第2節、6話 激震のアースクエイクス
イリーナは、食べる。
「おばあちゃん、リブステーキおかわり!」
「あいよ!」
イリーナは、黙々と食べる。
「おばあちゃん、ポテトセットおかわり!」
「あいよ!」
「クラリスさん、今度の対戦相手。アースクエイクスについて聞きたいんですけど」
「アースクエイクスか、どんなチームかと聞かれたら・・・難しい質問だな。簡潔に言えば、セーフティーリードが存在しないチームだな」
「セーフティーリードが存在しない?」
「言った通りさ。あいつら相手にセーフティーリードなんて、無いと思った方がいい。
20点だろうが、30点だろうが、調子づいたらそれくらいの点差をひっくり返してくる」
「クラリスさんの言葉の通りなら、セーフティーリードなんて無いものだ」
「そう言うこと」
イリーナのたべっぷりに、カズミは一つの疑問が浮かぶ。
「前々から気になっていたけど、油っ濃いものを、こんなに食べていていいの?」
「[ふぁんふぁ?(なんだ)]ふぉんはぁほほ[そんなこと]、ひひはひひてひはほは[心配していたのか]」
「イリーナ、口に食べ物を頬張ったまましゃべるのは、止めなさい・・・」
「仕方ない、あたしが説明しよう」
「ほぉふぁはへ、ひはふ[お願いします]」
「だから、口に食べ物を頬張ったまましゃべるのは、止めなさい・・・」
スズネは少し、呆れていた。
「ここにある料理は、一見油っ濃いものに見えるが、実は違う。調理後に、キッチリ油を落としているんだよ」
「まさか、油を落とせる機械が発掘されたとか、言いませんよね?」
「その通り!物分りのいい子は、私は好きだぞ!」
「けど、少しの油でもあれだけ食べれば、かなりの量になるのでは?」
「そこは、イリーナさ。体のなかで燃焼して、マナに変換しているよ。
見てみな、イリーナ体から、僅かに熱気が出ている。あれが、油をマナに変換している瞬間だ!」
「なるほど。そんな仕組だったんですね」
「でも、イリーナの太らない体質が、羨ましいよ。特に胸だけに集まる体質が、羨ましすぎる!」
「この間、体重と体型の話をしたばかりなのに・・・」
「それでも、羨ましいものは羨ましいんだ!あたしなんか、全体にまんべんなくついているのに!」
悔しがるクラリスだが、カズミから言わせれば、彼女も魅力に見える。
顔はほっそりとし、メリハリのついたボディー。特に上半身の膨らみはイリーナに僅かに負けるものの、一般的なサイズと比べると、かなりのサイズだ。
全体にまんべんなくついていると卑下をしているが、裏を返せばさわり心地の良い、ふかふかボディーとも言えるだろう。
それでいて、引き締まっているところは、引き締まっているし、言うほどの事ではないと思うのだが?それに、メガネの下から除く瞳は、理知的ですごく魅力的に見えた。
「うーん。クラリスさんは、理知的で大人の魅了が溢れる、キレイな女性だとおもうけど?」
次の瞬間、クラリスの表情が、一瞬で赤くなる。
「いいいいい今、何て言った?」
「いや、理知的で大人の魅了が溢れる、キレイな女性と、言いましたが。もし気にさわったのなら、ごめんなさい」
「カズミは、やっぱりいい子だなー。あたしに、ここまで言うやつ、見たこと無いぞ」
「クラリスさん。カズミは、女性に対してキレイだと思ったら、そのまま口に出してしまう人です。ですから、変な気を起こさないで下さいね・・・」
「それでも、面と向かって言われたのは、うれしいさ。あーこのまま、カズミを連れて帰りたいぞ!」
それ聞いたイリーナが、一瞬変な声を出し。次の瞬間、急に苦しみ出しだのだ。
「大変だ!イリーナが、喉を詰まらせた!誰か、ドクターを呼んで来て!」
「目の前に、あたしが居るだろ!おい、今からこのメモに書いたもの取ってきてくれ、今すぐだ。イリーナ、今助けるからな」
楽しい食事は一変、重い空気に包まれる。
ドクターの冷静な処置により、イリーナは息を吹き替えす。
