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第3節、5話 試合前日の

飲食店での食事をしていた、カズミ達。

明日の試合に備えるため、早めに切り上げ宿舎に向かっていた。

到着するや否や、〈カズミ、イリーナ、スズネ、クラリス〉のいつものメンバーで、クラリスの部屋に集り、ミーティングを始める。

「よーし!明日の試合に向けて、ミーティングを始めるぞ」

クラリスの一声でミーティングは始まった。


「明日の試合から、カズミがディフェンスデビューすることを踏まえて、ディフェンスのポジションの復習をしていこうと思う」

「よろしくお願いします!」

カズミの為に、クラリス話してくれていることもあり、カズミ声にも一段と気合いが入っている。

「元気があってよろしい!では、始めよう。

まずはディフェンス、正確にはディフェンシブチームについて説明しようか。

ディフェンシブチームは、大まかにわけると3つに分けることが出来る。

一つ目は、ディフェンシブライン〈DL〉

二つ目は、ラインバッカー〈LB〉

三つ目は、ディフェンシブバック〈DB〉

以上3つだ!まずは一つ目、ディフェンシブライン〈DL〉から説明しよう。

〈DL〉の役割は、相手のオフェンシブラインとバトルをし、前線を維持するのが役割だ。ここがしっかりしてれば、守備に難のあるブレイカー〈BL〉が、プレイをしやすくなる」

「私がプレイしやすくなる日が来てくれると、いいのですけどね」

緩いライン(前線)の被害をいつも受けているスズネは、思わず愚痴をこぼしてしまう。

普通の、ライン(前線)であれば、詠唱中にタックルを受ける事は、それほど無い。しかし彼女はかなりの数のタックルを、昨シーズンは受けてきた。少しくらい愚痴を言いたくなるのも当然の事であろう。

「だよなー。前にも言ったが、イリーナやキーン以外のところから、スルスルと抜けて行くからな・・・まあ、明日はカズミがディフェンシブバック〈DB〉に入って、援護をしてくれるから多分楽になる、多分・・・」

ここで大丈夫と言い切れないのが、このチームのライン(前線)の弱さを象徴している。

「明日は、僕がスズネを守るから大丈夫です!」

「貴方と言う人は・・・どうしてそう言うことをさらっと言うのですか?」

「え?何か悪いことを言った?」

「この無自覚め・・・」

カズミに取っては、仲間を守ると言うごく当たり前の気持ちで言ったのだが、スズネはそう捉えていなかった。そして、彼女の思いに気づくのは、まだまだ先になるであろう。

「さて、話を戻そう。この〈DL〉は、ライン(前線)の中央を担当するディフェンシブタックル〈DT〉と、前線(ライン)の両サイドを担当するディフェンシブエンド〈DE〉に別れる。

ここからは、〈DT〉と〈DE〉の違いを説明していこう」

「ハイ!」

「まずは、ディフェンシブタックル〈DT〉 。

基本的には、ボウルを持たない選手とバトルをし、前線を維持する。

好きあらば、相手選手をノックアウトにし、数的有利を作るポジションだ。

うちのチームで言うと、イリーナやキーンのポジションだな」

「あの二人が突破されるのは、殆ど無いですからね。流石前線(ライン)の柱ですね」

「あの二人以外に、有力な選手が出てきて欲しいものなんだがな。

次はディフェンシブエンド〈DE〉。

こちらは前線(ライン)と、バトルをするだけではなく、相手のランニングバックの対応も求められる。

バトルをする戦闘力とランニングバックへの対応。他にもクウォーターバックに襲いかかり、プレッシャーをかける事もある」

「両サイドから、相手の〈DE〉がプレッシャーをかけてくるのは、パスを出す身としては苦しいですからね」

「なおこのポジションは、〈DL〉が四人の場合は居るが、三人の場合は〈DE〉が抜け、〈DT〉を三人並べる場合が多い。代わりに、ラインバッカーが、クウォーターバック〈QB〉にプレッシャーをかける。

