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第2節、5話 試合前の安息

この世界は、やはり不思議だ。

例えば、このカゼカミと言う国。街並みは江戸時代だが、マゲは結っていない。それどころか、ドワーフやエルフ、他にも多数のデミヒューマンなどが存在する。


科学レベルについては、僕の世界より数段上に見える。しかし、自分達の文化を大切にしているのか、コンクリートとは無縁の木造建築が立ち並ぶ。

街並みの感想をスズネにぶつけた所、面白い話を聞けた。


「この街の木造建築ではなく、木造建築のようなものです。

昔は大火が堪えなかったらしく、一夜で街が焼失したこともありました。

カゼカミは風吹き荒れる国ですので、当然ですね。

ですので、耐火性のある物にしたのですが、今までの街や文化を残したいかったらしく見た目だけは以前の物を残しました。

その為、見た目は古風。中身は最新技術と言う、物が出来ました。

まあ、私は木のぬくもりは好きですし、良いのですけどね・・・」


古い文化と近未来の、テクノロジー。

江戸の街並みに、ファンタジーの住人。このごちゃごちゃ具合いを、僕は気に入っている。



次の試合は、アウェイの為、僕らは空港へと向かっていた。


「はい、パスポートの確認は、終わりました。良い空の旅を」


「ありがとう」


エルフの搭乗員から、パスポートを受け取り、乗り組み口へ向かう。その先に、あったのは飛行船だった。


「うわぁ、飛行船だ!この世界は、これで移動するのか!」


「カズミは飛行船、初めてか?中はそこそこに広いし、ゆっくり出来るぞ」


「イリーナ達は、いつもこれで移動しているの?」


「そうだ。大陸に行けば、列車での移動もあるのだが、カゼカミは島国だ。

とうしても、移動手段は飛行船がメインになる」


「なるほど。まるで、日本みたいだ」


「ニッポン?なんだそれは?」


「ああ、僕の生まれ故郷で、カゼカミとよく似ている国だよ」


「なるほど。今度行ってみたい物だな」


「おーい、二人とも。これからミーティングを行うから、大広間に来てくれ!」


「あ、今行きます!クラリスさん」


そう言うと、カズミは、大広間へと入って行った。



「まもなく、テネスに到着します。

本日も、エアカゼカミをご利用頂き、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください」


タラップから降り、僕らを待ち受けていたのは、一面の荒野だった。


「空港の周りは、何も無いのか」


「空港から街まで30分ほど移動すれば、街がある。それまで、食事はお預けだな」


「イリーナ、到着早々いきなりこばん?」


「この国の、ごはんはいいぞー。

熱々のステーキ、ジューシーなフライドチキン、サクサクのポテト、他にも色々あるんだよ。ああ、楽しみだ!」


「イリーナ、よだれか出ています。早くぬぐって下さい・・・」


スズネの指摘に、我に返ったイリーナは、いつもの引き締まった顔に戻った。


「恥ずかしい所を見せてすまない、だが!」


ぎゅるるるー。イリーナのお腹から、空腹の知らせが、響きわたる。


「この辺に、今すぐ食べられる所は無いか。あった!ちょっとハンバーガーを買って来るが、二人はいるか?」


「私はいいです・・・」


「僕も食べたくなってきたし、一緒に行こう」


「よし、急いで行こう。この時間なら、チキンステーキハンバーガーは、あるはずだし」


イリーナに連れられ、早速ハンバーガーを頼んだが、そのボリュームにびっくりした。

上から、パン、チキン、キャベツ、ステーキ、パンと言った具合いで、夕食前にこれだけ食べてしまって良いか、少し不安になってきた。


「どうした、カズミ。食べないのか?」


「いや、このボリュームを見て、夕食前に食べて良いものかと・・・」


「これくらいの量、すぐ食べられるようになるさ」


そう言うと、イリーナは黙々と食べ始めた。それにつられ、僕も食べ始めたが、凄く美味しい。

パリパリのチキンに、熱々のステーキ、それにキャベツとパンに特製ソースが、食慾を増進させた。