「ふー、死ぬかとおもった!ドクター、驚かせないで下さいよ」
「イリーナ、お前が食べ過ぎたせいだろ。まったくー、まあ無事で何よりだ」
クラリスの顔は、仕事をやりきった顔をしていた。
「全くです。このまま死んだら、明日の新聞には、イリーナ・バニング食べ過ぎによる窒息死と、一面に乗るところでしたよ・・・」
「面目ない。では、口直しにステーキを食べるか」
「イリーナ、今話を聞いていたのか?」
クラリスはイリーナの行動に、呆少しれた様子だった。
「おばあちゃん!次はテネスステーキで、焼き加減はレアで」
「じゃあ、僕もステーキを注文するかな。すみません!ステーキを一つ」
「焼き加減と味付けは、どうしますか?」
「うーん、どうするかなー」
「私は焼き加減はレアで、わさび醤油を勧めるぞ」
「いやいや!テネスのステーキなら、焼き加減はウェルダンで岩塩をまぶすのが、一番だよ!」
「誰だ!」
そこは、褐色でショートヘアの小柄な娘が、立っていた。
「僕だよ、イリーナ」
「アーニャか。不意だったから、少し驚いたぞ」
「ごめんごめん。あ、初めての人が居るみたいだし、自己紹介をするね。アーニャ・チェチカ、テネス・アースクエイクスに所属しているよ。よろしくね!」
「サワタリ・カズミです。よろしくお願いします」
「アーニャ。貴女は、挨拶に来たわけでは、無いのでしょ?他に何か目的があって、来たのでしょ・・・」
「スズネは察しがいいねー!早速本題に入ろうか。カズミ・サワタリ、君には来客の儀を受けてもらうよ」
「来客の儀?」
「そう、来客の儀。君は初めてこの国に来た人だから、タイタン様に来客だと認めてもらう必要がある」
「わかった。食べ終わった後でもいいかな?」
「もちろん!ジャンジャンッ、食べてってよ!」
「ありがとう。ところでアーニャ、来客の儀はどういうものなの?」
「それについては、この国の歴史も含めて説明するよ。おばあちゃん!ウェルダンのステーキで、味付けは岩塩で!」
「じゃあ、僕もウェルダンのステーキで、岩塩でお願いします」
「はいお待ち。ウェルダンステーキ、岩塩の味付けだよ」
「では、いただきます」
テーブルにならんだステーキを目の前に、僕は思わず言っていた。
「では、いただきます」
「それで、アーニャ。来客の儀と、この国の歴史だっけ?」
「うん、食べながらになるけど説明するね。
まずは歴史。この国テネスは昔から大国に隣接し、奴隷狩りを目的とした侵略を受けていた。
侵略は何度も続き、国はどんどん疲弊していった。
そして大国はテネスを陥落させるため、数万の兵士を送り込んむ。
国境に迫る大部隊に、皆が絶望をした。そのとき!国境付近で、大地震が発生したんだ。
峠道を進行していた大部隊は、アバラシア山脈の山雪崩に巻き込まれ、全滅をしたそうだ。こうして、テネスに平和が訪れました。第一部、完」
「と言う事は、次もあったの?」
「うん、部隊は山雪崩で全滅したけど、王様は生きていたからね。
強欲な王様は数年後、他の国に攻めこんだ。
その上、その国の王女を無理矢理自分の結婚相手にしようとしたんだ。困った王女様は、この国を訪れ助けを求める」
「お願いです。我が国は、大国の王に侵略を受けています。どうか我が国を、助けていただけないでしょうか」
「テネスの王様は困った、まともに戦争をすれば負けるからだ。前回も戦争は、山雪崩による幸運で助かっただけだからね。
そのとき、大国からの宣戦布告が届いた。
王女様を匿ったと思い込んだ大国の王は激怒し、テネスを再び侵略始める。
それを聞いた王女様は、大変悲しんだ。自身の行動が、テネス滅亡の危機に導いたのだからね。
王女様は、テネスの守護神である、タイタン様にある願いする」
「タイタン様、私はどうなっても構いません。ですが、テネス人々は何も悪いことをしていません。