以上で、ディフェンシブライン〈DL〉の説明は、終了だ。

次は、ラインバッカー〈LB〉の説明に入る。

ラインバッカー〈LB〉はディフェンシブライン〈DL〉より後方、つまりは二列目のポジションだ。

役目としては、ランやパスを受けとるワイドレシバー〈WR〉への対応。他には、ブリッツ等で、〈QB〉に襲いかかる事もある。あと、前線(ライン)よりはバトルをしないが、二列目からの攻撃で、ライン(前線)のバトルを掩護をし、数的優位を作ったりもする。以上で、ラインバッカー〈LB〉の説明は、終了だ。何か質問はあるか?」

「いえ、特には無いです」

「よし、最後は三つ目は、ディフェンシブバック〈DB〉を説明する。

ディフェンシブバック〈DB〉はコーナーバック〈CB〉、セフティ〈SS〉ブレイカー〈BL〉以上の3つのポジションから構成されている。

最初は、コーナーバック〈CB〉から説明しよう。

コーナーバック〈CB〉は前線(ライン)の両サイド、具体的に言うとディフェンシブエンド〈DE〉よりも、さらに外側のポジションだ。

〈CB〉の主な役割りは、相手ワイドレシーバー〈WR〉と競り合いパスを奪取するのが、主な仕事だ。他にも、ディフェンシブエンド〈DE〉と協力し、ランプレイの妨害にも勤めなければいけない。俊敏性とジャンプ力、この両方を求められるポジションなんだ」

「ですね。通ったと思ったパスが、すごいジャンプで妨害された事が、何度もありましたし」

「そう言う事だ。うちのコーナーバックも、同じくらいの仕事をしてくれればいいんだけどな。

おっと!愚痴を言っている場合じゃない。次に行くか。

次はセフティ〈SS〉 後方で、ブレイカー〈BL〉と共に相手迎え撃つ、ディフェンシブチームにとっての最後の砦だ。

主な役割りは、最後方へ投げ込まれたパスへの対応と、前線を突破してきた選手への対応だ。」

「僕が相手を止められ無ければ、タッチダウンをされる。重大な責任のポジションですね・・・」

「そう深く考えこむなよ。さっきひったくりを捕まえた時のように、魔法で足止めすればいいんだよ。大丈夫さ、カズミなら出来るさ!」

「ありがとうございます」

「最初は、自分の守備範囲にボウルが飛んできたらそれをキャッチ。あとは魔法で相手を足止めすればいい。少しでも足止めをすれば、ラインバッカーが何とかしてくれるさ」

「分かりました、精一杯頑張ります!」

「その息だ!まあ、練習通りにやれば結果は出る、。頑張ってこい!」

「ハイ!」

「ブレイカーは・・・オフェンス時と変わらないから、説明は要らないな。以上で、ディフェンシブチームの説明終了する。


次は、セイントナイツのフォーメーション及び、選手の分析をしていこうと思う。

まずはこのチームを語るのかかせないのが、アーソン・バニングだが・・・イリーナ」

「何ですか?」

「オヤジさん、どうして指揮をとるようになったんだ?二度とセイントナイツに戻らないと言っていたのに」

「何か、チームと揉めごとでもあったんですか?」

「揉めごとなんてもんじゃないさ。うちのオヤジとのケンカが可愛くみえるくらいさ」

「切っ掛けは、ファンタズムボウル制覇の後の〈ファイヤーセール〉さ」

ファイヤーセール、優勝等で好成績を残したチームが、〈主力選手をバーゲンセールの如く放出する〉様からそう呼ばれている。

このファイヤーセール、当然ながら選手だけでなくファンにも評判が悪く、我が子の様に愛してきた選手が、安売り感覚で放出されることに怒りを覚えるファンも多い。

もちろんメリットもあり、金銭の代わりに有望な若手選手を獲得することが出来たり、高額年俸の選手を放出することで、チームの財政負担を軽くする事も出来る。

「アーソンさんも、それで放出されたんですか?」

「いんや、その時は放出されていない。

が、あまりにも非常識な行いに耐えかね、フロントに抗議にをした」

「非常識て、どのくらい選手を放出したの?」

「どのくらいだと思う?」

「まさか2割くらい・・・」

「6割。いや、最終的には7割までいったよ」

「7割!そんなことをしたら、チームが崩壊するじゃないか!」

「だからこそ、父さんはファイヤーセールを止めるため選手を代表して、フロントと交渉をした。だが、交渉は決裂。しかも、父さんまで放出されることになった。

あまりの悔しさの為か、最後にあの捨て台詞を残して出ていった」

こんな事をして、ただで済むと思うなよ。俺たちの愛したチームをズタズタに引き裂いたこと、俺は絶対忘れないからな!

