズネであった。

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