64話
荷物を抱えて、三人と二匹は立ち飲みチコリの裏手に戻って来た。
裏手から入るといつもと違った暗い店内。開店してから久しぶりの静かな店内にランプで明かりを灯す。
「ラムには手数をかけたね、はい、お土産」
「あら、気が利くのね。その辺は流石大人って感じがするわ……何かしら…」
たいしたものではない…。
「なにコレ…」
「スルメ…」
「スルメだね」
「たまに食べたくなるでしょ?日本酒も出来たことだし…すまん、ホントはこっち」
ジャーン、折り畳み自転車!
「街中を行き来するのに便利になるでしょ」
「私専用なの?」
「こっちの住人が自転車に乗れるとは思えないし、練習するならアレだけど、とりあえずはオーナー専用だね」
足腰が鍛えられるのはいいけど、時間を無駄にできない時もある。これに乗れば用事も素早く済ませられるね。
「ありがとう。でももう一台あるとサイクリングにも行けるわよ?ふふふ」
いたずらっぽく微笑むラムはとても可愛い。やきとん屋で隣り合わせになった頃のイメージとは違ってきたけど、基本、人見知りなのかも知れない。
荷物を置き、夕方なので向かいの中華酒場に行く事にする。異世界で働きだしてからは飲みに行く事が全く無くなってしまっていたので、この休日を使って飲むのだ。
ラムもその気だったようで、フク、ちくわとささみで暖簾を潜る。
「お!いらっしゃい!飲みに来てくれるなんて嬉しいですよ。ささ、こちらへどうぞ」
中程のテーブルに着き、とりあえずビールを頼む。ここのはマイヤーズさんとこの瓶ビールだ。ラベルには赤い星のマークが描かれている。グラスに注ぎ、ラムと乾杯だ。
「お疲れ!」
エビマヨにトマトとたまごの炒め物、油淋鶏、水餃子、チャーハンを頼んだ。
「ああー、ビールが美味い!」
買い物をすると店内を歩き回るので結構疲れるのだ。
「久しぶりのあっちはどうだった?」
「パソコンのアップデートがウザかった」
「何よそれ」
ツボにはまったのかラムは笑い転げる。
「フクは懐かしかったニャ…」
あのクッションはこっちへ持ってきた。
「あ、そうだ、フクってば猫になれるようになったんだよ」
苦笑しながら、
「そういえばついてきちゃってたもんね。でも、猫人族が猫になれても…あんまり変わらないわよね」
「フクは僕の股の間で寝るのが好きだったから、両脇が空いていいんじゃないの?」
「!」
赤くなってモジモジする。
「ほら、飲んで飲んで。あと、オハラさーん、麻辣串の盛り合わせをお願いします」
中華酒場は意外にも家族連れが多かった。
「うちらも傍から見れば家族連れだよね」
「っ!」
「ラムお姉ちゃん、どうしたのニャ?」
しきりに顔をのぞき込みながらラムを困らせている。
「今更恥ずかしがる事かねぇ」
油淋鶏をつまみながら言うと、
「独占しているみたいで何だか嬉しいのよっ!こっちに来てからケンジったらモテモテなんだもん。そりゃ、女の子同士で仲はいいからアレだけど…私だって日本で見かけた時に一目惚れしてるんだからっ!」
更に真っ赤になっているのはビールのせいではなかった。
「え、そうだったの?だからかぁ、色んな店で一緒になったのって」
「むー、ご主人様はフクの旦那様なのニャ!ちくわとささみ、行くニャーっ!」
ちくわとささみがラムによじ登って、胸の谷間にダイブする。
「あんッ!ちょっと、そこ…はッ!」
服がモゾモゾとうごめいて、家族連れの眼差しが痛くなってきた。
服の中に手を突っ込んで二匹を引っ張り出す。何か柔らかいものに触れたのは気のせいだ。
「あ、ありがと、ケンジ」
二人して、追加で紹興酒ロックを頼まずにはいられなかった。
フクを真ん中にブラブラさせて星空を歩いている。
同じ宇宙の違う星なのか、平行世界の宇宙なのかは分からないけど、星空はどこよりも綺麗に見えた。
家に着くといつもの面々がお茶をしていた。
新しい服に次々と着替えては見せてきて、しばらくファッションショーが繰り広げられた。
皆、休日を満喫できたみたいで何よりだな。
お茶うけに買ってきたみたらし団子と餡団子を出すと、あっという間になくなってしまった。フクも好みの味だったらしく満足げにしている。
「明日からまたよろしくね」
今夜の添い寝当番はラムとケイティだった…。
異世界の夜は更けていく。




