49話
本日は深夜に48話を更新しています。
目が覚めると左にフクが、胸の上にちくわとささみが乗って寝ていた。あまりにも可愛い寝顔だから、少し眺めてからそっと脱出した。
顔を洗って朝食の準備をする。子猫達も普通の食事は出来る大きさになっているので、マスの残りと猪肉を小さ目に切っておいた。愛猫ラブなのである。
「おはよう、フク、ちくわ、ささみ」
「おはようなのニャ」
「「ニャー」」
「すっかり仲良しさんだな。んー、コチョコチョー」
「「「フニャニャニャー」」」
フクはまだちっちゃいけど可愛い。それに子猫達が加わると和み度が増す。
「顔を洗って朝ごはんにしような。ちくわとささみはここで待ってて」
二匹は僕にも懐いてくれたようで、フクが来るまで大人しく撫でられている。ちくわとささみだと、ささみが少し大きくやんちゃな感じで、ちくわは大人し目のマイペースかな。どちらも左利きだ。
「いただきます」
朝食からがっつり食べる。所謂バゲットを半分にしてフクと。目玉焼きは二個ずつでソーセージは五本ずつ。トマトたっぷりのサラダにミルクで作った具沢山のコーンスープ。
ささみは人間の食べ物にも興味津々で、匂いを嗅ぎに脚からよじ登ってきたが、ちくわは自分の分を少し残して食べ終わったら、部屋の探検を始めていた。
「さて、サーバーの取り付け準備に店に行くかな。フク達はどうする?」
「二人を連れて一緒に行くニャ」
「「ニャ」」
サーバーだけど、今後の取り付けもあるのを見越して鍛冶屋で注文していく。取り付けまでやらないか聞いたけど、鍛冶屋でやる仕事ではないなと断られてしまった。
「おはようございます。何か珍しい物でも入荷したんですか?」
マイヤーズさんの店先に女性の長い列が出来ている。
「やぁ、おはよう。この列かい? ラムちゃんが仕入れてくれた肌に塗る……何て言ったかな、ああ、保湿クリームってやつを求めるお客さん達だよ」
手に取ってみたら確かに保湿クリームだ。
「んー、保湿クリームですね……何やってんだアイツは」
保湿クリームの横には洗顔フォーム、シャンプー、コンディショナー、ボディーシャンプーも置いてある。こちらは売れていないようだが。
「こっちは売れてませんね」
「ラムちゃんのモチモチ肌を触った奥様の口コミで保湿クリームは売れるんだけどねぇ」
何気に奥に視線を移したということは、かなりの在庫があるんだろうなぁ。
「桶に水を入れて持ってきて下さい。それと、タオルもお願いします」
マイヤーズさんは実験台に丁度いい。
「それじゃあ皆さん、実演販売です。より綺麗になりたい方は見てって下さい」
ムサ目のマイヤーズさんに洗顔フォームを渡して顔を洗ってもらう。
丁寧に洗顔した後は水で洗い流して……タオルで拭き取ると、顔の古い角質が取れて肌が明るく小綺麗に。それを見てどよめく女性達。
「水で洗うだけではそんなに汚れは落ちていないんですね。そこで、こちらの商品。これは洗顔専用になっております。それと、お風呂の時に全身を洗っていただけるのがこちら『ボディーシャンプー』です。濡らしたタオルに付けてこすると……この様に泡立ちますね。まるでクリームの様ですが、このきめ細かな泡が肌に溜まった汚れを取り除きます」
更に畳み掛ける。
「濡れた肌をこすると垢が出たりしますね、それをくまなく綺麗に落として……更に!潤いも与えてくれる、正に一石二鳥の商品です」
次々と買うわ!こっちにも頂戴!と声がかかる。
「まだまだ焦らなくても商品は奥に沢山あります。これで最後ですから聞いて下さい」
出勤してきたナターシャも輪に加わっていたのには驚いた。女性だもんな。おいでおいでして彼女の髪を借りることにした。
「ここにいる女性は容姿が整っている事で有名なエルフ族の方です。髪は見た目美しいですが、指通りは少し引っかかりますね。それが、このシャンプーとコンディショナーを使っていただければ………少しの間、目を瞑っていてね…………ワシャワシャ、ワシャワシャ………ここで風魔法…あ、お嬢さん、使えるんですか。すみません、髪を乾かしてもらえますか。はい、この通り、指通りサラサラ。更に香りを嗅いで頂けますか。いい香りでしょう。この様に少しの手間できれいな髪になります。はい、こちらはお一人様二本まで!」
言い終わると同時に棚に群がる女性達。
隣で恍惚と髪を触っているナターシャ。
「ナターシャも買わなくていいの?」
首を振るナターシャ。
「これからはケンジ殿に洗ってもらいます……ああ、そうなると引っ越さねば………」
「ナターシャ、それくらいは自分でやってね」
「そんな、気持ちいいのに…………ケンジ殿のいけずです……」
「ま、まぁ、たまにならいいぞ」
「えっ、あっ、そうだ仕込みしなくちゃ……」
恥ずかしがるエルフ、いい……。
「ご主人様、やっぱりエッチなのニャ……」
「「ニャ……」」
「ケンジさん、向かいの商店ですが閉めて店を売ったらしいですよ」
リリィがギルドで聞いてきた話らしい。
「まさか……」
「そのまさかなんです。例の酒場ができるらしいのです」
「勝手にライバル視されて、喧嘩を売られた気分しかしないな。立ち飲み屋だったらどうしてくれようか」
ここは飲み屋街から外れているので、夜は一軒だけ賑やかになっているんだけど、それにしても真ん前とはね。
「どんな酒場になるか聞いていないのか」
気になるっちゃ気になる訳で。
「この辺には無い料理の店みたいですよ」
「見るまでは分からないか…………」
足元から毛玉が這い上がってくる。
「あのおじさん、また来るのかニャ?」
「来るかもしれないねぇ。来たら奥に引っ込んでいいんだぞ」
「わかったニャ」
仕込みは、あれから止めどなく肉を切り続けたナターシャのおかげで、普段より早く完了したが……量多いよ。
「今日はサービスメニューを猪串の盛り合わせにするから、どんどん勧めていってね」
「ケンジ殿、すまない……余計な事をした」
シュンとするナターシャも可愛い。
「大丈夫大丈夫、今日は持ち帰り様に外での販売もやるから、きっと全部売れるよ。クヨクヨしないで頑張ろうな。ほら、今夜は家に来ていいから」
「えっ!」
「流石に肉を大量に焼くと髪も汚れちゃうだろ。それに昨日から家族が増えてな、うちは賑やかで楽しいぞ」
「ちくわちゃんとささみちゃんですね。ナターシャ頑張ります!」
「ん?何?」
「「「「「ジトー」」」」」
「何だよ、お前らも風呂に入りたいんか?」
何だか女性陣の機嫌が悪くなってしまった。




