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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第六章 特異点「立ち飲みチコリ」
55/230

55話

昨日更新分は加筆修正しています。

時間がありましたら読み直してみて下さい。

 フクは猫人族の国に転生し、そこからこの国に僕を探してやって来た。

 残してきた両親と姉がいるらしいと、今更ながらに聞いた。そういえば会ってからこのかた、そういった話はしなかったよね。


「うニャー、お姉ちゃんはオハラおじさんの飼い猫の生まれ変わりなのかニャ?」


「フクちゃん、それは会ってみないと分かりませんが、もし叶うなら、一度会ってみたいですよ」


 どうやらこのおっさん、猫好き、ペットロス、酒好きと、僕との共通点がめちゃくちゃ多いのでした。そうなると、初対面の印象がガラリと変わって、もはや親近感さえ感じてしまうなぁ。


「猫人族の国ってここから遠いの?」


「タリーズ王国から南に馬車で……一週間程ニャ。フクが住んでいた街、ニャゴロモは国境から更に二日行った所にあるニャ」


 ニャ、ニャゴロモ……ニャゴロモフーズとかいう食品店とかありそうだよねぇ。何だかツナ缶が食べたくなるような街だ。

 それにしても遠い。

 この世界の交通の便の悪さはどうにかならないものなのかな。食品を流通させるにしても腐らない様にするのが前提だから、どうしても距離が稼げないし。でもまぁ、それを逆手に取って、鮮度が命のビールはここアンバーだけの名物になってきているから、悪い事だけではないんだけど。


「そっかー、結構な距離があるんだね。転移魔法とか召喚魔法が使えたらいいのになぁ」


 僕の魔法の場合は、対象がどこにあるか把握できていないと召喚できないっていうのが不便なんだよね。


「ありゃ? 指輪が光り出した……」


「ご主人様! フクの指輪も光ってるニャ!」


「何、何なの……」

 ラム達は驚いている。


 いつもなら右手で魔法陣を浮き上がらせ、目の前に物を召喚している。

 しかし、今は左手の掌から魔法陣が浮き上がってきていて、その大きさはとどまるところを知らない。


「どうなってるんだ!」

「ご主人様っ!」


 フクが左手を握ってきた。

 重なる左手と左手。

 すると、光は更に眩くなり、周りを白一色にしてしまった。


「わわっ! ここ、どこニャ!?」


 光が無くなり、次第に目も慣れてきた頃、目の前には背の低い猫耳の女の子が、呆然と立ち尽くしていたのだった。


「あれ? お姉ちゃん、何してるのニャ?」

 フクが驚きの表情で言う。


「フクなのニャ?」


「お姉ちゃん!」

 抱きついていくフク。

 目には光るものが浮かんでいる。


「置き手紙一つでいなくなったから、もう会えないものと思っていたのニャ……それでご主人様は見つかったのニャ?」


「ごめんニャ、お姉ちゃん。お姉ちゃんも前世の記憶があるから分かると思うけど、ご主人様がこっちにいると分かったらいてもたってもいられなかったニャ。この人がフクのご主人様、ケンジですニャ」


 フクが腕に抱きついてくる。

 腕を上げると持ち上がってしまうくらい軽い。


「初めまして。フクの前世であるハナの飼い主だったケンジです。宜しくお願い致します」

 お辞儀をすると、彼女は近づいてきてくんかくんかと匂いを嗅いできた。

「ど、どうかしましたか? お姉さん」

 この子、年の頃は十歳くらいかな。少女に匂いを嗅がれるって、何か変な性的嗜好が芽生えそうで怖い。


「うニャー? 懐かしい匂いがするんだけど……」

 首を傾げる仕草は流石猫人族、凄く可愛らしくて思わず抱きしめてしまいそうだ。


「わさび? お前はわさびなのかい?」

 近くで見ていたオハラさんが問いかける。


「私をわさびと呼ぶのは誰ニャ! 勝手な事は許さないのニャ!」

 プンスカ!

 尻尾が怒りで膨らんでいる。

 くるりと後ろを振り向くと、今度は尻尾がぐるぐると振り回され始めた。


「ご、ごごご……ご主人様じゃニャいですかー!」


「うんうん、やはり思った通りわさびでしたか。フクちゃんに話を聞いて、そうなんじゃないかと思ってましたよ。ケンジさんの不思議な魔法で、こうして亡くなった愛猫に再び会えるなんて……うっ………思ってもみませんでしたよ」


 オハラさんは涙ぐみながらフクのお姉ちゃんの両肩に手を置いた。お姉ちゃんもオハラさんに抱きついて泣いている。


 店内は再会の感動が伝染していって、店員から客まで皆もらい泣きしていた。


「ねぇ、フク。お姉ちゃんの名前はなんて言うの?」

 わさびは前世の名前として、今はどんな名前なんですか。


「お姉ちゃんはベニって言うニャ」


「ほぅ、ベニちゃんか。いい名前だね」


「ところでご主人様、お姉ちゃんが召喚されてここに来たって事はだニャ、急に娘がいなくなって、うちの両親は慌ててるんじゃないないかニャ? これはある意味神隠しニャよ?」


「そ、そうだな……ヤバイよな。確かにこれってご両親にとっては神隠し状態だわ……と、どうしよう」


 遠い猫人族の国に伝える手段なんてあるのだろうか。


「ケンジさん、ギルドなら魔道具で他国のギルドと連絡がつけられますよ」


「リリィ!マジか!」

 ナイスフォローに思わず抱きついてしまった。


「きゃっ!」


「ご主人様……何をやってるのかニャ?」


「あ、すまん、つい嬉しくて。それで、リリィ、猫人族の国とも連絡できるんだな?」


「コホン……ええ、魔道具で遠くと会話ができるんです。フクちゃんの実家がどこにあるか教えて頂ければ、いつでも連絡できますよ」


 恥じらいつつも、瞬時に対応ができるのがリリィのいいところだな。


 フクとベニお姉ちゃんの実家は、猫人族の国『ニャンバル』の『ニャゴロモ』という街にある。

 リリィに連絡を頼んだら問題もなくなったので、客を巻き込んでオハラさん、ベニお姉ちゃんの再会記念飲み会に相成った。

 全て店の奢りになるけど、ラムは笑顔で許してくれた。僕の給料から引くんだと……トホホ。




 そして、そんな賑わいを遠くから二つの金色の目が見つめているのに、誰も気付かないのだった。

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