その頃の小春
今回は小春視点の話です。
「それがさ、あいつが昨日から帰って来てないのよ。」
小春は友達の2人に愚痴る。
1人は明るい茶色の髪をしたサイドテールの七瀬 明日香。
もう1人は大人しそうな雰囲気を持つセ黒髪ミロングの二条 香澄
この2人は小春の親友でよく一緒につるんでいる。
「あいつって、お兄さんのこと?」
「辞めてよ明日香、あんな奴、兄でもなんでも無いよ。」
「あんまりそう言うこと言うのはよくないよ。小春ちゃん。」
「香澄ちゃん・・・」
小春は達也のことを馬鹿にしていた。
自分と違いできの悪い兄
小学生のころから比べられていた。周りの人間は兄の達也を馬鹿にしていた。
私も小さい頃はそんな周りから兄をかばっていた。
でも、中学生になる頃くらいから周りと同じように自分も達也のことを蔑んだ目で見るようになっていた。
今でも学校で苛められていると言う話を達也の学校の生徒から聞いたことがあった。
正直、私はその話を聞いて呆れた。
何で私の兄はそんなに情けないのかと・・・・・
それぐらい自分で何とかして欲しかった。
その話を友達から聞かされる私の身にもなって欲しいもんだ。
「なんかあったの?」
香澄が私の顔を覗いてくる。
「別になんでもないよ。」
私は慌てて笑顔になる。
「なんかの事件巻き込まれたとか?」
明日香が何かしらの決めポーズ的を取りながら言う。
「何言っているのよ。そんなことあるわけないじゃん。あと、その変なポーズは何?ww」
私が笑っていると
「わからないよ。世の中物騒だから・・・・」
香澄も明日香に乗ってそんなこと言う。
「もう、香澄まで・・・」
「でも、家族なんだから心配でしょ。」
「そうだけど、あれでもいちようは家族だしね・・・・」
「まぁ、冗談はそこまでにして、さすがに今日は帰ってきていると思うよ。」
明日香が暗くなった雰囲気を明るくする。
「そうだね。きっと大丈夫だよ。」
香澄も明日香にならって言う。
「そうよね。もし、帰ってきたら帰ってきたで面倒なのよね。あいつシスコン入っているから」
「それはめんどくさそう。」
「確かにそれはね・・・・」
小春の言葉に2人は苦笑いをしながら答える。
そうこうしているうちにいつもの分かれ道にたどり着いた。
「「「じゃあ、またね~~」」」
私は明日香と香澄と別れた。
「はぁ~」
私は溜息をつきながらエレベーターに乗る。
そして、部屋のある4階のボタンを押す。
正直、あいつがいなくとも、私には何の支障もないものだと思っていた。
でも・・・・
小春は昨日の夜のことを思い出す。
晩御飯に肉と野菜炒めを作った時、油でギトギトで正直不味すぎて食べられなく、結局コンビニ弁当になった。
洗濯機で回した服を干すのを忘れていて朝方に慌ててドライヤーをかけて乾かすと制服のカッターはシワシワになってしまった。慌ててアイロンを探しているうちに部屋はゴチャゴチャになってしまった。
結局、アイロンは見当たらず、時間が来てしまいシワシワのカッターを着て学校に行った。
「4階です。扉が開きますのでご注意ください。」ピンポン
エレベーターの自動アナウンスが鳴り扉が開く。
「はぁ~まずは部屋を片付けないとね・・・・・・」
小春は気分が重いまま自分のマンションの部屋のドアを開ける。
「ただいま・・・」
「なんで?」
小春は驚いた。家に帰ったら朝方とは違い綺麗な状態の部屋に戻っていたのだ。
小春は玄関にあるものが目が行った。
そう、バカ兄貴の靴があったのだ。
小春はドスドス床を鳴らしながら階段を上り達也の部屋のドアをノックもせずに生き良いよく開ける。
「バカ達也!あんた昨日どこ行っていたのよ!」
前まで達也ならこんな生き良いで入ってこられたら「どうしたの?」大慌てで聞いてくるが今日は違った。
何も慌てずに
「どうしたんだい?」
勉強机には教科書が開いてあり、先まで勉強していたことが覗える。達也は座っている椅子をドアの方に回しこっちを振り向いて言った。
小春も達也が昔から若干シスコンが入っていることが知っていた。
これでも家族だ。長年暮らしていれば大体のことはわかる。
自分がどんなに達也に大事にされているのかも・・・
だから、自分がどんなことをしても最悪謝れば、達也なら許してくれるだろうと思っている。
しかし、小春は気が付いていなかった。もう達也はシスコンでも何でもなく、家族とすら思ってないことに・・・・・
私は達也の振り向いた顔を見て固まってしまった。
別に怒っているわけでもない、悲しんでいるわけでも、喜んでいるわけでも、笑っているわけでもない。ただの無表情。
