第2節、2話 プラァスシィーシィスアーマー
ラボと聞いて、どんな近代的な部屋かと思ったが、ベッドと机に多少機械が置いてある程度だった。
「ラボと言うより、病院のリハビリルームみたいだ。本当にここが、ラボなのか?」
たが、入り口のプレートには、ラボと書いてあったのだから、間違い無いだろう。
そこには、ドクターであるクラリスさんとイリーナとスズネも居た。
「では、体の採寸をするから、機械の中に入ってくれ。ああ、服は着たままで良いぞ」
ここ機械、何と表現したら良いものか。修理はされている物の、傷だらけで、年代を感じさせる。
僕は言われた通りに、謎の機械の扉を開け、中に入ると、赤いレーザー光線が身体中をはい回る。
「よし、チェック終了。もう出てもいいぞ」
クラリスさんの呼掛けに応じ、僕は機械の外に出る。
「この機械は、何ですか?明らかに別の時代の技術ですが」
クラリスは、ニヤリと笑う。
「良いカンをしているな。この機械は、数千年前の文明が開発したものを発掘した物だ」
「数千年前?そんな昔に、高度な文明が合ったんですか?」
「あったさ。まあ、戦争の影響で文明は衰退したらしいがな。んであたし達は、過去の遺産を発掘して、利用している」
「僕の使うパスワードスーツも、過去の遺産と言うやつなんですか?」
「ああそうさ。何でも、戦争で負傷して動けなくなった兵士の、義手義足として活躍したらしい」
「それって、戦争の道具と言う事ですか?」
「何だ?人殺しの道具、もしくは技術と言いたいのか?」
「いや・・・」
カズミは、言葉に詰まる。
「まあ、気持ちは分かる。だが医者の道具と知識は、人を救う物だか、同時に人を殺す物なのは知っているか?」
「それとこれとは・・・」
「違わないさ、例えばメスは人を切り裂く刃物になる。
薬に至っては、量と目的を変えれば、毒に化ける。
その逆もあって、毒を薬として使うこともある。
あたし達ドクターは、人殺しの道具と知識を利用して、苦しんでいる人を救う」
僕は偏見と知識の無さで、恥ずかしくなってきた。
「そう暗くなるなよ。まあ、世の中の物なんてそんなものさ。どんな背景があっても、利用出来るから使っている、ただそれだけさ。そろそろ魔道義肢が完成する頃だ」
クラリスがそう言うと、おもむろに機械の扉を開ける。中から蒸気が吹き出し、部屋は真っ白になる。
「ドクター。相変わらず、完成時のこれは変わらないんですね」
「そう言うなよイリーナ、この蒸気も慣れるとオツなものだぜ」
何がオツなのか、僕には理解出来なかったが、それはどうでも良かった。
何故なら蒸気の中から出てくる、完成品に目を奪われたからだ。
「これが魔道義肢?」
僕はパワードスーツ的な物を想像したが、実物は足と腕の脱け殻の様な物。
「じゃあ、早速着用するか。シャツとパンツ1枚になってくれ」
普段なら女の子の前で、裸同然の姿になることは出来なかっただろうが、今は一刻も早くアーマーを装着したかった。
上下服を脱ぎ、アーマーを装着した。
さわり心地は、シリコンの用な物をとしか言えない不思議な感触。
抜け柄のようなアーマーは皮膚を覆い、端と端を繋ぎ会わせると、自然に繋がり繋ぎ目は消えていく。
最初はゴム手袋を着ているような感覚だったが、違和感は徐々に消えていき、最後は何も着けていない用な感覚になっていた。
「不思議な感覚だ。最初は違和感バリバリだったのに」
「それが魔道義肢の凄い所さ。
後はトレーニングで、使い方を覚えるだけ」
その後トレーニング前の座学が始まったのだが、途中からマナやら気など、オカルトが加わり訳が分からなかった。ファンタジー世界、恐るべし。
「おーいカズミ、大丈夫かー?」
「ダメみたいですよ、イリーナ。カズミの頭から煙が出ています・・・」
「まあ、マナの無い世界から来たのだから、当然の反応か」
