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第7節、1話

開幕3連勝の勢いは何処へやら、イリーナを失ったナイナーズは、ここに来て3連敗。

3連敗後のロッカールームは、お通夜のように真っ暗か?

はたまたピリピリイライラのムードか?そんな事は無かった。


「ヴァアアアアアアアァァァ、負けたー。

最後の最後で逆転負け何て、悔しいですわぁぁぁぁ!」


負けた事を誰よりも悔しがり、泣き続けるサラ。

漫画であれば、目から滝のような涙が吹き出したであろう。


しかしサラの姿を見て、憐れんだり蔑む者は、誰一人居ない。

彼女のプレーに引っ張られ、連敗中のナイナーズの空気を変え、あと少しで勝てる状況まで持ち込んだのは、紛れもなくサラであった。

ここに居る全員が認めているからこそ、一切口出しはしなかった。


「ヒック!無様な姿を見せて・・・申し訳ありませんわ」


「サラ、ハンカチ」


「ありがとう、ジョー」


泣き止んだサラに、ハンカチを差し出すジョー。

受け取ったハンカチで涙を拭い、鼻をチーンとかむ。

ジョーに返されたハンカチは、鼻水と涙でベトベトになっていた。



「でも、今日の試合に勝ちたかったですわ。

ホームで応援してくれた皆様に、申し訳ありません。

最後に、わたくしが止めていれば・・・」


それまでがっくりと項垂れていた。

褐色の肌に銀髪で、銀縁眼鏡の似合う女性、アイシスが顔を上げる。


「いやサラはよくやった、それだけじゃない。

ジョーにキーン。

他のディフェンスラインのメンバーは、カウガールズの選手を止めていたのに、俺だけは奴らを止められなかった」


「ですが」


サラの声を遮るように、二本の指を上げる


「2秒だ、最後のプレーが残り2秒だ。

俺が一回でも、オフェンス相手に踏ん張っていれば、稼げた時間だ」


「その辺にしておけ」


ロッカー内が暗くなりかけていた所を、クラリスが声をかけ、フォローをする。


「アイシスが悔やんでも、今日の結果は変わらない。

大事なのは、今日のプレーを反省し、同じことを繰り返さない事だろ?

サラもだ、プロの世界で飯を食っていく以上、気分を切り替えて、次に繋げなきゃいけないんだ。

分かったか、サラ」


「同じ鉄は踏みません、次の試合こそは勝利し、ファンのみんなさんを喜ばせますわ」


「アイシスわっと、まあ・・・ゆっくり休んでくれよ」


「お言葉に甘えるよ、クラリス・・・・・・」


アイシスは思い腰を上げ、ロッカールームから立ち去る。


「オヤジ、最後は閉めてくれよ」


椅子から立ちあがり、メンバーを見つめるゴルド。


「・・・・・・」


ゴルドがメンバーに声をかけようとするも、なかなか声が出ない。

本人は発生したつもりだが、口が動くのみで、うまく言葉が出ないのだ。


「オヤジ、大丈夫か?昨日も徹夜だったし、早めに・・・」


様子がおかしい彼を見て、思わず声をかけた瞬間だった。

クラリスの、メンバーの目の前で、ゴルドは崩れ落ち、ドシンと音をたて、床に崩れ落ちる。


「おいオヤジ、冗談だろ?オヤジ、オヤジィィィィ!」


クラリスの悲痛な叫びが、ロッカー内に響きわたる。





オヤジは選手はおろか、ヘッドコーチを続けていける状態では無かった。

若い頃に食らった数々のタックルが原因で、脳が、体が、深刻なダメージを受けていた。

選手として、指導者として、満足に動ける体じゃないのに。


去年のうちに、クソオヤジを引退させておけば・・・

あたしは、何やってんだ・・・あいつの次はオヤジか。

また、止められなかったのか・・・・・・

何で、何でみんな・・・あたしを置いていくんだよ・・・・・・



「クラリスさん、クラリスさん!起きてください!」


「カズミか。いつの間に、あたしは寝ていたのか・・・オヤジは!オヤジの手術はどうなった!」


「ゴルドさんは」


「病室の外で騒ぐな、頭に響く。早く中に入ってこい」


病室の中から、アーソンの声が聞こえてくる。

手術明けのためか、少しばかり声が弱々しい。


「オヤジ、体は!体の方は」

病室のドアを開き、駆け込むクラリス。


「何とか、三途の川は渡らずにすんだ、だが・・・」


廊下から慌ただしい足音を上げ、不精ひげを生やした男が、病室に入り込んできた。

イリーナの父であり、セイントナイツのヘッドコーチ、アーソンだ。


「おい、ゴルド!試合後に倒れたって聞いたぞ、体は大丈夫なんだろうな!」


「落ち着けアーソン、俺は生きてるし、足もこの通りはえている。

ホレッ」


ベッド体から足を出し、腐れ縁のライバルにこれ見よがしに足を見せつけるゴルド。


「だがな、ファンタズムボウルの協会から、ドクターストップがかかった。

今シーズンは、指導者としてプレーする事は出来ない。

シーズンアウトってやつさ」


「そうか」


「なあ、アーソン、クラリス、一人にしてもらっていいか」


ゴルドの言葉を聞いた者達は、ぞろぞろと病室を出ていく。

残ったのは、ベッドに座ったゴルドだけであった。



病院の近くで、食事をするクラリスとアーソン達。

食事をする為、店に来たと言うのに、ゴルドの後任の件で電話が鳴り止まない。


「大分慌ただしくなってきたな」


「ええ、後任のヘッドコーチを探さなければ行けませんからね。

シーズン中に、S級のライセンスを持っている人間を探すのは、至難の業ですよ」


「おいおい、冗談だろ?ここに、S級ライセンス持ちが居るだろ。

お・ま・え・だ・よ!クラリス・ホプキンス」


「私は・・・選手の健康を守るために、裏方として戻ってきただけです。

今更指導者なんて・・・」


「だがな、シーズン中にヘッドコーチを受ける外部の人間なんて、ろくな奴しか居ないぞ。

何せ、シーズン前に決まらなかった奴等だ。

後は分かるだろ」


アーソンの言葉に、黙り混むクラリス。


「それとも、2年前の様なクソ野郎のヘッドコーチがお望みか?」


「違う!あんな、選手を駒のようにしか扱わない、ヘッドコーチ。

二度とごめんだ」


「だったら、内部昇格で、ライセンス持ちのお前がやるのが、丸く収まるってもんだ」


「アーソンさん、敵なのに、そんなアドバイスをしていいんですか?

ナイナーズがこのまま潰れれば、セイントナイツ的には美味しいのに・・・」


「内部のゴタゴタで、チームが崩壊するのは俺も見てきた。

あれは気持ちのいいもんじゃねえ、それが回答じゃぁダメか?」


自身や仲間が投げ売りでトレードをされ、セイントナイツが崩壊した過去を思い出すアーソン。

自身の苦い経験から、クラリスにアドバイスをせずにはいられなかった。


ふーっと息をつぎ、天を見上げるクラリス。


「分かりました、アーソンさん。

私をヘッドコーチにした事、後悔させてあげますよ」


「へっ、いい面構えじゃねぇか。

最終節の対戦が楽しみになってきたぜ。

ナイナーズのホームで、ギッタンギッタンにしてやる」


「その言葉、そっくり返しますよ」


二人は不適な笑みを浮かべ、ガッチリと握手を交わす。

新ヘッドコーチ、クラリス・ホプキンス誕生の瞬間であった。




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