63話
「フクがくしゃみでハナになる、と。メリットは感じられんが、可愛いからいいか」
フクは猫の頃を思い出したのか頭を擦り付けてくる。それを真似してちくわとささみが一緒になって頭をこすり付け、僕のシャツはくしゃくしゃになっていく。猫毛の付いたシャツとか、懐かし過ぎて目頭が熱くなる。
「よし、昼ご飯は早めに出かけて酒場街で食べるぞ」
「「「ニャー!」」」
荷物をまとめて戸締まりをし、ようやくアップデートが終わったパソコンの電源を切る。海外ドラマだとスリープ状態にするのが常みたいだけど、アメリカは電気代って安いのかしら。
フクは何気に買ってやったパーカーが気に入ったみたいで、前の手を入れるところにちくわとささみを入れて、両側に頭を出させて撫でている。ちなみにフードは猫耳付きだ。
「電車で行ってみようか」
ホントは悪いんだけど、ちくわとささみをポケットの中に引っ込めさせて黄色い電車に乗る。各駅停車だ。
フクは小さいから猫耳を出していても、カチューシャをしていると勘違いされるので、どうどうとそのままで座っている。対面の女子高生達が写真を撮っているが、まぁ放置だがツイッター辺りに載ってるかもしれん。
「ご主人様、電車って速いのニャ」
(あのおじさん、ご主人様って呼ばせてる!)
ああ、女子高生ウザい。
少し騒ぎになりそうだったので途中下車してバスに乗る事にする。
「あと少しだからね」
フクは飽きずに車窓を眺めていた。ちなみに尻尾も隠していないのでびたんびたんとそこら中を叩いて回っています。
「着いたよー」
バスから降りて耕ちゃんの店に寄る事にする。
小路を何度か曲がって店の前に着く。シャッターが上がっていて中で仕込みをしている耕ちゃんがいた。
「耕ちゃん!」
「やぁ、ケンジさん。こっちに戻ってたんだね。おや、フクちゃんもこんにちは」
「こんにちはニャ」
ポケットからちくわとささみも顔を出して挨拶している。
店の前には仕入れた魚が入っている発泡スチロールの箱が置いてある。こうやって新鮮な魚介類が仕入れられたらいいのになぁ、などと考えていると、耕ちゃんが出来立ての玉子焼きをくれた。
フクは初めての玉子焼きに、更に耕ちゃんリスペクトになったようだ。
「あっちで少し働いてみてかなりの刺激を受けたよ。スパイスの使い方も勉強出来たし、ナターシャさんなんか焼きがかなり上手で、この間少しコツを教えてもらったよ」
「こちらこそ手伝って頂けて凄く嬉しいよ。あっちの酒場レベルはホンっと最悪だったから…エールはぬるくて不味いし、食べ物も単純に塩味。クセがあればスパイス味だもんなぁ」
「今は耕ちゃんのおでんが人気なのニャ!つゆまで飲み干すのが通なのニャ」
「おでんが人気で嬉しいねぇ。ところで向かいの中華酒場の店主、うちにも飲みに来たことがある人だったけど、あっちに行ってる人って多いの?」
「異世界に行ける人は限られているはずなんだけどなぁ。何故か立ち飲みチコリに集まる傾向がありまして」
そして何故か日本人ばかりなのよね。
さて、後は昼ごはんを食べて残りの買い物だ。
近くのファミレスに入りアジフライ定食だ。フクはお子様ランチに目を輝かせ、ちくわとささみにはカリカリを食べさせる。こっそりと。
「ドリンクバーも頼んだから、好きな飲み物を好きなだけ飲めるぞ」
フクは前の人の見様見真似で、絶妙なミックスジュースを作って満足していた。バーテンダーの素質があるかも。
そして、近所のホームセンターで台車を購入。しまほまほまほする。これで重い荷も店の裏に運べるな。後はゴム付き軍手に洗い物用のゴム手袋。タッパ類に業務用ラップ。
後はフクもついでに乗せて、ガラガラと待ち合わせ地点まで行くだけだけど、道すがら最後にちょっと買い物。
「あ、来たわねー。買い物も終わったようだし、もう用事は大丈夫なの?」
「買い忘れもないし、戻りますかあの世界へ」




