4話
「酒場の事なら何でも知ってるのは…うーん、そ、そうなのかなぁ。え?……この街は酒発祥の地なんですか……なのにろくな酒がない、と。酒の造り方は知ってますけど、はい、はい……それで僕の事を賢者と呼ばれた訳ですね、賢司ですけど」
どうしたものかなぁ。
協力するべきなんだろうなぁ。
「ああ、賢者様を連れてきてくれたのね。どうする?もう帰っちゃう?」
チコリは店内のベンチに腰掛けて足をぶらぶらさせてニコニコしている。多分このままいる気だ。
「ラムさんと言いましたか、一体どういう事なのか説明していただきたいのですが」
「ちょっとこっちに来てくれる?」
袖を引っ張られ部屋の角まで連れて来られる。
「私はね、見た目通りの日本人。えーと、説明は難しいんだけどあっちとこっちを行き来できるようになったから……それで、まぁ、あっちの世界にあまり良いことがなかった訳。なので、こっちで生活しているの。本名は堺マユよ。一応、ここの店長以外には異世界人なのは秘密だからその辺はお願いね」
「俺は葉山賢司…単なる酒場好きのオッサンだな。アンタが連れてきたんだ、役目が終わったら元の世界に戻して欲しいんだけど」
こちらは特にあちらの世界に不満はないしね。
「私はね、この世界で日本式の酒場をやろうと思ってて、拙い知識を店長に話してみたら色々驚かれたんだけど、でもまぁ、私が知っている位の知識だとまだまだこの世界に革命を起こす様な事はできなそうだったから、あの街の酒場で知識や行動力のある人をリサーチしてたのよ。昨日、ようやく私のメガネにかなった人が現れたから、やきとん屋さんの後でオルカの宿に連れて来たんだけど……色々話して、受け答えしてたわよねぇ? しかも、ここに連れてきたのは五度目なんだけど? 覚えてないの?」
ふはははは、やっちまったか。記憶のない時に普通っぽく受け答えしてるってのを。
もちろん、全く覚えておりません。
「たははははは、はは……」
笑うしかないよね。
プロローグは今回で終わりです。