第2節、7話 逆襲の激震
第一クウォーターのが終了し、ロッカールームに戻ったアースクエイクスの選手たち。イリーナにやりたい放題にプレーをされ、3つのタッチダウンを許してしまった。
唯一の救いはナイナーズが、フィールドゴールを全部外した事であろうか。
疲労困憊の選手達に、ティアンは声をかける。
「18対7か、第一クウォーターはこっぴどくやられたな」
「申し訳ない、イリーナ・バニングとカズミ・サワタリに好き放題やらせてしまった。すべては俺たち、ディフェンス陣の責任だ・・・」
「別にお主らを攻めているわけではない。ただ、あの二人をどう止めるか考えないとな」
「申し訳ない・・・」
「謝るな、謝るな。
そんなことよりも、どうやったら最高のプレーを出来るか考えんか?ロッカールームに引き下げる時に観客席を見たが、ファンのみんなは目をギラギラとしておったわ。
お主らが最高のプレーをして、勝利と栄光を掴むことを楽しみにしていたぞ!」
「ヘッドコーチの言う通りだ!万年最下位になっても、熱心に応援してくれたファンに、こんな無様な姿を見せ続ける訳にはいかねえ。ナイナーズの奴等に一矢を報いらないと、死んでも死にきれねえ!」
「ようやく、良い目してきたな。これなら最高のプレーが、出来そうじゃ」
「ところでヘッドコーチ、アーニャはどうしたんですか?さっきから姿が見えないんですけど」
「あやつは今、第一クウォーターの映像にかじり付いておる。何でも気になった事があるそうじゃ」
「そう言う事ですか。しかし、カズミには、まいりましたね。地震のなか、どうやって正確なパスをしてるんでかね?」
選手達の疑問に、ティアンは苦笑いをする。
「カズミが地震の中、正確にパスできる理由は分かったよ」
「本当ですか!で、どんな事をしていたんですか?」
「それはな・・・」
一方、リードをして第一クウォーターを終了したナイナーズ。
フィールドの地震の為か、選手達に疲労はあったものの、ロッカールームは活気に溢れていた。
「第一クウォーターは、よくやった!特に、イリーナとスズネとカズミ、この三人の活躍で大量点を奪うことができた。
そしてキーンを代表とするラインの面々、苦しい状況だったが、よく耐えてくれた」
「ラインとしては苦しい展開だったが、持ちこたえた甲斐があったぜ。
イリーナ達の得点お陰で、疲れも吹き飛んだぜ!」
「その意気だ、キーン。この後も、今のペースで言ってくれ」
「任せてくれ!ゴルドさん。ところで、一つ気になったんだが。地震のなか、カズミは涼しい顔でパスをしていたな。あれは、どうやったんだ?」
キーンの疑問に、スズネは答える。
「簡単な話です、式紙でカズミを浮かせました・・・」
「浮かせた?俺たちには、カズミが立っているようにしか、見えなかったぞ」
「見えなくて当然です。相手にばれないように、靴の裏に式紙を張り付け、3㎝ほどしか浮かせていないので・・・」
スズネの説明に、キーンは驚きの表情を見せる。
「ひぇー、そんなことをしていたのか!イリーナも普段通りプレーしていたが、同じように式紙を使っていたのか?」
「イリーナですか?彼女には、なにもしていませんよ・・・」
「おいおいおい!嘘だろ?この地震の中で、普通にプレー出来るわけねえだろ!」
スズネは、少し呆れた表情をした。
「私もそう思ったので、スズネに式紙の提案したのですが、丁寧に断られました。
他のメンバーにリソースをさいてくれと。
最初はイリーナが、レー出来るか心配していましたが、要らぬ配慮でした。
身体能力とバランス感覚で、地震をねじ伏せていました・・・」
「なんだよそれ!!」
衝撃の告白に、ロッカー悲鳴めいた声が上がった。
「これがカズミとイリーナの、マジックのタネ。ああ、イリーナにはマジックのタネは無いか。文字通りの力業じゃからな」
ティアンの言葉に、アースクエイクスの選手は絶句する。
自分達の対戦相手、イリーナ・バニングがとんでもない選手だと言うことを、改めて思い知ったのだ。
「おーい、お主ら大丈夫か?いかん、この話をしたのは失敗じゃったか」
意気消沈したロッカールームに、勢いよく開けられたドアの音が響き渡る。アーニャが息を切らしながら戻ってきたのだ。
「ティアン!映像をみて分かったよ。違和感の正体が!」
「おお!分かったか。だがアーニャ、何度言えば分かるんだ?人前ではその名前で呼ぶな!せめてコーチと呼べと」
ティアンは、アーニャの両頬を引っ張る。
「ふぇー、ごめんなさい!もう言わないから許してー」
これを見た選手達から、ゲラゲラと笑い声が溢れだす。先ほどまでの暗い雰囲気が一変、部屋は賑やかな笑いに包まれていた。
アーニャのやつ、暗い雰囲気を変えようと、わざとやったのか?だとしたら侮れん奴じゃ。
「して、何か分かった?」
するとアーニャは、タブレットpcをとり出し全員に見せながら、説明を始めた。
「・・・で右側にパスをするときはこうで、左側にパスをするときはこうなんだ。みんな分かった?」
説明が終わった瞬間、ティアンはアーニャ頭をグシャグシャと撫でる。
「よくやったアーニャ!これで逆転への展望が、見えてきたぞ。よし!時間はあまりないが、ミーティングを始めるぞ」
「ハイ!」
大量失点をし、第一クウォーターを終えたアースクエイクスだったが、選手達の目は死んでいなかった。逆転を信じ、選手達はフィールドに飛び出す。
主審のホイッスルが鳴り、第二クウォーターの時計が動き出す。
「タッチダウン!アースクエイクス」
「これで第二クウォーター、二つ目のインターセプトリターンタッチダウン!
