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第3節、2話 新たな力

チームの本拠地から、列車で二時間と言った所だろうか?駅から降りると、そこには、古都の街並みがあった。

「カゼカミの都とは、また違った雰囲気の場所だね!」

「ええ、以前は帝がお住まいにになられた、場所ですから・・・」

「あれ?イリーナはどこ行ったのかな?」

カズミとスズネが周囲を探すと、イリーナは郵便局にいた。どうやら、買った何かを宅配物で送ろうとしているようだ。

「イリーナ。お土産でも買ったの?」

「ああ、生三ッ橋と三ッ橋を買ったから、寮に送った所だ」

生三ッ橋。僕の世界にもあったが、薄く柔らかい生地に、餡を乗せ三角形に包んだ和菓子だ。

一方、三ッ橋。先ほど述べた生地を焼いた、堅焼きの煎餅の様なものだ。しっとりモチモチの生三ッ橋とちがい、こちらはカリカリとした食間がたまらないお菓子だ。

「おーい。約束の時間も近いし、急げ!」

「クラリスさん今行きます!」

カズミ、スズネ、イリーナ、スズネの四人は、スズネの実家でもある、上条神社へと向かった。



シンと静まり返った空間が、そこにはあった。

上条神社。この国が、カゼカミと言う名前になる前からある、伝統のある神社だ。

朱色の鳥居をくぐり、石畳の境内に入ると、一人の女性が待っていた。

そのは女性は、スズネに良く似た雰囲気で、長い髪を結った人だった。

「ようこそ、上条神社へ。わたくし、上条神社の神職をしていますシズネ・カミジョウと申します」

「始めまして。カズミ・サワタリと言います」

「いつも娘がお世話になっています」

「お久しぶりです、お母様・・・」

「お帰りなさいスズネ。一年ぶりかしら?まあ、積もる話も有るでしょうが、続きは中でしましょうか」


神社の建物に入り、廊下をしばらく歩いく。

「皆さま、こちらへどうぞ」

僕たちは四方をふすまに囲まれた、大広間に通された。


「話はスズネから、聞いています。呪詛を取り払う為に、シナツヒコ様のお力を借りたいと」

「はい」

「呪詛を払う事は出来ると思いますが、シナツヒコ様のお力を授かるかは、試練を受け認められるしかないですね」

「試練・・・」

「正確に言うと、シナツヒコ様に気に入って頂けるか。知れんと言うより、面接に近いものですね。何故、力が欲しいのか?本当に、力が必要なのか?その様なお話をされると思います」

「難しそうですね・・・」

「まあ、シナツヒコ様はお優しい方です。貴方の正直な気持ちを伝えることができれば、きっと祝福を受けることが出来るでしょう。そう固くならないでください」

こちらが緊張していることを察しての事と思うが、その気遣いが僕には有りがたかった。

「シナツヒコ様にお会いするまで、まだ時間がありますし、陰陽八行(いんようやぎょう)のお話しをしましょうか」

陰陽八行(いんようやぎょう)陰陽五行(いんようごぎょう)では、ないんですか?」

「カズミさんの疑問も当然ですね。貴方の世界では、陰陽五行(いんようごぎょう)が一般的みたいですし」

「僕の世界の事を知っているんですか?」

「知っているもなにも、亡くなった夫は、貴方と同じ世界の、日本から来たのですから。あの人がこちらに来たのは、24年前になります。季節は今と同じ、秋でした。その日は、激しい雷雨と暴風で、神社を吹きとばさんばかりの勢いでした。あまりもの物音に、眠れず廊下を歩いていたその時でした。境内の大木に雷が落ちたかと思うと、一人の男の子が倒れていました。幸い、気を失っていましたが命に別状は無くしばらく上条神社で暮らすことになりました」