今後五十年は、このチームがプレーオフに出られると思うなよ!!!

アーソンの言葉には、優勝をしたにも関わらず。

このような扱いをされた事による、怒りや憎しみが込められていた。もし自分が同じ立場に立っていれば、彼と同じ思いをしていたであろう。

「結果は言うまでもない、25年連続最下位争いだ」

「その後、アーソンさんはどうしたの?まさかそのまま引退・・・」

「いや、流石に拾うチームはあったよ。アイアンマインズだ。

あの後、マインズは10年間で5度のファンタズムボウル制覇をしている。特に最後のファンタズムボウル制覇は、私も現地で見たけど、父さんは凄くかっこ良かったよ。残り時間2分で12点差を逆転したプレイなんか、感動すら覚えるものだった!」

「で、どうしてセイントナイツのヘッドコーチに就任したんだ?アレだけチームと関わるの嫌がっていたのに」

クラリスはイリーナ対し、再度質問をぶつける。

「父さんいわく、この街のみんなや昔の仲間にお願いされたから、と聞いています。

それにファンやチームメイトは凄く大切にしていましたから。

後、一番大きかったのは、25年たってフロントがそう入れ換えはしていますからね。

特に、今のゼネラルマネジャー(GM)は、セイントナイツが優勝したときのメンバーですし」

「なるほどなー。悪いな、言いづらいことまで聞いて」

「いえ、気にしないでください」

「では、セイントナイツのフォーメーションの話に戻そう。

このチームの特徴だが、相手のライン(前線)を崩壊させる事に特化したチームだ。

元はライン(前線)が打たれ弱く、ラインバッカーはそこそこと言うよくあるチームだったが、オヤジ(アーソン)さんがヘッドコーチに就任してからチームは代わった」

「具体的にには、どの辺を変えたんですか?」

「ライン(前線)の優秀な選手を、ラインバッカーに持っていき、ラインを一人削ってラインバッカーを増やしたんだ」

「嘘でしょ?」

「マジだ!」

クラリスの言葉に、カズミはただ驚くばかりであった。

「確か、ファンタズムボウルにおいてライン(前線)が3人のチームは、アイアンマインズのように、ライン(前線)の固さに自信のあるチームですよね・・・」

「その通りだ。ファンタズムボウルが、〈アメフトだった頃〉ならともかく、相手の前線(ライン)を削り数的優位を作ろうとするのが、ファンタズムボウルだからな。

中盤が厚くなるとは言え、ライン(前線)を削るのは正気の沙汰じゃないからな。

ライン(前線)が崩壊するのが普通だ」

「でも、勝ち続けて来たんですよね?どうやったんですか?」

「空港の個室で会った二人を覚えているか?あの二人、元はライン(前線)で攻撃力には定評のある選手ではあったが、打たれ弱く本来の力を発揮出来てはいなかったんだ。

そこで、あの二人の攻撃力を生かすためにラインバッカーに転向させた。

するとどうだろう、ラインバッカーがライン(前線)の選手を守れるようになり、ライン(前線)が安定し始めた。後は知っての通り、就任後は負け無しさ」

「逆転の発想ですね・・・ラインバッカー(中盤)の攻撃力だけで、ライン(前線)を支えるなんて・・・」

「当然の事だ。ウィリアムとエリーの攻撃は、私以上のものを持っている。

けれど、プロのライン(前線)を相手に、本来の力を発揮出来ていなかった。

だが!力を出しきれば、プロが相手だろうと蹴散らすことなど容易いものだ!」

小さい頃から一緒にプレーしていたイリーナの言葉だ、彼女が言うのだから間違いないのだろう。


「そして、新加入のトウカ・サカザキだ。

彼女が加わった事で、チームは完成した。

トウカは前線であれば、〈相手のエースを一人を、一対一に持ち込み、必ず仕留める〉。

それによりセイントナイツは、より相手の前線を崩壊させやすくなる。

そして、トウカが相手のエースを潰せば誰も彼女を止めることが出来なくなる。後は、前回みたいにノックアウト勝ちだ。

全く・・・オヤジ(アーソン)さんも、とんでもないチームを作り上げたもんだ!」

やれやれと言う身ぶりをし、クラリスは肩を竦める。

「それで、トウカの見えざる刃の秘密は分かりましたか?」

カズミの疑問に、クラリスは答える。

「これがさっぱりだ。分かった事と言えば、太刀と大太刀と脇差しを器用に使い分けていることくらいさ。