すごいぞアースクエイクス。アースクエイクスのアバランチは、もう止められない!」
マイクを手に取ったアースクエイクスのチアガールが、選手やファンを鼓舞し、それにファンも盛り上がる山雪崩のごとく、凄まじい地鳴りがスタジアムを揺らす。
「主審、タイムアウトだ!」
アースクエイクスに流れが変わった事を察知したゴルドは、たまらずタイムアウトをかける。
「カズミどうした?インターセプト未遂を含めて、これで三度目。いったいどうなっているんだ?」
カズミのパスが信じられないゴルドは、驚きを隠せない。
ゴルドの問いに、カズミが辛うじて答える。
「多分・・・フォームの癖を、盗まれました。前にも、野球の試合中に盗まれて、滅多打ちにあった事があります」
青ざめた顔をしたカズミの肩を、イリーナがポンポンと叩く。
「少しは落ち着いたか?で、癖は試合中に修正出来そうか?」
「無理だよ。自分でもどんな癖があるのか解らないのに、修正なんて出来るわけがない」
「どうにもならない・・・か」
カズミの申告に、事態がどれだけ深刻か理解をしたメンバー。
しかし、スズネだけは何かを考え、答えを導きだそうとしていた。
「カズミ。この後も、普通にパスをしてください・・・」
「そんなことをしたら、またインターセプトをされるよ!」
「ナイナーズ、そろそろ時間です!プレイを再開してください」
長引いたタイムアウトに、主審が再開を促す。
これ以上試合を止めると、ペナルティーを取られかねない事もあり、渋々とプレイを再会する。
「カズミ。私を信じてください。何とかしますから・・・」
スズネの真意は解らないが、気休めを言う人間ではないのは、僕も知っている。
「スズネを信じて、プレーをするしかないか」
第2クォーター6:39 ファーストダウン 残り75ヤード 18対21
カズミのフォームを注視するアーニャ。
彼のパスがどちらに飛ぶか、投げる寸前のファームで、パスコースを見抜いていたのだ。
「投げる時に、ボウルが頭に隠れたら左手側。ボウルが見えたら右手側に、カズミは投げる。ね、簡単でしょ!」
カズミの癖が分かった事に、沸き立つアースクエイクスだったが、一人の選手があることに気がつく。
「これ、スーパースロー映像だから分かったが。カズミのパスモーション、無茶苦茶早いぞ。試合中に見分けられるか?」
チームメイトの疑問にアーニャは、頭を抱える。
ずば抜けた動体視力を持ったアーニャは、何とか癖が解るが、他の選手が解らないのではなにも意味がない。
頭を抱えるアーニャ対して、ティアンが耳の辺りをツンツンとつつく。
「お主の耳に付いている、インカムは何じゃ?大変じゃと思うが、試合中指示を出してくれ」
「ああ、ごめん。うっかりしていたよ!」
「よし、お主ら。言ってこい!」
「オウッ!!」
キーンからボウルを受け取った、カズミを見つめるアーニャ。
彼の癖を見逃がさぬよう、目を皿にして見つめる。
「上条式式紙、幻影投影・・・」
カズミの周りに、霞みがかかった次の瞬間!アーニャの視界から、カズミが消失する。
「カズミの癖を見抜かれているのなら、彼の姿を消すだけ・・・」
「しまった!」
アースクエイクスの動揺の隙を付いて、マークを振り切るイリーナ。
相手のディフェンスラインを、自慢のパワーで強引に突破突破していく!