「その方が、スズネのお父さんですか?」

「ええ!とても優しく、カズミさんのように中性的で可愛らしく、何時でも抱き締めたくなる素敵な方でした!今でも出会った時の、トキメキは忘れられません!」

「確かに中性的な顔立ちは、カズミによく似ていますね。あと・・・お母様・・・」

「どうしました?」

「お父様を思い出して、私を抱き締めるのは止めていただけませんか?みんなの前で、恥ずかしいです・・・」

「スズネもお父様にそっくりで、可愛くて素敵なんですもの!ああ、いつまでも抱き締めていたいわ!」

「まあ、久々に帰ってきたのですし、今日は特別ですよ・・・」

「ありがとー、スズネちゃん!」

恥ずかしいと言っていたスズネだが、母から抱き締められる事を、渋々受け入れていた。

その後もスズネはシズネの膝の上に座り、可愛がられていた。

スズネは小柄で、シズネはイリーナに勝るとも劣らない体つきだったためか、膝の上に乗せても、スズネよりも頭ひとつ抜けていた。そしてスズネの頭の付近には、イリーナのものにも劣らない二つの膨らみがあり、スズネの後頭部を埋めていた。


親子のスキンシップは続いているが、スズネは会話を再開しようとしていた。

「さて、話を戻しましょう。陰陽八行はその名の通り、八つの属性からなります。木、火、土、金、水。それに風、光、闇、以上八つの属性からがあります。光、闇、風については、後ほど説明をしますので、五つの属性の五行と、相生と相剋を説明しますね。

まず、創造を司る相生と、破壊を司る相剋があります。最初は、相生からお話をしましょうか。

火種が生じれば、木が燃える。

燃えた火からは灰が出来、よい土が生まれる。

土の集まった山からは、金脈が生まれる。

金脈の近くには、水脈が流れる。

そして水脈は木を成長させ、大木となる。

これが、相生ですね。

ちなみに、金と水の関係は色々と諸説がありますが、今回は金脈と水脈で説明をしました。後々疑問に思うかも知れませんが、そこはご了承ください。

続いては、相剋。

木は土から養分を、吸いつくす。

土は、溢れんばかりの、水をも塞き止める。

水は森林を焼きつくす火や炎も、消し去ってしまう。

火はどれ程硬い金属であろうと、最後には溶かし尽くしてしまう。

そして金は刃となり、一面に広がる木々を切りつくす。

以上が、相剋です。このように、相生は創造、相剋は破壊をします。これら二つのものを覚えることで、相生で相性のよい味方を援護したり。逆に、相剋で相手の弱点をつく事も出来るでしょう。長くなりましたが、ここまでの話で何か質問はありませんか?」

「とりあえず、相生は掩護。相剋は破壊、または弱点をつく事が出来る事を覚えました」

「次は、各属性の特徴を説明しますね。まずは木。春の伊吹の如く、成長をや回復を得意としています。

次は火。季節で言えば夏。真夏の燃え上がる様な暑さとでも言いましょう。全てを焼きつくす熱と気血[きけつ]を活性化させ、爆発的に身体能力を強化します。しかし、過度に活性化すれば、マナを消耗し死んでしまいます。それを防ぐには、為には大量のエネルギー源が必要となります」

「つまり、イリーナが大量のご飯を食べる原因は、火の属性が原因なのですね!」

カズミの不意の発言に、イリーナの顔がトマトの如く真っ赤し、立ち上がった!

「私の属性を教えていないのに、何故!」

「普段の行動からかな?近くにいるだけで、周辺の温度が上がるし。体温が高いのか、どんなに寒い日でもイリーナは、ビスチェとショートパンツだし。極めつけは、試合中にマナを爆発的に消費しているときは、炎の翼を生やしているし!」

「カズミさんは、物事の呑み込みが早くて助かります。それでこそ、話しがいがあると言うものです。

では、次の属性は土ですね。季節の変わり目を表します。特徴としては、自身の防御力を極限まで強化することを得意としています」

「ダブルシールドのキーンさんが、土属性でしょうか?」

「正解!まあ、プレーとポジション。そしてドワーフと言う分かりやすい、ヒントがありますからね。では、話を戻しましょう。

次は、金ですね。金は、秋の季節を表すものです。刃の切れ味による攻撃力と鋼鉄の固さ、両方を持ち合わせています。攻撃力では火に、防御力では土に劣りますが、どちらも高水準で、攻防一体を兼ね備えています。これに当たる選手は・・・」

