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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第一章 酔えれば何でも良いわけじゃないのだ
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7話

 一通り作業手順と施設を見学した。


 退屈そうなチコリには、これまたポケットの中から出てきた飴ちゃんを与えておいた。ほっぺを膨らましてコロコロさせて喜んでいる。

 そんなワケで、修道院では結構な量を一度に醸造できるのが分かったので、ここで新エール醸造の話を聞いてもらう事に決めた。


「これなんですが…」

 乾燥させたホップを見せる。


「これはその辺に生えている植物ですね。ちょっといいですか…注目してみたことがなかったので。クンクン…特に香草というわけではないのですね」

 マリーナさんは怪訝な表情だ。


「このホップと言う草の実をエール醸造過程で入れてください。やり方は後で詳しく教えます。とにかく入れる事でエールが腐りにくく長持ちしますから」


「そうなんですか。協力すると言ったからには使う事をお約束します。明日から作る予定のものに早速使ってみますね」


「ありがとうございます。それではこれを…」

 ズタ袋に入れてきた乾燥ホップを渡す。

 上手くいってくれることを祈って。



 作り方を修道士達に教えると流石にその道のプロ。飲み込みが早かった。そして予想外に時間が余ってしまった。

 ついでなのでマイヤーズさんには更に詳しくホップを入れるとどうなるかを教えておく。


「さて、それじゃあ商店街へ行くとしますか。食材なども見ておかないとね」


「ん!」

 チコリが小さな手を出してきた。飴か飴ちゃんか!

 ポケットを叩くとまだ出るようなので一つあげる。


「何ですかそれ?」

 マイヤーズさんが尋ねてくる。

 あれ?この世界に飴はないのかな?

「ラム、飴ってないの?」


「ないよー」

 あらら、そうでしたか。


「食べ物です、マイヤーズさん。口に入れて噛まずに転がすようになめてください。はい、ラムにも一つ」


「これは!甘いですな!しかし…砂糖のような甘さと違って、何か風味があります……果物のような不思議な味………」

 マイヤーズさんはアゴヒゲダンディな風貌に似合わず甘党でもあるようだ。甘いリキュールも作ってみるか。こうやって考えるとやる事は結構あるな。

 て言うか、あっちの世界はどうなっているんだろう。時間的なものが気になるが…どうしようもないからいいか。


「そろそろ商店街だよ」


 大通りの左右にズラリと並んだ商店は、ところ狭しと商品を並べ、空いているスペースには露天商が商売をしている。


「えーと、ここは肉屋さんか。見たところ普通に鶏肉、牛肉、豚肉…こっちは羊かな?ジビエもあるのね…ふむふむ」


「どう?あっちの料理をこっちに持ち込めるでしょ?」


「ビールを作っているから、焼鳥にやきとんは欲しいよね。よし、少し買っていって後で作ってみるか。塩に串…日本酒はないのか…残念」


「日本酒?何に使おうと思ったの?」


「僕達が出会ったあの店。マスターの手元が見えるじゃない。焼く前に霧吹きで何かをかけていたから聞いてみたら、何と日本酒なんだってさ」


「へぇ、よく見てるのね。流石だわ」


「葡萄酒を水で割ってかけてみたらいいのか……あー、霧吹きないじゃんね……」


「マイヤーズさんに構造を教えて、道具屋さんにでも交渉してもらったら?ケンジが全部をこなしていたら時間が足りないし、巻き込んだ分私達も手伝うから」


 確かに色々やろうとすると、こっちの世界には無い道具が欲しかったりするし、交渉などは顔見知りの人がやるのが手っ取り早いか。


「分かった、細々したのはマイヤーズさんと打ち合わせするよ。さて、肉は買ったし次は…」


「ちょっと待って。おじさん、内蔵も欲しいんだけどあります?」


「あるよ」


「なるほど、煮込みか」


「そう、煮込み。まぁ、こっちじゃ塩煮込みになるけどね。煮込み、食べたいじゃない」


 ハンチング帽を斜めに被ったオジサンもテレビでよく食べてるよなぁ。それを食べれば料理のレベルも分かってしまうという。


「んー」


「ん?どしたー?飽きてきちゃったか?」

 チコリを抱き上げて顔を覗き込む。


「んんー」

 チコリが道の端を指差す。


「何ですかなこれは」

 マイヤーズさんが拾った物は焼酎の紙パックだった。



 僕とラムはそれから目が離せなかった。

 何故ならそれは…………。

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