「パスコースが出来た!これならいける」
何もない所から突然現れたボウルは、誰も止める事も出来ずイリーナにボウルがわたる。
「まだだよ!石の靴[ストーンオブブーツ]」
アーニャの手から放たれた、足を石に変える魔法が、イリーナに襲いかかる。
「そうはさせません!上条式式紙!式紙、[邪よこしま]なる術を打ち消したまえ!」
スズネから放たれた式紙は、間一髪の所で石の靴[ストーンオブブーツ]を打ち消す。
石化の危機を免れたイリーナは、無人のエンドゾーンへ走り、タッチダウンに成功する。
「タッチダウン!ナイナーズ」
主審のコールに、アースクエイクスは側はため息をつき、ナイナーズ側は喜びを爆発させる。
これに勢いづいたナイナーズは、第三クウォーター中盤までに大量のリードを奪ったのだ。
「タッチダウン!ナイナーズ」
「入ってしまった!これで48対21しかし、私たちが諦めてはいけません!みなさん、今こそ選手達に、応援が必要です。最後まで、熱い応援をお願いします!」
チアリーダーは必死に選手とファンを鼓舞していく。それに答えるように、ファンも応援を続けていく。
「そうだ!俺たちは諦めてないぞ。去年もこんな苦しい事は会った。
だが最後は逆転した、最後まで信じている。頼むぜアースクエイクス!」
「ウォーオ、ウォーオ、ウォーオッ、タ・イ・タ・ン!ウォーオ、ウォーオ、ウォーオッ、タ・イ・タ・ン」
逆転を信じるファン達は、声を枯らせながらも応援を続けている。ファンの思いとは裏腹に、だが選手達は気持ちが切れてしまっていた。
負け癖。長年負け続けると、負けるときの流れが解ってしまい、最後は気持ちが切れてしまうと言う。
本来アースクエイクスは、万年最下位のチーム。
去年はプレーオフに侵出したとはいえ、長年の負け癖と言うものは、そう簡単に抜けるものではない。
在籍年数が長い選手であるほど、諦めの感情が心を蝕む。
「みんな、まだ試合は終わってないんだよ!諦めちゃダメだよ。去年だって、もっと苦しい試合だってあったのに」
「アーニャ。確かに点差で言えば、確かにもっと苦しい試合が会ったさ。
だが、イリーナ・バニングが止められない。この試合は、もう終わっているんだ・・・」
選手の無念に満ちた言葉に、アーニャは何も返せなかった。
アーニャ自身も、イリーナを独走させ止められない責任を感じていた。だからこそ、この試合は終わっている、この一言に返す言葉が無かった。
スーッ、フー・・・・・・
ヘッドコーチのティアンは息を吸い込み、大きく吐き出す。
呼吸に関する全ての筋肉を活用し、腹部を膨らまし直ぐにへこませる。
ティアンは再び息をすい、大きく吐き出す。
「お主ら、何をやっておる!!!最後まで信じているファンがいるのに、恥ずかしくないのか?万年最下位でも、お主ら見捨てる事は無くどこのファンよりも、熱く応援し愛してくれたじゃないか!
それなのに、こんな仕打ちをするのか?ここで、諦めてどうする!今、ファンは逆転を信じて応援している。それに答えなくて、どうするんだ!」
耳をつんざかんばかりの大声が、スタジアム中に響き渡る。
ティアンの声に、スタジアムは静寂の包まれ、時が止まってしまったかの様だ。
「コーチの言う通りだ。ファンのみんなが応援しているのに、僕たちが諦めちゃダメだよ。
負け始めると諦めてしまうなんて、ここで終わりにしようよ
。
今日勝てば、イリーナ・バニングを相手に大逆転をしたチームとして、歴史に名を残せるんだよ。最高のプレーをして、ファンに喜んでもらおうよ!」
アーニャには、チーム脈々と受け継がれた、負け癖の心は無かっい。
当然と言えば、当然だろう。
彼女は、選手として負け続けた日々を経験していないのだから。若手、外様、負け癖の付いてしまったチームを変えるのは、いつの時代も新しい選手[血]だ。
「アーニャの言う通りだ。俺たちは負け続け、心が腐っていたのかもしれない。
でもファンは、俺たちを見捨てず応援し続けた。今こそ、ファンに恩を返すときだ。
お前ら!今出来る、最高のプレーをするんだ、ただそれだけを考えてプレーをするんだ。」
「オウッ!!」
やれやれ、やっと変わってきたか。長かった、実に長かった。
これで、新しいアースクエイクスがスタート出来る。
感傷深げに選手を見つめる、ティアン。
ここが勝負所と見るや、観客席に振り返り、手を下から上に挙げる動作を繰り返す。
更なる応援を、ファンに要求しているのだ。
「みんなー!ティアンが、私たちの応援を必要としてるのよ!私たちチアが、声がかれるまで応援するから、みんなの力を分けて!」
ティアンとチアガールの要求に、ファンが一体となり史上最大の地響きを起こす。
「おうおう、これじゃこれじゃ!これならいける。アーニャ聞こえるか?これからギガクエイクをやるんだ」
ティアンはインカムを通して、アーニャ作戦を伝える。
「え?ちょっと待ってよ、あれはまだ未完成の魔法。
それに、この地響きのなかギガクエイクをやれば、フィールドだけでなく、観客席にも影響が・・・・・・」
「ワシを誰だと思っている、観客は全力で守る。だから、ギガクエイクをぶちこめ!」
「分かったよ。僕のギガクエイク、ご覧あれ!」
「頼んだぞ、アーニャ」
一方ナイナーズ側。ティアンの喝とスタジアムの異様な雰囲気に、選手達は飲み込まれ初めていた。
「いいか、お前ら!ティアンが観客を、わざわざ鼓舞してきたんだ。なにか仕掛けてくるぞ!」
