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第3節、3話 故郷への帰還

コンクリートに囲まれ、何もなく殺風景な部屋だった。そこではカズミが、次の試合に向けて、魔法の特訓をしていた。

「上条流奥義の基礎講習は、これで終了です。お疲れ様です」

「スズネ、ありがとう。これで、ボクにも魔法が使えるんだ」

カズミは早速魔法を唱えるべく、呪文が込められた札を取る。

「上条式式紙!式紙、(よこしま)なる物を吹き飛ばしたまえ!」

カズミの手元から離れた札が壁に触れた瞬間、緑色の光を発し、小さな竜巻が発生した・・・のだが・・・。ぽふん!

可愛らしい音をした竜巻を見て、カズミは渋い顔をした。

「最初はこう言うものです。ですが、少しずつ力を・・・カズミ?どうしました?」

壁に張り付き、いつまでも回り続ける竜巻を、注視し続ける。

「・・・いや、ダメージは期待できないけど、使い方次第で、この竜巻を使えそうだ。まあ、使い方次第だけどね!」

「全く、貴方が言うと本当に出来そうですね。そろそろ、切り上げましょう」

「スズネ」

「何でしょう?」

「ありがとう!」

短く、呆気ないやり取りだが、この二人にとっては、それで十分だった。





僕らは次の対戦相手、セイントナイツのホームタウン、オリオールの町へと向かっていた。

移動手段は前回と同じように、飛行船での移動だ。


今は大広間で、ミーティングをしているところだ。そしてヘッドコーチのゴルドを中心に集まっていた。


「いいか!明後日の試合は、〈あの野郎〉の率いるオリオール・セイントナイツだ!」

ゴルドの言う、あの野郎とは。イリーナ父親でもある、〈アーソン・バニング〉だ。

開幕13連敗中のチームは、ヘッドコーチを解任。そこで白羽の矢を立てたのは、〈オリールの英雄〉アーソン・バニングだった。泥沼の連敗中だったが、チームはそこから3連勝をして、シーズンを終えたのだ。そして今シーズンも連勝でスタートし、去年から負け無しの5連勝中なのだ。

「ここまで開幕2連勝で来たが、明後日の試合も勝たなくてはいけない、何がなんでも絶対に勝つぞ!」

ゴルドの凄まじい気合いの入り方を疑問に思ったのか、カズミは小声で隣のイリーナに声をかける。

「ねえ、イリーナ?ゴルドさんとイリーナのお父さん、何かあったの?」

「二人は母さんを、奪い合った関係だ・・・」

「本当?」

「本当だ、嘘をついてどうする。なんでも、母さんを巡って色々あったらしいんだ。まあ、最終的には父さんを選んで、ゴルドさんに断りを入れたんだが。後で聞いたが、ゴルドさん無茶苦茶落ち込んだらしいよ」

「んでだ!意気消沈したオヤジが、うちのお袋と出会い、そのまま結婚。あたしが生まれたと言う訳さ。しかし、おもしろいもんだな」

二人の会話に、クラリスが割って入った。

「何がですか?」

「何って、ライバルの娘のイリーナが、うちのチームに来たんだからな。最初はオヤジ、びっくりしていたぞ。イリーナが母親にそっくりだったからな!」

「まあ・・・私が母さんに似ていると、よく言われますけど」

「あとさ、うちのオヤジとイリーナのオヤジ、世間で思われているほど仲悪くないよな?」

「わかります、年賀状やお中元を送りあっている仲ですし。去年は、ゴルドさんにうちの娘を頼むと言う手紙まで送っていましたからね」



「次はセイントナイツの〈選手及びフォーメーションの分析〉だ。まずは、この映像を見て欲しい」

大広間のスクリーンに撮されたのは、先週行われたセイントナイツとブルースキンズの一戦だ。

途中までは何でもない試合だったのだが、ブルースキンズのライン(前線)が崩れたところで、試合が動き出す。一人の剣士が相手陣内に攻め込み、次々と相手選手を斬り捨てる。剣士は無傷なのに、返り血のせいで全身血まみれになっていた。

