67話
「あはっ、久しぶりにリーマンのケンジを見たわ。その格好でカウンターに立ってみてよ…そうそう!何だか日本みたいね」
「着替えがこれしかなかった。ついでだからネクタイも締めてみた」
「ぷっ…ははは」
そんなやり取りをしながら定番になったポテサラを作る。猪肉で作ったベーコンをカリカリに焼いて細かく切り混ぜ込む。
近くに流れている小川付近にセリの群生地があるので、それで胡麻和えを作る。猪串ばかりでは飽きるので箸休めが必要なのだ。
「そうそう、リリィは例の件で遅くなるみたいよ」
「フクの家族に何事もないといいんだけどな」
フクはかなり心配しているようだったけと、表に出さないで我慢している。猫時代は早くに親とはぐれているから、転生後は両親、家族を大事に思っているのだろう。
「ベニちゃんはどうしてるんだろうな。ちょっとオハラさんとこに行ってくるか」
目の前の中華酒場は既に口開けしていて、沢山の冒険者達が食事をしていた。
「あ、ベニちゃん!」
ベニちゃんは店の奥の席に座っていた。その空気は重い。
「ケンジー、聞いたニャよ……パパもママもおにぃもいなくニャったんでしょ?」
ん?何かいつもと雰囲気が違うな。落ち込んでいる感じとも…?
「そう…なんだよ、てか、大丈夫じゃないみたいだね…ごめんなさい、僕が召喚したばっかりに」
「いいんだニャ、ケンジは妹によくしてくれてるし、家族みたいなもんニャ。いなくなって心配で、でも遠く離れていて何もできないニャ。ご主人様から撫でられても上の空なのニャ!」
「ベニちゃん…」
それは家族から引き離された子猫の様に見えた。
「ケンジはいつも通りに元気でいるニャ。そうすればフクも安心するニャ」
「うん…分かった。ベニちゃんも何かあったら僕に話して欲しい、フクのお姉ちゃんだから…」
そろそろお暇しようと思った時、ベニちゃんが店の入り口を見て目を大きく開いて驚いた表情をしたのだった。
振り返るとそこには猫人族が三人立っていた。
「「「ベニ!」」」
ん?
『ダダダダダダっ!』
『バキッ』
フワッと身体が浮かんでそのまま意識が混濁した。
「あ…れ……?…痛っ」
そういや唐突に殴られたんだっけ。
そして見知らぬ天井…。
「気が付かれましたね。息子が突然殴ってしまい申し訳ありません」
上半身を起こすと優しそうな猫人族の女性がいた。
「あの…どちら様でしょうか」
「ベニとフクの母のシキと申します」
「え、お母様…ですか。フクから故郷は遠いと聞いていたのですが」
「今回はドラゴンに乗せていただけたのでこんなにも早く着けたのです。フクがご主人様を見つけると家を出て、しばらくは便りがないのは元気なのだと自分に言い聞かせてきましたが、今度はベニが目の前で消えてしまったのを見て、家族が慌てていたところ人族の方が見えられて…アンバーに娘がいると教えてくれたのです。方角的にもフクが旅立った先でしたので家族全員で探しに出ました。途中休憩で寄った村で小さな男の子が一緒に連れて行けとドラゴンに変幻して頼むので…一刻を争う出来ごとに怖さよりドラゴンに乗る事を選んだのです」
「そのドラゴンはどこに?」
「近くの村に探しものがあるそうで、そちらに向かいました」
「トダ村だな……」
「娘達に話は聞きました。前世の記憶がベニにもあったんですね。ケンジさんも連れ去るつもりで魔法を使われた訳ではないと。フクはまだ小さい子供ですがよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、難しい事を理解してもらって恐縮です。ところで、もう二人いらっしゃったと思ったのですが」
「うちの旦那と長男ですね。二人ともいい気なものでお酒を飲んでますわ」
恥ずかしがるお母さんは見た目二十歳そこそこなのだ。
こうしてフクの一家は久しぶりに顔を合わせる事になった。
おにぃに殴られた痕はフクが舐めてくれた。こちらも久しぶりのザリザリだった。