ゴルドの言葉に、ナイナーズの選手達は頷く。
「コーチ、主審が笛を吹き次第、ギガクエイクをいくよ!」
「よし来た!後は任せろ」
主審がホイッスルを鳴らし、ナイナーズはキックの準備を始める。
「地の神タイタンよ。我が敵を滅ぼし、愛すべき者を守るため、貴女の力をお借りします。
全力解放、ギガクエイク!地の神の前に、ひれ伏せ!」
得点により、ディフェンス側に回ったナイナーズ。キックをしようとした瞬間だった。フィールド全体にヒビが入り、地面から発生する大量の岩が、選手達に襲いかかる。
「しまった!早くみんなを守らないと・・・」
予想外の高火力魔法に、スズネの障壁[バリア]での対応が、僅かに遅れてしまう。
「木の神、火の神、土の神、金の神、水の神、そして、風の神よ!どうか、我らを守りください」
スズネが詠唱で無防備になった瞬間を、アーニャは見逃さなかった。
「やっと隙を見せたね!巨岩よ、スズネを押し潰せ!」
突如スズネの足元から、更に巨大な岩石が襲いかかる。四方八方から襲いかかる巨岩は、スズネを押し潰す。
「しまった。最初から、私がターゲットだっ・・・」
スズネは最後まで喋ることは出来ず、岩石の中で押し潰され、こと切れた。
ガッガッガッ!岩石を砕く音が、スタジアムに響き渡る。
「スズネ、大丈夫か!スズネ!」
岩石を必死に砕く、イリーナとクラリス達。
彼女達の努力が実り、ようやく岩石の中からスズネが顔を出す。
何とか岩石の中から救助されたスズネだが、彼女の意識は無い。
「頭は固定したか?よし、医務室に連れてってくれ」
クラリスの指示を元に、救護スタッフがスズネを医務室に運んでいった。
ボロボロになった、戦友を見送るイリーナ達。アーニャの高火力魔法は、予想外の出来事だった。
本来妨害型[コントローラー]であるアーニャは、高火力魔法は不得手だ。だが、今回の魔法の威力は砲台型[バッテリー]のそれを、遥かに上回る物だった。唯一の救いは、スズネ以外に退場者を出さなかった事だろうか。
「スズネが僕達を守ってくれた。けど・・・」
チームを守ってきたスズネの退場は、致命的だった。
ナイナーズの脆弱なラインは、スズネ障壁に支えられていた。故に彼女の退場は、チームの崩壊を意味している。
「試合終了まで、後20分くらいか。スズネが私達を守ってくれたんだ。この試合に勝たなければ、顔向けが出来ない」
「けど、あの魔法がもう一度来たら・・・」
カズミの心配に、クラリスが答える。
「それなら大丈夫だろう。あのクラスの魔法、連発できるものではない。
しかし、アーニャのヤツとんでもない切り札を隠していたな」
「ですね、妨害がメインで攻撃はからっきしだと思ていたのに」
「カズミの言う通りだ。アーニャは攻撃が、からっきしさ」
「だったら何で!」
「簡単な話さ。スタジアムの地響きを、増幅させたんだよ。
普段は妨害をメインにしているから、日の目を見ないが、本来の型[タイプ]は補助型らしい。
と!主審がそろそろ再開しろと、催促しているぞ。カズミ、後は頼んだぞ!」
「はい!必ず勝って、スズネに顔向け出来るようにします」
「よし、いってこい!」
ナイナーズの選手達がフィールドに戻り、試合は再開する。
「タッチダウン!アースクエイクス」
「フィールドゴールも決め、これで48対42!ようやくエンジンが掛かってきた。これもみんなの応援のおかげだよ!第4クウォーターも残り五分、最後まで応援するぞー!」
「アースクエイクス、アースクエイクス」
チアリーダーが、リフトからのジャンプを決めると、ファンも思いっきりジャンプをしスタジアムに地震を起こす。
ナイナーズは追い詰められていた。残り時間が五分とは言え、タッチダウンで同点。その後のフィールドゴールも決まれば、逆転と言う状況だった。
「主審、タイムアウトだ!」
残り時間でのプレー方針を決めるため、ゴルドはタイムアウトを宣言する。
「ナイナーズ、タイムアウト」
ナイナーズの選手達は、ゴルドの元へ集まる。
「サードダウンも攻撃に失敗した上に、エンドゾーンまでの距離も50ヤード以上もあるか。
カズミ!失地回復のため、パント(ボウルを出来るだけ遠く蹴って、相手のスタート地点を後方にする戦略)を選択するか。
それとも、ギャンブルで攻撃を続けるか、お前さんならどうする?」
重要な場面の作戦を、ゴルドに聞かれると思わず、若干慌てるが自身の直感を信じて回答をする。
「僕なら、パントを選択します」
「理由を聞かせて貰おう」
「ギャンブルで攻めるよりも、パントをした方が、得点のチャンスがあると思ったからです。パントで相手を後方に押込み、何らかの方法でボイルを奪うことが出来れば、エンドゾーン近くで攻撃の権利を獲得出来るからです」
「良い回答だ!自分で作戦を考え、理由も説明出来ている。
急な質問で悪かったな。では、今回はパントでいくぞ!」
「オッス!!」
第4クォーター5:09 フォースダウン 残り53ヤード 48対42
主審のホイッスルと共に、ナイナーズはパントで失地回復狙う。ボウルを受け取ったエッジが、パントを試みる。
しかし、スタジアムの地震のせいか、あまり距離が伸びない。
「みんな!ボウルをキャッチしたら、僕が魔法で掩護するから、全員で攻め込めー!」
アーニャの指示は単純なものだったが、勢いに乗ったチームには、充分な言葉だった。
