幼馴染のよしみ
俺は体感時間では2年ぶりの登校をする。
いや実際には昨日も行ったのだが・・・・・
まぁ、あれは登校とは言わないか。
「はぁ~朝は大変だったな」
達也は朝の出来事を思い出す。
今の達也は早起きである。
時間にして5時に起床をしている。
それからランニングを始めとしたトレーニングをした。
そのあと、風呂に入り着替え朝食の準部をする。
その前に妹の小春を起こしに行ったのだが・・・・・
しかし、これがなかなか苦戦した。
結果的に無理やり起こし朝食を作るのを手伝わせた。
「そう言えばあいつ朝苦手だったな・・・あいつ俺がいなくなっても生活できるのかよ・・・・・
まぁ、俺が知ったことではないけど」
学校に着き下駄箱の靴を履き替え自分の教室に向かう。
確か席はここだったよな・・・
消えかかっている記憶から自分の席探しを座る。
すると達也に席に5人組の男女が近づいてきた。
井上翔太とその取り巻き2人と夏川美波と金髪のギャルである。
「おい、面借せや!」
リーダーからしき人が代表して言う。
この時、完全に達也は井上 翔太と言う存在を忘れていた。
「誰だ、お前」
だから、達也はそう言ってしまった。
「調子に乗ってくれてんじゃねぇか!」
調子も何も本当に覚えていないからどうしようもない。
翔太は達也の言葉にこめかみがぴくぴくしている。
「はは、こいつ終わったな」
「翔太君に向かって、誰だ、お前ってwww」
取り巻きの奴らは爆笑をしている。
「ちょっと面貸せ!」
達也は翔太達に連行されて行く。
本当は着いて行く必要なんてないがこのまま席についていたら方が面倒だと思い翔太達に着いて行った。
「あんた、何言ってんの?今すぐ謝った方がいいよ。あんたが翔太に勝てるわけないじゃん。マジで翔太切れさせたらヤバいから。幼馴染のよしみで私からも翔太に言っておくから。」
達也の耳元で夏川 美波が言う。
「幼馴染のよしみか・・・・・じゃあ、俺からも幼馴染のよしみで言うよ。その生き方辞めとけよ。」
「はぁ?」
「その権力を持っている男を盾にして、媚を売りながら、まるで自分が力を持っているような生き方のことだよ。」
美波は自分が言った忠告を無視して逆に上から目線で忠告してくる達也に腹が立った。
「はぁ??!!私はせっかく善意で言ってあげているのにもう知らない!翔太こんな奴ボコボコにしてあげて!」
「元彼なのにえらい言われようだな。」
翔太が美波をからかう。
「もう!」
そう言って美波は翔太の腕にくっつく。
前までの達也ならこの光景が見るのが嫌で嫌で仕方なかったが今の達也にとってはどうでもいいことだ。
そうこうしていると校舎裏に着く。
「さんざん、調子に乗ってくれたな」
翔太とその取り巻き2人は達也を逃がさないように囲む。
少し離れたところで美波と金髪ギャルは追いつめられる達也を見てニヤニヤしている。
翔太は拳を合わせボキボキと鳴らしながら達也に一歩づつ近づく。
しかし、達也は棒立ちである。
そこに焦りはなく、ただただ、目の前に起きていることを受け入れ、目には何も映っていない無機質な物であった。
「いつもみたいに、震えて弱腰にならないのか?ああん?」
翔太は威嚇しながら達也の胸ぐらを掴もうと右手を伸ばす。
バシ!
「はっ?」
達也は掴もうとする翔太の右手を弾いた。
「クズの分際でおれの手弾くだと。調子に乗ってんじゃね!」
翔太は右ストレートを達也の顔面に目がけてくり出す。
しかし、達也はその場を動かず首だけを動かし躱す。
右ストレートを躱された翔太はイラつきが倍増して即座に左ストレートを繰り出す。
しかし、それも当らない。
翔太は右、左のパンチを繰り返す。
次第に笑っていた取り巻きも笑いは消えていった。
「ふざけんじゃあね!」
翔太は右足のハイキックを達也の顎に向かって繰り出すが達也が首を振っていとも簡単そうに躱す。
顔面は当たらないと思うと狙いをボディーに変え殴ろうとするも達也は半歩分動いて躱し、翔太のさらに踏み込もうとする足に体重が乗る瞬間に達也は足を出し引掛けて転ばす。
しかし、達也は翔太を見下ろさない。
気に喰わね!!