後は、相手との間合いの取り方が抜群に上手いって事かな」

「間合い・・・ですか?」

「そう、間合い。彼女は相手との距離の取り方が抜群に上手い。やっていることは、ただのヒットアンドアウェイ何だが、それが恐ろしく上手いんだよ」

「でも、刀での近接オンリーなんでしょ?それならイリーナの突進(チャージ)で一気に距離を積めれば、チャンスが出てくるはずでは?」

「そこで活躍するのが、例の大太刀だ。この大太刀、どのくらいの長さだと思う?」

「普通の刀が、60㎝くらいと聞いたことがあるから、120㎝くらいですか?」

「180㎝だ」

「180㎝!60㎝の3倍ですよ!そんな長くて重そうな刀、振り回せるわけ無いでしょ!」

するとスズネが、この話にわって入る。

「いえ、クラリスさんの言う通り180㎝です。

私があの刀を手に取り、この目で見ましたから。ですから、間違いありません」

「まあ、手に取って見たのなら間違いないだろうけど、どうしてそんなことを出来たの?」

「私が趣味で、服のデザイン及び作成しているのですが、それを知ったトウカから、依頼がありまして。

その時は世界総合格闘技(ワールドバトルアスリート)に出場をするので、試合中に着る服を作って欲しいとの事でした」

「スズネに、そんな隠れた才能が会ったとは」

「昔は修業の邪魔だと言うことで、同世代の子供と遊ぶことを許されていませんでしたからね。

こっそり、服のデザインや作成をしていました」

スズネからは以前聞いたのだが、今の力を手に入れるために、過酷な修業を〈させられていたのだ〉。本人が望まなくても、上条家存続の為にとても辛い修業をしてきたと。


「話を戻しましょう。ですが、彼女の要望を実現するのは大変でした」

「どんな要望?」

「大きい胸が邪魔なので、動き回っても邪魔にならない服を作って欲しいと」

「え?」

「私にとって、かつてない難題でした!そう・・・胸の無い私にとっては」

スズネの言う胸が無いと言うのは、比喩ではなく、本当に無いのだ。

そう、彼女の腹部から首まで、何もなく(・・・)真っ直ぐなのだ!

「激しく動けば、揺れ動く胸。私には無いものですが、それを理解をし感じるとる所から始めました。

運動中における、大きな胸の制御。それを達成するためには、逆転の発想が必用でした!」

「あのー、スズネさん?」

「そう・・・乳袋なのです!!!」

「もしもーし?」

「乳袋・・・それは、二次元の世界より生まれしもの。現実にはあり得ないもの。けれど、それを活用することによって!」

「ハイハイ!スズネの頑張りはよく分かったが、次の機会に話そうなー」

このままでは、らちが明かないと思ったクラリスが、スズネの熱い製作秘話を強制的に終了させた。話を途中で止めれたスズネは、弱冠不満そうであったが、今はミーティング中。話したい思いをぐっと堪えたのであった。

「まあ、この胸についている膨らみなんて、邪魔で仕方ないのは認めるがな。な!イリーナ」

「なぜ私には振るんですか?運動中に邪魔だと思った事は殆どありませんが」

「本気で言っているのか?」

「本気です。運動中の胸のコントロールなんて、胸の動きを理解しながら動けば良いだけだ!」

イリーナの意味不明な発言に、部屋にいる全員は呆気に取られる。

「そうすれば、激しい運動でも微動たりせずにすむ。

イメージとしては、峠の運転中にコップの水をこぼさないように運転をする感じですね」

イリーナの言っていることは、妄言と言っても差し支えない、理論?であった。

しかし、この理論を実践し活用している以上、誰も異議を唱えるものはいない。

ただ残念なことは、この理論を実践出来るのは彼女以外誰もいない事だろうか。

「あー・・・試合中の地震を、バランス感覚だけで切り抜けるやつに聞いた、あたしが間違っていた。

で、何処まで話していたっけ?」

「えーと・・・確か、大太刀の話と思います」

服について熱く語っていたスズネであったが、いつもの穏やかな表情に戻り、話を再開した。

「失礼しました。あれは、180㎝もある大太刀ですが、重さ一キロ越えるくらいの軽い刀でした。

そして注目すべき点は、鞘ですね。刀は180㎝もあるのに、鞘は50㎝位しかありませんでした。お陰で、鞘に入れた状態で試合をしても、自身の移動にペナルティーの無い素晴らしい大太刀なのですよ」

