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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第七章 ミスリルの約束
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91話

 マサがちくわとささみを気に入ったようで、なかなか離さない。オスなのに父性愛でも出たのかな。

 サラは母ちゃんと台所に立っていて、料理を習っているようだった。万能たれの使い方をマスターすると、簡単調理のスキルが手に入るかもね。


「兄ちゃん、ビームセーバーが早速売れたよ」

 そう言ってラップトップの画面を見せてくれた。あれ、いつの間にかサラの殺陣動画がアップされてるし。


「26本も注文があったのか…一本六万円!?マジか…いや、あの作りならそんなものか……てか、材料費よりも手間賃だから、かなり儲かったな」

 しかし、今後もこの時間軸の少し未来に戻ってこられるのか…まぁ、やってみるしかないよね。


 朝食は新鮮な野菜料理の数々だった。田舎は野菜が安くて美味くていいよね。東京では野菜を買う気が起きなくて困る。


「そろそろ行くから」

 またすぐに帰ってくるから、そう念を押してサラに魔法を頼む。

 展開される魔法陣。そして、またもやレベルアップしたのかエフェクトがかかるようになった。魔法陣から七色の光が放射されて、僕達は瞬間移動した。






「立ち飲みチコリ…まだ忙しそうにやってるな」


 中に入るとラムが早く手伝えとせっついてきた。

「足りなくなった日本酒は?」

 どうやらあの瞬間に戻って来られたようだな。

「これから持ってくるよ」

「早くしてね、お客さん達が待ってるから」

 店の裏から日本酒の一升瓶を十本持ってきて栓を開けると、華やかな吟醸香が店内に広がる。まだ日本酒を知らない冒険者達が興味津々と集まってきた。


「今日の日本酒は特別に美味いよ!エールより少し強めの酒だからね」

 グラスに注いでは渡していく。

 純米大吟醸『トダの星』はバナナの様な甘い香りに、口開け時の雑味(苦味)が酸味と相まって、何とも言われぬ旨味をかき立てる。それでいて後口はスッキリとしてベタつかない。


「こりゃ、飲んだことのない味だが美味いな!」

「エールよりこっちの方が好きかも」

「猪肉の脂をスッキリさせてくれるな」


 なかなか好評の様で何よりだな。元の世界でも外国人に好まれる酒なんだから、この世界でも同じ様な感じなんだろうけど。



「あれ?ちくわとささみは?」


「父ちゃん!マサおじちゃんと遊んでるニャ!」


「マサおじちゃんって……?」

 まさか…。


「マサぁー!何やってんの!」

 実家の愛猫マサがそこにいた。

「香箱座りして背中にちくわとささみ!」

 てか、魔法陣に乗っちゃったのか…。

 女性冒険者達がキャーキャー言いながらなでまくっている。マサはハンサムだからな。

 店が終わったら、サラに頼んで戻してもらわなくちゃ。あー、でも明日にならないとダメか。


 溜まった洗い物を片付けて、弟がくれたビームセーバーを持って店先で殺陣をやってみる。

 紫に光る刃は魔剣よりも派手だし、暗い夜はとても綺麗だ。何だ何だと人が寄ってきた。面倒くさいので、

「王様から賜った光の剣です」

って事にしてしまった。弟から仕入れて売るにしても、こちらの価値だと鬼の様に高くなるし。後で魔法少女VS何とか戦隊なショーで活躍してもらおう。




 チコリがそろそろ帰る時間だ。


「今日はオルカさんが来られないから、ケンジ、送っていってよ」

 ラムのお願いでチコリを抱いて送っていく。


「チコリも毎日ありがとうね。お客さん達も和んで帰るから評判もいいよ」

 チコリの笑顔は疲れを癒やしてくれるのだ。遠く離れた町に残してきた子供を思い出して、同じ様な歳のチコリに姿を重ねる冒険者達。


「ん!」

 腕の中でチコリも嬉しそうだ。


 オルカの宿に着いて中に入ると、これまた賑わう食堂だった。


「おかえり、チコリ」

 オルカにチコリがダッシュで抱きつく。


「ケンジ、ありがとうな。予定外に宿泊が多くなってな、食堂もこんな感じなんだよ」


「少し手伝いますよ」

 そう言ってここでも洗い物を片付ける。少し腰にきたかな。


「ん…こっちきて」

 チコリに呼ばれて部屋に行く。

「これ、よんでー」

「ああ、例の指輪のお話ね」


 ワクワクするチコリに絵本を読み聞かせる事にする。

 あ、れ?

 この話って。

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