74話
フクの両親とおにぃには宿をとって泊まってもらっていた。色々と面倒くさいのでオルカさんの宿。
夕食を済ませて中華酒場に寄り、オハラさんからわさびちゃんの写真を転送してもらい、オルカの宿に来ていた。
「あれ、チコリも今日は休んだんですね。え?フクがいなかったからすぐに戻ったの?それは悪かったなぁ、後で謝らなきゃ」
フクの両親が泊まっている部屋を教えてもらい、ドアをノックする。
「はーい、どうぞー」
この声はお母さんだな。
「失礼します」
「あら、ケンジさん」
「お兄さんは?」
部屋は別にあるのは聞いていたが、呼んでほしかったので聞いてみる。
「私が連れてこよう」
お父さんが部屋から出ていった。
「来るまで時間がかかりそうですし、これを見てもらえますか」
ポケットからスマホを出す。
「あら、何かしら。魔道具?…あら、可愛い猫ちゃんねぇ……分かったわこの子はベニね」
流石母親、すぐにピンときてる。
「やっぱり分かりますか?」
「そりゃあ、こんな状況ですしね。それに雰囲気がベニそのものだわ。耳もそのままだし、凄く安心した表情をしてる…あらっ!」
愛おしげに画面を触るものだから、写真が大きく映し出される。
「後ろにある、これは何かしら?」
お母さんが指差す先には写真立てが置いてあった。
「これと同じ様に紙に描かれた猫のようですが」
食い入るようにじーっと見て、何かを悟ったように言う。
「あー、これ、お兄ちゃんだわ。タケに間違いないわね。ほら、ケンジさん見て、この子の耳。右が白くて左が黒なんてかなり珍しいでしょ」
「確かにこれは…て、事はですよ、お兄さんも記憶はないだけで転生してる、と……しかもベニちゃんとは兄弟ぽいし」
「猫人族ってもしかしたら皆転生してるのかしらね」
お母さんはそう言って笑った。
「ガチャ」
そこにおにぃが連れられてきた。何ともバツが悪そうな顔をしているが、そんなのはもうどうでもいい。時間をかけて理解してもらうとしても、そのきっかけをキッチリ作らないといけないと思うのだ。
「どうも…」
「タケさん…タケさんのその耳はかなり珍しいですよね?」
「ん、ああ、この耳は自慢にしてる。対象的になるのが普通だからな。俺は他に見た事がない」
「これを見てもらえますか。この猫は貴方のお姉さんのベニさんが猫だった時のものです」
「ま、まぁ、そう言われたら姉ちゃんに見えるな。特に目なんかはそっくりだ」
「そして…大きくします……後ろに立ててあるのはこれと同じ写真という景色を写し出す物です。この猫の耳を見てください。どうですか?」
長い沈黙。
「確かに俺と同じ耳に見えるな。だからと言ってこれが俺だと?」
「普通は生まれ変わりを信じていても、誰にもそれは分からないのです。記憶を持っている人に会ったことなんてありませんでしたからね。でも、フクもベニちゃんも私やオハラさんしか知らない事を知っています」
「だからって、だからと言って家族を捨てて飼い主だった奴に会いに行くのは許せない……置いてかれる身にもなってみろ」
おにぃのわだかまりはやはりそれか。
「タケさんの話はよく分かりますよ。フクもこっちに来た当初は悩んでいましたし。それでも、死に別れて、もう会えないと思っていた人に会えるなら、すぐにでも会いたいという気持ちが勝ったって…どっちが良くて、悪いという事ではないんです……」
「…」
「うちは兄弟仲がいいからなぁ。タケもフクが人旅立って寂しくなっていたところにベニもいなくなったからね」
「シスコンですもんね、お兄ちゃんは」
「ま、そういう事だな、はっはっは」
「……くっ」
真っ赤になってしまったおにぃ。分かるよ、シスコンてのは。いいお姉ちゃんに妹だよな。
「言いたい事は分かってもらえたので今日は帰ります。明日にでもタケさんはオハラさんに会ってみてください。記憶とかそんなのはどうでもいいんです。何か分かり合える事があると思いますから」
さて、大きな要件もこなせたし、帰りに店を覗いていくか。
店は今夜も盛況で耕ちゃんもおでんを作っていた。
「お疲れ様です。今日は色々迷惑をかけました」
僕がそう言うと、皆は笑顔で大丈夫だからと言ってくれて、全身から力がフッと抜けていく感じがした。今まで変な力が入っていたんだろうなぁ。
「ここか、噂に聞く酒場は!」
ずんぐりして背の低い壮年の男が店の入り口に立っていた。
「む?お主、その指輪を見せろっ!」
そう言って、その男は近くにいたリリィにつかみかかったのだった。




