50話
お泊り会となったその日は大変だった。
口ではああ言いながらも、実際に風呂場で髪を洗われる事になると羞恥心が大きくなったらしく、皆自分で洗ってしまった。
ナターシャだけは恥じらいながらも、他人から洗われる事の気持ち良さに勝てなかったらしく、バスタオルを巻いて風呂場にしずしずと入ってきたのだった。
「ホントに一緒に入っちゃって良かったのか?」
ナターシャ、スタイル良すぎ。
「フクちゃんもいますし……」
「いるのニャ」
「「ニャ」」
「まぁ、そうなんだけどな。ほら、ここに座って。あー、やっぱり汚れがすごいね」
髪が長いと洗うのも一苦労だよなぁ。
「ケンジ殿?……そこは髪ではないのだが……あんッ 」
「肩こってるなー。串打ちとか無理してるんじゃないか? 明日から仕込み人員を増やそうな。それから、ナターシャはもっと人を頼った方がいいぞ」
「はい……そうします」
「ふふ、耕ちゃんも焼きを見て褒めてたぞ」
「えっ!耕殿がですか!」
急に勢い良く振り向くナターシャ。バスタオルがハラリと解ける。
「きゃッ!」
抱き付くフク。
「一瞬すら見えなかった」
「フクちゃん、ありがとう……」
フクは謎の光みたいに素早く隠す凄いやつなんだ。
ナターシャとフクの髪は洗ったし、後は湯船に入るだけ……入るだけだ。
「エルフ族は風呂も男女関係なく入るものなの?」
「いえ…夫婦にならなければ一緒には入りません……」
「ええっ、それって……マズくない?」
「ご主人様ー。ボスはお嫁さんを沢山娶るものなのニャ。フクは複雑な気持ちだけど、ご主人様が好きな人達で仲良くすれば問題はないと思うのニャ」
「お嫁さんかぁ。僕だって結婚はしたいけど、フクもしたいのか。んー、それってありなのかなぁ」
「深く考えずに一緒に暮せばいいだけなのニャ!」
「そうなんだってさ、ナターシャ。僕の事を好きなら家に来なよ」
その瞬間だった。
『ガタタッ』
ドアを開けると張り付いてる人達が倒れ込んでくる、お約束のアレだ。
「みんなしてバスタオル巻いちゃって、ずーっとそこで聞いてたんだ。それでもう一度風呂に入るの?入らないの?」
「「「「入る!」」」」
なんだかんだ言いながら洗われるのを体験したかったらしく、順繰りとシャンプー、コンディショナーと流れ作業よろしく気持ち良くさせてやったら、今後も時々洗って欲しいと言われてしまった。今度は痒いとこないですかー?とか聞いてみよう。
それから、ナターシャをはじめ女性陣全員が家に引っ越す事になってしまった。モテ期到来。もはや家は社員寮みたいだよな。
「フク、二人きりの生活がこんな事になって何かゴメンな」
ちくわとささみが来て、二人と二匹で幸せに暮らしていくはずだったのにな。
「ううん、フクは賑やかでとっても楽しいニャ」
そう言って腰にひっついて来た。頭を撫でてやると尻尾がピーンとなる。
「夜も遅いしそろそろ寝ようか。明日も頑張らないといけないしな」
「うん、おやすみなのニャ」
「「ニャ」」
次の日の朝は賑やかだった。
なかなか起きてこないラム。パジャマのまま寝ぼけ眼をこすりつつ起きてくるサラ。ケイティはきっちりと着替えて居間まで来た。リリィは既に台所にいるナターシャを手伝っている。
フクはちくわとささみにご飯を与えていた。
「そろそろダイゴロウから米を買わないとイカンな。安いから食費が浮くし。フクもご飯は好きだろ?」
「鰹節をかけてみたいニャ!」
「猫に鰹節は駄目なんだけど、ようやく食べられるな。でも、鰹節ってこの世界にあるのかな」
「むー、パックのを召喚するニャ!」
「残念だけど家に在庫無かったはず。後でマイヤーズさんに聞いてみるよ」
仲良く出勤中。
美女、美少女から囲まれているので男どもの視線が痛い。モテ期の弊害はあっても仕方がないか。
しかし、この街も人の行き来が多くなってきたな。馬車や荷車も多くなっているし。
「そうだ、皆は店に行っててくれるか。トダ村に酒の出来具合確認と米を買いに行ってくるから」
日本酒がどうなっているのか、これだけは人に譲れないのだ。




