98話
「まんず大五郎、大っきぐなってぇ。ヒゲも生やして、元気だったんがー?」
方言丸出しの婆ちゃんも実は異世界放浪が好きで、訪れたトダ村で畑仕事をしていた事もあったらしい。
俺は時間も超えてあっちへ行ってしまったから、婆ちゃんからは凄く羨ましがられた。話をしてくれとせがまれて半日も付き合った。
「賢司くんに会ったんだってぇ」
母ちゃんはスマホのメッセージ履歴を見せながら、帰宅を喜んでくれた。ケンジの母ちゃんも連絡するのが早いな。
「オメェ、刀持って出で行って、チビらせて帰ると
!は何事だ!一族の宝だなは分がってだろや!」
刀から指輪を作らなければ、俺はあの世界で野垂れ死んでいただろうから、オヤジがどんなに怒っても謝らんからな。
「俺の家族の前で声あらげんなっちゃ!」
「お、やってますね大五郎さん」
弟の車を借りて、ラム、ナターシャにリリィ、猫に変身したフクを抱いたチコリの五人で村までやってきた。いや、正確にはここも市に合併していて村ではなくなったのだが、地元民からすると今でも村なのだった。
「お前も来たのか」
「皆がこっちに来たがってさ。まぁ、大五郎さん達の事も気になってたからついでだよ、ついで。流石に本家の長男だと怒られても仕方ないよね」
うんうん、と爺ちゃんも頷いている。
「爺ちゃん、刀の事は多目に見てやってくれないかな。その力で僕も大五郎さんも助かってるし」
正直いって、本家には季節の行事などがないとなかなか来ることは無かったから、爺ちゃんがどれだけ偉いかは子供ながらに刷り込まれていて、こんな口をきくのも心臓バクバクものなのだ。
「まぁ、賢司が言うなら仕方ね事だんろ。だがの、親がどれだげ心配したがは…子供がいる今だば分がったろ?したば、文句はこごまでにしとぐ」
軽い世間話をして、ラム達を連れて少し遠回りの散歩をする。植物なんかはさほど違いが無いものの、田んぼや畑はこちらの方が技術力の差で凄いらしく、凄い凄いと騒いでいると、畑仕事をしているじっちゃん、ばっちゃんが喜んで野菜をくれた。採れたての野菜は美味い。しかも完熟。あー、ラタトゥイユにしてみるか、などと思っていたら、声を掛けられた。
「あれ?賢司…くん?」
ママチャリをこいでどこかへ行く途中らしき女性。
何となく会った事があるような無いような。
「覚えてないの?高校ん時に付き合ってた葉山夏海よ」
この辺は殆どが葉山姓なのだが、全員が親戚というわけではなかった。
「夏海…なのか。大きくなったなぁ」
「どこ見て言ってんのよ!もう、その辺は変わってないわね」
「ご主人様、久々のエッチなのですー。フクも大きくなったら大きくなるのニャ」
「あら?お子さん?」
「フクは奥さんですニャ」
「え…ちょっとぉ……賢司くんてロリコンだったの?」
夏海は引きまくっている。
「ロリコンて夏海、この娘達全員嫁になるんだぞ。理解の範疇を超えすぎてるだろうけど」
どうせ噂話の類はネットよりも早く伝わるのが村だ、ここでカミングアウトしておいても別にどうって事はない。
「へ、へぇ…そうなんだ…」
「それで、お前はどうなんだ。結婚くらいしてるんだろ?」
「ちょっとケンジ、女性に聞く事じゃないでしょ」
ラムが袖を引っ張ってくる。
「さ、流石に賢司くんみたいにモテモテじゃないけど、旦那くらいいるわよ!」
夏海は怒って帰ってしまった。同級生や顔見知りと会うのはちょっとウザいかもな。只でさえ地元を離れた人間はあれやこれやと詮索の対象になるし。
「皆、スマンな。車に戻って市内の家に戻ろう」
「珍しいな、立ち飲み屋が休んでる」
「バッカス様、裏手に魔力を感じますわ」
「ふむ、これはゲートだな。上位神しか使えないはずだが…面白そうだな行ってみるか、ルナ」
「バッカス様とならどこへでも」
「ケンジさん達帰っちゃったのね。ねぇねぇ、お母さん!明日はケンジさんの所に行っていい?」
ここはトダ村と何も変わらなくてつまらないんだもん。
「お父さんに聞いてみないとね。別の世界なんがあるなんて、私も興味はあるから反対はしないけど、はしゃぎ過ぎても良くないわよ」
お母さんはお婆ちゃんから料理を教わるんだって、テレビでも観てなさいって台所にいっちゃった。夕方のテレビはアニメっていう動く絵の物語で、今の私達みたいに異世界に行ってしまう話でした。
縁側から白い猫が入ってきて、私の膝の上に無理矢理乗ってきます。可愛いから下ろせなくて、一緒にテレビを観ていたら、いつの間にか絵が切り替わりました。
『臨時ニュースです!これは、現在の様子です!山形県鶴田市上空に龍の様なものが旋回しています!』
風邪っ引き中ですが、何とか更新できました。
読んで頂き感謝です。