「僕らのアバランチは、もう止められないよ!」
アーニャはアースクエイクスの攻撃を、アバランチと呼ばれている事を気に入っていた。
最初はファン達が、大勝した記念に冗談でつけた名前らしい。
しかし今では名通り、相手を押し潰すアースクエイクスを象徴する攻撃名となっている。
まさに山雪崩[アバランチ]。怒とうの攻撃で、ナイナーズを押し潰そうとしていた・・・はずだった。
「あっ」
アースクエイクスの選手が、ボウルをキャッチする瞬間。
アーニャのギガクエイクので発生した、小石を踏んでしまい、ボウルをファンブル[とり損ね]をしてしまったのだ。
慌ててボウルを拾おうとするが、目の前にはイリーナが迫っていた。
先ほど蹴ったボウルが山なりになり、距離が伸びなかったせいで、イリーナがボウルに追い付いてしてしまったのだ。
「イリーナが前にいる!急いで、ボウルを拾って」
「遅い!」
両チームの選手がボウルを拾おうとするが、先に拾ったのはイリーナ。
ボウルを拾ったイリーナは、エンドゾーンを目指し突っ走る。
「イリーナを、全員で止めろ!」
ティアンの指示を元に、全員でイリーナを潰しにかかる。
しかしイリーナ、スピードとパワーで押切り、エンドゾーン手前まで前進をする。
エンドゾーン手前まで進んだが、カズミは悩んでいた。
「スペースがほとんど無い・・・」
エンドゾーン手前までくれば、簡単にゴール出来るかと思うが、僅かなスペースに24人の選手が密集しているのだ。
空きスペースにボウルを投げて、キャッチというプランが取りづらくなる。
「主審、タイムアウトをお願いします」
カズミのタイムアウトで、選手が集まる。
「さて、どうしようか。スペースが無い上に地震で、正確なパスも出来ない」
困ったカズミは、ふと周りを見渡す
。
「チアリーダー、か・・・ん?待てよ」
チアリーダーを見つめるカズミが気になったのか、イリーナ声を張り上げる。
「試合の大事な時に、何を見ているんだ!そんな事をしている場合か!」
「イリーナ!チアリーダーだよ、チアリーダー!」
「何を言っているんだ?」
「つまり、こう言う事なんだ」
カズミはイリーナに耳打ちをするが、必死に笑いを堪えている。
「気は確かか?どうやったら、その発想出来る?」
カズミの突飛な発想に、苦笑いするしか無かった。
「でも、イケてるでしょ?」
「ああ、イケてる!そしてイカれてるよ!」
スズネの解答に、今度はカズミが苦笑いをする。
第4クォーター4:31 ファーストダウン 残り3ヤード 48対42
主審のホイッスルがなり、プレーがスタートする。
ボウルを受け取ったカズミは、パスを出す瞬間だった。何と、自ら走り出したのだ。
スタジアムの地震で、普段通りに走れないが、着実に前進をする。
「ス、スクランブルだ!カズミがエンドゾーンに、飛び込むよ!まさか彼が、走り出すなんて」
カズミの行動に驚きはするも、何とか指示を出すアーニャ。
これまではスクランブルどころか、固定砲台の如く、全く移動をしなかったカズミ。
その彼が、走り出したのだ。アースクエイクスにとって予想外の行動は、奇襲としては充分過ぎた。
エンドゾーン中で構えた選手は、慌てて前に出てくる。
アースクエイクスがエンドゾーン手前に壁を作った瞬間、カズミはイリーナに向かって走る。
「カズミ達は何を考えている?」
アーニャが疑問に思った、その時だった。
「いくよイリーナ!」
「任せろカズミ!」
イリーナはカズミを掴んだかと思ったら、何とエンドゾーンに投げ飛ばしたのだ。
スクランブルに対応するために、前に出てきたアースクエイクスには、為す術も無かった。
放物線を描いたカズミは、くるりと一回転しエンドゾーンに着地をする。
「タ、タッチダウン、ナイナーズ!」
余りにも非常識なプレーに、呆然とするアースクエイクスの選手達。
それに対し、奇襲を成功させたナイナーズは、勝ったの様な悦び様だ。
「やったよ、イリーナ!ナイススローだよ!」
「私もボウルを投げた事はあるが、人を投げたのは初めてだよ!しかしなんだ、チアリーダーのリフト[持ち上げ]を見て、この作戦を思い付くなんて」
「お前ら!まだ試合は終わっていないぞ、気を引き閉めていけ!」
「その通りじゃ!まだ試合は終わっていない」
選手は、呆然としていたが、ティアンは冷静だった。
「お主等、何を呆けておる!まだ試合は続いているぞ。これからが、祭りのフィナーレだと言うのに、最高のプレーをせんか!」
ティアンの激に、呆然としていた選手達は、我にかえる。
「コーチの言う通りだ!まだ四分もある。諦めるには早いよ!ここで諦めたら、僕らを応援してくれてるファンに、申し訳ないよ!」
「アーニャの言う通りだ!この四分で逆転してやろうぜ!」
アーニャの前向きな姿勢が、選手の闘志に火を付けたようだ。
その後アースクエイクスは、驚異的な粘りを見せる。一度は自陣のエンドゾーン付近まで押し込まれたが、スタジアムの地震を利用したディフェンスで、何とか持ちこたえる。
タッチダウンの6点を諦め、フィールドゴールで3点を狙ったナイナーズだった。
だが、スタジアムの地震は、やはり驚異。
結局、ナイナーズが試みたフィールドゴールのキックは、全て失敗。アースクエイクスを突き放せない、原因となっていた。
攻撃に失敗したナイナーズは、アースクエイクスの猛攻に合い、残り時間二分で失点をしてしまう。