「ふー、おいしかった!」


「気に入って、もらって貰えたかな?」


「うん、この世界の食事は、凄く美味しいよ。けど、こんなに食べて、夕食を食べられるかな?」


「大丈夫だ、美味しいから」


大丈夫だ美味しいからは少し意味不明だったが、美味しくて完食をした。

この世界に来てから、僕の食事量は、どんどん増えている。



ホテルで一夜を過ごしたカズミに、スズネから外出の誘いがあった。


「カズミ、今日は気分転換に外へ出掛けませんか・・・」


「うーん、今日は練習をしたいんだけど」


「それについては、ドクターから貴方の練習をストップさせてくれと、指示がありました。

ですので、代わりに外出のお誘いをしたのです・・・」


「分かった!準備するから、ちょっと待ってて」


「では、私も着替えて来ます・・・」


スズネは、そう言うと、自室へ戻った。

スズネも、僕に気を使ってくれてるのかな?だとしたら、感謝しなきゃ。


「時間を掛けて、ごめんなさい。お待たせしました・・・」


お出かけ用に、着替えて来たと思うのたが、スズネのイメージチェンジに、僕は驚いた。

腰まで下ろしたロングヘアーは、ポニーテールで結び、赤くて可愛いリボンで纏めていた。

スカートに黒タイツと言う出立ちは、いつものも和装と違う雰囲気を、醸し出していた。


「・・・」


「どうしましたか・・・」


「凄く・・・可愛い」


声には出さなかったものの、スズネは少し、驚いた顔をする。


「あ、貴方は、面と向かって、キレイとか可愛いと言うのですね・・・」


「ご、ごめん」


「別に、怒ってはいません。女性としては、可愛いと言ってもらえるのは、うれしいですから・・・」


「良かった。じゃあ、早速出掛けようか!」


「あ、待ってください・・・」


イリーナの気持ちが、少しわかりました。

口説くのではなく、自然と出てくるその言葉。

今まで、いろんな女性を、こういう気持ちにしてきたのでしょうね・・・



カズミとスズネは、観光がてらにテネスの街を歩く。この街の特徴は、なんと言っても石だろう。

建物から、舗装された道路。挙げ句の果てには、アースクエイクスのホームスタジアムまでが、石で作られていたのだった。


「へえー、何でも石で作られているんだね。でも、この辺は地震が多いと聞いたけど、大丈夫なの?」


「大丈夫です、この地の人々と建物は、タイタンの加護に守られています・・・」


「タイタン?」


「この地を守る、神ですね。カミカゼにも、シナツヒコの神がおられるように、テネスにもタイタンの神がおられるのです・・・」


「この世界は、何処にでも神様がいるんだね」


「ええ。人々が崇める神も様々で、珍しい所では、死神やブラウニーを、神と崇めている地域もあります。

この世界、ファンタズムは、神々に守られし地ですから・・・」


「なるほど、凄く分かりやすかったよ!今度は他の地域の事も、教えてよ」


「わかりました。時間を見て、少しずつ話していきましょう・・・」


一通り街を歩いた二人は、イリーナとクラリスに合流するため、待ち合わせ場所のカフェへと向かった。


「おーい!二人とも、こっちだ!」


カフェではすでに 、イリーナとクラリスが待っていた。


「お待たせ!イリーナ、ドクター」


「よし!カズミ、スズネ、イリーナ。、作戦会議を始めようじゃないか」


「こんな開けた場所で、いいんですか?」


「大丈夫だ、多くの人間が知っている事しか話さない。まあ、気分転換だと思って聞いてくれ」


「わかりました。それで、今回はどんな話をするんですか?」


「うちのチームの、フォーメーションの復習さ」


おもむろに鞄から、雑誌を取り出すクラリス。


「なになに?週刊ファンタズムボウル、開幕直前号。32チームのフォーメーション、徹底解明」


「この本を使って、フォーメーションのおさらいをしていこうと思っている」


「わかりました!お願いします」


クラリスは咳払いをし、説明を始める。


「では、行こうか。まずは前線のオフェンシブラインから。まずは、キャプテンのでもある、ジーンのセンター[c]。