「アイアンマインズの、リッカさんですね」

リッカ・サカザキ。アイアンマインズのブレイカーで、後方からは高火力の魔法を放つ矛となり、最前線に出れば、デフェンスの要にもなる、恐るべき選手だ。

「大正解!各属性の特徴を理解しているようですね。

最後は水。水は冬の季節を表しています。変化を得意とし、トリッキーな戦術を得意としています。耐久力や火力不足が否めない面がありますが、水属性特有のオンリーワン能力を鑑みれば、仕方ないでしょう」

「オンリーワン能力ですか、そんな力が僕も欲しいな・・・」

「カズミさん、大丈夫ですよ。貴方の風属性もオンリーワン能力が備わっていますので、安心してください」

「僕にもみんなの様に、凄い力があるんですか!」

「もちろん!では、カズミさんの風について、説明しますね」

「え?僕は、風属性なんですか?」

「貴方はカミカゼスタジアムの暴風を、味方につけていますよね?元来、ナイナーズのクウォーターバックは、皆風属性の選手です。故に、ゴルドさん以降の選手が見つからず、苦労したのです」

「あー、確かにオヤジもぼやいていたよ。たまに良いクウォーターバックが来ても、風属性じゃないから、泣く泣く断ったと。ホームでプレイ出来ないから仕方ないのもあるけど、アウェイのみで出場と言う手もあっただろうな」

「では、風属性の話しに戻りましょう。風は邪なるものを押し流し、守るべきものを押し上げます」

「あの・・・邪なるものを押し流しは、何となく分かりました。けど、守るべきものを押し上げるとは、どう言う意味ですか?」

「申し訳ありません、少々分かりづらい表現でしたね。守るべきものを押し上げる、一言で言うとブースト(能力上昇)です」

「ブースト(能力上昇)ですか?」

「はい、ブーストです。簡単に言うと、魔法や身体能力の強化を得意としています。身体能力の強化に着きましては、専門の属性には負けてしまいますが、それを他者に付与出来るのは風属性のみですね」

「これがあれば、ディフェンス時でもみんなと一緒にプレー出来る!」

「カズミさんの、仰る通りです。試合中であれば、火属性のイリーナさんとスズネの火の魔法と相性が良く、強化が出来ますね」

「あれ?スズネは火属性の魔法を使えるの?」

「いえ、私の属性は風です。ですが、お父様から教えていただいたお陰で、火属性の魔法も使えます・・・」

「問題は、試合中に使えないところか。うちのチームのライン(前線)が人並みなら、スズネにも高火力魔法を使ってもらえるんだがな」

「威力だけなら、リッカさんのアイアンフィストブレイカーに負けない自信があります。ですが、詠唱中は障壁等の援護が一切出来なくなります。それに、私の攻撃魔法の詠唱は、あまり早い方では無いので・・・」

この間クラリスさんが言っていた事だ。

ライン(前線)が弱い為に、スズネが本来の力を発揮出来ていないと。このチームには、イリーナとキーンさんと言うリーグでもトップクラスの選手がいる。だが、他のメンバーがあまりにも弱いのだ。せっかくイリーナとキーンさんが相手選手を止めても、弱いところをつかれて、スルスルとライン(前線)を突破されてしまうのだ。

「うちのチームも、もう少し強ければな・・・

いい選手はみんな強いチームや資金のあるチームに引き抜かれて、出てってしまう。

そんで、引き抜かれるから弱くなる。弱くなるからみんな出ていく、ここ十年以上はこれの繰り返しさ!」

クラリスさんの言う通り、いい選手なら強いチームに行って優勝を目指したり、高額の年俸が欲しくなるのも当然だろう。

スポーツ選手の寿命は短い。最近では、40代までプレーする選手も増えてはいるが、ほとんどの選手は20~30代で引退してしまう。短い期間しか選手としていられないのなら、移籍をして勝利とお金を手に入れたくなるのも当然だ。だからこそ、移籍した選手を僕は攻めることが出来ない。それに、僕の父さんも・・・