そして残り時間9秒、アースクエイクスの攻撃。エンドゾーンまで後、五ヤード。後わずかで、試合が終わろうとしていた。
第4クォーター0:09 フォースダウン 残り5ヤード 54対49
カズミはベンチで、祈ることしか出来なかった。彼はクォーターバックとしては、スーパープレーを見せる選手だが、ディフェンス能力は皆無であった。
故に、ディフェンスの時は、ベンチで待つしか無いのだ。この時ばかりは、自身の無力を呪うしかなかった。
「後ワンプレーなんだ。頼む、何とか耐えてくれ!」
熊のように歩き回るカズミを見かねたか、ゴルドは静止するよう促す。
「カズミ。お前さんの気持ちは分かるが、少しは落ち着いたらどうだ?」
「ゴルドさん、ごめんなさい。けど、この状況で落ち着いて居られないですよ」
自身の思いを、ゴルドにそのまま伝える。
「だがな、フィールドの選手が、今のお前さんを見たらどう思う?不安になるだろう。ベンチにいるものは、なにも出来ない。俺達は、フィールドの選手の邪魔をしてはいけないんだよ。
だから、どっしりと見ていなきゃいけないんだよ。いつかお前さんが指導者になったときには、わかると思うがな」
いつもレギュラーで居たカズミにとっては、新鮮な言葉であった。
自身がフィールドでプレイしていたとき、控えの選手はこのような気持ちで居たのだと、改めて実感をしたのだった。
同じ場所で彷徨いていたカズミは、どっしりとベンチに座った。
「それで良いんだ。俺達は待つことしか出来ないんだ。
どんな結果になろうと、終わったら選手達を出迎えようじゃないか」
「ゴルドさん、ありがとうございます!」
「最高のプレー、見届けていこうか」
一方、アースクエイクス側。アーニャとクォーターバックの選手フレディは、苦悩していた。
イリーナと言う、とてつもなく大きな壁を越える術が無かったのだ。
エンドゾーン手前に来たため、スペースが無いと言う悩みを抱えていた。しかもスペースが狭いために、イリーナ守備範囲が増えてしまうと言う、皮肉な結果となっていた。
「どうするアーニャ。俺達もスクランブルをかけるか?」
「ダメだよ。あちらがスクランブルを成功させた以上、こちらのスクランブルも警戒しているよ」
「万事休すか・・・」
アーニャの解答に、フレディはため息をついた。
「ごめんね、キャプテンなのに力になれなくて」
「なに言ってんだよ!ここまで出来たのは、アーニャのお陰だ。気にする必要はねえよ」
フレディの気遣いに、アーニャはなんとも言えない気持ちになっていた。
主審の笛が吹き、アースクエイクスの最後のプレーが始まった。
フレディは、パスを投げるコースがない。このままパスできなければ、ボウルを奪われて試合が終わっちゃう。
何とかしなきゃ!
パスを躊躇しているフレディに、ナイナーズの選手が襲いかかる。
だが、パスコースが無いこの状況では投げることが出来ない。
ボウルを奪われ試合が終わると、誰もが思っていた。
フレディがボウルを捕られようとしたその時だった。
あろうことか、アーニャがボウルを奪い取ったのだ!
フレディに向かっていた選手は、アーニャからボウルを奪い取ろうとするが、小柄な体格を生かし、何とかすり抜けていく。
「アーニャを止めろ!」
アーニャが魔法で掩護すると思い込んでいた、ディフェンス陣は、反応が遅れる。
その隙を見逃さず、アーニャはエンドゾーンに向かい、手を伸ばしジャンプをする。
だがイリーナが、アーニャに止めようとすぐ近くのまで迫っていた。
「この身に宿りし炎は、全てを焼きつくす。その身に刻め、バーニングステーク!」
イリーナの右腕は美しい炎を纏い、そこから繰り出す鉄杭で、アーニャを串刺しにしようとしていた。
「我を守れ!ダイアモンドウォール!」
それに対抗するは、アーニャを包み込むダイアモンドの障壁。炎の鉄杭とダイアモンドの障壁が、火花を散らしぶつかり合う。
「このんおっ!砕け散れ!」
「ダイアモンドの障壁は、砕けないよ!」
ダイアモンドの障壁は、見事にアーニャを守りきる。
「僕の・・・勝ちだ!」
アーニャとイリーナ対決は、アーニャの勝利だった。だが、アーニャのジャンプはエンドゾーンに、後1ヤード届かなかった。
アースクエイクスのプレーが終わり、主審は笛を鳴らす。
「試合終了。勝者、39ナイナーズ!」
勝者は悦び雄叫びをあげ、敗者はその場でうずくまっていた。
後一ヤード、いや30㎝に満たない距離。この僅かな距離が、勝者と敗者を分けたのだった。
フィールドで項垂れている選手達を、ティアンは一人一人にてを伸ばし起こしていく。起こした選手を労い、最後に残ったアーニャに手を伸ばした。
「お疲れさん!」
「ティアン、ごめん・・・最後は勝手なプレーをして、しかも負けちゃった」
「何を言う、お主は最後まで勝てる可能性に賭けた。
それを責める奴は、このスタジアムに誰一人おらん。
それよりも、最後まで応援してくれたファン達に礼をせんか!」
最後まで応援してくれたファンの元に、アーニャ達選手は集まる。
ファンはアーニャの、これから発する一言を待ち、静かに見守る。
「ファンのみんな!今日はホーム開幕戦に、来てくれてありがとう!なのに・・・今日は勝てなくて、ごめ・・・」
ファン達の顔を見ていたアーニャだったが、言葉に詰まり、溢れる涙を隠すようにうつ向く。
「アーニャ達は最後まで、諦めずに最高のプレーをしてくれたました!