悪いのは、この国に押し掛けた私です。私はどうなっても構いません。ですから、この国の人々をお守り下さい」
「汝はどうなっても良いと。では、私が大国の王様を抹殺したら。私のもとへ来ると、約束出来るか?」
「タイタン様からの言葉に、王女様は驚きました。しかしタイタン様の言葉に、こう答えました」
「この国を守っていただけるのなら、私がどうなろうと構いません。
例え私が、人身御供になったとしても、この国の人々が救われるなら、私は幸せです」
「わかった。汝の願い、聞き入れた」
「タイタン様は、王女様の願いを聞き入れるため、国境へと向かう。
前回、山雪崩に巻き込まれた為、アバラシア山脈迂回し、平地からのルートを選んだ、大国の王」
「前回は山雪崩に巻き込まれ、部隊は全滅した。だが今回は平地、山雪崩の恐れは無い。さあ、地震だろうが山雪崩だろうが、何でも来い!」
「ふむ、何でも来いとな。では、これはどうかな?」
「王様の耳に、声が聞こえたかと思うと。突然足元が割れ、王様と部隊は、奈落の底へと落ちていった。
タイタン様は地割れを起こしたのだ。こうしてテネスの国は、救われました。めでたしめでたし」
「ちょっと待って!そのあと、王女はどうなったの?もしかして、タイタン様の人身御供に・・・」
アーニャは、ニヤリと笑った。
「大丈夫だよ。タイタン様は、そんな酷い事をしなかったよ。
王女様は、タイタン様のおられる神殿によばれ、一日を過ごしました。
次の日、神殿から出てきた王女様は、人々にこう告げた」
「私の子孫が、タイタン様に使えればそれで良いと。
その後王女様はテネスの王子と結婚し、幸せになりました。
王女様の子孫は、代々タイタン様に使えるシャーマンと、なりましたとさ」
「と言う事は、アーニャは、王女様の子孫なの?」
「まあ、そうなるね。この国の歴史は、これで終わり。次は、来客の儀だね」
「どんな事をするの?」
「簡単だよ。タイタン様に、ご挨拶をするだけ」
「それだけ?」
「うん、それだけ。まあ、この国は侵略をされた国じゃない。
だから、タイタン様がこの国に害をなす者か、見極めているんだ。
と言っても、タイタン様から許否された人は、今まで一人もいないけどね。
よし、みんなご飯食べ終わったし、タイタン様の所に、行こうか!」
アーニャの話を聞き終えたカズミ達は、タイタン様の祭られている、神殿へと向かった。
アーニャ案内された、カズミは目の前にそびえ立つ神殿を前に、圧倒されていた。
「これが、神殿・・・」
大理石で出来た神殿は、巨大な屋根を無数の柱で支えている。まるで、ギリシャ神話に出てくる神殿のようだった。
入口から中に入ると、タイタン象の前に立つ、一人の女性がいた。
「あ、ティアン!」
ティアンと呼んだ人にたいし、アーニャは手を振った。
「お、アーニャか。それに来客が居ると言う事は、来客の儀を始めるのだな」
「うん、これから始める所だよ」
「なるほどな。して、アーニャ。人前では、その呼び方は止めろと言っただろ!いつになったら、それを覚えるんだ。せめて、コーチと呼ばんか!」
ティアンはアーニャほっぺを、両手でグニグニと伸ばした。
「ふえー。ごめんなさい、ティアン。もう言わないから、手を離してよー」
「んー?またティアンと呼ばれた気がするが、ワシの耳が遠くなったのかのー?」
「あのー、もうその辺で許してあげては」
「ああ、すまなかったな。来客の儀するのに、待たせてしまって。アーニャ、早速来客の儀を、初めてくれ」
「わかりました!」
アーニャは、つねられたほっぺたを擦りながら、答えた。
「じゃあ、カズミ。来客の儀を始めようか。僕が終わり!と言うまで、タイタン様の象に向かって立ち、目を閉じてね」
「わかった」
時間にして、1、2分くらいだろうか。神殿内は、静寂に包まれた。
「はい、終わり!来客の儀、お疲れ様でした。これでカズミは、正式な来客と認められました」
「最初は緊張したけど、今は清々しい気分だよ」