長くなった話を切るタイミングと見たのか、シズネさんが手のひらを叩く。

「はい!では、再開しましょうか。風属性のブースト[能力上昇]は、あらゆる属性に効果があり、対象が火属性であれば更なるブースト(能力上昇)が望めます」

「ブーストの効果を最大限に発揮するには、火属性を対象にするのがいいんですね」

「正解!風属性の相性も触れなくてはいけませんね。風は、僅かな火種をも大火に変える。風はどれ程強力な暴風でも、森の前には太刀打ちが出来ない。簡単に言うと、風属性は火属性を強化し、木属性には太刀打ち出来ないと言う事です。風についてはこれくらいですね。かなり長くなりましたが、残りの光と闇属性のお話もしますか?それともまた今度に・・・」

「いえ、最後までお願いします!」

カズミの熱意に、シズネは嬉しさを隠せなかった。

「では!あと少しなので、最後まで話しますね。光属性からいきましょう。光とは、冷たきものを暖め、闇を押さえ込み、人々に活気を与えるものです。簡単に言うと、陰陽の陰を暖め闇属性に強いと言うことですね」

「僕は陰陽(いんよう)の事までは覚えていないので、そこは説明をしていただけると、助かります」

「では、陰陽(いんよう)について説明しますね。陰とは暗い、闇、沈滞、消極的、女性、地、冷たい等の性質を持ちます。それに対して陽は、明るい、光、活発的、男性、天、暖かい等の性質を持ちます。ですが、必ずしも陰陽当てはまる訳ではありません。男性でも、陰が強い人も多いですし、女性でも陽が強い人も多いです。最初は傾向くらいの感覚で覚えて頂ければ、幸いです」