「まるで、〈ブラッディクイーン〉だな・・・」

「イリーナ何か言った?」

「悪い、ただの独り言だ」

イリーナ回答に腑に落ちないところもあったが、カズミは映像を見続ける。

最後は、同一クウォーターで相手選手を7人以上先頭不能に追い込むと勝利する、〈ノックアウト勝ち〉でセイントナイツは勝った。

「イリーナ、この試合を観て、感想はあるか?」

「〈トウカ・サカザキ〉を止められなければ、ブルースキンズのように、ノックアウト負けをします」


〈トウカ・サカザキ〉。

開幕戦に対戦した、アイアンマインズのライン(前線)だった。同チームの〈リッカ・サカザキ〉は、姉である。

しかしそんな彼女だが、元々はファンタズムボウルの選手ではないのだ。

トウカがファンタズムボウルの選手になる前は、剣聖(ソードマスター)と呼ばれた、剣の達人であった。

剣聖(ソードマスター)呼ばれてしばらくたったある時、彼女は世界総合格闘技(ワールドバトルアスリート)に出場する。

初出場ながら決勝まで勝ち抜き、優勝をし世界チャンピオンの栄冠を手に入れたのだ。

そんな彼女だが、チャンピオンになった翌日に、突然の引退を宣言する。出身のカミカゼを中心に、世界は騒然となった。

周囲の人間も、引退を撤回するよう説得をする。しかし彼女の意志は固く、引退を撤回することはなかった。

引退後はしばらく、人前にも出ない日々が続いたようだが、アイアンマインズのヘッドコーチからの熱烈なコールを受けて、選手としてデビューをする。

しかし開幕戦後、レギュラー選手の復帰に伴い、トウカが出場が出来ないと見るや、チームはトウカの出場機会と技術向上のため、セイントナイツにレンタル移籍をしたのだ。




「特にトウカの〈見えざる刃〉は、インファイトをメインにする私にとっては、手強いですね・・・」

「見えざる刃、か・・・」

イリーナの言葉に、カズミは呟く。

イリーナの言う、見えざる刃。それは、試合序盤での出来事であった。一対一でにらみ会うトウカと相手選手。

トウカの抜刀が空振りをした所、相手選手は懐に飛び込む。がら空きの懐を目掛け、攻撃をしようとした時だった!名前の通り、〈見えざる刃〉で相手選手は切られる。とどめに、空を切っていた太刀で再度切りつけたのだ。

「最初の空振りは、おそらく罠だろうな。でなければ、剣聖(ソードマスター)と呼ばれた彼女があんな空振りをするわけがない。そして空振りして、懐に飛び込まれた所をバッサリか」

