第7節、2話
クラブハウスのソファーで、蒸しタオル目にかけて横になるクラリス。
新ヘッドコーチ就任の挨拶+インタビューで、神経をすり減らし、ぐったりとしていたのだ。
「ぐぉぉー、メチャクチャ疲れた・・・緊張で死ぬかと思ったぞ・・・・・・」
冷蔵庫を開け、ぐったりとしたクラリスの手に、栄養ドリンクを手渡すカズミ。
「緊張って、クラリスさん。そんな素振りも見せず、ハキハキと答えていたじゃないですか。
と言うか、カメラ慣れしているように見えたし」
「慣れていて当然だよ、昔はクラリスさんも・・・」
「悪いがイリーナ、その辺止めてくれると、助かるんだが」
「あ、申し訳ない」
何か言われたくない事があったのか、思わず釘を指すクラリス。
「 あー、カズミがあたしの隣に座って、頭をナデナデしてくれたら、めっちゃ元気出るのにー」
冗談かお願いか分からない無茶ぶりをする、クラリス。
すると、カズミは何も言わず、隣に座り頭をナデナデし始める。
「お前、そういうの躊躇しないんだな?」
「だって、いつもお世話になっている、クラリスさんのお願いですし。
これでクラリスさんが、元気になるなら喜んでやりますよ」
「あたしが元気になるなら、何でもする?」
「まあ、実現可能なものなら・・・」
「んー、じゃぁチューして」
「はい、チューって!ほほほ、本気で言っているんですか?チューですよ、チュー」
「冗談だ、カズミ。でも、その顔を見ているだけで、元気が出てくるよ」
クラリスがカズミの頬に、手を当てる。
手を当てられたカズミは、少しばかり心臓の鼓動を早め、顔を赤らめる。
「カズミ、ありがとう。ワガママ聞いてもらって」
大人の女性の笑顔に、珍しく顔を背けるカズミ。
「ど、どういたしまして・・・クラリスさん・・・・・・」
カズミからパワーを貰い、元気バリバリ、お肌ツヤッツヤのクラリス。
眉間にしわ寄せ、タブレットで相手チームの状況を分析していた。
彼女の隣にはカズミが座り、二人での戦術の議論に花を咲かせていた。
「来週のラウンズ戦、イリーナが復帰しても厳しいな」
「次の相手の、ブリステン・ナイトメアラウンズ」
「そうそう。フルネームは長いから、ラウンズで定着しているけどな。
しかしまいったな・・・よりによって、一戦目がラウンズとか、ついてないぜ」
「どんなチーム何ですか?ラウンズと言うチームは」
「オフェンスに能力全振り、ディフェンスは障子の紙より薄いと揶揄される、超攻撃的チーム。
13年連続でプレーオフ進出中で、優勝回数に至っては最多の9回、南地区の強豪だよ。
んで、その強豪チームを支えたのが、このフォーメーション」
クラリスは、手にしていたタブレットのヘージをめくり、ラウンズのフォーメーションを見せる。
(WR)ー(OT)ー(OG)ー(c)ー(OG)ー(OT)ー(WR)
ーー(QB) ーー(FB)ーーーーー (TE)ー
ーーーーーーーー (RB)ーーーーーーーー
「このフォーメーション、間違っていません?
