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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第五章 フクの憂鬱
47/230

47話

 ちなみに王様はマスの刺身もイケる様だった。

 特にワサビが気に入ったらしく、猪串にも付けて食べている。

 こうやって初めての食材が受け入れられて、少しづつ食文化は広まっていくんだなぁ。

 ちなみにこのわさびは近くの山に自生しているもので、群生地があると猟師のエミリーと弟子のゴーシュから聞いているので、栽培してくれる農家がいれば今後は売る事も可能だ。


 オーダーが止まる僅かな時間に、チョイチョイっとケイティとリリィを手招きして呼ぶ。


「ケンジさん、何か用事ですか?」

 リリィが尋ねる。


「これから言う事に驚かない様に」


「何でしょう?」

 首を傾げるケイティ。


「あの一番奥で飲んでいる髭の人なんだけど。ここだけの話、お忍びで飲みに来ている国王、エルディンガー二世さんだから」


「「………!」」


「酒好きの優しいオジサンだから、店に来た時は一番奥に案内してね」


「「コクコク!」」


「後は、暇そうにしていたら話し相手になってあげて」

 頼んだら二人は、緊張するー、とか言いながら仕事に戻っていった。


 しかし、現在、この国の政はどうなっているのか。王様がいなくても大丈夫ってのは、この国が平和って事なんだろうか。




「今日はちょっと早目に来たぞー」

 宿の主、オルカが娘のチコリを迎えに来た。


「おっ、ケンジ。今日は頼み事もあって早く来たんだ」

 脚に抱き付くチコリの頭をなでをながら言う。


「頼み事ですか? 一体何でしょう」


「何、うちの食堂でもビールを出そうと思ってな、サーバーとやらの設置をお願いしたかったんだ」


 樽生ビールを扱うとなると、この世界ではサーバーと氷が必要となる。

 サーバー自体に風魔法石を使っていて、それがビールに圧力をかけて押し上げる。途中には氷を詰める部分があって、そこの氷の補充は水魔法使いの仕事になるが、そこを通る事によってビールは瞬間的に冷やされる。


「都合のいい日があればその日に設置できますよ」


「なら、明日でも大丈夫か? 昼のピークが終わったら頼みたかったんだが」


「分かりました。それで、いくつ取り付けますか? 修道院では新エールにビール、後は白ビールのアンバーホワイトと三種類のビールがありますけど」


「そうだな……ビールにするか。うちは食堂だし、食べながら飲むには一種類あれば大丈夫だろう。よろしく頼む」


 ビールもサーバーも、この短期間で他店舗にも卸せる様になったんだなぁ……マリーナさん達頑張ったな、とても感慨深いよ。

 こうして約束を取り付け、オルカはチコリを連れて帰っていった。何度も振り返り、手をブンブン振りながらバイバイをするチコリは和みだ。


「ケンジ殿、ラストオーダーまで時間がありますが、猪串が予想より早く売り切れてしまいました」


「それじゃあ串物は終わりにしよう。確か鶏肉の在庫が沢山あったから、耕ちゃんに唐揚げでも作ってもらおう」


 揚げたての唐揚げはビールに合う!

 唐揚げは香ばしさも手伝って揚げるとすぐに売れた。

 揚げ待ち状態。

 そして、あんなにあった鶏肉もすっかり無くなり、しばらくするとラストオーダーの時間になった。王様以外に客は二、三人しか残っていない。


「しかし、よく食べますねぇ」


 王様はよく飲むが、食べるのもかなりのものだった。

 ラストオーダーでマスの南蛮漬けにポテトサラダ、空芯菜の炒め物も頼んでいたし。


「近所に新しく酒場ができるようですが、アンバーにいる内は浮気しないで下さいね」


 ラムが気軽に話しかけている。おもしろそうなのでこのタイミングでネタバレしてみよう。


「ラム、その方ね、この国の王様だから」


 知らなかった店員も、知っているはずの店員も一斉に固まった。知っていても、どこかで嘘だと思っていたらしい。


「どうしたんだ?」


 店を閉めて、寝る前に一杯飲みに来たマイヤーズさんが、固まった皆を見てからこっちに振り返る。


「うむ? ここの大家か? この国の王、エルディンガー二世だ、この酒場を開かせた功績に何か褒美をやろう!」




 酔った王様は、勢いでマイヤーズさんの店も王家御用達にしてしまった。アンバーで二店舗目、ていうかこの国でも両手で数えるだけしかない御用達店の仲間に入ってしまった。

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