51話
トダ村へと続く道をてくてくと歩いている。
この道も行き来する人が多くなっていて、時々馬車や荷車がすれ違うのに苦労している。
「はい、ギリギリ大丈夫ですよー」
馬車を誘導して上手く通す。
「いやぁ、ありがとうね。助かったわぁ」
上手くすれ違えた商人は荷造りを確認してアンバーを目指す。こうして最近はアンバーも色んな所から商品が集まるようになってきた。
トダ村へさしかかる頃、空がどんよりと薄暗くなってきて、雨がポツリポツリと降ってきた。雨具などは準備してこなかったから小走りで先を急ぐ。
ゲコゲコと蛙の鳴く声がしだすと更に雨足が強くなってきて、ダイゴロウの家が見える頃にはずぶ濡れになってしまった。
「こんにちは……すみません、ケンジです」
「あれまあ、ずぶ濡れじゃないのー。入って入って、今タオルを持ってくるからね」
カレンが優しく対応してくれた。
居間にはダイゴロウもアイリスもいない。
上着を脱いで、タオルで頭、顔から全身を拭いていった。拭けない下半身は濡れて気持ち悪い。
「下も脱ぎなよ。ほら、乾くまでうちの旦那のを履いてるといいよ」
「え、あ、はい、ありがとうございます……………えーと、カレンさん? 流石に見られると恥ずかしいんですが」
「あら、その内家族になりそうだし、いいと思ったんだけどね。でもまあ、アイリスに怒られそうだから止めときましょう」
着替え終わり、カレンを呼ぶ。
聞くと、ダイゴロウとアイリスは蔵で作業中のようだ。
「こんにちはー」
「おー、ケンジかー。こっちに来てみろ。いい感じに仕上がってきてるぞ」
「ケンジさん、それってお父さんの服?」
「酒を見に来たんだけど、来る途中で雨に降られてね、お父さんの服を借りたよ。それで酒の具合はどうかな」
蔵の中は酒が醸されているいい香りが漂っている。これぞ酒造りの醍醐味だよなぁ。
梯子を登り、樽を覗き込むと細かに泡立っている。
「これ、試飲できる?」
居ても立っても居られなくなり、ダイゴロウに聞いてみる。
「おお、いいぞ。アイリス、柄杓で汲んでやれ」
「ケンジさんはホントにお酒が好きなんですね。はい、どうぞ」
アイリスからグラスを受け取り、香りをかぐとほのかにりんごのような香りがする。まだ濾過前だし薄く濁った酒だけど、口に含むとまだまだ発泡していて酸味が強い。これからどう変化していくのか。
「二人は飲まないのか?」
「へへ、ケンジと一緒に飲むのを待ってたんだぜ」
二杯目は下から出したのを頂く。
口に含むとピリッと発泡を感じつつ、程よい酸味、甘味、苦味を舌先に残していく。
「絞って濾して、貯蔵したらかなり出来のいい酒になりそうだなぁ」
「不思議な味だ。米がこんな味を出すとは、先に飲まされた日本酒を知らなければもっと驚くところだ」
アイリスはさりげなくお代わりをしている。
それを見ると、この世界の女性にも日本酒は受けいられそうだな。
「ここには樽の数だけ精米歩合を違わせたから、これからが楽しみだね。他の桶はこれと違った味になると思うよ。また試飲しながら完成させて下さい。本当にダイゴロウ達に頼んで良かったよ」
グラスを左手に持ち替えてダイゴロウと握手をした時だった。
左手の指輪がきらめき、桶に光が注いでいく。
「何だ、どうしたんだこれ……!」




