87話
ホールに響く男の声。
「ふむ、その指輪…余の物と似ておるな」
自分の左手を見るが、男の顔は見れないでいた。この場合、きっとこれが正解だろう。
「変わった服ねぇ…それにその指輪は私のと同じに見えるわ」
声のイチからして、向かって右にいるかな。
「貴方から頂いた指輪はあの方に無理を言って作ってもらったのでしょう?何故、ここにいる者達がつけているのですか」
今度は反対側だ。
「いいだろう。二人とも面を上げよ」
これで顔を拝めるな……うぇっ、だ、だだだだ、ダイゴロウッ!?
完全に一致!完全に一致だよぅ。えっ、コレ何?ドッキリ?
「名前は何と申す」
ダイゴロウの顔で豪華な衣装に包まれた男が言う。
「人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀じゃないのか?」
言うやいなや、ざわつきとともに衛兵が近づいてくる。また殴られるのだろうか。しかし、男は右手でそれを制した。
「ふあっはっはっ!確かにそれが礼儀よのぅ。余はナカノ王国国王スッキャネンである」
スッキャネンって…お徳用四リッターのキンミャー焼酎の名前じゃねえか!プフッ。あー!ダイゴロウもそういや俺とお前の……ダメだ、吹き出してしまう…タスケテ……。
肩を震えさせて笑いをこらえる。
「私は葉山賢司といいます。タリーズ国のアンバーという街の酒場で働いている者です」
言ってからチラッとサラを見る。
「わっ、私はケンジさんの同僚で魔法使いのサラと申します。よっ、よろしくお願いいたします。あっ、この子達はちくわとささみです」
緊張がこちらにも伝わってくる。少し震えているな。さり気なく手を握ってやる。
「はて、タリーズ国とは初めて聞く国だな。まだまだ世界は広いと言う事か。皆のものは宴を続けよ。二人は奥の部屋に来てもらおう」
玉座は一つ。スッキャネンと名乗った王の左右にはきらびやかなドレスを纏った、これまた美人さん達がずらっと勢揃いしている。
注意深く観察すると美人さん達は全部で七人いる。王様、尊敬するわ。どうやったら一度に七人も愛せるんですかね。
ん?
あの指輪は…これと同じデザインに見えるな。
玉座の背後に部屋の入り口がある。扉はなくて、すぐの正面に壁があり、左右から回り込んで裏側に行ける。するとそこに初めて扉がある造りだ。
「ふふ、可愛いおチビさん達ね」
七人目の女性がちくわとささみをなでている。
「ありがとーなのニャ」
「あら!喋れるのね!」
ギュッと抱きしめられ、胸の谷間に挟められていた。
部屋の中はかなり広く長テーブルが置いてあり、奥から順に席についていく。
どうしたらいいのか分からないので立ったままいると、王様が座るように声をかけてくれた。美術品としても価値がありそうな椅子に座り、落ち着きなく部屋を見ていた。
「ったくー、いなくなった途端に忙しくなるなんて。帰ってきたらどうしてくれようか!」
しかし、サラも魔法使いとしてレベルは上がってきたのね。そこは仲間としてきちんと認めてあげないとね。
ひっきりなしにやってくる客達。
今夜は冒険者が多い。猫の手を借りているから何とか回せているけど、正直、男手がいるといないとでは店の雰囲気も変わってくるのが分かる。
ここぞとばかりにチョッカイを出してくる。ホント、どうにかならないかなぁ。おしりは気軽に触るものじゃありません!
「あー!なにやってるのー!大丈夫?ケガしてない?」
今度はフクがつまづいて、前にいたリリィのスカートを一気に下げてしまった…。もぅ、男共、ガン見じゃないの……リリィも落ち着き過ぎ!何でくるッと回ってみせたのよ!
フクも手で下半身を隠そうとしない!余計にやらしい感じになるでしょ!ここはフゥタースじゃないんだからっ!
「今日は…過去最高の売上でしたっ!」
女の子達の拍手で少し癒やされる。
「ケンジとサラには悪いけど、はい、はい…大入り袋よ」
「大入り袋ぅ?」
猫ちゃんずのバニラが、首を傾げて袋の中身を覗き込んでいる。
「よく働いてくれたから臨時のボーナスよ。それはお金っていって、色んなものを買えるから、明日になったら皆で買い物に行きましょうね」
「はいニャ」
『はぁ…疲れた…ケンジぃ、どこに行ったよのぅ……』
その頃の僕は驚愕の事実を知ったのだった。
「はいぃ!?王様って日本人なんですかっ!」
年末進行の仕事をしながら、お待たせしました。
ようやく更新です。
読んでいただきありがとうございます。