左側にQBがいますし、魔法で援護するBLも居ない。
極めつけは、RBが本来QBがいる位置にいる。
どう見ても」
「ラウンズなら、そのフォーメーションは間違っていない。
フォーメーション、ワイルドハントだ」
「ワイルドハント?」
「ブリステンの国に伝わる神話で、カゼカミの国で言えば、百鬼夜行みたいなもんだ。
話を戻すと、ワイルドハントは今は無き神代の時代に、カレッジチームが開発した、ワイルドキャットと呼ばれたフォーメーションだ。
ラウンズはそれを取り入れ、現代風にアレンジしたものだ
ワイルドハントの特徴は、Cからボウルを受け取ったRBがFBに守られながら、そのまま走ったり、WR、QB、TE等にパスする。
極めつけは、QBとの連係だ」
「連係ですか、ポジションや位置は逆ですけど、普段から連係はしていますよ」
「ただの連係じゃない、カズミここで問題だが、ファンタズムボウルにおいて、前パスの回数は何回だ?」
「前パスなら1回、横パスやバックパスなら、何回でも・・・あ!だから、ワイルドハントはあの形なのか」
「ワイルドハントの真髄は、RB、QB間の連係による、撹乱戦法だよ。
RBかQBかどちらが走るのか、どちらがパスをするのか分からなくする事で、相手のディフェンス陣に負担をかけていくフォーメーションだ。
ターゲットが二人いるせいで、ブリッツをかけようにも、多くの人数かけなくてはいけない。
人数を掛ければ、ディフェンス側の陣地が手薄になり、ロングパスでズドン!ロングゲインさ」
「かと言って、RB、QBにブリッツを仕掛けなければ、走られ放題投げ放題。
厄介なフォーメーションですよ、これ」
「そして、ワイルドハント実現出来る、パワーと走力にパス能力を兼ね備えた、優秀なRBとQB。
盾となり、二人を守る鉄壁のFB。
ラウンズのダブルエース、モードレッドとアーサー・V・ペンドラゴンだよ」
「モードレッドにアーサー、チーム名もそうですが、円卓の騎士みたいなチームだ」
「まんまだよ、ブリステンは。
アーサー王が建国し、現在まで続いた国だ。
その影響で優秀な選手達には、アーサー王伝説に基づいた名前がつけられている。
WRからガウェイン、TEランスロット、RBモードレッド、FBギャラバット、そしてQBの女王、アーサー・V・ペンドラゴン」
「ナイナーズのディフェンスは、ラウンズの猛攻に耐える事は不可能。
なら、やることはただ一つ」
「ノーガードのどつきあい、その一択だろう」
「イリーナが次節から復帰してくるとはいえ、ラウンズ以上に得点をあげる。
正直な所、それもかなりの難題ですよ」
「やらなきゃ、勝てない。
やり遂げなければ、と言いたいが・・・」
「クラリスさんはいますか!て、何をしているのですか?カズミ」
「何って、二人でタブレットを見ているだけだよ」
端から見れば、一つのソファーで密着している、恋人にしか見えないのだが、カズミ本人にはその自覚はない。
「カズミ、貴方と言う人は・・・って、そんな場合ではありません。
召還門から選手が来ると、お母様から連絡がありました」
「シズネさんからか、いつ来るんだ」
「もうすぐって言っていたので、急いで行くべきかと」
「会議はここで終わらして、召還される選手を迎えに行かなきゃ。
初めての世界なんだから、戸惑いもあるだろうし」
「わかりました、クラリスさん」
室内に居たメンバーは、新たな仲間を迎えるべくスタジアムの召還門へと向かったのだった。
しんと静まり帰った、西洋風の古城。
そこには、何十人も座ることが出来そうな、長く巨大なテーブルが置かれ、使用人と思わしき者達が複数名が、食べ終えた料理を片付けていく。
それまで食事をしてたと思わしき、二人の女性は食後の一時を楽しんでいた。
「アルトリアはん。クラリスはんが、ナイナーズの新ヘッドコーチになりはったみたいですわ」
「きゃつめ、ナイナーズのヘッドコーチになったか!
クカカカカ!ああ、愉快愉快。
一緒に戦うことを夢見た者が敵となり、我が覇道を止めるべく立ちふさがるか。
ファンタズムボウル、これだからやめられんのじゃ」
「えろう、楽しんでますなあ。
そないに、クラリスはんの率いるナイナーズとやりあうのが、楽しみと」
「ああ、連敗中のチームをどう建て直し、ワシらに立ち向かうのか。
考えるだけでも、ゾクゾクするじゃろう?ランスロット」
「ええ、アルトリアはんの言うとおり。
ものすご、楽しみやわぁ」
「そうじゃ、いい酒を手に入れたのだが、お主も飲まぬか?」
「アルトリアはんとお酒を飲める言うのに、断る理由なんて、ありしまへん」
「じゃあ、朝まで飲み明かそうかの」
「アルトリアはん、酒も大概にせんと、またギャラバットはんのお説教が待ってるさかい」
「・・・うむ、適度が一番じゃの・・・・・・」
「では、お付き合い致します」