「カズミ。クラリスさんが戻るまでもう少し、時間があるみたいですし、軽く復習をしましょうか・・・」
「頼むから、もう少し休憩させてよ」
「ダメです。貴方には、早く使い方を覚えてもらい、戦力になってもらわなくてはいけません・・・」
「スズネの鬼、悪魔」
「では、復習をしましょうか。魔道義肢は、大気から取り込んだマナを、体内でエネルギーに変え、それを電気に変換します。電気は電気信号となり、魔道義肢を動かします。簡潔に纏めると、こうなります・・・」
「鬼、悪魔と言った事を謝罪します。貴女は天使です」
「ありがとうございます。この短時間で、クラリスさんが1から10まで全て説明したのが失敗でしたね。
まあ、あの人はこう言う話は好きですから、全部説明してしまったのでしょう・・・」
「言葉で分かりづらかったから、見た目ですぐ分かる物を取りに行って来ると言って、出ていったきりだが、そろそろ帰ってきても良い頃だと思うが」
「おお、待たせたな。早速、座学を再開するぞ」
クラリスが見せたボードに書かれている物に、僕は驚きを隠せなかった。
日曜の朝に放送されているバトル物のアニメのキャラクター、そのまんまだった。
「何でこの世界にも、戦闘民達が戦うアニメがあるんですか!」
「発掘した」
「滅んだ文明は、何が発達した世界なんだ?」
「さあね?まあこの国はアニメ関連の発掘が、極端に多い国ではある。
今ではそれを海外に輸出しているくらいだ」
どういう事だ?この世界は別世界なのに、僕の居た世界と同じ物が存在する。
かと思えば、マナや魔法に超科学、何なんだこの世界!訳が分からなくなってきた。
「けどクラリスさん。それが発掘された物なのは解りました。けど、何でアニメの戦闘シーン何ですか?」
「学生時代に、教授がこのボードで説明していたのが分かりやすかったから」
カズミはクラリスの説明に、頭を抱えた。
「魔道義肢の扱いに必要なのは、マナの扱いとイメージ、それと力の加減だ。
特にイメージが重要で、これが出来ない試合出場なんて、夢のまた夢だ」
「イメージですか」
「そうさ。マナを扱うイメージが、最初の関門。
その後は、マナや力の加減を頭でイメージしない状態、無意識で出来るようになってもらう」
「僕に出来るのかな・・・」
「出来るさ。カズミだってボールを打ち返す時に、見てから考えなくても、打ち返せるだろ。
経験は考えると言う手順を省き、最善の手を示す。
閃きやカンと言う物も、同じ原理だとあたしは思っている」
「確かに。打ち返えす時は、ボールが何処に来るか考えずに手が動いている。
求めて要るのはそう言う事ですか?」
「正解。体を動かす動作には、考えると言うタイムロスがあっては困る。
試合では、僅かなタイムロスは命取りだしな。おっと!話が少しそれたな」
「横路と言いましたが、先ほどの話よりも100倍ほど、分かりやすかったですよ・・・」
「スズネ。それは誉めているのか、貶しているのかどっちなんだい?」
「両方ですよ・・・」
「最初の説明については反省をしているさ。話を本題に戻そう。何で戦闘シーンのボードを持ってきたか?マナを取り込んで体内でエネルギーに、変えるイメージをしてほしかったからさ」
「クラリスさんが、ボードを取りに行ってる間に、スズネから同じ話を聞きましたが」
「ふむ、スズネが説明をしてくれたか、それはありがたい。
なら単刀直入に言おう。
このシーンは体内でマナを燃やし、大量の熱エネルギーに変えている。
体内で産み出された熱エネルギーは、全身の毛穴から吹き出している状態なのさ」
「うーん、どっかで同じような光景を見た気がするが、思い出せない」
「スポーツ選手が激しい運動をしたあとに、外気が冷たいと湯気が出ているだろう。これこそ、体内で熱エネルギーが産まれ、身体中から溢れ出している瞬間と言える」