「でしょでしょ!ここで、来客の儀やお祈りすると、みんな心が晴れやかになるんだよね!」
「では、わしの自己紹介をするとしよう。ティアン・ラチア。
テネス・アースクエイクスで、ヘッドコーチをしている、よろしく頼む」
ティアン・ラチア。さっき見た選手名鑑の中に、この人も紹介されていた。
選手歴、指導歴の無い異色の経歴の持ち主で、去年からアースクエイクスの指揮をとる、ヘッドコーチ。
経験の無い彼女の実力を疑問視する者も多かった。
だが、彼女の戦術と戦略はベテランのヘッドコーチと、遜色無いものを見せつける。
結果、万年最下位だったチームを建て直し、見事にプレーオフへと導いた。
そして、彼女の神秘的な美しさは、多くのファンを、魅了しているとか。
確かに、肌は色白で、粉雪の様な美しさだ。サラサラとした銀髪で、腰まで伸ばした髪は、その肌とマッチして彼女の美しさを引き立てていた。
「初めまして、サワタリ・カズミと言います」
「おぬしが、サワタリ・カズミか。先日の試合は、見事じゃったぞ。
特に、防風の吹き荒れるカゼカミフィールドでの正確なパスは、驚きを隠せなかったぞ。
久々に、良い物を見せてもらった!」
「あ、ありがとうございます。そこまで見て頂いているなんて、光栄です」
「わしはファンタズムボウルを観戦するのが大好きじゃからの。見れる範囲なら、全部チェックしている。
所でおぬし、明日の試合には出られそうか?」
ティアンの質問に、カズミの表情は強張る。
「ああ、悪気は無かったのじゃが、すまなかったな。だが、おぬしと対戦出来る事を、楽しみにしていたのでな。つい、聞いてしまった」
「こちらこそ、ごめんなさい・・・」
僕が謝ると、彼女は僕の両肩に手を置き、僕の目を見つめたのだ。
「良い目をしている。非常に、良い目をしている。
だが、その目からは、迷いと恐怖が見て取れる。何かお悩みかな?」
彼女の言葉に僕はつい、パスが出せない事を、話してしまう。
「なるほど。パスが、以前の様に出せないと。アーニャ!今すぐボウルを持ってきてくれ!」
「はい!」
「いったい、何をするんですか?」
「軽くボウルを、投げるだけじゃよ」
「はい、コーチ。ボウルを持ってきました」
「ありがとう、アーニャ。ではカズミ、早速始めるか」
僕とティアンは、神殿内でキャッチボールを始めていた。
時折、僕の投げるボウルは乱れたが、彼女は難なくキャッチをして見せた。
「なるほどな。幼少からの鍛練が、おぬしのパスをここまで正確なものへとしているのか。
すまなかったな、急な申し出で」
「いえ。こちらこそ、正確にパス出来なくて、ごめんなさい・・・」
「謝るな謝るな、もっと楽しめ!」
「今は、楽しめ無いです・・・。こんなにボウルをコントロール出来ないのは、初めてですし」
「なるほどな。じゃが、パスが乱れるのは、おぬしの心に恐怖と迷いがある。
それが、パスの瞬間に手元を狂わす原因になっておる」
「僕はどうすれば、良いのでしょうか?」
「やることは、シンプルじゃ。楽しんでプレーをするのが、一番じゃな。
何か良いキッカケがあれば、良いのじゃが」
「ティアンヘッドコーチ、ありがとうございます。敵である僕を、こんなにも心配して頂いて」
「よいよい。わしはおぬしの、プレーを気に入ったからな」
「どうして、そこまで・・・・・・」
「簡単な話しじゃよ。ファンタズムボウルは、最高のお祭り。
最高のプレーとプレーがぶつかりあう事で、ファンは熱狂をする。
ならば敵であろうと、最高のプレーを願うのは当然じゃろ?」
敵となる相手から、最高のプレーをしてほしいと、言われると思っていなかった。
彼女にとっては、ファンタズムボウルと言うお祭りを、ファンと一緒に楽しみたいという心が伝わってきた。
「なんか悩んでいた僕が、馬鹿馬鹿しく見えてきた!ティアンさん、ありがとうございます」