「彼女に勝てそうか?」

「厳しい戦いを強いられる・・・としか、言いようがないです・・・」

イリーナは、勝てるか?と言うゴルドの問いに、厳しい戦いを強いられると答えた。

それは、勝てないかもしれないとは、口が避けても言いたくない、彼女なりの強がりなのかもしれない。

「愚問だったか。だが、トウカを倒さねば俺達は勝つことは出来ない。イリーナ!ルーキーと二年目の違い、見せ付けてやれ!」

「はい!」


その後もゴルドの、気合いと何かが混じったミーティングは続くのであった。










「私は・・・何をしていたんだ?」

全身を襲う、ズキズキとした痛み。何故自分はベッドで寝ているのか、彼女は理解できず、思いをめぐらせるだけだった。

「たしか・・・カレッジファンタズムボウルで優勝し、帰りのバスで・・・」

思いをめぐらせるうちに、徐々に蘇る記憶。

「みんなと一緒に乗ったバスが、崖下に転落たんだ!みんなは!?」

イリーナが病室を見回すと、頭や腕を包帯で包んだチームメイトが居た。

「バスに乗っていたメンバー、全員無事だよ・・・けど・・・・・」

耳がピンと尖ったエルフの男性が、ぼそりと声をだす。

「全員無事なら、何故落ち込んでいるんだ?もっと喜ぶべ・・・」

イリーナは気づく、病室の空気が途轍もなく重い空気であることに。そして彼女は気づく、右膝より下の感覚が無いことを。

心臓の鼓動が苦しいほどに悲鳴を上げ、

おそるおそる、布団を捲り上げる。するとどうだろう、自身の右足が膝下からなくなっていたのだ。

「何の・・・冗談だ?これは、どう言う事なんだ!」

「イリーナをバスから救い出す為に、足を切断するしか無かったらしい・・・・・・」

「・・・・・・」

「足が岩にはさまれていて救出できない上に、火の手が直ぐそこまで来ていた。君を救うためには、やむ得なかったと」

「嘘だ・・・嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!?」

「イリーナ、落ち着いて!」

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!!!!!!!!」

右脚を失い、動揺を隠せないイリーナ。エルフの男性とダークエルフの女性が、必死にイリーナを落ち着かせようとする。

「右足が無くなって、私はどうやって選手として続けていけばいいんだ・・・どうすれば・・・・・・」

選手の命ともいえる脚を失い、絶望のどん底に落とされたイリーナ。やり場の無い怒りが沸々と上がる。

「私だけがこんな目にあって、何でみんなは無事なんだ・・・・・・」

「イ、イリーナ?・・・」

「出てけ・・・お前たちの顔なんか、二度と見たくない」

「・・・・・・」

怒りの矛先をあろう事か、チームメイトにぶつけてしまう彼女。

「出てけぇぇぇぇぇぇぇええええ!」

「分かったよ・・・それで、イリーナの気が済むなら」

ウィリアムがそう告げると、他のチームメイトもぞろぞろと病室を出て行く。そして最後には、部屋から一人も居なくなったのだ。

「何で、何で・・・何でなんだよ!?」

だれも居ない病室に、彼女の声が響き渡るのであった。






「またか、また・・・あの夢か」

悪夢のためか、パジャマは汗でびっしょりになり、凄まじい喉の渇きに襲われる。あまりの喉の渇きに、テーブルにおいてあるボトルの水を、直接飲み干すイリーナ。

「私は、私は・・・どんな顔をして、みんなに会えばいいんだ。どうすれば・・・・・・」






夜も明け飛行船は、オリオールの町まで後少しと言う場所まで来ていた。

「おはよう、イリーナ」

「カズミか・・・」

「どうしたの?元気ないけど」

「私は・・・オリオールのみんなを裏切って、このチームに来たんだ。どんな顔をすればいいんだ・・・」

「裏切った?」

「私は怪我をした後、故郷のみんなに酷いことを言って、オリオールの町を出ていったんだ」

イリーナが、以前話してくれた話を思い出した。移動中の事故により、イリーナは右膝から下を失い、引退を余儀なくされた。

それに絶望した彼女は、支えてくれた人達に当たり散らし、酷いことを言ったと。

当然だが、支えてくれた人達は誰も居なくなった。

「自業自得だとわかっている。だが、私はどんな顔をしてみんなに顔をあわせればいいんだ?私は、私は・・・」