私たちは最後まで私たちを楽しませてくれたあなた達を、誇りに思います。
さあ、みんな!最後まで奮闘したアースクエイクスの選手に、最高のエールを送るよ!」
マイクをもったチアの掛け声で、ファン達は選手達を鼓舞した。
「ウォーオ、ウォーオ、ウォーオッ、タ・イ・タ・ン!ウォーオ、ウォーオ、ウォーオッ、タ・イ・タ・ン」
「みんな・・・ありがとう。プレーオフまで進んで、今度はナイナーズに勝つよ!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、感謝をするアーニャであった。
勝利の悦びを程ほどにし、引き上げるナイナーズの選手達。カズミとイリーナは、スズネの眠る医務室へと向かった。
「クラリスさん、スズネ状態は」
心配をカズミの頭をぽんぽんと、優しくなっでた。
「心配は無い。ダメージは受けているが、後遺症が残る様なものじゃない。じきに起きるさ」
クラリスの予想は当り、すぐにスズネは目を覚ました。
「お、今日のMVPがお目覚めだぞ」
クラリスは、スズネを茶化す化のように声をかけた。
「MVPですか。と言うことは、勝ったのですね・・・」
「そうだ、勝ったんだよ。まあ、MVPはあたしの独断だがな!」
スズネは恥ずかしがりながらも、嬉しそうに微笑んでいた。
「カズミ、私がいなくなった後の事を、聞かせてくれませんか・・・」
「うん。あの後の試合展開は、こんな感じだったよ」
カズミとイリーナは、面白おかしく試合内容を伝えていく。
「なるほど。カズミは、人間砲台の球にになって飛んでいったのね。その発想は確かに愉快ですね・・・」
スズネ達が試合を振り返り、談笑している時だった。
コンコン!鉄のドアを叩く音が、部屋に響き渡る。
「アースクエイクスの、アーニャです。お見舞いに来たんだけど・・・いいかな?」
アーニャの申し訳なさそうな声に、スズネは返答をした。
「アーニャ、気にせず入ってきてください・・・」
スズネの声を聴いて安心したのか、アーニャは医務室にはいってきた。後ろからは、ヘッドコーチのティアンも続く。
「スズネ、体・・・大丈夫?」
申し訳なさそうにしているアーニャの手をとり、語りかけた。
「アーニャ、ファンタズムボウル中の事です。貴女が気にやむ事はありません」
「本当にごめんね」
「責めるなら、未完成のままギガクエイクを使わせたワシを責めてくれ」
アーニャだけでなく、ティアンまで謝罪し始めたことに、スズネは戸惑いを隠せなかった。
「い、いえ。私は大丈夫です。ですから、二人ともお顔をお挙げください・・・」
スズネの言葉に少しずつだが、アーニャも笑顔を取り戻していく。
「スズネ、ありがとう。しかし考えてみれば、無理矢理ギガクエイクを使わせたティアンも悪いのか。と言うか、ティアンもタイタン様なんだか・・・あ・・・・・・」
途中まで言いかけたが、自分が言ってはならない秘密を言いかけた事に気がついた。
だが、遅かった。そこには、顔は笑っているが目が笑っていない、ティアンが居たのだ。
「お主、何をばらしてる!その口か!その口なのか!」
「ふえー、ごめんなさい。もう言わないから許してー」
「ワシの秘密をばらして、ごめんなさい?ばれてしまったのじゃ。もう遅いわ!」
ティアンも適当に惚ければ良かったものの、予期せぬ言葉に慌て、自身がタイタンであることを認めてしまったのだった。
この事態は、カズミ達もパニックに陥れた。
「ちょっと待って!タイタン様は、男性ではなかったのですか?と言うか、お姫様をお嫁さんに欲しくて、助けたのでは?」
「あのとき姫が・・・に見えたんじゃ」
ティアンは絞り出すように、声を出した。
「え?」
「あのとき姫が、美少年に見えたんじゃ!ワシは男装をした姫を、美少年と勘違いしたのじゃよ!」
ティアンは頭を抱え、カズミ達は衝撃の告白に、ただ口を開けるだけだった。
「あの時、ワシは独り身じゃった。
だが、あの者はワシの元へ来てくれると言った。それはもう、嬉しいの一言じゃった。テネスの国を守った時、約束の通りワシの元へ来てくれた。
じゃが、今まで美少年だと思っていた者は女性じゃった・・・なんでも、追っ手を巻くための変装じゃったらしい」
「じゃあ、姫様にお帰り頂いたのは」
「おなご、だったからじゃ。
その後も彼女の子孫が来てくれたが、みんなおなご、じゃった」
「なぜ言わなかったのですか?男子が良いと」
イリーナは少し飽きれぎみに、質問をした。
「つまらん意地があったのかもな。だが、ある時姫の生まれかわりと見違える者が来た。それが、アーニャじゃ。余りにも嬉しくて、人の姿になって人前に出てしまったわ」
「まあアーニャは子孫なのですから、似ていても不思議では無いですね。あれ?アーニャは女の子ですよね?」
カズミの問いに、アーニャとティアンは向き合い何か相槌をうち始めた。
「実はな、アーニャは男なのじゃよ」
「「「「ええええー!」」」」