前線を纏める要でもあり、クォーターバックにスナップ(プレイ開始時にクォーターバックに対して行うパス)をする重要なポジションだな」


「はい!キーンさんのスナップは、取りやすくてありがたいです!」


「キーンも散々パスの練習を、していたからなー。

そのキーンの両脇を固めるのは、オフェンシブガード[OG]とオフェンシブタックル[OT]の計4名。

センターと同様に、前線でディフェンシブラインとバトルし、ぶつかり合う。


そして、前線の両端に配置されるのは、ワイドレシーバー[WR]。クォーターのバックパスを、高い身体能力で補給する。キャッチの達人だ。


最後は、イリーナのタイトエンド[TE]。オフェンシブラインと、ワイドレシーバーをこなすポジションなのだか・・・」


先ほどまで、たんたんと説明してきたのだが、何故かここで止まってしまった。


「どうしたんですか?クラリスさん」


「いやな。イリーナの場合、ランニングバックとクォーターバックの役目を、こなしてしまうんだ」


「意味が分からないんですけど」


「そうだよな・・・あたしだって、最初は意味が分からなかったさ。

タイトエンドが走るのは、ときどきあるんだが、何故かパスまで出すんだよ」


「それについては、私が説明しよう。

あれは、去年のアイアンマインズ戦だった。トリックプレーでパスを受け取るために、全力で下がりボウルを受け取とった」


「ふむふむ」


「だが、彼らのディフェスの前に囲まれ、追い詰められた」


「まさか、それで」


「うん、つい・・・投げちゃった」


「つい投げちゃったのパスが、通っちゃったんだよなー。

しかも、本職より上手いし」


「意味が分からないよ!」


思わずカズミは、声を張り上げた。


「まったくだよ。だがな、次の試合から、イリーナの役割に、パスが組み込まれていた。

しかも、一試合でタッチダウンパスを3回も決めるし。最終的にはタッチダウンパスのランキングにも、二位につけていたよ」


「結果、チームは最下位だったのに、新人王とMVPになりましたね。

私も、凄い人と同期で入ったのだと、実感しました・・・」


スズネがイリーナを、誉めちぎっているが、気持ちはわかる。だが、カズミに一つの疑問がわいてきた。


「だったら、イリーナがクォーターバックをやっても良かったのでは?」


「クォーターバックをやらせるなんて、もったいない!!!」


クラリスとスズネとイリーナの声が、シンクロする。


「他の強いチームならともかく、うちでクォーターバックをやらせても、得点効率が下がるんだよな」


「何故ですか?」


「何故って、タイトエンドから、イリーナがいなくなるんだ。攻撃とラインの要がいなくて、前線が崩壊した上に完封敗けをした」


「あの時は12連敗中で、ゴルドさんも怪我をしていましたし、仕方ないと思います・・・」


「やったんですね」


「次の試合からは、タイトエンドに戻ったよ。私の父から、クォーターバックやらせるなんてもったいないと、言われた理由がよく分かったよ」


「お父さんも、選手だったの?」


「ああ、凄いクォーターバックだったよ。私も憧れてクォーターバックの練習をしたよ。

だがあるとき父に、お前にクォーターバックをやらせるなんて、もったいない。

タイトエンドで、攻守に活躍しろと言われたよ」


「よし!前線の話はここまで、次は後衛の話をしよう。

次はカズミのポジション、クォーターバック[QB]。

センターからボウルを受け取り、適切なタイミングでパスをしていく、攻撃時の司令塔だ。

場合によっては、自ら走る(スクランブル)をかける必要がある。


リスクとリターンを瞬時に判断する、戦略眼も問われる」


「クォーターバックは楽しいですが、覚える事が多くて大変です。まだ、パスしか出せないので、今後は走る事も出来るようにしますね」


「その心意気は、良いぞ!今後に期待だな。次は、ランニングバック[RB]。昔は、フルバック[FB]と言う、ランニングバックの走路を作るポジションがあったが、今はほとんどの採用されていない」


