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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第七章 ミスリルの約束
96/230

96話

 立ち飲みチコリに着くと、また猫が増えていた。

 猟師のエミリーとその弟子ゴーシュが行き倒れのだんごを拾ってきたのだと。

 しかもラムに言わせると、この子はゲームみたいに空中投影のステータスウィンドウを操れるらしく、こういったケースは異世界から召喚された場合よ!と興奮していた。僕も君も異世界から来ているわけですが、召喚されるのと何が違うのですかね。まぁ、求められているものは違うでしょうけど。


「それでだんごさ…だんごちゃん」

 ちゃん付けで呼べと言われているので、さんだと怒るのよねこの子。

「突飛なことを聞くけど、だんごちゃんはこの世界に召喚されたのかな?」


「そうなのニャ。なんて言ったかなー…うーん、国の名前が思い出せないけど、そこの王様から召喚された異世界人なのニャ。うちの世界はここと違ってかなり文明は進んでるニャ。わかんニャいだろーなー」


 これはうちらの世界でも行き過ぎたアイテムなんだけど、腰にぶら下げていたビームセーバーを手に取り、刃の部分であるビームを出して見せる。


「ほほぅ、これまた超古代文明の遺産をお持ちとは、ボクを召喚するよりもキミが倒した方が早いんじゃないかニャ?」


「え?これって超古代文明の遺産なの?」

 弟が好きな作品のアイテムを見様見真似で作った物に、サラの魔法がかけられているハイブリッドなんだけど。


「遠い昔、遥かなたの銀河系の話ニャ。詳細は保護されていて話すことは不可能ニャ」


「へ、へぇ」

 きっと、それとは違う…て言うか、だんごちゃんの世界にも同じ映画があるのかな。




 だんごちゃんから引き出せたのは、この世界に悪者が生み出されるから、それを倒してくれって事だった。

 どのくらいで成長するのか、それがどんな事をしてくるのか、その辺の詳細は全く分からないんだそうだ。つまりは見切り発車。とりあえずの目的も見出だせないままに行き倒れただんごちゃん…不憫過ぎる!


「それで、これからどうするの?」


「それなんですニャー、どうしたらいいのか分からないのニャー…」


「何か適当ですね」


「適当ついでにここで雇ってほしいニャ」

 だんごちゃんは本当に適当だなぁ。






 ううむ、久しぶりに帰ってきたけどかなり変わってしまったなぁ。コンビニなんてホップスパーが二店舗しかなかったのに、今や大手がせめぎ合ってるのか。

 とりあえず実家に顔を出すしかないよな。いきなりおっさんになって、しかも女房に娘までいるし、おまけでオルカん所の娘まで連れてきてしまった。


 うちはケンジの実家より山の方に入る田舎で、秘密を持っている一族が暮らすにはもってこいの場所だ。なので、交通の便が悪い!悪過ぎる!


「お父さん、木がうるさいけどどうなってるの?」

 娘よ、それはセミだ。この辺はアブラゼミが多い地域だ。

「ふーん、虫の鳴き声なのね…うるさくて変!」

『ミーンミンミンミンミー、ミーンミンミンミンミー…』

「あれっ?今度は別の鳴き声!これも虫なんだってチコリちゃん」


 それからはチコリちゃんとアイリスがミンミンうるさかった。俺は子供の時以来でセミにオシッコを引っ掛けられたよ。


「カレンには色々と黙っていた事が多くてスマン」

 怒ると思っていたが、意外にもミステリアスで素敵だとよ。ははは、アイリスに兄弟ができるかもしれないな。




「ただいま」

 田舎特有の鍵をかけていない玄関から中に上がっていく。ああ、靴は脱いでな。何恥ずかしがってんだよ。チコリちゃんは真似しなくていいからね。


「何だよ、誰もいねーじゃねえか。カレンもアイリスも適当にくつろいでろ。チコリちゃんは手が草の匂いで凄い事になってるから、こっちで手を洗おうね」



 あれ?雨が降ってきたな。

 冷蔵庫から麦茶と瓶ビールをとりだしてグラスを人数分用意する。

「暇だな…」

 皆はテレビに夢中になっていた。

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