不安で押し潰されそうな彼女に、カズミはイリーナ両肩に手を置き、目を見つめた。

「じゃあ、みんなが怒っていたら、一緒に謝るよ」

「でも・・・」

「ちゃんと謝れば、許してくれるよ」

「・・・分かった。みんなに謝る・・・。私に出来ることは、これしか無いのだから」

しかしイリーナの心配は杞憂に終わったのであった。





「今、イリーナ・バニングが帰ってきました。オリオールの英雄!イリーナの帰還です!みなさん盛大な拍手を!」

僕も前の世界で、同じようなものを見たことがあった。代表選手の帰国で、空港が物凄い騒ぎになったところを見たことがあるが、まさにそれと同じような状況だった。

「イリーナ、お帰りなさい!」

「イリーナの復活、感動をしたぞー!」

「イリーナの活躍を心残り支えにして、町の復興を頑張ってきたんだー」

「イリーナ!感動を、ありがとー!」

イリーナは最悪、石や生卵を投げられる事を想定していたようだが、結果は反対だった。

空港は、地元の英雄の凱旋を祝福し、暖かい雰囲気に包まれていた。

そこに花束を持った、エルフの男性とダークエルフの女性がこちらに来た。

「イリーナ久しぶり!元気にしていたか?」

「昔みたいに、明るいイリーナが戻って来たようだね!」

「みんな・・・私・・・」

「イリーナ!こんな場所で、泣くなよ」

「でも・・・私はみんなに酷いことを・・・」

過去の過ちを思い出したイリーナは、感情が爆発したのか、まるで子供のように泣き出してしまったのだ。

この事態に戸惑いを見せる者も、少なからずは居たが、多くの者は見守り続けるのであった。




泣きじゃくるイリーナは、出迎えた二人とカズミとクラリスで、空港の個室へと入った。

「イリーナ、落ち着いたかい?」

「ひっく、ぐずっ、みんな・・・ごめん・・・」

「ほーらイリーナ、顔が涙でぐちゃぐちゃよ。ハンカチ渡すから、それで顔を拭きなさいよ」

「エリー・・・ありがとう」

「お二人には紹介が遅れたかな、僕はウィリアムス・ハンセン。ウィリアムと呼んでくれ」

「私はエリーゼ・アリアス。みんなからは、エリーと呼ばれている。よろしくね!」

ウィリアムと名乗ったエルフの男性は、サラサラとした金髪にシュッと整った顔立ちで、190㎝を越える長身であった。

ウィリアムは、エルフの王子様と言った雰囲気の青年だ。

一方、エリーゼと名乗った女性のダークエルフは、褐色で艶やかな肌をし、膝近くまで伸ばした紫色の髪は、アメジストの様な美しさであった。

蠱惑的ながら優しそうな雰囲気を持つ、不思議な女性だ。


イリーナとかつての友人は、昔の思い出にふけっていた。

「こう話し合うのは、何年ぶりか?」

「イリーナがオリオールを出ていったのが2年前だから、それくらいじゃない?」

「私は・・・二人、いや!みんなに謝らなければいけない!」

「ストップ!その話は、そこまでだ!」

「その話はもう終わったんだ」

「終わったって、どういう事だ!私の行いは、みんなを傷つけたんだ。だからみんな居なくなったんだろ?」

「だからさ!修復不可能な傷になる前に、みんな離れた」

「あの時のイリーナは、心に余裕が無いのが分かっていたから、みんなで話し合って一斉に離れたのよ。まあイリーナの行いに、ちょっとはムッとしたこともあったよ。でもそれは、普通の付き合いでもあるものだし!」

二人の発言と真相に、イリーナは唖然とするしか無かった。

「それに、イリーナから力を貰った」

「ええ!イリーナは、私達オリオールのみんなの希望なのだから」

それを聞いていたカズミは、先ほど聞いた言葉を思い出した。

〈イリーナの活躍を心残り支えにして、町の復興を頑張ってきたんだと〉。

すぐには理解できなかったが、おそらく災害で町が壊滅的な被害を受けたのだろうと、僕は受け取った。

「あの日は、アバラシア山脈から吹き下ろす、強風が吹き荒れる夜だったな。近くの森林で発生した火災は、強風に煽られ瞬く間に町を炎で包み込んだ。

まあ、幸いなことに死者は出なかったものの、町の全てを焼き付くした。

俺達は絶望をしたよ。明日からどうすればいいんだと。その時さ!避難所のテレビに映る、イリーナの活躍を。足を失っても復帰し、強豪チームに立ち向かう姿。それを見たら、僕たちが絶望するのはまだ早い。そう思って、僕達は一年間頑張ってきた」

