69話
昨日は取材(飲み)で更新できませんでした。
ごめんなさい。
ガッチリした体躯の大将が、何故か異世界の空き地で猫に餌をあげている。シュールな光景に見とれていると、大将はおもむろに立ち上がってこちらを向いた。
「ここどこ?」
ズッコケましたとも!
何も把握していない状況で猫と戯れていたとは恐れ入ります。
ちなみに大将は僕の地元、山形県でやきとん屋を営んでいて、帰省する度に通う名店のオーナーなのです。まだ温かみのあるモツを仕込んだ串なんて、東京辺りの名店のそれとは新鮮さが違いますよ。
「な、ななな、何でこんな所にいるんですか!」
「うーん、犬の散歩してたら急に光に包まれて…」
ホントだ、リードを付けたワンちゃんも猫と戯れてる。
「えーとですね…説明しにくいな。とりあえずついてきてもらっていいですか」
またもや猫達が周りを囲みながらついてくる。意外にもこの猫達は街の事を一番知っているのかもしれない。諜報機関だな。
道すがらここは日本がある世界とは違う世界で、忘れ去られていた酒発祥の地を、何とか盛り上げようと頑張っている旨を話したのだった。
「ここです、うちらがやっている立ち飲みチコリです」
「焼き台があるって事はやきとんをやってるのかい?」
目ざとく見つけた焼き台を前にして、大将の顔は答えを期待していた。
「残念ながら豚ではなく、猟師さんから仕入れた猪でやってます」
「猪!毎日使えるの?!猪を?それは凄く羨ましいなぁ、俺も焼いてみたいよ猪を」
腕を組んで何度も頷きながら言う。
「こっちに来て、エールにホップを使って新エールを造ったんです。その後にビール、小麦のビールと増えていきまして、今は近くの村で日本酒を造ってもらっています。そこの農家の先祖も大将と同じで日本から迷い込んだ人みたいで、米の栽培をやっていたんですよ」
「不思議な事もあるものだねぇ。しかし、あっちに戻れないと色々困るよ」
「それなら大丈夫ですよ、うちのオーナーが連れて行ってくれますから」
「あ、そうなの?凄いね、エスパーみたい。それなら夜までに戻れば大丈夫だから、観光でもしてみるか!」
豪快に笑ってワンコを抱きかかえていた。
久しぶりにトダ村を訪問しようと、大将と二人猫達を引き連れて歩いている。すれ違う人がビックリして見るんだが、猫好きの僕にとっては天国にいるような気分だ。
しばらく歩くと見知ったトダ村に着いた。
「おーい、ダイゴロウさん、来たぞー」
あれ?返事がない…だだのし…。
「静かだな、留守なんじゃないの?」
「うーん、困ったなぁ…蔵の方かな」
日本酒を造っている蔵も覗いてみるが人の気配がしない。そこには酵母の香りがするだけだ。早くも蔵付きが発生しているようで異世界を感じる。しかし、誰もいない。
「この桶で日本酒が造られてるんですよ。説明とかして欲しかったんだけど、どこに行っちゃったのかなぁ」
「ははは、タイミングが悪かったね。他もまわってみようよ。田舎の村は和むし、散歩にももってこいだよ」
「僕もダイゴロウさんち以外には行ったことないし、行ってみますか」
『『『『『ニャーン』』』』』
猫も散歩好きなんやね。
ダイゴロウさんちから少し村の中へ歩くと、家もポツポツと増えてきた。
「んー、人がいない」
更に歩いていく。
「何か賑やかな声がするな。祭りでもやってんのか?」
「そういえば今日の配達が休みだったのはそれなのかな。行ってみましょう」
近づいてみると、広場のような所でどんちゃん騒ぎが行われていて、その中心にドレスアップした女の子と成人男性が座っている。
「結婚式、ですかね?」
「そうみたいだな。だから村中で留守だったのか。俺みたいにどっかに飛ばされたのかと思ってたよ」
しばらく楽しげな雰囲気を見ているとアイリスに見つかった。
「あ!ケンジさん!どうしたんですか、二人のお祝いに来てくれたの?」
いつもと違って少しだけお洒落をしている。
「友人に蔵を見てもらおうと来てみたんだけど、誰もいなくてどうしたのかと。結婚式だったんだね」
「そうなの、結婚式は村中でお祝いするんだよ。えーと、隣のおじさんがお友達なの?」
「そう、友人のイシカワさん。串焼きの名人なんだよ」
「はっはっは、単なる酒場の店主だよ。初めまして、イシカワです」
「初めまして、アイリスです。そうだ!串焼きが上手くできなくて困ってたの」
イシカワさんの腕を取り、アイリスは香ばしい方へ連れて行ってしまった。
「アイリスも元気になったなぁ。ま、イシカワさんの手にかかれば凄い串焼きが食べられるぞ」
さておき、ダイゴロウさんにも挨拶しないと。賑わいの中をキョロキョロしながら移動していたら、酒を渡されて強制的に乾杯させられていた。何だよ、トダ村のワインって美味しいのもあるじゃないの。赤に白をブレンドしたんだな。上手い具合になんちゃってロゼになっているし、侮れないなぁ。
「ささっ、アンタも新郎新婦に挨拶して下され」
お婆ちゃんに手をとられて挨拶する事になるが、名前も知らない人に挨拶するのは、なんともハードルの高い事よね。
「えーと、初めまして。アンバーで酒場をやっているケンジと申します。本日はご結婚、おめでとうございます」
無難な言葉でごまかして、顔を上げて初めて見る新婦の顔。
「あっ!ルナじゃん!」
「何だ、初対面で妻に馴れ馴れしいぞ!」
新郎が立腹するし。
「ザシャ、彼は知り合いなの。怒らないであげて」
「そ、そうか、すまない、知り合いとは知らなくて」
「いえ、こちらこそ何かすみません」
「ところでケンジさん?その服装は?」
「え、ああ、これですか。えーと、どう説明したらいいのかな、僕の故郷では一般的な服装でして」
あごに手を添えてうなる新郎。
「ケンジさんという名前からして、もしかして日本人?」
「え、そ、そうですけど…え?何で日本を知ってらっしゃるんですか」
「俺も日本人だったんですよ」
「はぇっ!?」
「この世界って何なんですか?急にこの子と結婚する事になったんですけど…嬉しいんですけど、未だに夢を見させられてるようで」
嬉しいんかい…って、相手が子供でも結婚できんのね、この世界。てか、ルナがなんで……あれか、新しい身体ってこの人の事なのか。
「何て説明したらいいのか…」
そんなタイミングで空から聞いたこともない咆哮が聞こえてきた。
「ちっ、早いわね」
ルナが呟くのを僕は聞き逃さなかった。