「良い目をしている。どうやら、吹っ切れたようじゃな!では、フィールドで会える事を、楽しみにしているぞ」
「はい、フィールドで最高のプレー見せます!」
僕は、彼女に礼を言い、神殿を後にした。
「すごく楽しそうだったね、ティアン!」
「まあな。これで最高のプレーとプレーが、ぶつかり合える。明日が楽しみじゃわ」
彼女達は、明日の試合が最高のお祭りなる事を、夢に見ていた。
翌日。カズミはアースクエイクスのホーム、タイタンスタジアムのフィールドにたっていた。
試合前、最後の練習をカズミとイリーナで、行っていた。
「パスの精度が、だいぶ良くなって来たじゃないか」
「何とか間に合って良かった、後でティアンさんにお礼をしなきゃ」
それを聞いたクラリスは、安堵の表情を浮かべる。
「全くだよ。あたし達では、どうにも出来なかったのに、敵から助けられるとは思わなかったさ。
敵に塩を贈るとは、こう言う事を言うんだろうな」
両チームの、オープニンクセレモニーが終わり、試合開始の時刻が迫っていた、その時だった。スタジアムを、突然の地鳴りが襲う。
「な、なんだ!地震?」
慌てるカズミを、イリーナが諭す。
「慌てるな、ただの応援だよ」
「応援て、この地鳴りが?」
「そうだ。これがアースクエイクス名物、タイタンジャンプ!観客のジャンプは、[地震]を起こし、12人目選手として相手に牙を剥く」
カズミは、地震に戸惑っていると、相手のファンから、声援が聴こえてきた。
「ウォーオ、ウォーオ、ウォーオッ、タ・イ・タ・ン!ウォーオ、ウォーオ、ウォーオッ、タ・イ・タ・ン」
声援と共に地鳴りは、更に勢をましたが、カズミどこか楽しそうだった。
「カズミはなんだか、楽しそうだな」
「まあ、楽しいと言うより、懐かしいかな?僕の地元チームは、ジャンプで地鳴りを起こしながら、応援をしていたからね」
「なるほどな」
スタジアムの電気が一瞬消え、アースクエイクスベンチ前のチアリーダーに、照明の光が集まる。
チアガールの一人がマイクを手に取り、観客達に呼び掛けていく。
「さーみんな!試合開始まで、あとわずか。今日の対戦相手は、強豪アイアンマインズを破った、39ナイナーズだよ。
アースクエイクスが勝つためには、みんなの声援が必要だ!さあ、張り切って応援していこー!」
「ウォーッ!アースクエイクス!アースクエイクス!」
「先週の、試合と違って今日は応援が賑やかだね」
「うちのチームとアイアンマインズは、応援が大人しい方ですからね・・・」
「なるほどね」
カズミはチアリーダーの声援に、一瞬見とれてしまった。
「カズミはあう言う風に、応援をして貰うのが良いのか?」
「僕はあう言う応援が好きかな。何て言うか、みんなで一体感になる感じで良いし」
「確かに、一番応援を楽しんでいる子供たちを見ていると、そう思うよ」
イリーナの言うことに、カズミはうなずく。最前列では、子供たちがチアリーダーの真似をしながら、楽しそうに踊っている。
「あの光景を見ていると、うらやましくなりますね・・・」
「そういえば、来月くらいからチアが結成されるらしいな」
「本当かドクター!」
クラリスの発言にカズミ以外の、男性陣が沸き立つ。
「おいお前ら、馬鹿騒ぎをしている場合か!これから試合だぞ!」
ゴルドの言葉に、チームの空気が引き締まる。
「前回は暴風に守られ、俺たちは勝つことができた。
だが、今回はない。そして俺たちは、[地震]の洗礼を乗り越えねばならない。いいか!フィールドに最後まで立ち、勝つのは俺たちだ。行くぞ!」
「オッス!!!」
一方、アースクエイクスベンチ。ヘッドコーチのティアンの言葉に、選手達の表情が引き締まる。
「いいかお前達!先週は強豪ブラウニーズに勝つことが出来たが、今日の試合に負けてしまえば何の意味もない。
今日の試合に勝って、スタートダッシュを決めたいものだ!とまあ、ちょいとがらでは無いことを言ってしまったかな?
