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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第六章 特異点「立ち飲みチコリ」
59/230

59話

「あの二人、凄いですね。勝負なのに普通に飲んでます。流石、飲ん兵衛」

 オハラさんはジョッキを片手に勝負を眺めている。

 確かに当初の勢いと違って、傍目から見ると普通の飲み会であった。ルナとチコリも和気藹々だ。


「気に病む事なんて無かったなぁ」


「そうね、もっと血生臭い戦いがあるんだと思ってた」

 ラムの言う通り、まずは前哨戦としてブラックドラゴンとの戦い、それからバッカスと思ってたなぁ。


「ケンジさん、そろそろ日本酒が無くなりますので、ビールに切り替えますね」

 サラが報告に来たので、一度店内に戻る事にした。


「エールとビール、アンバーホワイトは十分にあるね。あの人達、飲み足りなくて暴れそうだし」


「それも無くなったらキンミャーですか?」


「そう…キンミャーを果実水や炭酸で割って出すしかないね。ここにきて飲みやすくアルコール度の高い酒を出すという」

 キンミャー焼酎は甲類焼酎の中でも飛び抜けて飲みやすい。ブランドだけの酒ではないのだが、その飲みやすさから飲み過ぎてしまうという弊害がある。仕事帰りのサラリーマンが終電を逃している時は、高確率で何かしらのキンミャー割りを飲んでいる。昔流行った下町のナポレオンはナポレオンと銘打っているので、せんべろ酒場では高級品だったりする。


「サラはキンミャーの魔力を知ってるのか…」


「お店でも置いてました。サワー類はキンミャーでしたから、歌い終わるとクラっとするお客さんが結構いて…」

 カラオケ、皆さん全力で歌いますもんね。



 ちょちょいと工作して風魔法をかけてもらい、それにスマホをセットする。外からは見えないので全て魔法でごまかせるはず。


「何してるんですか?」


「んー、勝負という祭りを盛り上げようかと……えーと、はい」


「バナナ?」


「それ、マイク代わりね」


「えっえっ!もしかして歌うんですか!」


「そして、勝負しているテーブルの近くのここ、スペースを空けたから。はいっ!盛り上がっていきましょう!」

 スマホの画面をタッチしてシャッフルする。

 イントロが流れ出した……一曲目からノリのいいので良かった。

 こうして、サラのアニソンライブも並行して始まった。



「流石に喉な乾いたわー、ビールもらうわー」

 久しぶりのアンバーホワイトは、疲れた身体に染み渡っていく。

「ラムの奴、いつの間にサイリウムなんて持ってきてたんだ」

 冒険者がサイリウムを振るのはちょっと違和感。服装だな。



 そうこうしているといつかのワイバーンもやって来た。サラの歌に合わせて踊っとるよ。


「王様も顔バレしたけど、これ、覚えている人そんなにいないよなぁ」

 どんな感じかテーブルに寄ってみるか。


「ぶわっはっはっは!あの酒を飲んだことがあるのか!酸っぱくて不味かったな、あれは!」

 王様が言うと、

「アルコールがあれば調味料でも飲んでしまうのが我らだ、ハッハッハ!」


「バカじゃないの?…ねぇ、チコリもそう思うでしょ?」

「ん!」


「意気投合してる……」

 何なんこれ。酒好きのいいところではあるんだろうけど、狭い立ち飲み屋で袖擦り合う距離で仲良くなるような、そんな飲みになってるじゃん。


「ねぇ、そこの人間…ケンジって言うんでしょ?」

 チコリと戯れていたルナが声をかけてくる。


「これ、もうほっといてもいいから。バッカスの器も見つけるから、後一週間だけ待ってくれって、王には伝えておいて。記憶なさそうだし」

 新たな器…また問題が起きなければいいけどね。


「分かった、伝えておくよ」




 そして、宴もたけなわではございますがー、気持ちのいいところすみませーん。一人三千円でお願いしまーす。みたいな声が聞こえだしていた。

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