「どうしてですか?」


「この後説明する、ブレイカーが出来たからさ。

フルバックのポジションに魔法で掩護する選手を入れた所、戦略がガラリと変わっちまった。

離れた所から、ランニングバックの走路を確保できるのも大きいな」


「マインズ戦のリッカさんを見ていると、分かります。その場にいなくても妨害出来るのは、非常に厄介でした」


「前線から魔法を撃ち込む、彼女は例外だがな。と言うわけで、フルバックは消えていった。

話を戻すが、ランニングバックは、クォーターバックから、手渡されたボウルを持ちエンドゾーンを目指し走る。スピードとパワー若しくは、相手をかわす小回りを要求される」


「イリーナが、ランニングバックだったらスピードとパワーで相手を圧倒するタイプですね」


「イリーナが、あと4人いたら良いのですけどね・・・」


「その発想無かったが、もしいたらチームの財政が食費でパンクするかもな。

最後は、スズネのブレイカー[BL]だな。

魔法を詠唱し、味方を掩護するのが特徴だな。ブレイカーは、三種類のタイプに別れる。


まずは砲台型(バッテリー)から、説明しよう。砲台型(バッテリー)は、高火力魔法で敵を圧倒し、味方の走路を確保する。マインズのリッカがこれに当てはまる。


続いて、掩護型だが、[ヒーラー]、[バッファー]、[コントローラー]の三種類、またはこれ等の複合型があげられる。一つ目は回復型(ヒーラー)、これはスズネが得意とする分野で、味方の回復や壁張り(バリア)を得意とする。


二つ目の補助型(バッファー)は、掩護魔法で味方の能力を上昇させる。三つ目の妨害型(コントローラー)は、魔法での妨害に特化したタイプで、火力をほとんど使用しない場合が多い。


具体的には、地形へのトラップ魔法の配置、デバフによる能力低下による妨害や相手を拘束し、行動不能を狙ってくる。これ等がはまったときは、砲台型(バッテリー)よりも厄介な存在になる。次の対戦相手のブレイカーは、妨害型(コントローラー)にあたる」


「なるほど。ブレイカーは得意とする型があり、サブで他の型の魔法を詠唱して来ると言う認識でいいんですね」


「大体あっています。私の場合は、回復型(ヒーラー)をメインとし、サブで補助型(バッファー)妨害型(コントローラー)を、取得しています。あと、高火力魔法も使えますが、全く使う機会がありません」


「スズネが高火力魔法を使うのは、イメージがわかないね」


「このチームで高火力魔法を使用すれば、詠唱(チャージ)

中に前線が全滅してしまいます。キーンさんと、イリーナを除いてですが・・・」


「うちの前線、そんなに弱いの?」


「弱いから、12連敗をしてしまいました・・・。カミカゼフィールドの、暴風の恩恵と補助型(バッファー)の魔法を受けても、前線は弱いチームです・・・」


「もしスズネが、マインズのような強豪にいてイリーナクラスのライバルがいなければ、間違いなく新人王だったからな。前線の弱さが、スズネとイリーナのプレーを制限しているのが、辛い所だ」


「まあ、私がマインズにいる事は想像が出来ませんけど。

ゴルドさんが私の家族を説得してくれたお陰で、自由を手に入れたわけですし・・・」


「自由?」


「オフェンスのポジションは、これで終わり。

今度はディフェンスと、スペシャルチームの話をしたいが、流石にお腹が空いてきた。特にイリーナは、食べたくてウズウズしてると思うし」


次の瞬間、イリーナの目の色が変わった。


「すいません!リブステーキと、ポテトのセットをお願いします。あと」


「あたしたちも、食べるか」


「ですね」


「そうしましょう・・・」


他のメンバーも、メニューを見ながら注文をして、楽しい昼食に入ったのであった。


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