第3節、9話 試合後
イリーナにノックアウトされたトウカは、医務室で目覚める。彼女を心配するチームメイトに見向くきもせず、ロッカールームへと向かう。
「トウカ!どうしたの?医務室で寝ていないと」
「エリー!試合は?試合はどうなった」
「ゴメン、負けちゃった。せっかくトウカが、イリーナ相手に、相討ちに持ち込んだのに・・・」
「そうか・・・・・・」
ロッカールームに到着したトウカは、今日の試合のビデオを食い入る用に、見つめる
何故自分は敗れたのか、何をすれば勝つことができたのか、何度も何度もシミュレーションし、正解を求める
彼女は試合終盤、イリーナとの一騎討ちの場面を何度も見直し、その度にため息をつく。
「トウカ~、何度試合のビデオを見ても結果は変わらないよ・・・・・・」
眉間に深いシワを作り、何度もため息をするトウカに、チームメイトが思わず声をかける
「分かっている、分かっているのだが・・・・・・」
私が負けたのは、イリーナとの一騎討ちに熱くなり、周囲への注意を怠ると言う初歩的なミスを犯したのだ。
試合を鑑みない自分勝手な行動で、チームを勝たせる事が出来なかった。
「私は愚か者だ・・・・・・ゴミだ、クズだ・・・だから、リッカ以下の、存在なのだ・・・・・・」
トウカは姉のリッカと自分を比べ、よりネガティブな思考に落ちこんでいく
彼女は頭を抱え、溜め息をつき続ける。
この様子を見たチームメイトは、お手上げと言った所だった
「イリーナも、負けた後は真夜中まで続く猛特訓をして大変だったけど、トウカの落ち込み具合も中々のものだね・・・」
「好き勝手にやって、返り討ちにあい、開幕戦と同じように負けた。笑わせるじゃないか・・・・・・」
「少しくらいは良いじゃねぇか?自分勝手なエゴイストで」
「アーソンさん?」
アーソンの一言に、反応をするトウカ
「トウカ、お前は各チームのエースと呼ばれる存在、何故手強いか考えたことはあるか?」
「分かりません、考えたことも無かったので・・・・・・」
「大なり小なり、エゴイストの部分を持ち合わせてるからさ。いいか、エゴイストってのは、頑固で自分勝手で、周囲の事は考えない、どうしよもないクソ野郎だ。だが!そんなクソ野郎にも、取り柄がある」
「取り柄・・・ですか?」
「どんなピンチでも、怖じ気づく事無く、ブレずに自分を押し通せる。これがエゴイストの強み。イリーナもリッカも、あのアーニャですら、エゴイストの塊なんだぞ」
アーソンの言葉に、イリーナは黙り混む
「イリーナやリッカはファンタズムボウルを全力で楽しみ、勝利を手にしようと言うエゴを持っている、アーニャも同じだ。トウカ、お前のエゴは何だ?勝利と栄光を手にし、姉を上回る存在になりたいか?自分を見下した奴等を、ギャフンと言わせたいか?お前は、何が欲しい?何を成し遂げたい?お前が渇望するものは何だ?」
「私が欲しい、もの」
彼女の脳裏に浮かんだのは、オリオールの町の、人々であった
「私は・・・私のプレーで、町のみんなに喜んで欲しい。ファンタズムボウルを制覇し、町のみんなに喜んで貰いたい」
「理由は?」
「この町のみんなは、私をリッカの妹ではなく、一人の人間トウカ・サカザキとして、見て、接してくれた。それが私にとって、とても嬉しかった。だから、ファンタズムボウルで勝利し、みんなに、喜んで貰いたい。それが私の願い、いやエゴだ!」
「勝利でみんなに喜んで貰う、良いじゃねぇか、!そうと決まれば、トウカの歓迎会だな」
「歓迎会?あ、ああああああ!?」
試合のビデオに夢中になり、歓迎会をすっぽかした事に気が付いたトウカ、自らのやらかしに、慌てふためく。
「やっぱ、忘れていたか・・・」
「な、何で教えてくれなかったんですか?」
「そりゃあ、な・・・試合のビデオに、鬼の形相でかじりついていたんだ」
「は、早く行かないと」
「おい、待てよ!」
トウカやアーソン、チームメイトもロッカールームを飛び出し、駆け抜ける。
イリーナ、カズミ、町のみんなを笑顔にする為、次は負けないからな。
オリオールドームのVIPルーム、ここで観戦をしていた、首相とゴシックドレスの少女。
二人はグラスを手に取り、酒を飲みほしていた。
「いやぁ、残念ですわぁ。まさかスズネが復帰して、試合ひっくり返えされる何てねぇ」
「まあ、ファンタズムボウルだ。こう言う事もあるだろう」
自国のチームが負けたと言うのに、落ち着き払った様子の首相。その様子に首を傾げる、ゴシックドレスの少女。
「あらぁ、セントナイツが負けたと言うのに、お怒り出はない?周りに当たり散らすのかと思っていましたぁ」
「貴女は、私を何だと思っている?一国家の首相が、これくらいの事で狼狽えてどうするのだ」
少女は口角を上げ、にんまりとした表情を見せる。
「それに、試合の続行は、私が決めた事。結果は敗れたのだからな・・・・・・」
二人が語り合っていると、首相の秘書がVIPルームに入ってくる。
「失礼します、首相。ファンタズムボウル運営委員より、聴取の要請が出ています。スズネ・カミジョウ負傷後の、試合続行。イリーナ・バニングへの、輸血の妨害の件。以上の件で、聴取をするとの事」
「分かった、聴取に応じると、運営に伝えてくれ」
「承知しました」
二人のやり取りを見ていた少女は、クスクスと笑い始める
「私が勝手にやった事なのに、申し訳ありませんねぇ」
「全く、私に成り済まして、好き勝手やってくれる・・・・・・」
「でも!貴方のアリバイは、完璧でしょう?当然ですよねぇ、貴方が各国の要人とお会いしてる時に、貴方に成り済ましたのですものぉ。
今回の件は、首相に化けた、偽者の犯行。事件は迷宮入り、めでたしめでたし」
「まあ、色々とあったが、貴女には感謝をしている。特に、トウカ・サカザキ移籍の件に関しては、貴女が持ちかけた。改めて、礼を言う」
「汚れ仕事ばかりしている私が、人間に感謝をされるなんて、思ってもいなかったわぁ。明日は槍でも降るのかしら?」
少女は口に手を当て、大袈裟な仕草で驚く。
「汚れ仕事であろうが、貴女は我が国の為に、行動をしたのだ。相応の仕事をしたのだから、礼を尽くすのは当然の事だ」
「やっぱり貴方、人間なのが惜しまれる。その精神、惚れ惚れするぅ」
「であれば、今後とも仲良くしたいものだ。仲良く、な」
「えぇ、それはもう、よろこんでぇ」
「首相、お時間です」
「分かった、今向かう。あと、今日は敗北したが、アーソン達は良くやってくれた。彼らを、丁重に労ってやってくれ」
「承知しました」
「では、リディア。これで失礼する」
「またお会いする日、心からお待ちしていますわぁ」
首相達が立ち去り、VIPルームに一人佇むリディア。
「やっぱり、あの人欲しい。欲しいわねぇ。でも、こちら側には来てくれない。まあ、その時は・・・」




