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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第五章 フクの憂鬱
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44/230

44話

 こちらの世界にも単純な構造ではあるけど、リールはあったので、それを付けた釣竿を抱えて近所の川へ行く事にした。

 ちなみに今日も通常営業なので、午後には帰らなければならない。

 どんな魚が釣れるのか。

 それともボウズで終わるのか。

 川自体は渓流っぽい感じらしいので難しい釣りになるかもしれない。

 途中、トダ村でアイリスを誘う。

 日本酒の仕込みはだいたい終わったみたいで、嬉しそうについてきた。


「景色がいいねぇ」


 小麦畑とトウモロコシ畑、そして時々野菜が植えられている畑が郷愁を誘う。小川のせせらぎに蝶が舞い、大き目のトンボがスーっと飛んでいる。


 猪が獲れるという山裾に着く。川はすぐそこだ。

 日差しが気持ち良く、風もそれなりにあって心地良い。


「エサはどうすんの?」


「その辺の大きい石の下にいるのニャ。草をむしっても出てくるのニャ」


「あー、ミミズを使うのね」


 この世界の女性はミミズを怖がらない。

 草いきれの中、皆でミミズ取りから始める。


「それじゃあ昼まで自由に釣って下さい。昼ごはんを食べたらアンバーに戻ります。それと、一番多く釣った人には僕から何か賞品を出します」


「はいっ! 一番になったらデートして下さい!」

 アイリスがそう言うのをきっかけにサラが、

「私は建前でも婚約者なんですからキスがいいです!」

 それを聞いたアイリスが、

「ケンジさんっ!サラさんが婚約者ってどーゆー事ですかっ!」

「話せば長くなるので……それに、本当には結婚はしませんから……」

「私は結婚してもいいのにな……」

「むむむむ! 私も結婚したいです!」


「ちなみにこの国は貴族以外、一夫一婦制ですが……妾なら問題ないですよ?」

 ナターシャは火照った顔で見つめてくるし。


「うニャー!ご主人様はフクのご主人様なんだニャ!」

「ん!」

 フクから愛されてるのは分かるけど、チコリもこんなオジサンを愛してくれるのかい?


「皆さんの目が怖いので、賞品は無しにしま……」

 思ってた賞品と違う事ばかり言ってくるので、止めようとした矢先。


「待ちなさい! こうなったら、賞品はオーナーであるこの私が出す事にします!」


 ラムはバッグから紙を取り出して何やら書いている。

「じゃーん! 賞品はケンジを一日自由にできる券!」


「俺が優勝したらどうなるんだよ」


「皆で優勝を阻止しましょう! 釣りスタート!」


 スタートしたのはいいけど、釣りをした事がないラムにアイリス、チコリの仕掛けを作り、餌まで付けてやる事になった。チコリはまだ小さいから一緒に並んで教えながら釣り始めた。


「よし!きたー!」


 ビギナーズラックか最初にヒットしたのはラムだ。

 竹竿がググっとしなり、釣れたのは大きなマスだった。これは美味しそうだ。


「そういえば優勝って、大きさ?数?」


「あー、そうだなぁ、大きさと数の両方で一番の人二人を優勝にしよう」


 更にフクとケイティがヒットしていた。

 この場所は人が入った事もなさそうだし、警戒心もなく魚影も濃いみたいだな。


 またたく間に僕とチコリ以外は釣れてしまった。

 苛つく事もなく、チコリは糸を垂れている。

 ポカポカ日射しにウトウトしてきたので、胡座をかいてそこにチコリを乗せるが、竿は握ったまま離さないので寝釣りになっいる。


「おおっ、引いてるぞ」


 叫ぶとチコリが目を覚ます。


「んっ!」


 小さな腕で豪快に引っこ抜いた。

 宙を舞う魚。


『ドスン』


「デカっ! 六十センチはあるぞ」


 これもマスだった。しかしお腹がパンパンと張っていて凄く太い。かなりエサとなる生物も多いんだろう、脂が乗っていそうでヨダレが出てきちゃう。


 そんな中、長い髪を三つ編みにしたリリィがニョロニョロとした魚を釣っていた。彼女の魚籠の中にマスはいない。全てニョロニョロだ。


「それはウナギだね。大漁じゃないか、凄いよ」


「この魚はぶつ切りにして煮たのを食べた事があるのですが……不味かったですよ」


「えっ? ぶつ切り?」


「えっ? それ以外に切り方があるんですか?」


「ここじゃそんな風に調理してるの? ホントに?」


「煮て冷ますとスープが固まるんですよ。その状態で食べるんですが、あまり美味しいとは思いません。でも、昔からの調理法なので、それ以外の調理を誰もやったことがないんです」


 帰ったら蒲焼きにして皆に食べてもらわなくちゃ。こんないいうなぎをイギリスっぽい事をしてダメにしちゃイカン! もったいなさ過ぎる。




『ドボン!』


 フクが川に飛び込んだ。


「逃さないのニャー!」

 これまたデカイ魚を抱えて上がって来た。


「美味そうなのニャー!」

 美味そうだけども、ビショ濡れになっちゃって、着替えは持ってきていないんだぞ、どうすんだ。って、コラコラ、ここで脱がない脱がない!


 着替えがないので、待ってきていたタオルを胸に巻いてもらった。


「そろそろ昼だな。どれどれ、うわっ、皆釣ったねぇ」


 ラムが十二匹。

 サラが八匹。

 ケイティは二十六匹でリリィはウナギだけ三十九匹…。

 アイリスは十五匹。

 そしてフクは百二匹……チコリは一匹だった。


 大きさではチコリ、数ではフクが優勝した。



「重い……」

 鮮度が下がらないようにと、魚をサラの魔法で氷漬けにしたのでとにかく重い。フクとチコリの分は持ってあげなくちゃだし。

 釣りは楽しいけど、持ち帰ったあと、疲労の中で延々と捌かなければいけないのが億劫過ぎる。




 ちなみに僕はボウズでした………。

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