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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第七章 ミスリルの約束
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90話

「おー、マサぁ!久しぶりだなー、よしよし、もふもふー」

 玄関ドアを開けた途端に、奥からドダダダっと実家の猫が走って飛びついてきた。


「随分仲良しさんなんですね」


「猫にまで妬かない妬かない。マサはオスだし、ねー」


「…誰か来たのかい?」


「母ちゃん、俺だよ俺」


「家には俺なんて人間はいません」


「母ちゃん、賢司です…」


「何だ賢司かい。隣の女の子はどうしたんだい…まさか…遂に犯罪者に!」

 帰省ごとに行われるこういったやり取り。少し芝居がかった言葉と動きに笑いをこらえつつサラを紹介する。


「えーと、同じ職場の女の子でサラちゃんです。それと子猫のちくわとささみ 」


「あらあら、女の子も子猫も可愛いわねぇ。ようやくアンタも嫁さんを連れてきてくれたかと思うと、重かった肩の荷も降りるわね。初めまして、賢司の母の早苗です。よろしくねサラちゃん」

 この前の帰省がもう二年も前になるのか…いや、この時間の流れでは一年前か。母も少し小さくなったかな。




 玄関で靴を脱いでいたら、サラが裾を引っ張ってきた。どうやら人前で靴を脱ぐのが恥ずかしいらしい。

 大丈夫と安心させブーツを脱がせ、風呂場に直行してぬるま湯で洗ってあげた。女の子の足を洗うのは癖になるかもしれない。


 それから茶の間に移動して、ちくわとささみをマサに対面させる。クンクン攻撃からのペロペロアタックの後、二匹を背中に乗せて家の中を案内しようとするマサ。可愛過ぎるのでスマホで撮影しておく。


 田舎なので、長男が嫁さんを連れて来た招集がかかり、夜でも親類がワラワラと集まって来て、サラはその輪の中に埋もれてしまった。

 サラ、すまん!と僕は僕で実家住まいの弟と酒を酌み交わす。久しぶりに飲む『口説き上手』は最高に美味い。地元だとコンビニでいい酒が買えちゃうから便利なんだよね。東京だとこうはいかない。


「兄ちゃん、これ覚えてるか」

 五歳離れている弟がダンボール箱から取り出したのは、手作りのビームセーバー。


「懐かしいな!高校ん時に作ったやつじゃん。確かお前の分と二本作ったよな」

 手に取るとズシリと重い。

 工業高校に通っていたので、実習時間にこっそり作った物だったりする。かなり、らしく作れたので、当時は弟とブンブン言いながら振り回したりしたものだ。


「俺も兄ちゃんみたいにこうゆうの作るのが好きだからさ、何て言うか…商売にしてみようと思ってて」

 ちょっと恥ずかしそうに言いながら、自作だというビームセーバーを渡してきた。


「これまたいい作りじゃないの…LEDライトで光るのか……」


「ケンジさぁーん……」

 そこにようやく解放されたのか、サラがやって来た。


「兄ちゃんもやるな、こんな可愛い娘を連れてくるなんて」


「ホントはな、色々と複雑なんだよ。色々とな…」


「ケンジさぁん…それはなぁに?」

 僕の手からビームセーバーを取り上げると、

「あ!これ、知ってるぅ…例の光の剣ですねぇ……こぅですね!」

 構えると本体からビームが出てきた!


「はぅあ!」

 弟が言っても可愛くはないが、とても驚いているのは分かった。


「ちょ!ちょっと貸してください!」

 サラはビームを消してくるッと回して弟に手渡す。


 立ち上がり、構える弟。ちなみに弟の名前は賢輔だ。

「うわっ!マジにビームが出る。何で?何で?」


 コソコソっとサラに訪ねてみるが、既に寝息を立てている。

「寝ちゃったよ。明日聞いてみるからそれでいいか」


「え?ああ、そうしてくれると助かる。原理は全く分からないけど、ブレード無しで本物みたいにビームが出るなんて」


「ん、まぁ、その辺も明日ゆっくり話すよ」






 翌朝、マサがタンスの上からダイブしてきて起こされる。あんよに全体重がかかるんだからダイブは止めて…口からエクトプラズムが出ちゃう。


 サラはお風呂にも入らずに寝ちゃったので、今は風呂場にいる。風呂好きのマサも一緒らしい…くそっ!

 着替えはどうするんだろう。


「借りちゃいました」

 妹が中学時代に着ていたジャージだった。全く、物持ち良過ぎだよ。

 あ、そうそう、妹もいるのよね。同じく東京に出ているんだけど、結婚してからはあまり会っていない。友達付き合いもそうだけど、結婚すると色々と誘いにくいものなんだよね。


「サラが更に幼く見える」


「兄ちゃん…おっさんになったな」

 うっさいやい。お前もすぐに追いつくぞ。


「こら、抱きついてくるなって」

 ジャージで抱きつかれるとふにゅっとしたりするんだよ!

「お前達はいいんだよー」

 猫は別です。

「サラも猫ですニャ」

 どうしたんだろう、実家に来てから急にスキンシップを求めてくるようになったな。


「それで、このビームぜーバーだが…どうやったんだ?」


「これですか?えいっ!これで光りますよ。初歩の光魔法です」


「だ、そうだ、弟よ」


「何が、だ、そうだ、弟よ…なんだよ!魔法って何なんだよ!」


「サラは魔法が使える魔法少女です」

 そう言うと、サラは変身してみせた。


 ビックリするうちの家族。

 しかし、驚いたのは最初だけ。すぐに受け入れてしまう。

「面倒くさくなくていいよな」

 隣にはフリフリな衣装のサラがいるわけだけど、既に弟は在庫のビームセーバーに魔法をかけてもらっているし。母ちゃんもご飯をよそって朝食の準備は終わったようだ。



 ビームセーバー、売れるといいよな。

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