翔太は自分の攻撃が当たらないこともあるがそれ以上に気に喰わないことがあった。
そう、達也翔太のことを見ていない。例え見ても一瞬で後は他の者や誰もいない場所を見ている。
それがどうして翔太には許せなかった。
まるで、自分など敵ではないと思われているような気がして。
「お前たちもやれ!」
完全にブチ切れた翔太は取り巻き達にリンチするように指示する。
「この野郎、調子に乗ってるんじゃねぞ!」
「死ねクズ!」
達也の死角から殴りかかってくる。
取り巻きの付き出された拳を左手の手のひらで流し、そのまま手首を掴み引っ張る。その結果、後ろにいたもう一人の取り巻きとぶつかり一緒に倒れる。
「何やってるんだ、お前ら!」
それから15分間翔太達の攻撃が続いたが結局、1度も達也に当たることはなかった。
「「「はぁ、はぁ、はぁ」」」
3人共息が切れて、膝に手を置いて息をしている。
「終わりか?」
達也は呼吸すら乱れていない。
「ふざけんじゃねぞ!」
翔太は制服のズボンのポケットから折り畳み式のナイフを出した。
「ぶっ殺してやる!」
「「翔太君さすがにそれは・・・・」」
「翔太それはダメ!」
「さすがにマヅイでしょ・・・・」
取り巻き2人と美波と金髪ギャルが止めるように言うが
「うるせえ!」
完全に頭に血が上っている。
しかし、達也は翔太がナイフを出しても表情に変化はなく、相変わらずに翔太の方に目を向けない。
まるで、自分以外の者を警戒しているような感じである。
翔太はこれ以上ないくらい馬鹿にされたと思い、握っているナイフに力が入る。最初は脅すつもりで出したナイフだったが翔太はそのまま攻撃に移った。
「死ね!」
翔太は達也に向かって走り出しナイフを振った。
しかし、それでも達也は翔太を見ない。それでも翔太が振ったナイフは達也には当たらない。
翔太がいかにナイフを持とうと達也は顔色一つ変えず今まで通り躱す。
10数回振ったところで疲労で勝手に転ぶ翔太。
「くっそ!」
「もういいか?」
達也は返答待たずに翔太達から背を向け、教室の方に向かって歩き出す。
「ふざけんじゃね!」
翔太は持っていたナイフを達也に投げつける。
「「キャアー!!!」」
女子はあまりに翔太が急にやることに驚いて女性陣から悲鳴を上がる。
しかし、達也は体を半分だけづらしナイフが体の正面に来たところでナイフのつかの部分を掴んでキャッチする。
「はぁ~俺も暇じゃないんだよ。これ以上構わないでくれ。」
達也は溜息した後、それをそこへんにポイっと捨てて再び歩き出した。
その時、翔太は「絶対にぶっ殺してやるからな!覚悟しとけよ!」
とかなんとか叫んでいるが達也の耳には入っていない。
達也は腕時計を見る。1時間目始まるまであと2分。
ちょっと、急ぐか・・・・
達也は駆け足で教室に向かった。
キンコーンカーンコーン、キンコーン
ガラ
セーフ
達也はぎりぎり間に合った。
「おい、遠藤ぎりぎりじゃないか。」
「すいません、トイレで少し遅れました。」
「そうか、わかった。早く席に着け。」
「はい。」
達也が席に着こうと歩くと
「おい、なんであいつ井上達に連れて行かれて無事に帰ってきているんだ?」
「知らねえよ。それに井上達が帰って来てないってことはまさか・・・・」
「それこそまさかだろう。ただあいつが井上から逃げてきただけなんじゃねえの?」
「そうだな、それが一番ありえそうだな」
達也が席に着くまでそんな笑い声が飛び交っていた。
―――――――――――――――――――――
その頃、翔太達は
「絶対にあの野郎は許さね!」
翔太達は校舎裏の壁を八つ当たりとして蹴っていた。
「翔太落ち着いて」
「うるせー!」
翔太は美波の手を払う。
「キャア!」
その勢いで美波は転ぶ。
「大丈夫、美波」
「うん大丈夫、ありがとう、チーちゃん」
倒れた美波に寄り添う金髪ギャル
「そうだ、これなら!」
翔太が急に悪い笑顔になった。
「翔太君それって?」
取り巻きの2人がきになり翔太に聞く。
「俺の友達の奴に頼んでな、30人近くは集めれるだろうからな、あとは分かるだろう」
