夏川 美波
私は周りに流されやすい人間だと思う。
「好きです。付き合ってください。」
中2の冬の帰り道、私は幼馴染である達也に告白された。
当時、私は達也のことを幼馴染としか見ていなく、急に告白されたことに驚いたことは今でも鮮明に覚えている。
「達也・・・・・」
私は初めて聞いたとき何かの冗談かと思ったが、達也の拳を握って目をつむっているその姿はまるで処刑を待つ人のようでであり、これが冗談ではないのが分かってしまう。
「返事は少し待ってくれるかな・・・・」
「うん。」
私は突然の幼馴染の告白で頭の中がパニックになっており、とりあえず時間が欲しかったがために発した言葉だ。
その言葉を聞いた、達也の表情はどこかホットし、また返事がもらえれなかったことに対する少しがっかりした表情を見せていた。
そのあと、いつもは一緒に帰る私達だが流石に気まずく今日は別々で帰った。
私は自分の部屋に戻り、電話で友人にその事について夜遅くまで相談した。
「私は美波と達也君ならうまくいくと思うけどな~」
「そうかな?」
「うん、試しに付き合ってみたら?」
「試しにって・・・・試しに付き合ったりするもんなの?」
「うん、普通だと思うよ。それより、美波は達也君のことは嫌いなの?」
「嫌いではないし、好きだよ。でも、幼馴染ってのが強いかな・・・」
「う~ん、幼馴染って難しいのね。私は付き合ってみてから考えた方がいいと思うけどな・・・」
「そうなんだ・・・美咲が言うんだから、そうしてみようかな?・・・・・」
「美波。私に意見は参考でいいんだよ。最後に決めるのは美波なんだから。」
友人のその言葉が何故だか非常に重たく自分に乗りかかったような気がした。
――――――
次の日、私は達也を屋上まで呼び出し、告白に対する返事をした。
「いいよ。付き合おっか。」
「よっしゃあああああーーーー!!!」
私の返事を聞いた達也が屋上で大きな声で叫んだ。
もし、この場に誰かがいれば「うるさい!」と言っただろう声だったが、何故だか私にはうるさいとは思えなく、むしろ達也の喜んでいる表情を見ると私も嬉しくなった。
こうして、私達は付き合うことになった。
―――――――
最初の1か月は恋人という今までとは違う関係なったことで普通に話すことが出来なく、
これなら、付き合わない方が普通に話せて良かったな・・・・・と思ったことだってあった。
しかし、だんだんこの関係にも慣れて行き、私もだんだん達也のことを好きになることが出来た。
でも、その関係も長くは続かなかった。
受験シーズンの到来が私と達也の関係に溝を作った。
私はクラスの中でも勉強ができる方ではなく。また、達也も私と同じで出来る方ではなかった。
今まで楽しかった日々はなく、勉強づけの毎日。達也と会う回数だって非常に少なくなった。
また、私自身も達也との関係に飽きた。いわゆる倦怠期が来てしまった。
この3つが重なり私は達也に対する気持ちが日に日に冷めて行ってしまった。
そして、卒業式
あのとき、きっと私は中学生活の思い出とともに達也に対する思いを置いて行ってしまったんだな・・・・
ーーーーーー
それから、私は高校に入学し翔太と出会った。
私は入学して1か月もたたないうちに彼に屋上で告白された。
私には彼氏がいる。と言う義務的な感情でその告白を断った。
翔太はリーダーシップがあり、運動神経も良く、なにより少しワイルドさがある整った顔は私の好みでもあった。
だからだろうか、私は振ってから無意識に彼の姿を目で追っていた。
翔太も1度振られたぐらいで諦めるような人ではなくガンガン私にアタックしてきた。
そんな彼に私は日に日に惹かれ始めた。
そうして、私は達也を振り、翔太と付き合うことにした。
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私と翔太と付き合い始めてから、彼が達也をいじめていることを知った。
日に日にいじめはエスカレートして行く。
私も止めたかった。でも、このクラスの雰囲気や翔太のことを考えるとやめるように言い出すことが出来なかった。
正直、自分の幼馴染が苛められている姿は見ていて辛かった。だから、私は必死に見ていないふりをした。
しかし、ある時期から私は慣れてしまった。
翔太が苛める光景、達也が苛められている光景、それを傍観する者やはやし立てる者の光景。
それらを見ても何も感じない。
そして、いつしか自分も周りと同じように達也に接するようになっていた。
私は風呂に入って髪を乾かし終わったあと自分の部屋に帰るときに本棚から少し出ていた本に体をぶつけた、当たった物はそのまま床に落ち私はそれを確認しようと屈む。
「これ・・・・・」
私の足元にあったのはアルバムであった。
私はそれを拾い上げアルバムを開く。
映っていたのは幼稚園や小学生の時の私と達也の写真であった。
どの写真にも私と達也そして小春ちゃんが映っており、どれも楽しそうである。
(「あぁ・・・・・懐かしいな・・・・この頃は楽しかったな・・・・・」)
私はそのアルバムを持って自分の部屋に入り、ベットで寝転がりながらページをめくって行く。
あるページには私と達也と小春が泣いている姿が撮ってあった。
(「確か、この時、学校で飼育していたウサギが死んでしまったんだっけ・・・・」)
小学生の頃、私も達也も小春ちゃんも飼育委員で毎日のようにウサギの世話をしてあげていた。
達也はウサギが死んだとき1カ月もの間ずっと落ち込んでいた。
そうだ。この時からも達也はよく感情が表情に現われていて達也が嘘をついても大抵顔に出ていたっけ・・・・・・・・
でも・・・・今の達也はいったい何を考えているか分からない・・・・・
私は今日の学校での達也の姿を思い出す。
すべてのことに対して興味が無いような無機質な瞳。冷めきってしまった表情。
あれほど表情が豊かだった彼が今では感情が抜け落ち、人形にでもなったかのように思えた。
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そして、昨日とうとう達也は学校から・・・・いや、この街から去ってしまった。
その時、達也が最後に「もう誰のことも信じない」と言った時の悲しい笑みが私の頭から離れない。
あの表情を見てから今まで以上に私は達也との日々を思い出す。
自分が今まで達也に何をしてきたのか。
一方的に振り、苛められているのを傍観し、最後にはその姿をあざ笑っていた。
ここで、助けたら今度は自分がいじめの対象になるのではないか・・・・
翔太に嫌われるんじゃないか・・・・・・
結局、私は自分のことしか考えていなかった。
私は1度として幼馴染の達也のことを考えたことなんてなかった。
だから、私は・・・・謝りたい・・・・・
もう1度会って今度こそ本心で謝りたい。
きっと許してはくれないだろう。それでも私は彼に謝りたい。