真顔だけなら家族なんだからいくらでも見たことがある。
でも、この時の私を見る達也の瞳は今まで私が向けられたことのないものであった。
無関心、他人、道端の小石、スクランブル交差点ですれ違う人、ビルの屋上から見る下で歩く人。
そんな目で見られているのだ。
「・・・・・・・・」
私は達也に文句を山ほど言うつもりだったがその瞳を見た瞬間に何も言えなくなった。
「何もないなら閉めてくれ。」
「・・・うん・・・・」
達也の感情のこもっていない言葉にただただ従う小春であった。
私がドアを閉めようとしたとき
「ちょっと、待って。」
と達也に声をかけられ私は振り返る。
「ごめん、言い忘れていたけど、今日から1週間ぐらいの間、家事のお手伝いしてくれないかな?」
小春は達也の表情が柔らかなものなったのを見て安心した。
なんだ、さっきのは見間違いか・・・・
「オッケー」
いつもの小春なら「はぁ?何で私がそんなことしないといけないんだし」なんて言うのだが、なんかよくわからないがそのお願いは聞いて方が良いような気がしたので「オッケー」と言ってしまった。
どうせ、私と一緒に居たい時間を増やしたいだけでしょ。
私はそんな感じで軽く考えていた。
私は達也が言ったお願いの本当の意味をのちに知ることになる。
小春は知らない達也があの時言われた言葉でどれだけ傷ついていたのかを・・・・・・・
小春は知らない達也が異世界に行ったことを・・・・・・・・
小春は知らない達也がそこで2年間生活して孤独を受け入れて慣れてしまったことを・・・・・・
小春は知らない達也が表情が柔らかくなったが小春を見る目の色が変わらなかったことを・・・・・
小春は知らない達也が転校してこの街からいなくなることを・・・・・・・・・・
小春は知らない達也が一緒に家事をしようと言った理由が自分がいなくなった後のことを考えて言ったことを・・・・・
―――――――――――――――
私は今達也と一緒に晩御飯を作っている。
「小春、包丁を使う時は左手は猫の手だ。じゃあないと怪我するよ。」
「うん、こうかな」
「そうそう」
「鍋の水はここまでね」
「うん」
「う~ん、ちょっと多いけど、まぁいいかな」
今日の献立はカレーである。
「今の間にご飯を炊いておこう」
「わかった」
小春は達也の指示通りに作る。
そして、今はお玉を持ってカレーのルーを溶かしながら鍋をかき混ぜている。
思い出すな~~
小さい頃はよくこうやって達也に教えてもらっていたな・・・・・
小学生の頃、隣の部屋の美波ちゃんと達也と私でよく夕方まで遊んでいたな・・・・
でも中学生に上がってから達也よりも私の方が出来ることが増えてきだした。その頃から3人で遊ばなくなったな・・・・
まぁ、今でも美波ちゃんとは時々話はするけど・・・・・
「お~い、手が止まっているぞ」
「えっ、ああ」
私は慌ててかき混ぜる。
「そんなに生き良い良く回さなくていいぞ」
「うん」
焦ったせいで力が入ってしまった・・・・
そのままかき混ぜること15分
「出来た~~~!!」
小春は両手を上げて背筋を伸ばす。
「小春、この皿をテーブルに並べてくれ」
「は~~い」
結局、達也は小春の後ろから指示するだけで何もしなかった。
だから、このカレーは私の実力で作ったと言ってもいいだろう。
「おいし~い!やっぱり自分で作る料理はまた格別ですな~」
私は上気分になり、そんなことを言う。
「それはよかったな」
達也も小春にならってスプーンを手に持ち一口食べる。
「どう、おいしい?」
小春は達也にお顔を覗き込んでくる。
「ああ、おいしいよ」
「うふふふ」
おもわず嬉しくなる。人に食べてもらい「おいしい」と言ってもらうのがこんなにも良いもだったとは知らなかったな。
時々は料理も手伝ってあげようかな。
「この私の手料理が食べれるなんて達也も幸せものね!うちの学校の生徒がそんな事聞いたらあんたどうなるか知らないわよ」
小春は調子に乗ってそんなことを言う。
「怖い、怖い。」
達也は笑って適当に流す。
このあと、使った食器をそれぞれが洗った。
そして、小春は達也から洗濯と掃除をする時の注意事項を聞いた後、風呂に入り、寝間着に着替え、髪を乾かした後、自分の部屋に戻った。
私は部屋に入って速攻にクッションがたくさんあるベットにダイブした。
「はぁ~疲れたな~~~」
でも、久しぶりだったな~、こうやってあいつと一緒になんかやったの・・・・・
私はそんなことを考えながら意識を闇に落とした。