「俺らも10人くらいなら」
「そうだな」
「くはは、全員で50人での袋叩きだな」
翔太は笑って達也をつぶす作戦を考えていた。
――――――――――――――――
綺麗な夕日が見える時間
達也は学校から下校をしている。
前まで達也ならこの時間は校舎裏でボコられていたが今朝のことで今日は何もなかった。
マンションに着きエレベーターに乗る。
自分の部屋がある4階のボタンを押す。
ピンポン「ドアが開きます。ご注意ください」
達也はエレベーターを降りて角を曲がると自分の部屋の前に1人の人物がいた。
「邪魔なんだが?」
達也は夏川美波に言う。
「邪魔ってひどいわね。せっかく人が良い情報を教えてあげようと思って来てあげているのに。」
「来てあげるもなにも隣じゃないか。」
「うるさいわね!あんたみたいな奴のために来てあげたのよ。感謝しなさい!」
そう言って腕を組む美波。
「それはすごいなー。じゃあな」
達也は美波の言葉など1mmも興味が無く、自分の部屋の鍵でドアを開け入ろうをする。
「ちょっと待ちなさいよ!」
美波は閉まろうとしていたドアに足をかけ抑える。
「なんだよ、まだなんかあるのかよ?」
「あるわよ!」
達也は溜息をつき、ドアノブから手を離した。
「あんた、頭おかしんじゃない?」
「普通だろ」
「言っとくけど、絶対に普通じゃないから」
「そうか、で?」
達也は元から美波の意見など求めていなかった。
「はぁ~、もういいわよ。それより逃げなさい」
「逃げる?」
美波の急な言葉に達也は意味がわからず首をひねる。
「そうよ、翔太達が電話で不良共を50人集めてあんたを襲うなんて言ってたわよ」
美波は神妙な顔をして言う。
「そうか」
達也別に気に留めていないように答える。
「そうかって、あんた・・・50人よ!50人!今朝のまぐれではどうしようもできないのよ!」
俺にとっては50人よりも土曜のテストの方が怖いだがな・・・・
美波は今朝の達也の行動は奇跡的なものだと決めつけていた。
「お前はなんでそれを俺に教えてくれるんだ?」
達也は真顔で聞く。
「あんたのことなんて本当はどうでもいいのよ。でも、さすがに幼馴染が死んだら目覚めが悪いじゃない。だから逃げなさい。」
当たり前でしょ。みたいな感じで言う美波。
「幼馴染か・・・・なぁ、幼馴染っていったいなんなんだろうな・・・・・・じゃあな」
達也はそう言い残すと扉を閉め、部屋に戻った。
「なんなのよ、あいつ・・・・・」
玄関前に残された美波はそう呟くのだった。
俺は自分の部屋のベットに転がりながら今日のことを考える。
今日学校で絡んできた連中のことを思い出す。
いや、正確に言えば思い出したであった。
異世界転移される前にイジメを受けていた連中ことや幼馴染のことは今日の出来事が起きなければ完全に思い出すことは出来なかっただろう。
そうか、あいつらがね・・・・
達也は思い出したが自然と憎しみや復讐心が出てこなかった。
今日の翔太達の攻撃に達也が目を向けなかった別におちょくっていたわけではない。
あれはただのくせである。
異世界では戦闘では漁夫の利の行為なんて当たり前だ。
攻撃してくるものより第3者の方を気を付けないと生きていくことが出来ない世界であった。
だから、達也は自然とあんな感じで攻撃してくる相手ではない方を見てしまう。
もちろん、完全に見ていないわけではない。ちゃんと視界の端ではとらえている。
しかし、最も怖いのは意識のないところからの不意の一撃である。
だから、どうしてあのような戦闘スタイルになってしまう。
そして、最後に美波に言ったセリフ。
今の達也には幼馴染がどういった存在なのかよくわからなくなっていた。
平気で裏切り、時に助言をくれたり、本当によくわからない。
だから、美波に対して自然とそのような言葉が出てしまった。
達也は起き上がり部屋のカーテンを開き外を街の風景を見る。
街に夕日が掛かり幻想的な風景は綺麗である。
しかし、達也にとっては・・・・・・・・・
「やっぱりこの街が嫌いだな・・・」
達也はそう言って自分の部屋を出て行った。