90話
「おー、マサぁ!久しぶりだなー、よしよし、もふもふー」
玄関ドアを開けた途端に、奥からドダダダっと実家の猫が走って飛びついてきた。
「随分仲良しさんなんですね」
「猫にまで妬かない妬かない。マサはオスだし、ねー」
「…誰か来たのかい?」
「母ちゃん、俺だよ俺」
「家には俺なんて人間はいません」
「母ちゃん、賢司です…」
「何だ賢司かい。隣の女の子はどうしたんだい…まさか…遂に犯罪者に!」
帰省ごとに行われるこういったやり取り。少し芝居がかった言葉と動きに笑いをこらえつつサラを紹介する。
「えーと、同じ職場の女の子でサラちゃんです。それと子猫のちくわとささみ 」
「あらあら、女の子も子猫も可愛いわねぇ。ようやくアンタも嫁さんを連れてきてくれたかと思うと、重かった肩の荷も降りるわね。初めまして、賢司の母の早苗です。よろしくねサラちゃん」
この前の帰省がもう二年も前になるのか…いや、この時間の流れでは一年前か。母も少し小さくなったかな。
玄関で靴を脱いでいたら、サラが裾を引っ張ってきた。どうやら人前で靴を脱ぐのが恥ずかしいらしい。
大丈夫と安心させブーツを脱がせ、風呂場に直行してぬるま湯で洗ってあげた。女の子の足を洗うのは癖になるかもしれない。
それから茶の間に移動して、ちくわとささみをマサに対面させる。クンクン攻撃からのペロペロアタックの後、二匹を背中に乗せて家の中を案内しようとするマサ。可愛過ぎるのでスマホで撮影しておく。
田舎なので、長男が嫁さんを連れて来た招集がかかり、夜でも親類がワラワラと集まって来て、サラはその輪の中に埋もれてしまった。
サラ、すまん!と僕は僕で実家住まいの弟と酒を酌み交わす。久しぶりに飲む『口説き上手』は最高に美味い。地元だとコンビニでいい酒が買えちゃうから便利なんだよね。東京だとこうはいかない。
「兄ちゃん、これ覚えてるか」
五歳離れている弟がダンボール箱から取り出したのは、手作りのビームセーバー。
「懐かしいな!高校ん時に作ったやつじゃん。確かお前の分と二本作ったよな」
手に取るとズシリと重い。
工業高校に通っていたので、実習時間にこっそり作った物だったりする。かなり、らしく作れたので、当時は弟とブンブン言いながら振り回したりしたものだ。
「俺も兄ちゃんみたいにこうゆうの作るのが好きだからさ、何て言うか…商売にしてみようと思ってて」
ちょっと恥ずかしそうに言いながら、自作だというビームセーバーを渡してきた。
「これまたいい作りじゃないの…LEDライトで光るのか……」
「ケンジさぁーん……」
そこにようやく解放されたのか、サラがやって来た。
「兄ちゃんもやるな、こんな可愛い娘を連れてくるなんて」
「ホントはな、色々と複雑なんだよ。色々とな…」
「ケンジさぁん…それはなぁに?」
僕の手からビームセーバーを取り上げると、
「あ!これ、知ってるぅ…例の光の剣ですねぇ……こぅですね!」
構えると本体からビームが出てきた!
「はぅあ!」
弟が言っても可愛くはないが、とても驚いているのは分かった。
「ちょ!ちょっと貸してください!」
サラはビームを消してくるッと回して弟に手渡す。
立ち上がり、構える弟。ちなみに弟の名前は賢輔だ。
「うわっ!マジにビームが出る。何で?何で?」
コソコソっとサラに訪ねてみるが、既に寝息を立てている。
「寝ちゃったよ。明日聞いてみるからそれでいいか」
「え?ああ、そうしてくれると助かる。原理は全く分からないけど、ブレード無しで本物みたいにビームが出るなんて」
「ん、まぁ、その辺も明日ゆっくり話すよ」
翌朝、マサがタンスの上からダイブしてきて起こされる。あんよに全体重がかかるんだからダイブは止めて…口からエクトプラズムが出ちゃう。
サラはお風呂にも入らずに寝ちゃったので、今は風呂場にいる。風呂好きのマサも一緒らしい…くそっ!
着替えはどうするんだろう。
「借りちゃいました」
妹が中学時代に着ていたジャージだった。全く、物持ち良過ぎだよ。
あ、そうそう、妹もいるのよね。同じく東京に出ているんだけど、結婚してからはあまり会っていない。友達付き合いもそうだけど、結婚すると色々と誘いにくいものなんだよね。
「サラが更に幼く見える」
「兄ちゃん…おっさんになったな」
うっさいやい。お前もすぐに追いつくぞ。
「こら、抱きついてくるなって」
ジャージで抱きつかれるとふにゅっとしたりするんだよ!
「お前達はいいんだよー」
猫は別です。
「サラも猫ですニャ」
どうしたんだろう、実家に来てから急にスキンシップを求めてくるようになったな。
「それで、このビームぜーバーだが…どうやったんだ?」
「これですか?えいっ!これで光りますよ。初歩の光魔法です」
「だ、そうだ、弟よ」
「何が、だ、そうだ、弟よ…なんだよ!魔法って何なんだよ!」
「サラは魔法が使える魔法少女です」
そう言うと、サラは変身してみせた。
ビックリするうちの家族。
しかし、驚いたのは最初だけ。すぐに受け入れてしまう。
「面倒くさくなくていいよな」
隣にはフリフリな衣装のサラがいるわけだけど、既に弟は在庫のビームセーバーに魔法をかけてもらっているし。母ちゃんもご飯をよそって朝食の準備は終わったようだ。
ビームセーバー、売れるといいよな。