「マナを、酸素に置き換えると理解出来るかも?」
「だいぶ理解出来たみたいだな。酸素とマナの共通点に、気がついた着いたのは良いな。そもそもマナと酸素と言うのは」
これは不味いと判断したのか、イリーナは話を、絶ちきる。
「ドクター、先ほどと同じ事を繰り返す気ですか?」
「ああ悪いな、楽しくてつい・・・な」
「つい、じゃないですよ。あと、イメージを掴むならこれを見せれば良かったのでは?」
イリーナは机の上に置いてあった、週間ファンタズムボウルを手に取って、カズミにそれを渡した。
「なになに?イリーナ・バニング、マナの扱いを語る。最初からこれを見してくれれば良かったんでは?」
「カズミが幼少から、マナの扱いを学んで居ればそれでも良かったのだが、最初にそれを読んでも頭から煙が出るだけだぞ」
僕は何も言い返せなかった。取り敢えず、イリーナからもらった雑誌を手に取り、パラパラとめくっていく。
すると、イリーナが炎を纏った幻想的な写真に目を奪われる。
「最初にグラウンドで見た、炎の翼だ・・・」
あまりの美しさに、僕はあの時と同じ用に、言葉を失い見とれてしまった。
「おーいカズミ、大丈夫かー」
「ご、ごめん。イリーナが余りにも綺麗で、見とれちゃった」
面と向かって、綺麗と言われたイリーナは、まるでトマトのように顔を赤くした。
「わわわわ、私を誉めても、何も出ないぞ!あの写真は、インタビューの表紙に使うと言われたから撮っただけで、別そう言う目的があったわけでは無いからな!」
「おー。イリーナに真正面から告白する人間を、初めて見たぞ」
「ですね。これは近いうちに、スポーツ紙の一面に乗りますね・・・」
「「どうしてそうなる!!」」
カズミとイリーナの、悲鳴にも似た叫びは、見事なシンクロを見せる。
「まるで夫婦だな。練習しても、あそこまで噛み合うまい」
「ですね。これなら、試合中に息の会ったプレーも納得ですね・・・」
「しかも、初めて会ったときに、カズミを抱きしめていたしな」
初めて出会った時を思い出したイリーナは、余りもの恥ずかしさに、今度は湯気が出てきた。
「穴があったら、入りたい・・・」
「ごめんごめん、そこまで落ち込むとは、思わなかった」
「ごめんなさい。今度、栄養価の高いスイーツバイキングを奢ります。だから、機嫌を治してください・・・」
珍しく、落ち込むイリーナを見た二人は、流石に不味いと思ったのか、謝罪をする。
「栄養価の高い、スイーツバイキング!何処だ!アリアキのバーバーか?それともモクヨウケンの、食べ放題か?」
「見事な立ち直りですね・・・」
「うむ。イリーナの食事への愛は、世界一だからな。
と言うか、あれだけ食べてあのスタイルとか、羨ましすぎる」
「ですね。むしろ、世界一燃費の悪い選手とも言えますね」
結構酷いことを言われたイリーナだが、頭の中は食べ物の中で一杯のためか、気にしていないようだ。
「よし、早速バイキングに行くぞ。カズミも一緒に食べに行こうか、行くよな!」
イリーナの食に対する、愛と気迫に押され、有無を言わさず連れて行かれた。
「ドクター。講義の途中でしたが、良いのですか?・・・」
「もう少し話をしたかったがな。まあ、日常生活でプラァスシィーシィスアーマーの扱いを、覚えてもらうのも良いか」
「しかし、ドクター。カズミをバイキングに連れて行きましたが、あれは端から見ると、デートですね・・・」
「デートだな。よし、二人のラブラブデートを見に行くか」
「行きましょう。てもその前に、お金を下ろして来ます。イリーナが本気で食べたら、お金がいくらあっても足りません・・・」
「もしかして、ヤブヘビだった?」
「ヤブヘビです・・・」
イリーナが、これから食べる食費の事を考えると、頭が痛くなってきた二人であった。