「以前のように、勇敢で優しい貴女が戻って来た事が、私達にとってうれしいのよ」

「私・・・みんなに酷いことをしたから・・・嫌われていると思っていた。私、私・・・」

「もう!せっかく故郷に帰ってきたのに・・・まあ、今は好きなだけ泣きなさい」

イリーナは、エリーゼの胸で泣きじゃくったのだった。



「イリーナ、泣きつかれたのか寝ちゃいましたね」

スヤスヤと眠るイリーナを、見つめるカズミ。

「カズミ君だったね。いつもイリーナが、お世話になっている。向こうではどんな感じなんだい?」

「あ、私も聞きたい!どんな感じなのか聞かせてよ」

「分かりました。つい最近は、こんな事がありまして・・・」



「喉に、食べ物を詰まらせて死にかけた!しかも直後にお代わり。イリーナらしいや!」

「聞いて安心したわ。本当に元気になって良かった!」

「二人に、聞きたい事があるのですが」

「何を聞きたいんだい?」

「昔のイリーナって、どんな感じの子だったんだですか?」

カズミの質問に、二人は記憶の整理をする。

「うーん、今とあまり変わらないかな。困った事があれば、先頭に立って行動してみんなを引っ張る所とか」

「あ!小さい頃の話で、こんな話があるよ!もう十年くらい前かな。まあ、あたしはダークエルフで、ウィリアムはエルフじゃない?だから当時は、すごく仲が悪かったのよ」

エルフとダークエルフ。ファンタジー世界において、それは犬猿の仲と言われる存在だ。しかし、この二人はと言うと、そんな事を忘れさせる仲の良さだった。

「やっぱり、イリーナですか?」

「だね!あれは、イリーナがチームを作ろうとしたとき、公園で喧嘩していた私達を引きずって、無理矢理チームに入れたのよ!」

小さいイリーナが、この二人をズルズルと引きずる様子を想像すると言う光景を、カズミ想像してしまった。

「イリーナらしいや!」

「全くだ!で、グラウンドに連れていかれると、そこで今のチームのメンバーと、アーソンさんに出会ったんだよ」

「しかも、来週末の〈ジュニアファンタズムボウル〉に参加するから、早速、作戦会議すると言い出した。あれには私も唖然としたね」

「まあ、最初はメチャクチャな事をする奴だと思ったけど、やっぱり彼女とプレーをするのは楽しくてね。いがみ合っていた僕達は、いつの間にか仲良くなっていたよ」

「でも、大人達は良く思っていなかったよ。大会が近づいたある日、私達の親がチームに乗り込んできたのよ。ダークエルフとエルフが一緒にスポーツをするなんてとんでもない!うちの子を返してくれと」

「やっぱり、あるんですね・・・」

「あるんだよ。まあ、あの時はこのチームが終わったと思ったよ。けど、そこでも立ち上がるのが、イリーナなんだよな!」

「今でもあの言葉は、忘れられないね」

私達は、〈みんなで〉ジュニアファンタズムボウルに出たいんだ!種族とか、そんなのどうでもいい。私達は、楽しく遊びたいんだから、邪魔しないで!

「あれを8歳の子供に言われたんじゃ、大人達は何も言い返せなかったよ。それに、アーソンさんが、大人を説得してくれた。もしどちらかが欠けていたら、チームは解散していただろうな」

「で、大会の結果はどうでした?」

「イリーナの活躍もあって、初出場で初優勝さ!おかげで、エルフとダークエルフでいがみ合っていたこの国が、一つになった。彼女はこの国を一つに纏め上げた英雄だよ」

「それで、オリオールの英雄って言っているのか。もしイリーナが居なかったら・・・」

「宗教の違うエルフとダークエルフで、内戦が起きていただろうね。今考えると、ぞっとするよ」

「その後も、カレッジファンタズムボウルでも優勝をしたし、あの時は本当に楽しかった。勝ちまくった勢いで、セイントナイツに入団してを優勝させようと誓ったよね・・・」

「もしかして、イリーナが言っていた裏切りって、それも含んでいるのだろうか?」

カズミの言葉に、二人は神妙な面持ちをする。

「やっぱり気にしていたか・・・」

「イリーナが敵に回ったと聞いた時は、少し悲しかった。けどそれ以上に、イリーナがフィールドに戻って来る嬉しさが上回ったよ!」

「あの時、オリオールに残っていたら、選手として復帰出来なかったのだから」

「クラリスさん。イリーナがプレー出来る様になった事、ここに感謝します」

ウィリアムの感謝に、クラリスは照れ臭そうにしていた。

「あたしは、ドクターとしてやれることをやっただけさ」

「また、ご謙遜を!」

「ドクターってのは、〈ただの黒子〉なんだよ。最後に頑張るのは、選手なんだ!あたしは手伝いをしたに過ぎない」

「ですって、イリーナ。狸寝入りは止めて、そろそろ起きたら?」

「いつから・・・気付いていた?」

エリーゼに声をかけられたイリーナ、ゆっくりと起きあがる。

「昔話をしていた時に、ピクッと動いたからね。あの辺から起きてたでしょ!」

「あの・・・ありがとう・・・」

「お礼は。フィールドで、元気な所を見せてくれればいいさ」

「そうそう。貴女の元気な所を見せてくれればいいのよ」

「・・・うん」




「それじゃあ、僕達は行くね。フィールドで会おう!」

「ではみなさん、フィールドで会いましょう!」

そう告げると、ウィリアムスとエリーゼは、個室を後にした。

「ああ!大分話し込んでいた。みんなが待っている!」

「だな、みんなの所へ行こう!」

続いて、カズミ達も個室を後にしたのであった。

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