いいかお前達!わしらに出来ることは何だ!」
「最高のプレーを!ファンと一体になれるプレーを!」
「よろしい。わしらの祭りの幕開けじゃ!」
「ウオーッ!!!」
「試合開始2分前です。両チームのキャプテンは、フィールド中央に集まって下さい」
フィールド中央には、ナイナーズのキャプテン、キーン。アースクエイクスのキャプテン、アーニャが集まる。
試合と言う事もあってか、今日のアーニャはシャーマンとしての衣装を身につけている。
彼女の褐色の肌は、チューブトップとパレオで包まれていた。
「よう、今年からキャプテンだってな。若いのに大変だろ」
「やることは多いけど、結構楽しいよ。
それにね、キャプテンになったお陰で、フィールドをコントロールしやすくなったしね」
「なるほどな。今日の試合、楽しみにしているぜ!」
「うん!最高のプレーを。最高のお祭りを見せるよ!」
「ぬかせ!勝つのは俺たちだ!」
二人の応酬に割って入るように、審判が声をかける。
「では、これからゾーンと先攻後攻を決める、コイントスを行います。
私がコインを隠したあとに、表か裏か宣言をしてください」
審判の親指から弾かれたコインは、左手の甲を下に、右手で覆い隠す。
「裏だね!」
「先越されたか、表だ!」
「では、開けます。勝者アースクエイクス!」
審判の宣言に、アーニャは拳を上げる。次の瞬間、スタジアムは大歓声に包まれる。
「じゃあ、後攻をもらおうかな」
「後攻だと?アーニャ、何を企んでる?」
「さあ、なんだろうね?試合が始まってからのお楽しみにだよ!」
「ちげえねえな」
コイントスを見届けた二人は、自分のチームへ戻っていく。
「ゴルドさん、あいつら後攻を取りやがった。何か企んでいるぜ?」
「考えられるとしたら、アースクエイクスが得意のブリッツか。スズネ!相手はカズミから、ボウルを奪いに来るはずだ。障壁でのフォローを頼んだぞ」
「はい、わかりました・・・」
審判はホイッスルを鳴らし、試合開始開始。
ディフェンス側のアースクエイクスは、ボウルを敵陣へキックし相手の攻撃に備える。
それに対し、オフェンス側のナイナーズ。
自陣最後方でボールを受取り、エンドゾーンへ向かい疾走する。
しかし立ちはだかるは、ファンの起こす地震。
地震への対応に苦慮している選手に、アースクエイクスのタックルが襲い掛かる。相手のタックルにより、ナイナーズの疾走は止まってしまう。
「くそったれが!毎回思うがここの地震、どうにかならねえか?」
あまりにも酷い縦揺れに、キーンは悪態をつく。
「仕方ないですよ、ここは相手のホームですし。
それに先週は、暴風の恩恵を受けて試合を有利に進めていましたし。だから、文句は無しです」
「そりゃあ、そうだな。ルーキーのカズミに言われちゃ、文句は言えねえ。
だがこの地震は平気なのか?俺は嫌いだぜ」
「うーん、最初は不意でびっくりしましたけど、なれました!」
「なれましたって、どんな神経をしてるんだ?」
カズミの発言に、キーン戸惑いを隠せない。
「僕の故郷は、地震が多い国でしたから。感覚が、麻痺をしているのかも知れません」
「そうか、頼りにしているぜ、カズミ」
ひと言告げると、キーンは自分のポジションへと向かう。
第一クォーター14:23 サードダウン 残り52ヤード
ナイナーズの選手は、各ポジションに付く。カズミは、周りの状況を確認し、自分のポジションに付く。
「さてと、最初のパスはどうするかな?先週みたいに、イリーナを止めきれる選手はいない。
となると、抜け出した所でパスをする。もしくは、イリーナを囮に両サイドの、ワイドレシーバーにパスをするのもありか。
問題は、この縦揺れとブレイカーのアーニャ。
この二つに対処を出来ないと、勝ち目はない」
それに対し、敵の後方を見つめるアーニャ。
自分の魔法で、カズミとイリーナを止めきれるか。
この試合の勝敗は、アーニャがフィールドをコントロール力に掛かっていた。
「カズミとイリーナ、あの二人をどう止めるかな?すべては僕の力次第か。
まずはご挨拶に、一発かましちゃおうか!」
審判はホイッスルを鳴らし、試合は動きだす。
「まずはこれかな![砂岩塵]!」
アーニャ詠唱より生み出された、こぶし程の大きさの岩石は、前線を通りすぎカズミへと襲い掛かる。
「そうはさせません。五行障壁・・・」
アーニャの岩石に対し、スズネはカズミの前に障壁を張る。
この障壁はどんな強力な攻撃でも弾く、鉄壁の障壁。