「少し気になる事があったのですが、陰と聞くと、あまり良いイメージが無いのですが、これは間違いですか?」

「そうですね。では、陰の役割が分かればマイナスのイメージも消えると思うので、簡単に説明しますね。例えばイリーナさん」

「ひゃい!」

陰で自分が指名されると思っていなかったのか、変な声をあげてしまった。

「年中、薄着の半袖と聞いていますが、陰が虚しているのも原因と思われます。陰には熱したものを冷やす効果があります。では、それが不足していたら?」

「冷めることなく、どんどん熱せられます」

シズネの問いにイリーナは答える。

「正解!あと、もうひとつ。

スズネは陰より陽が強いって言ったらどう思う?」

「ちょっと待ってください。スズネは陰陽で言えば、陰が強い方では無いのですか?」

「失礼ですね・・・」

カズミの発言に少しだけムッとするスズネ。

「あ、いや・・・ごめんなさい・・・」

少しムッとしたスズネの表情を見て、カズミは落ち込んでしまった。

「スズネ!カズミさんが落ち込んじゃったでしょー」

「私は失礼と言いましたが、怒ってはいないので、大丈夫ですよ。ですから、気にしないでください・・・」

「でも、僕はスズネの事を遠回しに暗いと言ってしまったし・・・」

しかし、カズミはうなだれているばかりだった。

「やはりカズミさんは、陰の要素がかなり強い様ですね。しかし困りました、このままでは話が進められないですね」

落ち込み続けるカズミを見て、色々と試みるがいっこうに立ち直る気配がない。

次第には、スズネとイリーナはあたふたし始める始末だった。

しばらくして何か思い付いたのか、シズネは娘の後ろにこっそりと忍び寄る。

「えいっ!」

シズネは何故か、娘を後ろから押したのだ。

母から突然押されたスズネは、カズミに向かって倒れ混み彼を押し倒してしまった。

「うわ!」

カズミが声をあげた瞬間、カズミとスズネの唇が重なり合う。

「「qweefgtt=>〆<☆」」

予期せぬ出来事に、意味不明な言葉を上げる二人であった。

「な、なにするんですか!お母様!」

スズネが声を荒らげる所を見たカズミ達は、心底驚いていた。だがそれ以上に、シズネは心底喜んでいるようだった。

「スズネが感情を表に出すなんて、久々だわ!十年ぶり位かしら?」

シズネの喜びとは反対に、スズネの感情は収まるところを知らない。

「お母様は昔からそうよ。目的を為すためにいつも無茶苦茶な事をして!やって良い事と、悪いことくらい区別は付くでしょ!」

「スズネって、本来はあんなキャラだったんだな。あたし初めて知ったよ・・・」

「私もです、クラリスさん。陰より陽が強いと言っていたのが、理解できました・・・」

「でも、こういうスズネも僕は好きですけどね・・・」

カズミの言葉を聞いたスズネは、掴み首が折れんばかりの勢いで、彼を揺さぶった!

「ア、アンタまで、何言ってるの!公然でチューまでさせられて、告白してるのよ!分かる?」

「待ってスズネ、首が取れる!お願いします、揺さぶるのやめて!それに、好きってそう言う意味で言った訳じゃ!」

「じゃあ、どう言う意味よ!その告白は、面白半分で言ったの?」

「ち、違うよ。告白を冗談で言うわけないじゃないか。好きって言うのは・・・」

カズミはスズネに必死で説明するが、どうも会話が噛み合わない。

「見事に二人の会話が噛み合っていない。どうします?クラリスさん」

「今あたし達が割って入っても、火に油を注ぐだけさ。まあ、これ以上酷くなるなら、全力で止めにはいる」

「分かりました」

その後もスズネの心が収まるまで、揺さぶられ続けるカズミであった。




「申し訳ありません、カズミ。このように取り乱し、貴方に酷いことをしたこと反省します・・・」

時間がたち、冷静さを取り戻したスズネであったが、自身がしでかした事を思い出す。カズミへの謝罪の念で、今すぐに消えてしまいたい気持ちであった。

「大丈夫だよ、スズネ!ちょっとビックリしたけど、この通りピンピンしているから」

カズミは大丈夫と言っているが、当のスズネは両手を床につけ、顔をあげられないでいた。

「つかぬ事を聞きますが、スズネが感情を表に出すなんて久々と言うのは、どう言う意味ですか? 」

先ほどシズネの発言を疑問に思ったクラリスは、彼女に向かって問いただした。

「その言葉の通りです。ある時からスズネは・・・表情や感情を、表に出せなくなってしまったのです・・・」

「何があったのですか?」

「我が家は代々、この国の神事に関わるものですから。それに見合う力を手に入れるため、とても厳しい修行をしなければいけません。もちろんスズネも一族の者ですので、厳しい修行は受けていました。ですが、夫の支えもありスズネは何とか厳しい修行はに耐えてきました。ですがある時、夫が邪なるものを払うときに、亡くなってしまって。それ以降はひたすら感情を押し殺し、修行を続けて来ました。

「しかし、スズネには魔法の才能がありませんでした」

「ちょっと待って下さいシズネさん、スズネは魔法の才能に溢れて・・・」

「違うの、カズミ。魔法の才能は後付け、貴方の世界で言うなら、ドーピング・・・」

「ドーピング?どう、言う事?」

「言葉の通りです、私には魔法の才能は無かっただから・・・」

スズネは、手を胸元に置く。

「私の心臓には、マナを増幅するために、魔石を埋め込んでいます。魔石はマナをもたらしましたが、その代償は大きいものでした。私から、感情と成長に必要な栄養を奪っていきました・・・」

「感情と栄養?あ!?そんな、事って・・・」

カズミはスズネの体を、まじまじと見る。

スズネの確かに華奢だ。いや、華奢と言うレベルを越えている。

女性特有の、ふっくらとした曲線は無く、髪を纏めれば少年と言われても違和感の無い、痩せ細った体型であった。


「魔石のお陰で、一人前の神職となりました。でも、感情も体の成長も、魔石に食われてしまった。私はね、魔石に、栄養を与えるだけの、只の入れ物なのよ。痩せ細った、感情の薄い、いつ壊れてもおかしくない・・・」

