46話
耕ちゃんがあっちの世界から曜日限定でやって来た。
店の皆に紹介して、ナターシャには横に付いて手伝いをしてもらう。繊細な魚の捌き方は見るのも勉強になるだろう。
耕ちゃんが異世界転移してきた理由は、神様と名乗る二人組が面白そうな事をさせてくれると言ったから、らしい。ラムが連れてきたわけじゃない。
良すぎるタイミングに、神様には感謝しておこう。
僕は魚は捌けても、店で出せる様に綺麗な切り方や盛り付けはできませんし。餅は餅屋って事で耕ちゃんにおんぶに抱っこします。
「ウナギは基本、生で食べられないから、開いて定番の蒲焼きにしましょう。マスは脂が乗っているので大きいのは刺身に、小さいのは塩焼きと油で揚げて南蛮漬けかな」
こ気味良い包丁さばきに見とれながら、こちらも串打ちの準備にかかる。
「それで、聞いてもいいかな。神様ってお爺さんなの?」
「お爺さんではなかったよ。家にいた時、急に目の前が真っ白になって、気付くと白人の若い男と小柄な女の子がいて、ケンジの店を手伝って欲しいと言ってきてね。気付くとここに来ていたんだよ」
まさか……二人組はにせケアスことバッカスとドラゴンのルナか。二人に召喚されたとなると、意図はまぁ、酒だろうな。どんだけ酒好きなんだよってくらい分かり易い。
「耕ちゃんが会った二人は、酒の神バッカスとドラゴンが姿を変えた少女です。美味い酒のつまみを作れって事なんでしょうから、問題はないです」
耕ちゃんには関係ないから、王様の奪還計画は話さないでおこう。
賄いの時間になったので早速マスの刺身を皆に食べてもらうか。
「ほら、お刺身をこうして好みで緑のワサビを付けて、辛いのが苦手な人は付けなくていいわよ。後は串焼きのタレにも使っている醤油ね、これにつけて、パクリ……んーーっ!脂が乗ってて美味しい!」
ラムは両手でほっぺたを押さえながら悶ている。やはり、日本人には刺身なのだね。
「チコリもたべます」
フォークで刺身を醤油につけて口に運ぶ。驚きの表情から笑顔に変わり、何度もおかわりだ。
「レモンを少し絞って、こっちの塩で食べでも美味しいよ」
そこから耕ちゃんがマスのカルパッチョを作り、アラで味噌汁を作ったら賄いは完成だ。
皆、生魚は食べないので、刺身を口にするまでに躊躇して大変なようだったから、最初はカルパッチョから慣れてもらうのがいいのかもしれない。して、生魚に慣れる頃には日本酒も出来上がる。
口開け前に並んでいたお客さんで店中は一杯になり、少し遅れただけで、後から来るお客さんは外で飲む事になってしまった。
隣の物件は押さえてあるから、早い内に改装しないとお客さん達に迷惑をかけるな。
客が一回転した頃、王様が護衛も連れずに一人でやってきた。
「いらっしゃいませ。奥にどうぞ」
ケイティを呼んで奥に案内させる。
「一人で出歩いて大丈夫なんですか?」
「バレなければ問題はない」
「それはそうですけど。ところで今日の用事は何でしょう」
「何を言っとる、酒を飲みに来たのだ。酒場に来る理由はそれしかないだろう」
王様は目ざとく黒板メニューのスイカハイを見つけたようだ。
「メニューにあるスイカハイとはどんな酒だ? ほう、スイカの汁でキンミャーを割るのか。一杯目はそれにしよう。後、つまみは猪串の盛り合わせを頼む」
「はいよっ!猪串盛り一丁!」
耕ちゃんが元気よく注文を通す。これは今までに無かった活気だ。
「猪串盛り一丁、ありがとうございます!」
ナターシャも釣られて応えている。流石にプロフェッショナルが一人入ると、店の空気感も変わってくる。
「何だ、やけに威勢のいい男がいるではないか」
「週に何日か手伝ってもらえる事になったんです。他で長い事酒場を切り盛りするオーナーシェフです。そうだ!新しい魚料理を食べてみませんか?」
思い切ってカルパッチョをお出しする。
「何だ、これは生なのか。どれ……ほぅ、身を噛むと柑橘系の風味が心地よいな。変わっている味だが美味いぞ……そしてスイカハイ。果物なら何でも酒にしてしまいそうだな」
「スイカハイはそこにいる耕ちゃんのメニューなんですよ。魚釣りの帰りがけにトダ村で見つけたので買ってきました。小さ目に切ってグラスに入れ、キンミャーと炭酸を入れます。マドラーで潰しながら飲むと美味いです」
王様はスイカハイをお代りし、猪串を食べながらアンバーホワイトを追加で頼んでいた。彼が王様だと知るのは僕とフクだけなのです。




