第2節、4話 カズミとイリーナ
イリーナは、神妙な面持ちで、カズミ部屋の前まで来ていた。
「カズミー!夕御飯の時間だけど、食べないのか?」
ガチャッ!イリーナ問い掛けに反応したのか、カズミはドアを開ける。
「あ、イリーナごめんね。もう少ししたら、ご飯食べるから・・・」
イリーナは、ドアの隙間から、部屋の中を除く。
中では浸けっぱなしのテレビからは、カズミのパスシーンが、流れている。
「練習が終わってから、ずっと見ていたのか?」
「うん・・・」
「何事も、無理をすると体に毒だから、一度食事・・・・・・」
バタンッ!イリーナが全てを伝えきる前に、カズミはドアを閉めてしまった。
「なんなら、後で夕食を持ってこようか?」
しかし、イリーナ問いかけに、カズミは答えない。
「また、来るから・・・」
「何でだ、何でだ何でなんだ!何でパスが出来なくなった。
プラァスシィーシィスアーマーを、装着してるとはいえ、あそこまで酷くなるなんて。
パスを出せない僕なんて、存在感価値が無いじゃないか・・・」
イリーナが食堂に入ると、そこにはスズネとクラリスが居た。
「カズミの様子は、どうでしたか?その様子だと、良い返事はもらえなかったのですね・・・」
「すまない。私では、どうにも出来なかった」
「そう落ち込むなよ、引きこもっている相手に、ドアを開けてもらったんだ、上出来さ」
「ドクター、後で見ていたんですか」
「悪いと思ったが、万が一を考えてな」
クラリスは少し、ばつの悪そうな顔をしながら、答える。
「ゴルドさんは、この件をどうするか、言っていました?」
「あたしに、一任するってさ。まあ、魔道義肢絡みってのもあるんだろうがな」
「そうですか」
「イリーナ、貴女も食事を取らなくて良いのですか?ここで、貴女まで倒れたら、チームが崩壊してしまいます・・・」
「ああ、朝以来食べていなかったな。これから食べるよ。そうだ!食べた後、カズミの部屋に夕食を持って行くから、オバチャンにご飯を頼まなきゃ」
「あの時・・・みたい、だな」
「・・・」
クラリスの呟きに反応したのか、イリーナは目閉じ、黙り混む。
「ああ!イリーナ、すまない。嫌な事を、思い出させたな・・・」
「いえ、大丈夫です。ご心配、ありがとうございます」
「イリーナ、もしもの時は私達が、力になります。だから、一人で抱えこまないで下さい・・・」
「スズネ、ありがとう。よし!カズミの所に、もう一度行ってくる」
そう言うと、食事を手に取り、カズミ部屋に向かった。
「ドクター失格だな、あたし。普段でかい口叩いているのに、いざと言う時に、何も出来ないなんて」
「そんな事はありません。貴女はチームの事を思い、誰よりも懸命に働いています。
だから、ご自身を、責めないで下さい・・・」
「ありがとうな、流石チームのおかんポジションだな」
「そろそろ、私をおかんと言うの、止めてくれませんか?こんなに若いおかんは、いないと思いますが・・・」
スズネの反論に、クラリスはニヤニヤしながら答える。
「充分おかんだろう?皆が困った時に、いつも助けてくれるし。それとも、縁の下の力持ちと、言った方がいいか?」
「縁の下の力持ちですか。まだ、そちらの方が良いですね・・・」
イリーナは、再びカズミ部屋の前で立っていた。
さて、どう声をかけようか・・・。私には、気の聞いた事を、言うことは出来ない。ならば、やる事は一つ!
「カズミ、夕食を持って来た」
部屋からは、何も反応はなく、辺りは静寂に包まれたままだ。
「カズミ、入るぞ」
イリーナは一声かけ、カズミ部屋のドアを開ける。
中は暗闇に包まれ、カズミはベッドに座り込んでいた。
「要らない」
「流石に、夕食ぐらい食べないと・・・」
「要らないって、言ってるだろ!何度言えば分かるんだ!」
今まで無かった、カズミの反応に、イリーナは困惑を隠せない。
「でも!」
「イリーナに、僕の何が分かるんだ!君は何でも出来るだろ?だから、こんな苦しみは味わった事は無いだろう」
「・・・」
「もうお願いだから、もう構わないでくれよ!何も知らない人間に、構って欲しくないんだよ!」
「カズミの苦労は、充分知っている・・・不甲斐ない自分への、苛立ちも」
「何が分かるって」
イリーナは、おもむろに靴下を脱ぐと、右膝の下から、義足が顔を出す。
「イリーナ・・・それは」
「3年ほど前、事故にあってな。その時、膝から下を失った。
最初は私の事を、みんなが支えてくれたのに、それを拒否してしまった。
最後は呆れて、みんな居なくなった。
足を失った事による絶望、競技が出来なくなった絶望がそうさせてしまった。
そして、全てを失ったんだ。
だから、カズミには、同じ事を繰り返してほしくない」
「ぼ、僕は」
「お願いだから、自分で自分を傷つけるのは、止めてくれ!」
昔の自分を思いだしだイリーナ、遂に泣き出してしまう。
「出ていって。出ていってくれよ!」
「カズミ!」
「イリーナ、ごめん。でも、今は出ていって欲しいんだ」
涙でグシャグシャになった、自身の顔を、イリーナは拭った。
「分かった・・・」
バタンッ!廊下歩く音は消え、また静寂に包まれた。
何で、あんなに酷いことを、言ってしまったんだ。最低だ、僕。
「イリーナ、ごめん・・・」
しかし、問い掛けた相手はもう居ない。
カズミは、やりきれない思いを抱え、朝を迎えた。
コンコン。カーテンから日差しが、漏れ眩しさを感じていた時、ドアをノックする音が聞こえる。
「カズミ、入るぞ」
「あんなに酷いことを言ったのに、何で・・・・・・」
「おはよう、カズミ。一緒にご飯を食べよう」
「何で、何で!あんなに酷いことを、僕は言ったのに、何で笑顔でいられるんだよ!」
「何でって。笑ってないと、苦しいからさ。気の聞いた事を言えなくて、ごめん・・・・・・」
「イリーナは、何も悪い事はいていない。むしろ、僕が謝らないといけない。
僕よりも辛い経験をしているのに、酷いことを言ってしまった。その、ごめん・・・なさい。だから・・・・・・」
「じゃあ、一緒にご飯を食べよう」
「え」
カズミ手を掴んだイリーナは、無理矢理、外へ連れ出した。
「ちょっと待ってよ」
「私は、カズミと一緒に、ご飯が食べたいんだ。ダメかな?」
「イリーナ・・・ありがとう!」