自身の過去を話していくスズネ、彼女の表情はみるみる暗くなっていく。と、同時に、呼吸も荒くなっていく。


カタカタカタ。

突如建物がガタガタと揺れ、神棚に飾ってあった物が動き出した。

「ポルターガイスト!いったい何が起きているんだ!」

時間が立つにつれ物が空中に浮き、凄まじい勢いで飛び回っていた。

「スズネの陰の感情が、魔石に悪影響を与えている」

「これは不味い、スズネを連れて外に出ようよ!」

カズミはスズネを外に連れ出そうと、手を掴むが、彼女の脚は鉛のように重く彼女を動かす事が出来ない。

「嫌・・・嫌、もう嫌!好きな人がいても、その人の子を残す事も出来ない、こんな体・・・もう、いや・・・・・・」

「スズネ、落ち着きなさい!陰の感情が強くなっては、力が暴走し、貴女の体が!」

シズネは暴走を止めようと、スズネを宥めるが魔石の暴走が止む気配はない。

「スズネの力が暴走している、このままだと建物が崩壊する!」

「シズネさん!何か方法は無いのですか?」

「申し訳ありません。これでも、スズネの力を抑えているのですが、あの子の力があまりにも強すぎて・・・今できる事は、暴走している感情を止めることができれば・・・」

「具体的には?」

「今のスズネは陰の感情が急激に膨れ上がり、暴走しているのです。陰の感情を抑える方法があれ・・・」

シズネに限界が来ているのか、額からは脂汗が出て声も掠れている。

建物はピシピシと、木にヒビが入っているような音がし、今にも崩壊するのではと、恐怖を掻き立てる。

「嫌、嫌、もう嫌!」

その間にもスズネの感情は暴走し、現象は激しくなるばかりだった。

どうする、陰を抑えるには陽の力が必要なのか。でも陽の力なんてどこにあるんだ!考えろ、考えるんだ!

陽は、明るい、光、活発的、男性、天、暖かい等の性質を持ちます。

カズミはシズネの言葉を思いだし、何か出来ないかと必死で考える。

「暖かい、活発的、男性、これだ!」

カズミはスズネを自分の懐に埋め、抱き締め出したのだ。

陰の力が強いのあれば、暖かい、活発的、男性の陽の要素で緩和すれば良いとカズミは考えたのだ。

「嫌・・・お願いだから離れて・・・」

「嫌だ!僕はこれからも、スズネと一緒に居たい!一緒に居たいんだ!」

「カズミ・・・ここに居たら、貴方まで死んでしまう。早く・・・出ていって・・・」

「嫌だ!」

「お願い!」

「もしここで、スズネを置いて出ていったら、一生後悔をする!そんな後悔をするなら、ここに居て死んだ方がましだ・・・」

「止めて・・・もう、この力を止められ無いの。お願いだから離れて!」

何で僕には、力が無いんだよ!お願いです・・・僕はどうなっても構わない。でも、スズネの命だけは、スズネの命だけは!救って欲しい。お願いします、神様!

「その願い、聞き入れました」

いつの事だろうか?この女性の声を、僕は聞いたことがある。ああ、デビュー戦の、カミカゼスタジアムで聞こえた声だ。

優しく、いたずら心のありそうな雰囲気の声だったかな?でも、こんな幻聴が聞こえるなんて、いよいよ僕も死ぬのかな?

