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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第五章 フクの憂鬱
43/230

43話

 何だかんだで、オハラはかなり飲み食いして帰っていった。

 アンバーにライバル店が出来るのはいい。酒発祥の地だし。しかし、まさかコンセプトやメニューをパクって来るなんて事はないよな? その辺だけが心配だけど、こういった事はなるようにしかならないのが常。


「あれ?フク、どうしたの」


 フクがクネクネしながら店内をふらついている。尻尾の動きも何か変だ。


「さっきのお客さんが果物をくれたのニャ……それを食べたら、何か気持ちいいのニャ……」


 フクの手には小枝が握られていて、そこにはたわわになったサルナシが。ちなみにサルナシってのは改良前のキウイの原種でマタタビの仲間である。


「あー、ご主人様らー……フニャニャニャー……」


 とりあえずフクを抱き抱えて店の裏に連れていく。椅子を並べて簡易ベッドを作り、そこに寝かせる。まったく、何の嫌がらせなんだかあの男。


「フク、少し横になってな」

 頭を撫でながら寝かせる。

 ハナ時代はマタタビを与えた事は無かったからなぁ。そんな子にサルナシはない!


「ねぇ、フクちゃん大丈夫なの? かなりフニャフニャして酔ってるみたいだったけど」

 ラムが心配してやって来た。


「酒場の支店を出すとかいう客からサルナシを貰ったようでね、サルナシってマタタビと同じ様な効果があるから、猫人族には同じ様に効いたんだと思う。少し経てば回復するよ、心配してくれてありがとう」


「そう、サルナシ。あのお客さん、猫好きなのかも」


 ラムは猫好きだからか、彼がフクにサルナシをプレゼントしたと思っていた。うーん、僕はフクに対しては過保護で考え過ぎなのかな。


「アンバーに酒場が増えるのは嬉しいわね。酒発祥の地には酒場街があった方がいいもの。ところで、店の女の子全員が指輪をしているようだけど」

 ジト目ラムさんである。バレてるし。


「あ、え、うん、指輪ね……この世界での出会いとか、その、仲間だからとか……僕に好意を持ってもらっているといいますか、えーと、アレです」


「ふーん、モテる男は辛いわねぇ。でも覚えておいて、最初に好きになったのは私なんだから」


「えっ、フクは?」


「フクちゃんは別よ。だって前世からなんだもん……」

 そうは言いながら、ラムは優しく、寝ているフクの頭を撫でている。


「そういやさぁ、僕の変な力があるじゃない」


「物を出すアレ?」


「そう。始めは無から創り出してるんだと思ってたんだけど、本当は物を召喚する力みたいなんだよ。実際、日本のマンションの部屋にある物はこっちに引き寄せられたし。でも、どうしてこんな力が使えるんだろうなぁ」


 チラリとラムを見る。


「知らないわよ。私はケンジをここへ連れてきただけだし」


「そうなの?」


「そうよ。それに私も力はを与えてもらった方だし……異なる世界を行き来できるって力をね。ちなみに、泥酔していたケンジは神様の事覚えてないのよね?」


「何も覚えていない……」


 酒を飲むと限界なんて分からない。時差で酔いが回ってくるし、その時はまだ意識もあるし。なら飲んじゃうじゃん。


「異世界に行ける人は何かしら力を与えられるみたい。サラも多分持ってる」


「ええっ、サラもかい!?」

 どんな力なんだろうな。


 ラムと話をしている間にフクが良いから覚めて起きてきた。

 起きたらすぐに、ラムの揺れるスカートにじゃれついている。パンツ……。


「フク、仕事に戻ろうか」

 気持ち良くなっていただけなので、可哀想だけど仕事に復帰だ。




「しまったぁ! ボードにアンバーホワイトを追加するの忘れてたっ!」


 ラストオーダーまで四時間もあるんだもん!急いで書いて、お客さんに勧める。


「修道院で新しく造った白ビール、アンバーホワイトです。本日からビールは三種類になりました!よろしくお願いいたします!」


 外に出るとケイティが女性達と話をしている。見ているとどうやら外飲みが初めてのお客さんらしい。


「どうしたの?」


「お姉さん達、飲もうかどしようか迷ってらっしゃるようで」


「皆さん冷たいお酒を飲まれた事はありますか?」

 一様に首をふる。やはり常温の葡萄酒くらいかな。

「うちでは氷で冷やしたお酒を提供してるんですよ。エールも改良した新しい物になっていて、スッキリとした喉越しで美味しいですよ。試飲してみますか?」


「えっ?いいんですか?」


 ここは損して得とれ。

 小さめのグラスに三種類三杯ずつ試飲させる。


「えーっ!こんなにおいしいお酒、初めてです!ねぇ、入ろっ?ねっ」


 女性同士のお客さんも増えると嬉しいし、こうして入るのを通りの人達が見る事によって、若干のサクラ効果もあったりするのです。

 思惑通りに次々とお客さんが吸い込まれていきます。失敗したけど、今夜はアンバーホワイトもキッチリ売れそうです。


 店を外から眺めていると、従業員それぞれにファンがついている事が分かります。

 ナターシャなんかはカウンターの中、しかも焼き台ににいるからちょっかいを出しにくいはずだけど、オーダー時に色んな誘いを受けたりしてるみたいだ。


 猪肉の串焼きも定番化したし、フクの獲ってくる野鳥の串焼きも人気がある。

 モツ煮込みはすぐに出せるから、飲み始めてからの待つ時間がなくて人気だ。

 後は日本酒に合わせたい刺し身なんだよね。

 こっちにも寄生虫はいるんだろうから、この辺で流通している川魚はルイベかぁ……。

 とにかく、それまでにバッカスがちょっかいを出してこない事を祈りたい。ライバル店もできるんだし、問題事は無い方がいいよ。


「そうだフク、明日は川に魚釣りに行こう」




 次の日の魚釣りは、フクと二人きりのはずが、女性陣皆がついて行く事になってしまったのでした。

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