72話
「ホント、いい結婚式だったなぁー」
「ルナちゃんも可愛かったー」
「ザシャは果報もんだ」
「んだなぁ」
「猪串は美味かったよー」
少し不貞腐れるルナの弟以外は納得のいく結婚式だったようだ。
「ケンジさんっ!」
「うわっ!アイリスか、ビックリしたよ」
「家に寄っていくんでしょ?」
右腕は完全にホールドされた。
「あー、それがね、予想外の結婚式だったから時間がなくなってね、このまま帰らないといけないんだよ」
「えー!久しぶりに会ったのに、私より大事な用事でもあるんですか」
常套句で可愛く迫っても駄目なものは駄目なんです。
「フクにちょっとあってね、寝かせてきたけど起きたら一人じゃかわいそうでしょ?皆仕事だから家にいなくなるし」
「え?皆って何ですか。フクちゃんの事は分かりましたけど、皆って?」
あー、アイリスには教えてなかったっけ…共同生活の事。
「えーと…店の皆と一緒に住んでます」
「うそ…」
「少し前からね…流れで…」
「ズルいです!私も一緒に住みたいです!」
腕が…痛い…。
「それは何とも言えないかな、家にいるのは皆、立ち飲みチコリの従業員だし。それに、アイリスには日本酒造りを頑張ってほしいから」
そうなのだ、日本酒造りにはなるべく経験を積んだ人手がいる。リーダーに育ってほしいから、軌道に乗るまではやめないでほしいのが正直なところだ。
「むー、それを言われちゃうとワガママが言えなくなっちゃいます。日本酒造りは楽しいですし、村の為にもなってますから」
「アイリスにはトダ村でやる事がまだまだあるし、それに、週に何度か会えるんだから、焦らずにいこうよ」
アイリスにはもっと同年代の友達が必要だな。この辺はダイゴロウさん達に話しておかないと。
こうしてアイリスを説き伏せて、イシカワさんと共にアンバーへ戻った。
家に戻り、イシカワさんにお茶をいれてから、フクの寝る部屋に移動する。フクは誰かがベッドへ移動させてくれたらしい。泣き腫らした目も良くなってきている。
ハナが亡くなった時は本当に悲しかった。それがこうしてフクとして異世界で会えたんだから、彼女の家族にはキチンと理解して欲しい。
「フク…」
寝ているふくの前髪を撫でる。ふふっ、相変わらずの猫っ毛だ。
彼女がいると凄く安心できるんだ。
凄く…。
『ハナー、コラ、そこに乗っちゃ駄目って言っただろ!仕事で使うんだから、って、もう、こっちおいで!』
『ハナ…体中に種付いてんだけど……あー、面倒くさいなぁ』
『ん?その子と仲良しになったの?ちょっと妬けるなぁ』
『このカリカリ、新商品なんだけど食べてくれるかなぁ。時々変えないと飽きちゃうんだよね』
『………………』
『…………』
「はっ!」
いつの間にか一緒に寝ていたのか…色んな夢を見ていた気がする。
フクが腕の中に入り込んでいた。体温を感じながら…思い出した!
「イシカワさん!…あれ?」
今に行くとそこにはもうイシカワさんはいなくて、テーブルの上に紙が置いてあった。
『ケンジくんへ 店の女の子が来たので、飲みがてら店を見に行ってきます。そのまま日本に戻る都思いますが、またすぐに会えるでしょうし、今日はフクちゃんの側にいてあげて下さい。 イシカワ』
「置き手紙…」
イシカワさんには悪いことをしちゃったな。
とりあえずフクの為に晩ごはんを作るか。美味しいものを食べて元気になってほしいし、フクと二人きりのご飯も久しぶりだ。
ちくわとささみもどこからともなく戻ってきていた。あー、種付けまくりじゃんかー。二匹を見て笑ったらなんだかスッキリした。
窓の外には夕焼けが広がっていた。




