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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第四章 モンスターで酒が飲めるぞ
36/230

36話

 その日の朝は珍しく雨だった。雨の日は外を出歩く人が少ない。


「異世界の雨もいいねぇ」


 これで仕事がなければ最高なんだけど、立ち飲みチコリは年中無休。窓から外をボーッと眺めていても始まらない。代わりに来てるドラゴンは雨に濡れても平気なのかな。少し気になるし、店まで行ってみるか。


「店まで行くけどフクはどうするー? まだゴロゴロしてる?」


「ふあぁ、暇だから行くニャー」

 フクはソファから起き上がり伸びをした。


「フード付のマントを着ろなー」


「ううん、これでいいのニャ」

 フクは僕の着ているマントの中に入って来た。


「こら、歩きにくいだろ」


「こうすればダイジョブニャ」

 前からジャンプして上半身に抱き付いてきた。


「ホント、お前はハナの時のまんまなのな。それじゃ行くぞ」


 こっちに来てまだ一月程だけど、歩きが中心の生活だからなのか体力はついてきたと感じる。フク一人くらいなら、抱き付かれても何ともないもんな。

 しかし、猫の時とは違ってもふもふな訳じゃないので、チューブトップを着た少女に抱き付かれている今は犯罪者気分だ。


「フクはあまえんぼさんだね」


「ご主人様といると楽しいのニャ」


 少し歩くと雨なのに人が増えてきた。

「何だろうねぇ」


 人々の歩く頭より高い所に、馬に乗った騎士達が見えた。何だか嫌な予感しかしない。

 人垣をかき分けて、騎馬の近くを通り抜けようとしたその時だった。


「そこのお前。止まって顔を見せろ」


 嫌な予感的中。何なんだこの偉そうな男は。


「何でしょうか?」


「黒髪で平坦な顔……お前はケンジか?」


「はい、そうですが、僕に何か御用でしょうか」

 騎兵が数人降りてきて周りを取り囲んできた。


「ここアンバーはバーボン辺境伯が治める街。その地を騒がしている男がいると通報が入った。ワイバーンやドラゴンなどを自在に操って騒動を起こしていると聞くが、お前に間違いないな」


「僕は関係ないですよ。ドラゴンのテイマーはランクS冒険者のケアスです」


「ほぅ、ランクS冒険者ケアスとな。その男なら確かにこの街にいるが、そのような事は知らぬと言っておるぞ」


「何を馬鹿な事を。昨夜もうちの店で飲んでたんですから間違いないですよ」


 騎士は左手をクイッと動かし後ろに合図を送る。


「ケンジよ、この男がケアスだ。今は辺境伯の依頼を受けて動いてもらっている。私と一緒に来たのだから、お前と会っているはずはない」


「なっ…」


 そこにいるケアスは三十代半ばの細マッチョな男で、知っているケアスとは別人だった。


「分かったか。お前の嘘は証明された。ワイバーンやドラゴンをテイマーした話など戯言に過ぎない。それに至った経緯や、その戦力で何を企んでいたのかを聞かねばなるまい。ケンジ、お前を捕える」


 周りの騎士が一斉に掴みかかってきた。

 フクを逃し、その場に座り込む。

 縄で縛られ、馬に乗せられた。


「ワイバーンとドラゴンも確認したいが、とりあえず町長の家を借りよう。連れて行け」




 数分前までは雨の中の楽しい散歩が、今は縄で縛られ馬の上。身動き取れずに町長の家に連れて行かれるみたいですが、この後一体どうなってしまうのか。分岐の選択を間違えたゲームの様に、バッドエンドしか見えない状況に置かれてしまった。


 僕は剣も振れないただの飲ん兵衛だから、誤解を解くにも聞き入れてもらえないかもしれない。

 ただただ、雨に打たれながら、朝飯もまだだったので腹が鳴って仕方がない。


『ぐーぐーの歌でも聴いて和みたい……』




 そして、町長の家の前まで来ると、そこにあるはずの家は跡形もなく瓦礫の山になっていたのだった。

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