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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第六章 特異点「立ち飲みチコリ」
68/230

68話

「ご主人様、ごめんニャ」


「フクが悪い訳じゃないんだからいいんだよ」


 猫舌で舐められたのが効いたのか、傷はすっかり治っていた。そして生臭くもない。


「えー、猫の時は生臭かったのかニャ?猫缶はお魚ばかりだったから仕方ニャいよ…」

 スネるフクが可愛くて、ぎゅっと抱きしめ頭を撫でる。


『バタン』


「!…妹にニャにをしてるんですかね!」

 十五、六のおにぃがタイミング悪く入ってきた。大分酒くさい。


「ナデナデ?」


「お前はフクの何ニャんだっ!」

 今度は不意打ちじゃないのでパンチをスルリとかわす。


「おにぃ!この人はフクのご主人様ニャの!」

 更にぎゅっとしがみつきながら言うので、おにぃは真っ赤になって怒っている。


「父さんも母さんも意味が分かんね!妹達にはご主人様がいるんだって…ご主人様って何ニャんだよっ!」


「おにぃ、聞いてなかったのかニャ?」


「何のことだよ」


「フクとお姉ちゃんは前世の記憶があるのニャ」


「何だよそれ、そんなの聞いてニャいぞ」


「それ、ホントなんです。フクは僕が飼っていた猫のハナの生まれ変わりなんです」

 話の途中に割って入るとおにぃが睨んでくる。うーん、困ったなぁ。


「その話を信じろと言うのか?ベニを魔法で連れ去った男と仲良くしろと言うのか?どうニャンだ、フク!」

 おにぃは何ていう名前なんだろうなぁ、と、緊迫したシーンをスルーしながら思っていた。フクと僕しか知らない事でお互いを認知しても、他の人には分かってもらえないと思うし、何だか面倒臭く…。


「…ぉ…おにぃなんて嫌いなのニャ!」

 泣き顔のフクが叫ぶ。叫んでスーツの背中に入り込み、襟から頭を出す。


「お、前…おにぃと父さん以外の男は苦手だったのに…!くっつき過ぎニャ!」

 引き剥がそうとおにぃとくんずほぐれつしていると、

「お兄ちゃん!何やってんのっ!ちょっと、離れなさい!」

お母さん登場。

 首根っこをアイアンクローして引きずっていく。母強し!猫になったら気の強い白猫だな、ありゃ。


「フク、泣かないで、ね。おにぃに認められるように頑張るから」


「うぅ…今日はこんな顔じゃ働けないニャ…」


「ラムに休ませてくれってお願いしとくから、一緒に家に帰ろうか」


 家族が無事で、久しぶりの再会なのにこじれてケンカになるなんて、小さなフクには可哀想な出来事だよな。






 泣き疲れたフクをおぶったまま家に着き、居間のソファで眠らせる。

 スマホを取り出してハナの写真を眺めていると、昔の事を思い出してくる。窓から雀を威嚇する変な鳴き声のフクとか、トイレにまで入ってこようとするフクとか、今思うとお腹に顔をグリグリしたりしたなぁ…セクハラだったかもしれんな……。


 あと少し成長すると美人さんになるかもな。親のような立場と兄の立場は同じようでも違うからこそ、知らない男が側にいるのが許せないんだろう。

 そういや、オハラさんは無事だったのかな。


 窓から外を見ると野良猫が覗いている。


「どしたー?お腹空いたのか?」

 窓を開けるとその猫はとたとたと入ってきた。


「ニャニャーん」


 クイックイッと袖を引っ張る野良ちゃん。

「付いて来いって?」

 フクをこのまま残して行くのもはばかれたが、あまりのしつこさに付いていくことにする。




 例の空き地に連れてこられた。

 誰かが猫に餌をやっている。その背中は大きく、どこかで見たような感じがするが…ん?

 その男性は立ち上がり、こちらを振り向くのだった。



「大将…」


 お世話になっているやきとん屋の大将だった。

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