60話
「あんなに振る舞い酒をしても今日の売り上げは新記録よ!そういう訳で今日は頑張ってもらったから特別ボーナスを出しまーす!」
オーナーであるラムの口から聞かされた女の子達がキャーキャー騒ぎ出す。
「もちろんチコリちゃんにも出ますよー!あ、あとケンジにも」
その言い方はないでしょ。かなりのついでっぽさ。
「それと、明日から隣の空き家とここを改装して繋ぐ作業に入ります。当初の予定にはありませんでしたが、一日は店を休まなければならなくなりました。明日はお休みです」
ボーナスに休みとくれば女性陣はショッピングに繰り出すらしい。アンバーは新エールやビールが認知され、訪れる商人の数は倍以上になっていた。そして、空き店舗が多かった地区も、色々な業種の店が出店している。
首都の流行も、昔に比べれば早い内にここまで来るようになっているし、色とりどりの服装が街中に見てとれるこの状況は、あの不味いエールで酒発祥の地の恩恵も受けられず、単なる地方の少し大き目の街という印象からは想像できない位に発展したと思う。
流石に祭りの体をなしたこの日の後片付けは、チコリを除いた従業員総出でやっても一時間もかかった。
「オハラさんとこも終わったみたいですね。あ、今度、自慢の瓶紹興酒を飲ませて下さいね」
「ええ、是非とも飲みに来て下さい。それじゃあ、お休みなさい。ほら、ベニ、行きますよ」
ベニちゃんも既にオハラさんにベッタリだ。
「お休みなさい。僕達も帰りましょうか」
チコリはオルカさんがおぶって帰った。他の面々は家に住んでいるから一緒に帰る。
フクは祭りの賑わいにまだ興奮冷め遣らずなのか、握った手をブンブン振ってくる。そしてお尻にフクの尻尾がペシペシと当たるのだった。
風呂の準備をして、減った小腹に入れる物を作る事にする。耕ちゃんも明日は休みになったので、余ったおでんは有難く頂戴してきた。それに追加で白菜とショートパスタを入れ、人数分の深皿によそう。
「そういえばリリィ、フクの実家とは連絡が取れたのか?」
「とりあえずフクちゃんの地元のギルドまでは連絡がつきました。後はあちらからの報告待ちです」
「ありがとなのニャ」
フクがリリィにちくわぶのお代わりを渡している。日本でも東京辺りでないと認知されないちくわぶだけど、相性のいい出汁と相まみえると、モチモチとした食感と相まって素晴らしいおでんダネになるんだよね。
「ありがとう、フクちゃん」
「しかし、リリィがちくわぶ好きとは知らなかったな」
「ケンジさんが言ったんでしょ?ちくわぶが嫌いな奴とは付き合えないって」
『ガタッ』
何人かが一斉に立ち上がり、いそいそと鍋からちくわぶを取っていく。
「おいおい、僕の分が無くなっちゃったじゃないか」
「はい、あーんニャ」
フクが伸びをしてフォークでちくわぶを食べさせてくれた。
「ははは、ありがとうフク。うん、美味いよ」
「あー、フクちゃんずるーい」
他のメンバーからブーイングが出る。知らんがな、全部食べちゃうお前達が悪い。
フクが食べさせてくれたちくわぶを噛み締めながら、アンバーホワイトを瓶のままあおる。
「王様事案も何とか解決しそうだぞ」
「そうなの?」
ラムは興味なさそうに言う。
「それまではまた飲みに来そうだわ、あの王様」
「ふぃー、やっぱ風呂はいいねぇ」
湯船につかり目を閉じて色々考える。
酒も色々造ってきたし、立ち飲みチコリも改装に入る。そろそろ一度日本に戻っても良さそうな気がするな。
『ガラガラガラ』
明日は一日休みだし、ラムに頼んでみるのもいいかもしれないな。
『ワイワイガヤガヤ』
ふぅー、しかし、異世界に来るなんてなぁ。ハナの生まれ変わりのフクに出会えたのは嬉しかったな。
『『チャポン!』』
チャポン…チャポン……温まるなぁ…。
『ぴと』
柔らかい泉質…って、おい!ただのお湯だぞ。
「うわあああぁっ!」
「いいお湯ですぅ」
「ケイティさん、隣はズルいです!」
「早い者勝ちですよ、サラさん」
「ぐぬぬ、リリィさんまで!」
「はいはい、フクちゃんは頭を洗ってからね」
「ラムお姉ちゃんのはフクが洗うのニャ」
「ちょ、いつの間に…」
透明のお湯だから見えてる!見えてるよ!
この世界で混浴するのは普通だったらしく、チャンスと見て入ってきたらしい。のぼせます………のぼせますよ………………。
…。