予想外の答えに、カズミ達四人は驚きを隠せなかった。
「いや、待ってください。こんなに可愛いのに、男の子のわけ無いじゃないですか!」
「それについて、説明をしようか。ある時じゃが、いつも通り一日ほど会って帰ってもらったのじゃが、たまたま運が悪くテネス国を災害が襲ったのじゃ。
ワシが激怒していると勘違いしたのか、次々とおなごがワシの元を訪ねた。
まあ、みんなお帰り頂いたが。人間は慌てると、とんでもないことをすると言うが。ワシが気に入る者がいないと、何故かアーニャを女装させてワシの元へこさせたのじゃ」
ティアンの告白には、カズミ達もただ驚くばかりだった。
「でも、アーニャを女装させたままなのは何故ですか?」
「それはワシが女だとわかると、風当たりが厳しそうじゃったからの」
「この国には、まだそう言う風土残っているのでしたら、仕方がないですね・・・」
スズネの考えに、ティアンとアーニャはうんうんと頷いた。
「あとね!僕がこの姿なのは、可愛いからそのままでいてほしいと言われたからなんだよ!始めてあったの日なんか、一日中僕を抱きしめていたし」
「アーニャ何をばらしている!お主と言う奴は!」
「じゃあ、僕のことは嫌い?」
ティアンは、顔を赤らめながらも答える。
「もちろん・・・好きに決まっている。永遠にワシの元に居てもらうのじゃから・・・」
ティアンさんは普段は凛々しく、タイタン様としての役割りを果たす人なのだが、こうしてみると恋する乙女なのだなとカズミは実感をしたのだった。
「ですがアーニャは人間で、ティアンさんは神です。いつかは別れの時が来ると思うのですが、大丈夫なのですか?」
「大丈夫だよスズネ!僕は百年たとうが千年たとうがこの姿のままだよ。ずっと一緒にいられるように、僕を半精霊にしてもらったんだ。だから、大好きなティアンと一緒にいられるんだ!」
アーニャの告白に、ティアン頭から湯気をだし真っ赤になった顔を、ただ覆い隠すだけだった。
「ティアンさん。あたしからも、質問をしていいですか?何故、アースクエイクスのヘッドコーチになったのですか?」
クラリスの質問に、先ほどまでのろけ話に悶絶していたティアンだったが、一瞬で顔つきが変わった。
「それはな、負け続けても応援しているファンを見ていたら、アースクエイクスを勝たせたくなったからじゃ。
まあ、最初は大変じゃたな。選手としても、指導者としても経験はなかったしな」
数々の苦労があったのだろうか、それを思い出すよう懐かしげな顔をしていた。
「そういえば、お主。将来は指導者になるのか?なんでもS級ライセンスを持っているそうじゃないか」
「まだ、わかりません。将来、機会があれば」
「なら、ひとつアドバイス。
幸運の女神様は、前髪は長く後ろ髪は短い。チャンスだと思ったら。すぐ飛び付き、絶対離すな!」
「ありがとうございます、ティアンさん!」
「幸運を祈っているよ。大分長居をしてしまったな。これで失礼するよ。あ、そうじゃ!ワシがタイタンだと言うことは、秘密にしておいてくれ。頼んだぞ」
「じゃあ、みんな!またねー」
騒がしかった医務室は、一瞬で静寂に包まれる。
「嵐のような、一時だったね」
「だな。あ、FFL倶楽部が始まる。スズネ!リモコンを借りるぞ」
リモコンを取ったイリーナは、さっそくテレビの電源を入れた。
「今日も始まりましたFFL倶楽部。司会兼リポーターのサスガです、よろしくお願いします。
同じく司会兼解説のワカバです、よろしくお願いします。本日注目の試合は、アーソン・バニング率いる、オリオール・セイントナイツVSシールトン・ブルースキンズの一戦です」
「父さん、頑張っているな」
「セイントナイツのヘッドコーチは、イリーナのお父さんなの?」
「ああ、去年の終盤からヘッドコーチを勤めている」
「お父さん、か・・・」
イリーナの父であるアーソン・バニングは、娘と正反対の人物に見えた。口ひげは剃っているものの、顎には無精髭があり、コートはクチャクチャ。しかしちょいワルオヤジ的な魅力溢れる男性に見える。
「注目は、新加入の・・・。第二クォーターで、・・・は7人以上の選手を倒しセイントナイツは、ノックアウト勝利をしました。これで開幕2連勝です!」
「イリーナ。ノックアウト勝利て、何?」
「ファンタズムボウル、ワールドルールその2。ひとつのクォーターで、7人以上の選手を戦闘不能状態に追い込んだ場合、勝利と栄光を得る。一言で言うと、7人以上倒せば勝ち。こんなところだ」
「勝利を納めた、セイントナイツ。次はホームで。39ナイナーズとの一戦です。注目は、イリーナ・バニングとアーソン・バニングの、親子対決。そして・・・と、イリーナ・バニングの因縁の対決。これは目が話せません」
プツッ。FFL倶楽部を見終わったイリーナは、テレビの電源を切った。
「次の試合に勝てば、3連勝。勢いに乗ることが出来る。次の試合、絶対勝つぞ!」
その後もイリーナ達は、今日勝利を悦び語り合った。