「死んでもらっては困ります。もう一度、貴方の大切な人を守りたいと念じなさい!」

僕は言葉の通り、スズネを救いたいと言う気持ちを思いながら、全力で念じた。

「何?この緑色の光は!」

カズミの全身が、緑色の光に包まれたかと思うと、次第に建物揺れは収まり止まった。

「奇跡だ・・・」

クラリスは、カズミの起こした事に奇跡と表現し、茫然としていた。

それと同時に、力を使い果たしたのか、シズネはバタリと倒れこんだ。

「シズネさん!大丈夫ですか?」

「私は大丈夫です。スズネは、スズネは大丈夫ですか?」

娘を心配したシズネは、力を振り絞りイリーナに問いかける。

「大丈夫です。スズネは、助かりました」

「そう・・・よかっ・・・た」

「シズネさん!シズネさん!」

「安心しな。マナを使いすぎて、眠っているだけだよ。カズミ!そっちはどうだ?」

クラリスとイリーナがカズミ達の方を見ると、カズミの胸のなかで、スズネが泣きじゃくっていた。

「ごめんなさい・・・私は、貴方を、みんなを殺してしまうところでした。ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

「スズネ。みんな、無事だしもう泣かないでよ、ね!」

「でも・・・」

「じゃあ、スズネにお願いしていいかな?」

「私に、何か出来るのですか?」

「笑って。少しでもいいから、スズネに笑って欲しいな!」

「無理・・・です・・・」

するとカズミは、スズネの顔を起こし今にもぶつかりそうな距離で見つめあった。

「無理って、言わないで欲しいな。さっきも感情を出せたんだ。だから笑うことも出来るよ。僕は笑っているスズネと、一緒に居たいよ」

「・・・努力・・・します」

カズミは額と額をくっ付け、目を閉じた。

「約束だからね・・・」

「・・・はい!」

遠くからカズミとスズネを見つめるクラリスとイリーナ。

「熱々・・・だな」

「ここにいるのも野暮ですね」

「だな!じゃあシズネさんを連れて、静かに立ち去ろうか」

「ですね」

そう言うとクラリスは、シズネを持ち上げ静かに立ち去るのだった。続いてイリーナもその場を後にした。





「お母様・・・ごめんなさい!」

ボロボロになった建物を見て、謝罪をするスズネ。

「大丈夫よ、スズネ。保険会社に問い合わせたら、ちゃんと保険金が降りるって言っていたから、心配しなくていいのよ」

「お母様」

「むしろ、スズネの表情が少し豊かになって、お母さんうれしいは!」

「止めてください、恥ずかしいです」

「それに前と比べて、声にも明るさが出てきたし、嬉しいことだらけよ!」

「シズネさん。お世話になりました!このご恩は一生忘れません」

「カズミさんも、シナツヒコ様に認めて頂いて良かった。これで邪にも対抗できて、みんなを守れるようになりましたね!」

「本当に、ありがとうございました!」

「次に来るときは、孫の誕生報告があると嬉しいことのですけどね」

「ま、孫!僕らには、まだ早すぎます!それに、スズネの気持ちもありま・・・て、何を言っているんだ!」

「カズミさん!貴方は、スズネに暖かな感情を取り戻す事の出来る、大事な殿方なのですよ」

シズネはカズミの両肩に手を置き、語りかける。

「陽の感情がスズネに満ち溢れれば、あの子の成長を止めた、魔石の影響も無くなる」

「そうすれば、スズネは!」

「そう、あの子の体は成長する。そして、スズネとカズミさんの子供も・・・」

「だから!僕は!?」

「じっくり考えてください。カズミさん、スズネの事をお願いします」

「分かりました、スズネは僕にとって大切な人・・・全力で、頑張ります」

「カズミ!何を全力で頑張るんだ?」

「クラリスさん、茶化さないでくださいよ!」

「カズミ・・・スズネを全力で守ったこと、すごく格好良かったぞ・・・」

「あー、イリーナまで!」

すると、少し赤らめた表情をしたスズネが、カズミを見つめた。

「カズミ、これから長い人生になると思いますが、よろしくお願いします」

その時初めて、スズネの笑顔を見た。

まだ表情が固かったが、それでも精一杯の笑顔だった。

「こちらこそ、よろしくお願いします。やっぱりその顔がいいよ!」

「・・・努力・・・します」

「じゃあ、行こうか!」

こうしてカズミ達は、上条神社を後にした。

カズミは新たな力を、スズネは何にも変えがたいものを、手にしたのであった。

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