「なにそれ、なんか怖くない?」

「私も最初は驚きましたが、ロストレガシーにて作られた物であれば、合点がいきます」

「てことは、見えざる刃もロストレガシーの力を借りた物かも知れないと言う事か。

軽くてリーチのある大太刀に、必殺のカウンターの見えざる刃。そして、神業レベルの間合い取りによる、ヒットアンドアウェイ。

こりゃあ、今までで一番の強敵だ」

トウカの規格外の強さに、自分で説明をしていたのにタメ息をつく、クラリスであった。


「でも、クラリスさん。ここまでの話を聞いていると、前回はよく勝てたなと思いますよ」

「それは簡単な話だ。開幕戦の時は、チームのフォーメーションにあわせて動いていた。故に、本来の力を発揮出来ていなかった。

それに対し、ブルースキンズ戦の時は、トウカは自由に動き回っていた。元は個人種目の選手だったんだ。周りに会わせなくていいのなら、それほど楽なことはない。あれが本来の実力者なんだ。大分長くなってしまったが、ミーティングはこれで終了だ!明日の試合は夜とはいえ、夜更かしは疲労の元だ。みんな早く寝るようにな」

「「「ハイ!!!」」」

三人の元気な声で、ミーティングは終わりそれぞれ自室に戻って行くのであった。



さて、みんなに早く寝ろと言ったが。もう一度トウカの分析でもするか。もし何か見つかれば、明日の試合も楽になる。

コンコン!

試合のDVDを再生し、分析をしていた所に部屋の戸を叩く音が響き渡る。

「どうぞー」

「失礼します」

入ってきたのはカズミであった。

「さっきのミーティング中に、部屋の鍵を忘れた見たいで・・・あった!」

「それは良かった。見つけたのなら、早く寝ろよー」

「クラリスさんは、もう寝ないんですか?」

カズミが告げるのも、無理はない。もうすぐ11時半を過ぎようとしていたのだ。

「あたしはいつものこんな感じさ、だから気にするな。ドクターとの兼業になるが、これはこれで楽しいものさ」

「分かりました。クラリスさん、無理をしないでくださいね」

するとクラリスは、カズミの頭に手を置き優しくなで始めた。

「心配してくれるなんて、うれしいぞ!

やっぱりカズミはいい子だなー。あたしもこう言うお嫁さんが欲しいよ」

「僕は男ですよ・・・」

「まあ、誉め言葉だと思ってくれよ」

「意味がわかんないですよ、本当に」

言葉とは裏腹に、カズミはとても嬉しそうであった。

そして同じように、クラリスの顔にも笑みがこぼれていた。

「用が住んだら、部屋に戻って早く寝ろよ。それとも、あたしの部屋で一緒に寝るのか?」

「なななな、何をいっているんですか!」

クラリスの唐突な言葉に、カズミは慌て顔を真っ赤にする。

「冗談だ。羊がオオカミに変わらないうちにとっとと帰れよ」

「冗談ですよね。良かった、それじゃあおやすみなさい!」

「おやすみー」

「クラリスさん・・・」

「なんだ?」

「ありがとうございます」

そう告げると、カズミはクラリスの部屋を出ていくのであった。


「冗談で良かった・・・か。良くも悪くもカズミらしいな」

先ほどまで、つけていたテレビを消して試合見ることを止めるクラリス。

「さて、カズミがあたしの事を心配してくれたんだ、今日は早く寝るか」

布団に入った彼女だが、カズミの事が頭から離れない。

カズミのやつ、人の想いに鈍い所はあるけど、優しくて本当にいい子だ。あたしは・・・あいつと・・・

カズミの事を考えているうちに、眠りについたのであった。

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