大きさもパワーもない岩石ならば、余裕で弾く、はずだった・・・。
岩石が障壁に触れた瞬間爆発し、なんと障壁が無効化されたのだ。そしてカズミ前砕けた岩石が粉塵と化す。
それは、カズミの視界を塞ぐには、十分な物だった。
「な、なんだこの粉塵!周りがなにも見えないよ!」
カズミが粉塵戸惑っている間に、さらにアーニャは詠唱を始める。
「次はこれだ![石の靴]!」
前線で戦っているイリーナ達の足元に、小石がぶつかり弾ける。すると、小石は足を包み込み石の靴と化したのだ。
「しまった!」
[石の靴]による足止めを受けた瞬間!アースクエイクスの二列目の選手が一斉に飛び出し、カズミへと襲い掛かる。
アースクエイクスのブリッツを、警戒してはいたが、足止めを受けたオフェンスラインは、易々と突破されて行く。
「カズミ、ブリッツだ!二人の選手が、襲い掛かるぞ!」
「だめだ、周りがなにも見えない」
目眩ましに戸惑うカズミ。
ボウルを奪わせまいとボウルを投げ捨てようとするも、タックルを浴びボウルを手からこぼしてしまう。
カズミの手から離れ、空中でフリーとなったボウルを掴み取るアースクエイクスの選手。所謂インターセプトと言うものだ。
砂煙の中から飛び出した選手に、スズネの反応は遅れ、簡単に突破を許してしまう。ナイナーズの最終ラインを突破した選手は、エンドゾーンへ走り込む。
痛恨のインターセプトであった。
「アースクエイクス、タッチダウン!」
最初のタッチダウンは、ホームのアースクエイクスだった。審判のコールにスタジアムの盛り上がりは、頂点になる。
一方、開始早々に失点を喫したナイナーズ。カズミは何が起きたか理解出来ず、ただ立ち尽くすだけだった。
「何が起きたんだ?あんな小石で、どうして障壁が割れるんだ?」
障壁を消された原因が分からず戸惑うカズミに、イリーナは声をかける。
「恐らく、障壁を割ったのではなく、打ち消したんだ」
「[ディスペルマジック(打ち消し)]ですね。ダメージを与える事は考えず、障壁を割った上に、目眩ましまでするとは。ひたすら妨害に徹する、アーニャらしいですね。流石と言いましょう・・・」
状況を理解したカズミは、冷静さを取り戻す。
「どうする、スズネ。例えアーニャの魔法を防いでも、地震が僕のパスを妨害する。かなり厳しい状況だよ」
「ですね、私の式紙でアーニャを妨害しても、焼け石に水でしょうし・・・」
「式紙?」
「はい、上条家に代々伝わる秘術です。私は偵察や敵の妨害に使っていますが、何分パワー不足で・・・」
「うーん。式紙、式紙・・・ねえスズネ、ちょっとしたアイディアがあるんだけど、聞いてくれない?」
カズミは、スズネ耳元に小声で考えを伝える。
「それくらいでしたら、簡単にできますが、何のため・・・そういう事ですか。
これでアーニャに、ひと泡吹かせることが出来ますね・・・」
「うん!では、この作戦で行こうか」
「わかりました、カズミ。アーニャがどんな顔を見せるのか、楽しみです・・・」
耳打ちをする二人を見つめるアーニャだが、余裕の表情であった。
「あの二人、何かたくらんでいるみたいだけど、そう上手くは行かせないよ」
第一クォーター13:16 サードダウン 残り51ヤード
先ほどの地点と、ほぼ同じ地点で攻撃を始めるナイナーズ。審判のホイッスルと同時に、カズミに[砂岩塵]が襲い掛かる。
「目には目を、歯には歯を。上条式式紙!式紙よ、[邪]なる術を打ち消したまえ!」
[砂岩塵]は、カズミの手前で式紙の[ディスペルマジック(打ち消し)]で打ち消し、続く[石の靴]も、打ち消すことに成功した。
「お見事!けれど、地震を止められなきゃ、パスを通す事は出来ないよ!」
「それはどうでしょうか?アーニャ、貴女の思い通りにはさせません・・・」
ボウルを受け取ったカズミは、敵を振り切ったイリーナの元へロングパスを試みる。
カズミのパスは、地震の影響を全く受けていないかのように、正確なパスをする成功させる。
あり得ない事態を目にしたアーニャは、戸惑いを隠せない。
「え?どうして。何で?この地震の中でパスができるの?」
自慢の俊足と身体能力で、アースクエイクスの選手をかわすイリーナ。
彼女も地震をものともせずに走り、タッチダウンを決めた。
「タッチダウン、ナイナーズ!」
イリーナのタッチダウンに、盛り上がるナイナーズ。
その後も二つのタッチダウンを決め、第一クォーターを終了したのであった。




